獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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アレクサンドル・クロムウェル

告解 / 告解3

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 オルフェウスは・・・・自死だった

アーリントン伯は、ウィリアムを責めなかった。

今迄何をしていた。
何故、オルフェウスを迎えに来なかった。

言いたいことは、山程あっただろう。
だがアーリントン伯は、ウィリアムを抱きしめて、黙ってオルフェウスの日記を渡してくれた。

日記には、ウィリアムへの想いが、びっしりと綴られていた。

ウィルは何をしているだろう。
無事でいてくれるだろうか。
婚姻の日が楽しみだ。
一目でいい、ウィルに会いたいと。

番だった。
ウィリアムとオルフェウスは番だった。

番持ちの獣人が、番でもない人間に無理矢理体を開かれる。
オルフェウスが感じた恐怖と屈辱が、どれ程の物だったか・・・・。

皇宮から戻されたオルフェウスは、気が触れてしまっていたそうだ。

 泣き続け。
 何かに怯え。
 絶望し。
 ウィリアムに赦しを乞うていたと。

日記の最後の頁には

 ごめんなさい
 愛しています
 私の心は永遠に
 貴方だけのものです

 それだけが、綴られていた。

ウィリアムは壊れた、壊れてしまった。

ウィリアムの夢は、学者になることだった。
降嫁も決まってた。
オルフェウスと結ばれたら、新婚旅行も兼ねて、調査旅行に行くつもりだと。
自分が立てた計画を、俺に話していたんだ。

ウィリアムは、オルフェウスの埋葬を拒絶した。
飲まず食わずで、オルフェウスの棺のそばに座り続けていた。

1年だ!
あと、たった1年で、2人は幸せになれる筈だった!!

俺とシルベスター侯爵は、アーリントン伯から、皇宮で何が起こっているのかを聞かされた。

信じられなかった。

だから、俺達も調べた。
何人もの貴族に会い、話を聞いた。

皇帝とロイド様、アーノルドは皇宮の離宮に押し込められ、軟禁され、俺の母は牢に入れられていた。
多くの貴族が上皇を恐れて、自領に逃げていた。

上皇とジルベールは、毎晩の様に宴を開き、享楽に耽って、宴の招待を断った者は、捉えられ、上皇の前で鞭打たれたそうだ。

 許せなかった。

民が貧困に喘ぎ。
騎士達が命を賭して、魔物と戦っている間。
皇宮だけが、別世界の様に贅の限りを尽くしてたんだ。

たった3年で、人はこんなに変わるものか?
3年だぞ?

俺はジルベールの変化に
気付いていたのに、何もしなかった。
この惨状は、俺の責任でもある。

・・・・だから
嗜虐の罪を、犯す事を決意した。

アーリントン伯と、シルベスター侯の力を借りて、志を同じくする者を集め
皇宮に向かった。

目を疑ったよ。
玉座に座った上皇も、傍に立つジルベールも
目が落ち窪んだ、やつれ切った顔で、目だけがギラギラ光っていて。

俺の知るジルベールは
もう、何処にも居ないのだと悟った。

上皇はシルベスター侯爵の足元に
褒美だと言って、小さな皮袋に入った
金貨を数枚投げたんだ。

俺の事は、戦うしか脳の無い、穢らわしいケモノだと嘲笑い、母の事も侮辱された。

上皇は、差別主義者だったから。
俺の母が、後宮に入らなかったのも
その為だ。

謁見室に侍った貴族達は、それを見て
ゲラゲラ笑っていた。

異常だった。
全員が狂っていた。

その時、ジルベールが言ったんだ。

ウィリアムは元気か?
オルフィと、仲良く楽しんでいる頃かな?

俺は、ジルベールと上皇の首を
その場で刎ねた。

居並んだ貴族達の手足も、落としてやった。

皇宮は、味方が制圧済だ。

ジルベール達の、首を刎ねた俺は、血刀を下げたまま、親父殿が押し込められた離宮に行って、退位を迫った。

そんな俺に、親父殿は“よくやった”とだけ言って、玉璽を投げて寄越した。

上皇に好き放題されていたが、玉璽だけは渡さなかった。
親父殿の、最後の矜持だったのだろうう。

嗜虐の罪を犯した俺は、ウィリアムを玉座に座らせた。

ウィリアムは、一言も文句を言わなかった。

淡々と政務をこなし。
嘆願を受け、処理をする。
その繰り返しだ。

その間俺は、腐り切った貴族や役人を調べ上げた。罪を犯した者は処罰し、時には粛清もした。不正に溜め込んだ財産を没収して、国庫に入れ。ウィリアムはそれを使って、民を救う事に奔走した。

魔物の討伐任務は、シルベスター侯が請け負ってくれた。彼より魔物に慣れている人間は、他に居なかったから。

そして、ある時気が付いた。

普段、俺が接しているウィリアムと
皇帝として政務にあたる人間が、別人だと。

オルフェウスを失って、壊れてしまったウィリアムは、皇帝として生きる為、生き残る為に、別の人格を作り出していた。

人格の完全な乖離は、一時的なものだったが、今でも公の場に出る時、ウィリアムは皇帝の仮面を被る。

別人を演じるんだ。


俺が嗜虐の罪を犯してから、3年程たった頃。
ジルベール付きの侍従だった者が、俺を訪ねて来た。

そこで、ジルベールからの手紙を渡されたんだ。自分が死んだら、俺に渡すように頼まれていたそうだ。
届けるのが遅くなった、と謝っていたな。

手紙には、俺とウィリアムに対する謝罪が書かれていた。

俺の知るジルベールは、マシュー様と生き写しの美しい人だった。

ジルは・・・・俺の兄は、ギデオンから虐待を受けていた。

何年もだ。 

それに耐えられなくなった、ジルベールは、薬に手を出した。

上皇から守るために俺とウィリアムを皇宮から追い出し、帰還を認めなかった。

中毒になったジルベールは、もう自分が何をしているのかも分からなくなっていた。
気付いたら何日も経っていて、その間、自分が何をしていたのかさえ分からないと。

だから、もうお前達を守れない。
上皇を一緒に連れていくから、それで許してくれと。

正常な判断が出来なくなっていたジルベールは、自分の薬を上皇と周りの貴族にも与えて、中毒にしていた。
それが、国の惨状に拍車を掛けていたんだ。

ジルベールの手紙は、文字がガタガタで、所々に涙の染みもあって読みにくかった。

でも最後に書かれた文字だけは、昔のジルベールが書いた字と同じだった。

ウィルとアレクの3人で過ごした日々は
楽しかった。
2人を心から愛している、と。


俺は、ジルベールとオルフェウスを助けられなかった。
ウィリアムを壊してしまった。

無能な癖に、兄と祖父、大勢の人間を手に掛けた、人殺し。
俺の手は血塗れだ。

皇宮内の人族は、今だに差別主義者が多い。

身内殺しの悪魔、悪鬼と恐れられ。
ケモノと蔑まれる。

それが俺なんだよ。

それを知っても
君は、俺の手を取れるのか?


 レンは、何も言わなかった。

 黙って俺を抱きしめて
 泣いただけだ。

 だが、俺にはそれで充分だった。

 慰めも、励ましも
 何もいらない。


 ただ、番の温もりを感じられる


 そのことが嬉しかった。
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