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アレクサンドル・クロムウェル
帰還とお引越し / 休憩と相談1
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あれだけの演技をしてのけ、余裕だなと思っていたレンだが、実は違ったらしい。
謁見の間を出てすぐに抱き上げると、レンは俺の首に縋り付き。
「ウェ~~緊張した~~~!悪役令嬢の皆様ありがとう~~!」と溢していた。
“アクヤクレイジョウ”とは?
と思いもしたが、緊張が解けてもプルプルと震える姿が可哀想で、何も聞かずに頭をヨシヨシと撫でるに留めることにした。
謁見室を後にした俺たちは今、皇帝の執務室に居る。
ゼノンの出方次第では、対応を検討する必要が有った為、謁見後此方に集まる手筈となっていたからだ。
「少しは落ち着いたか?」
「まだ、心臓がバクバクしてます」
「どれ」と言って、レンの胸に当てようとした手を、ピシャリと叩かれた。
「めっ!アレクさんのムッツリ」とジト目で見られてしまった。
ショックだ。
レンまで俺をムッツリとか言うのか?
ただ心配しただけなのに・・・。
「いや、これは邪な気持ちとかではなくて、レンが心配でだな」
冷や汗をかく俺をジトっと見ていたレンが、急に何かを思いついたようにニパッと笑った。
これには既視感がある。
拙いぞ。
「じゃあ、おしっぽ触らせて?」
やっぱりか~!!
尾は色々と拙い。
こんな所では、益々拙い。
しかし・・・。
「ダメ?」
カアーーーーっ!!
そんな、あざと可愛く見上げられて、ダメと言えるオスが居るか?
え~~い。もう知らん!!
「・・・・・クッ」
「ふさふさのモッフモフ~♪」
「た・・のしいか?」
「はい。凄く癒されます」
「それは、良かった」
全然良くない。
特に俺の“オレ”的に良くない・・・。
非常に良くない。
礼服のマントが長くて、本当に良かった。
暫くして残りの謁見を終えた、ウィリアムとアーノルドが執務室に戻ったのだが。
左膝にレンを乗せ、細い腰に巻いた尾先を撫でさせるオレの姿に、案の定というか、2
人はギクリと立ち止まり、ウィリアムは“またか”と言いたげにため息を漏らし、アーノルドは、マントで不自然に隠された俺の股間へ、軽蔑の籠った冷たい視線を向けてきた。
「お帰りなさい。お二人ともお疲れ様でした」
とレンが笑顔を向けると、アーノルドもぎこちない笑顔を浮かべた。
「レン様?何故、兄上の尾を撫でているのですか?」と問う唇の端が、引き攣って痙攣している。
「ん?アニマルセラピーですけど?」
「アニマルセラピー?」
「えっと。彼方では動物と触れ合うと、癒し効果が得られる事が解明されていまして、特に猫ちゃんの癒し効果は、抜群なんです」
「癒し効果?・・・猫ちゃん?」
アーノルドの口の端の痙攣が、違う意味の震えに変わってきた。
「そうなんです。アレクさんは虎さんなので、おしっぽも立派で、モフリ甲斐があります。凄く癒されますよ?」
レンは一生懸命に説明しているのだが、ウィリアムとアーノルドの肩が、笑いを堪える為に震えているのが分かる。
「癒しとモフリ甲斐・・・ですか?」
「はい。モフモフは正義ですから」とレンは可愛らしく拳を握ったのだが・・・。
「プッ!!猫ちゃん!あはははは・・・・モフモフッ!!」
「アーノルド・・・やめて。アレクが可哀想だからッ・・プクク・・フハハ・・・!!」
腹を抱えて笑う2人に、レンは呆気に取られ「なんで笑ってるんですか?」と、額に手を当て、ため息を吐くオレの顔を見上げてきた。
「2人とも疲れすぎて、テンションが可笑しくなっているだけだ、気にしなくていい」
「お仕事が大変なんですね?」と弱冠怪訝そうだが、納得はしてくれた様だ。
しかしアーノルドは「テンションって!兄上。真面目な顔やめて!!」ヒィヒィと笑い続け、面倒になった俺は、レンを抱えたまま立ち上がり、その後ろ頭をペシリと平手で叩いた。
「あいたっ!」
「話が無いなら帰るぞ」
「プクク・・・すみませ・・クク・・」
「・・・・話はないようだな」
「ごめんよ。アレク・・・プッ・か・帰らないで」
「大丈夫ですか?治癒魔法かけますか?」
「レンちゃんごめん。今は・・・やめて、お願い」
「はあ。・・・???」
仏頂面の俺と、疑問符だらけのレンを前に、笑い過ぎた2人は、グッタリと椅子に座り込んだが、笑いの発作が起きるのか、時折口の端がピクピクと痙攣している。
「え~ゴホン。レンちゃん今日は、お疲れ様でした」
「いえ、こちらこそ。少しやり過ぎてしまいました」
「いや。あれくらいで丁度良い」
「そうですか?」
「そうです。神殿の者達はしつこいですから、あれぐらいハッキリ言わないと」
「そうそう。レンちゃんかっこ良かったよ」
「それなら良いんですけど」
と肩を丸めているが、レンの演技は完璧に近かったと言って良いだろう。
「でもさ、口調も変わってたし、よくあんなにスラスラとゼノンを追い込めたね?」
「ああ。あれは悪役令嬢・・・私の国の物語の中に、似たような場面が沢山有ったので、それを真似してみました。じゃなきゃ“ですの?”なんて恥ずかしくて言えないです」
とレンは照れた様に、頬を指で掻いた。
「なるほどねぇ。でもさ、あんな場面が物語の中に沢山有るって、レンちゃんの国って変わってる?」
「あ~~。ちょっと特殊な国では有ったと思います。でも平和でしたし、文化水準も高くて、娯楽も沢山有りましたから」
「そうなんだね。そこらへんの話も、詳しく聴きたいなあ」
「陛下・・そろそろ本題に入ったほうが」
兄上の機嫌が・・・とアーノルドがヒソヒソと注意している。
良々、アーノルド
できる子に育ってくれて、兄は嬉しいぞ。
まぁ、さっきの爆笑は許さないがな。
「コホンッ。あ~今回の謁見で、大神殿の連中も暫くは大人しくしていると思う。アレクとの関係もアツアツだってアピールできたし。レンちゃんの使命についても周知できた。獣人への差別についても、神の愛し子が否定的な発言をした訳だから、よっぽどのバカじゃなきゃ、そうそう手出しはして来ないんじゃ無いかな?」
「そうですね、暫くは平和だと思います。婚約式の準備も進んでいますし、後は瘴気を消す手筈を整える必要がありますね」
「それについて、2人はどう考えてるの?」
「そうだな」
とレンと視線を合わせると、レンは一つ頷いた。
「先ずは、タマス平原のスタンピードに、目標を合わせたいと思います」
謁見の間を出てすぐに抱き上げると、レンは俺の首に縋り付き。
「ウェ~~緊張した~~~!悪役令嬢の皆様ありがとう~~!」と溢していた。
“アクヤクレイジョウ”とは?
と思いもしたが、緊張が解けてもプルプルと震える姿が可哀想で、何も聞かずに頭をヨシヨシと撫でるに留めることにした。
謁見室を後にした俺たちは今、皇帝の執務室に居る。
ゼノンの出方次第では、対応を検討する必要が有った為、謁見後此方に集まる手筈となっていたからだ。
「少しは落ち着いたか?」
「まだ、心臓がバクバクしてます」
「どれ」と言って、レンの胸に当てようとした手を、ピシャリと叩かれた。
「めっ!アレクさんのムッツリ」とジト目で見られてしまった。
ショックだ。
レンまで俺をムッツリとか言うのか?
ただ心配しただけなのに・・・。
「いや、これは邪な気持ちとかではなくて、レンが心配でだな」
冷や汗をかく俺をジトっと見ていたレンが、急に何かを思いついたようにニパッと笑った。
これには既視感がある。
拙いぞ。
「じゃあ、おしっぽ触らせて?」
やっぱりか~!!
尾は色々と拙い。
こんな所では、益々拙い。
しかし・・・。
「ダメ?」
カアーーーーっ!!
そんな、あざと可愛く見上げられて、ダメと言えるオスが居るか?
え~~い。もう知らん!!
「・・・・・クッ」
「ふさふさのモッフモフ~♪」
「た・・のしいか?」
「はい。凄く癒されます」
「それは、良かった」
全然良くない。
特に俺の“オレ”的に良くない・・・。
非常に良くない。
礼服のマントが長くて、本当に良かった。
暫くして残りの謁見を終えた、ウィリアムとアーノルドが執務室に戻ったのだが。
左膝にレンを乗せ、細い腰に巻いた尾先を撫でさせるオレの姿に、案の定というか、2
人はギクリと立ち止まり、ウィリアムは“またか”と言いたげにため息を漏らし、アーノルドは、マントで不自然に隠された俺の股間へ、軽蔑の籠った冷たい視線を向けてきた。
「お帰りなさい。お二人ともお疲れ様でした」
とレンが笑顔を向けると、アーノルドもぎこちない笑顔を浮かべた。
「レン様?何故、兄上の尾を撫でているのですか?」と問う唇の端が、引き攣って痙攣している。
「ん?アニマルセラピーですけど?」
「アニマルセラピー?」
「えっと。彼方では動物と触れ合うと、癒し効果が得られる事が解明されていまして、特に猫ちゃんの癒し効果は、抜群なんです」
「癒し効果?・・・猫ちゃん?」
アーノルドの口の端の痙攣が、違う意味の震えに変わってきた。
「そうなんです。アレクさんは虎さんなので、おしっぽも立派で、モフリ甲斐があります。凄く癒されますよ?」
レンは一生懸命に説明しているのだが、ウィリアムとアーノルドの肩が、笑いを堪える為に震えているのが分かる。
「癒しとモフリ甲斐・・・ですか?」
「はい。モフモフは正義ですから」とレンは可愛らしく拳を握ったのだが・・・。
「プッ!!猫ちゃん!あはははは・・・・モフモフッ!!」
「アーノルド・・・やめて。アレクが可哀想だからッ・・プクク・・フハハ・・・!!」
腹を抱えて笑う2人に、レンは呆気に取られ「なんで笑ってるんですか?」と、額に手を当て、ため息を吐くオレの顔を見上げてきた。
「2人とも疲れすぎて、テンションが可笑しくなっているだけだ、気にしなくていい」
「お仕事が大変なんですね?」と弱冠怪訝そうだが、納得はしてくれた様だ。
しかしアーノルドは「テンションって!兄上。真面目な顔やめて!!」ヒィヒィと笑い続け、面倒になった俺は、レンを抱えたまま立ち上がり、その後ろ頭をペシリと平手で叩いた。
「あいたっ!」
「話が無いなら帰るぞ」
「プクク・・・すみませ・・クク・・」
「・・・・話はないようだな」
「ごめんよ。アレク・・・プッ・か・帰らないで」
「大丈夫ですか?治癒魔法かけますか?」
「レンちゃんごめん。今は・・・やめて、お願い」
「はあ。・・・???」
仏頂面の俺と、疑問符だらけのレンを前に、笑い過ぎた2人は、グッタリと椅子に座り込んだが、笑いの発作が起きるのか、時折口の端がピクピクと痙攣している。
「え~ゴホン。レンちゃん今日は、お疲れ様でした」
「いえ、こちらこそ。少しやり過ぎてしまいました」
「いや。あれくらいで丁度良い」
「そうですか?」
「そうです。神殿の者達はしつこいですから、あれぐらいハッキリ言わないと」
「そうそう。レンちゃんかっこ良かったよ」
「それなら良いんですけど」
と肩を丸めているが、レンの演技は完璧に近かったと言って良いだろう。
「でもさ、口調も変わってたし、よくあんなにスラスラとゼノンを追い込めたね?」
「ああ。あれは悪役令嬢・・・私の国の物語の中に、似たような場面が沢山有ったので、それを真似してみました。じゃなきゃ“ですの?”なんて恥ずかしくて言えないです」
とレンは照れた様に、頬を指で掻いた。
「なるほどねぇ。でもさ、あんな場面が物語の中に沢山有るって、レンちゃんの国って変わってる?」
「あ~~。ちょっと特殊な国では有ったと思います。でも平和でしたし、文化水準も高くて、娯楽も沢山有りましたから」
「そうなんだね。そこらへんの話も、詳しく聴きたいなあ」
「陛下・・そろそろ本題に入ったほうが」
兄上の機嫌が・・・とアーノルドがヒソヒソと注意している。
良々、アーノルド
できる子に育ってくれて、兄は嬉しいぞ。
まぁ、さっきの爆笑は許さないがな。
「コホンッ。あ~今回の謁見で、大神殿の連中も暫くは大人しくしていると思う。アレクとの関係もアツアツだってアピールできたし。レンちゃんの使命についても周知できた。獣人への差別についても、神の愛し子が否定的な発言をした訳だから、よっぽどのバカじゃなきゃ、そうそう手出しはして来ないんじゃ無いかな?」
「そうですね、暫くは平和だと思います。婚約式の準備も進んでいますし、後は瘴気を消す手筈を整える必要がありますね」
「それについて、2人はどう考えてるの?」
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