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アレクサンドル・クロムウェル
閑話休題 /ロロシュ2
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皇都の手前で第2騎士団とは別行動になる。
帝国全土を守護する第二騎士団とオレの様な日影者が、人目の多い所で行動を共にするなど、お勧めできるものでは無いからな。
断腸の想いで番と離れ、影の任務に戻ったオレは、やりきれない気持ちを鬱々と抱える事になった。
他人の秘密を暴き弱みを握り、陛下の敵を排除する。
陛下の御為、その一言で、命を奪うことさえある・・・・嫌な仕事だ。
子供の頃、養父に影の養成施設に放り込まれたオレは、ギデオンに命ぜられた初任務に失敗し、再教育が必要だと2年近く独房に隔離されたが、幼子を手に掛けるくらいなら、牢の中で死んだ方がマシだと思っていた。
やがて、クロムウェル卿達の手によって、ギデオンと皇太子は排除され、おれも牢から救い出された。
オレの投獄理由に興味を持ったウィリアム陛下に声をかけられ、結局影として薄暗い世界を歩む事になった。
それでも陛下の下す命令は、真っ当な理由のある任務で有るし、ギデオンのように意味もなく子供の命を奪う事がない分ましだろう。
問題があるとしたら、陛下がウィリアム個人に戻った時の、情緒の不安定さくらいだ。
愛し子の招来から、神殿の動きを探る任務も増えているが、アイツらは強欲で頭は弱いが、結束だけは硬い。
何かありそうだと、分かっていても思ったように情報を引き出せなくてイライラする。
短い間だったが、第2騎士団での仕事は楽しかった。
森の中の探索も宝探しの様だったし、攻撃魔法が得意じゃないオレには、魔獣を追い、追われるのは少々キツかったが、それでも自分が真っ当な人間になれた様な気がした。
番に焦がれながら、砂を噛むような日々を送っていたある日、養父から呼び出された。
影の養成施設に放り込まれた日から、20年は会っていなかったと思う。
どうせアルケリスの一件だろうと、指定された宿に向かった。
約20年ぶりの養父は、さすがに老けてはいたが、相変わらず押し出しが強く、社交界の王と呼ばれるに相応しい容貌を保っていた。
「どうも。今更オレに何の用です?」
「・・・久しぶりに会った父親に挨拶もまともにできんとは、影の教育は大したことがないようだ」
「何言ってんだか。元々他人も同然で、更に20年も顔を合わせなきゃ、父親とは言えねぇよ」
メリオネス侯爵は、優雅な仕草で顳顬に指を当て溜息まじりに首を振った。
「あんたも知ってるだろ?愛し子様が招来されて、俺たちも大忙しだ。くだらない前置きは抜きにして本題に入ってくれねぇかな」
オレを見るメリオネス侯爵の眼光は鋭く、頭の中を読み取られるようだ。
「アルケリスの件は知っているな?」
予想的中だ。
「愛し子と閣下相手に、無礼を働いたってやつか?あれは久しぶりに笑わせてもらった。アルケリスには道化の才能があったみたいだなぁ」
侯爵は苦々し気に唇を歪めたが、オレに言い返しては来なかった。
「もう一つの方だ」
「・・・さぁ、何のことやら」
「惚けるな。お前の耳に入らぬはずがない」
「入ろうが入るまいが、あんたに話すことは何もねぇよ。影を舐めてんのか?」
愛し子に無礼を働き、閣下に喧嘩を売ったアルケリスは、今第1騎士団と、皇都警備隊の捜査対象だ。
オレも個人的に調べ上げていた、アルケリスの悪行の証拠を、それとなく第一騎士団に回している。
汚泥まみれのアルケリスの捕縛は近い。
「オレに目こぼしを頼みたいってんなら、お門違いもいいとこだ」
メリオネス家に恨みはあっても、恩はない。
「お前に目こぼしを頼みにに来たのではない。アルケリスは放逐する。メリオネス家の後継はお前だ」
後継だと?なにを寝ぼけたことを。
あの高慢ちきな、ドルフとその実家のポーツ伯爵がアルケリスの放逐を許すとは思えない。
「あんたボケたのか?アルケリスの放逐までは認められても、オレは忌み子なんだろ?傍系から選べよ」
「その傍系で一番血が濃いのがお前だ。元々私ではなく、お前の母が公爵家を継ぐはずだった。誰にも文句は言わせん」
「お有難くて、涙が出るね。そこまで思ってくれんなら、あの時母さんを助ければよかっただろ?そうすれば、なれない傭兵家業なんかで、魔物に命を吸い取られて死ぬこともなかった」
肩を落とした侯爵は、社交界の王ではなく、ただの老いた老人に見えた。
「あの頃の私には力が無かった。だが今は違う。お前がドルフとポーツの首を斬れと言うなら、それが出来るだけの力を手に入れた。だから」
だから何だってんだ。
まぁいいさ。
オレも力は欲しい。
「・・・ドルフとアルケリスの放逐だけで良い」
「後継の話を受けてくれるのか?」
「あぁ。条件は三つ、オレの魔法契約の解除。ドルフとアルケリスの放逐。オレの伴侶選びに口を出さない事」
「それだけで良いのか?」
侯爵はそんな簡単な事で良いのかと言いたそうだが、オレにとっては重要だ。
契約が解除されれば、オレは伴侶を得る事ができる。
復讐は自分でやるから意味がある。
全て、アルケリスが捕縛されてからの話だが、それでも、これはオレに与えられたチャンスだ。
家格に問題はなくなった。
母さんを追い出した傍系達を黙らせられれば、オレはマークを迎えることが出来る。
漸くマークと向き合う事ができる。
後になって、自分の読みの甘さと
意固地な性格を後悔することになるが
それはまた、別の話だ。
帝国全土を守護する第二騎士団とオレの様な日影者が、人目の多い所で行動を共にするなど、お勧めできるものでは無いからな。
断腸の想いで番と離れ、影の任務に戻ったオレは、やりきれない気持ちを鬱々と抱える事になった。
他人の秘密を暴き弱みを握り、陛下の敵を排除する。
陛下の御為、その一言で、命を奪うことさえある・・・・嫌な仕事だ。
子供の頃、養父に影の養成施設に放り込まれたオレは、ギデオンに命ぜられた初任務に失敗し、再教育が必要だと2年近く独房に隔離されたが、幼子を手に掛けるくらいなら、牢の中で死んだ方がマシだと思っていた。
やがて、クロムウェル卿達の手によって、ギデオンと皇太子は排除され、おれも牢から救い出された。
オレの投獄理由に興味を持ったウィリアム陛下に声をかけられ、結局影として薄暗い世界を歩む事になった。
それでも陛下の下す命令は、真っ当な理由のある任務で有るし、ギデオンのように意味もなく子供の命を奪う事がない分ましだろう。
問題があるとしたら、陛下がウィリアム個人に戻った時の、情緒の不安定さくらいだ。
愛し子の招来から、神殿の動きを探る任務も増えているが、アイツらは強欲で頭は弱いが、結束だけは硬い。
何かありそうだと、分かっていても思ったように情報を引き出せなくてイライラする。
短い間だったが、第2騎士団での仕事は楽しかった。
森の中の探索も宝探しの様だったし、攻撃魔法が得意じゃないオレには、魔獣を追い、追われるのは少々キツかったが、それでも自分が真っ当な人間になれた様な気がした。
番に焦がれながら、砂を噛むような日々を送っていたある日、養父から呼び出された。
影の養成施設に放り込まれた日から、20年は会っていなかったと思う。
どうせアルケリスの一件だろうと、指定された宿に向かった。
約20年ぶりの養父は、さすがに老けてはいたが、相変わらず押し出しが強く、社交界の王と呼ばれるに相応しい容貌を保っていた。
「どうも。今更オレに何の用です?」
「・・・久しぶりに会った父親に挨拶もまともにできんとは、影の教育は大したことがないようだ」
「何言ってんだか。元々他人も同然で、更に20年も顔を合わせなきゃ、父親とは言えねぇよ」
メリオネス侯爵は、優雅な仕草で顳顬に指を当て溜息まじりに首を振った。
「あんたも知ってるだろ?愛し子様が招来されて、俺たちも大忙しだ。くだらない前置きは抜きにして本題に入ってくれねぇかな」
オレを見るメリオネス侯爵の眼光は鋭く、頭の中を読み取られるようだ。
「アルケリスの件は知っているな?」
予想的中だ。
「愛し子と閣下相手に、無礼を働いたってやつか?あれは久しぶりに笑わせてもらった。アルケリスには道化の才能があったみたいだなぁ」
侯爵は苦々し気に唇を歪めたが、オレに言い返しては来なかった。
「もう一つの方だ」
「・・・さぁ、何のことやら」
「惚けるな。お前の耳に入らぬはずがない」
「入ろうが入るまいが、あんたに話すことは何もねぇよ。影を舐めてんのか?」
愛し子に無礼を働き、閣下に喧嘩を売ったアルケリスは、今第1騎士団と、皇都警備隊の捜査対象だ。
オレも個人的に調べ上げていた、アルケリスの悪行の証拠を、それとなく第一騎士団に回している。
汚泥まみれのアルケリスの捕縛は近い。
「オレに目こぼしを頼みたいってんなら、お門違いもいいとこだ」
メリオネス家に恨みはあっても、恩はない。
「お前に目こぼしを頼みにに来たのではない。アルケリスは放逐する。メリオネス家の後継はお前だ」
後継だと?なにを寝ぼけたことを。
あの高慢ちきな、ドルフとその実家のポーツ伯爵がアルケリスの放逐を許すとは思えない。
「あんたボケたのか?アルケリスの放逐までは認められても、オレは忌み子なんだろ?傍系から選べよ」
「その傍系で一番血が濃いのがお前だ。元々私ではなく、お前の母が公爵家を継ぐはずだった。誰にも文句は言わせん」
「お有難くて、涙が出るね。そこまで思ってくれんなら、あの時母さんを助ければよかっただろ?そうすれば、なれない傭兵家業なんかで、魔物に命を吸い取られて死ぬこともなかった」
肩を落とした侯爵は、社交界の王ではなく、ただの老いた老人に見えた。
「あの頃の私には力が無かった。だが今は違う。お前がドルフとポーツの首を斬れと言うなら、それが出来るだけの力を手に入れた。だから」
だから何だってんだ。
まぁいいさ。
オレも力は欲しい。
「・・・ドルフとアルケリスの放逐だけで良い」
「後継の話を受けてくれるのか?」
「あぁ。条件は三つ、オレの魔法契約の解除。ドルフとアルケリスの放逐。オレの伴侶選びに口を出さない事」
「それだけで良いのか?」
侯爵はそんな簡単な事で良いのかと言いたそうだが、オレにとっては重要だ。
契約が解除されれば、オレは伴侶を得る事ができる。
復讐は自分でやるから意味がある。
全て、アルケリスが捕縛されてからの話だが、それでも、これはオレに与えられたチャンスだ。
家格に問題はなくなった。
母さんを追い出した傍系達を黙らせられれば、オレはマークを迎えることが出来る。
漸くマークと向き合う事ができる。
後になって、自分の読みの甘さと
意固地な性格を後悔することになるが
それはまた、別の話だ。
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