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アレクサンドル・クロムウェル
タマス平原/ sideレン
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「君にお願いがある」
「なんですか?」
「君の身体は今、前に教えたタマスの洞窟内にいる。向こうに戻ったら、そばに泉があるから、それを浄化して欲しい。その後はクレイオスの神殿にある泉を優先的に浄化してくれないか?」
「・・・そうしたらクレイオスさんが戻って来ますか?」
「少なくとも、彼の力にはなるだろう」
私が分かったと頷くと、アウラ様も心なしかホッとしたように見えます。
「それはいいですけど、スタンピードが起きる洞窟なんて、魔物だらけですよね?私1人でアガスさん達と魔物をやっつけられるでしょうか?」
それを聞いてアウラ様が クスッ と笑いました。
人が真剣に考えているのに失礼です。
魔物の群れの中に1人でポツンですよ?
命懸けですよ?
「ふふ・・。君は逃げるではなく、やっつけると考えるのだね?」
「だって、洞窟を出なくちゃ皇都に帰れないです」
まるで私を愛おしむように、アウラ様の笑みが深くなりました。
「そうだね、とても頼もしいね。でも君は命を奪ったり出来ないでしょ?」
「それは!・・・・・そうかも」
しおしおとする私の頭を、アウラ様はヨシヨシと撫でて「君の番が迎えに来るから心配ないよ」と教えてくれました。
「アレクさんが?」
もうすぐアレクさんに会えるの?
「彼、恐ろしく強いね。まさに樹界の王だ」
「樹界の王?」
「ものの例えだよ・・・さあ、君のお迎えまで後少しだ、他に知りたいことは?」
知りたいことは沢山ありますが、此処まで教えてくれなかったってことは、教えるつもりがないって事ですよね?
だとしたら、当たり障りの無い事ぐらいしか聞けません。
まずは、クレイオス様の神殿があった場所をステータス画面のマップに追加してもらいました。
それと今回みたいに瘴気で攻撃された場合に備えて、オートで防御できるように、加護を強化してもらえないかと思ったのですが・・・。
「精神を鍛えなさい」と言われてしまいました。そうですよね。これ以上ズルはいけませんね。
健全な心と健全な肉体は、日々の努力で作らないと。
他に知りたい事と言えば・・・
「瘴気って、本当はなんなのですか?」
瘴気は元々あったものとは聞いていましたが、何故できるのか、正体が何なのかは聞いていませんでした。
「瘴気はね。負の感情が凝った物。その負の感情を最も多く生み出すのは人だ。誰かを蔑んで貶めるのも人。争いを好み戦を起こして多くの命を奪うのも人だ。そのせいで瘴気が絶える事もない。人が脆弱なのは体だけじゃない、精神も脆弱だ。愛よりも負の感情を懐きやすい。」
アウラ様のお顔が、悲しげに曇りました。
「それは・・そうかもしれません」
それは私だって同じです。
「それなのに私は人を王にしてしまった。獣人は、体は頑強で優れた応力を持つけれど、番への愛を知って居るからなのか、人よりも純粋で平和的とさえ言える」
“私は人を創るべきじゃ無かった。彼の神の様に全てを水の底に沈めるべきだろうか”
表情が消え、虚空を見つめるアウラ様の横顔に、背筋がゾクリと震えました。
「アウラ様?」
「レン。古の契約はすでに破られてしまった。私は人の子の手によって、クレイオスを奪われた。居場所を探すことも出来ないのに、彼の苦痛だけは伝わってくる」
アウラ様がはらはらと流した涙が、頬を伝いクリスタルの結晶となって、白百合の花弁にこぼれ落ちていきます。
「私の愛し子は皆、愛情深い者達だった。けれど人の子は、その心を学ぼうとしない。私は、あと幾度人の子を許さねばならないのだろう」
私が知るアウラ様は、お優しくて少し惚けた神様です。
でも本当のアウラ様は、傷つけられても愛する事をやめられず。孤独と苦悩を抱え、苦しんで来たのだと知りました。
私は、この孤独な神様のために何ができるのでしょうか?
「浄化も終わるし、君の番もすぐ近くだ。もう帰る時間だよ」
「でも、アウラ様が・・・・」
1人になってしまいます。
「レン?クレイオスを見つけてくれる?」
「はい!絶対見つけます!」
「もう番から離れちゃダメだよ?」
「はい!絶対離れません!」
私の目からボロボロ溢れる涙を、アウラ様は真っ白な袖で拭ってくれました。
アウラ様が "またね" と手を振ると "リーン"と聞き慣れた鈴の音が聞こえて、私は光の中に溶けたのです。
◇◇◇
ドンッ! ガガッ!!
耳障りな音に瞼を開けると、私は馬車の椅子の上で泣きながら丸くなっていました。
ドンドン ガンガン と、さっきからうるさ過ぎます。
涙に濡れた頬を拳で拭い、馬車の窓からこっそり外を覗こうとしました。
ちょうどその時、窓に向って剣が振り下ろされ ガンッ!! と音を立て金色の火花が散りました。
ビックリした~!
今、どういう状況?
「まだ結界は破れないのか」
「大願成就の為、ここで愛し子を生贄に捧げなければならない。何としてでも引き摺り出さなければ」
「アガス様、如何いたしましょう」
ここで相談でもしに行ったのか、声が聞き取れなくなってしまいました。
今の話しだと、アウラ様の結界はまだ効果がある様ですが、後どのくらい保つのでしょうか?
大願成就って言っていたけど、誰の?
なんの為?
結界が切れるまでにアレクさんが間に合わなかったら、どうしましょう。
私を生贄にするとか言っていましたが、簡単にやられるつもりは有りませんよ?
声の主は3人。
他に何人いるのでしょうか?
もう一度窓から外を覗き見ると、結界に包まれた馬車が金色に光って見えます。
少し離れた所に同じようなローブを着た誘拐犯が5・6・7・・・7人いる様です。
7人かぁ。ちょっと多いなぁ。
剣を持って居るのが・・・3人。
他の人は魔法が使えるのかなあ?
アガス・・・
また瘴気を使うだろうな・・・。
そんなことを考えていたら、誘拐犯の後ろで、ゴボッ と大きな音がして、黒い泥の様なものが数体立ち上がりました。
何あれ?瘴気溜まり?
瘴気溜まりから、何か出てくる!
瘴気溜まりから魔物が湧き出したというのに、ローブ姿の人達は全く気にした様子がありません。
どうなってるの?
息を詰めて観察していると、湧き出した魔物が瘴気溜まりの縁に向って移動して行きます。
するとそこに、転移陣が浮かび上がり、陣に触れた魔物をどこかに転移させてしまいました。
なんてこと?!
どこに転移させてるの?
魔物被害の原因はこれ?
ゴボリと音がして、また別の魔物が湧き出してきます。
今度はそこに大きな影がさして・・・。
「&%$##ーーッ!!!」
無理!ムリむりムリ無理ーーーー!!!
何あれ!!嘘でしょ!!絶対無理!!!
あれが、前にアレクさんが言っていたメイジアクネでしょうか?
糸を伝って上から降りてきた巨大蜘蛛が、湧き出した魔物を糸でぐるぐる巻きにして運んで行きます。
運ばれた先に蜘蛛の巣が張られ、あちこちから垂れ下がって居るのは、餌になった魔物の成れの果てでしょうか?!
絶対外に出たくない!!
やだもう~!
お家に帰りたい~!!
半べそ状態で、巨大蜘蛛を見上げていると、誘拐犯に気付かれてしまいました。
誘拐犯達は馬車に駆け寄ってくると「ここを開けろ!!」「今すぐ出てこい!!」などと口々に叫んでいます。
馬鹿なんですか?
怒鳴られたからって、安全な結界から出るわけないでしょう?
第一あんな巨大蜘蛛がいるのに、表になんか誰が出るか!!
剣を振り上げて怒鳴り散らす誘拐犯に、私は思いっきり あっかんべー としてやりました。
それに怒った誘拐犯の1人が、剣を振り上げたその時。
ドッカーン!! 轟音と共に爆風が吹き荒れ、誘拐犯が吹き飛ばされてしまいました。
結界に守られた馬車も激しく揺れています。
「レンッ!!」
夢に見る程聞きたかった声が、私を呼んでいます。
やっと。
大切な人にやっと会える!
「なんですか?」
「君の身体は今、前に教えたタマスの洞窟内にいる。向こうに戻ったら、そばに泉があるから、それを浄化して欲しい。その後はクレイオスの神殿にある泉を優先的に浄化してくれないか?」
「・・・そうしたらクレイオスさんが戻って来ますか?」
「少なくとも、彼の力にはなるだろう」
私が分かったと頷くと、アウラ様も心なしかホッとしたように見えます。
「それはいいですけど、スタンピードが起きる洞窟なんて、魔物だらけですよね?私1人でアガスさん達と魔物をやっつけられるでしょうか?」
それを聞いてアウラ様が クスッ と笑いました。
人が真剣に考えているのに失礼です。
魔物の群れの中に1人でポツンですよ?
命懸けですよ?
「ふふ・・。君は逃げるではなく、やっつけると考えるのだね?」
「だって、洞窟を出なくちゃ皇都に帰れないです」
まるで私を愛おしむように、アウラ様の笑みが深くなりました。
「そうだね、とても頼もしいね。でも君は命を奪ったり出来ないでしょ?」
「それは!・・・・・そうかも」
しおしおとする私の頭を、アウラ様はヨシヨシと撫でて「君の番が迎えに来るから心配ないよ」と教えてくれました。
「アレクさんが?」
もうすぐアレクさんに会えるの?
「彼、恐ろしく強いね。まさに樹界の王だ」
「樹界の王?」
「ものの例えだよ・・・さあ、君のお迎えまで後少しだ、他に知りたいことは?」
知りたいことは沢山ありますが、此処まで教えてくれなかったってことは、教えるつもりがないって事ですよね?
だとしたら、当たり障りの無い事ぐらいしか聞けません。
まずは、クレイオス様の神殿があった場所をステータス画面のマップに追加してもらいました。
それと今回みたいに瘴気で攻撃された場合に備えて、オートで防御できるように、加護を強化してもらえないかと思ったのですが・・・。
「精神を鍛えなさい」と言われてしまいました。そうですよね。これ以上ズルはいけませんね。
健全な心と健全な肉体は、日々の努力で作らないと。
他に知りたい事と言えば・・・
「瘴気って、本当はなんなのですか?」
瘴気は元々あったものとは聞いていましたが、何故できるのか、正体が何なのかは聞いていませんでした。
「瘴気はね。負の感情が凝った物。その負の感情を最も多く生み出すのは人だ。誰かを蔑んで貶めるのも人。争いを好み戦を起こして多くの命を奪うのも人だ。そのせいで瘴気が絶える事もない。人が脆弱なのは体だけじゃない、精神も脆弱だ。愛よりも負の感情を懐きやすい。」
アウラ様のお顔が、悲しげに曇りました。
「それは・・そうかもしれません」
それは私だって同じです。
「それなのに私は人を王にしてしまった。獣人は、体は頑強で優れた応力を持つけれど、番への愛を知って居るからなのか、人よりも純粋で平和的とさえ言える」
“私は人を創るべきじゃ無かった。彼の神の様に全てを水の底に沈めるべきだろうか”
表情が消え、虚空を見つめるアウラ様の横顔に、背筋がゾクリと震えました。
「アウラ様?」
「レン。古の契約はすでに破られてしまった。私は人の子の手によって、クレイオスを奪われた。居場所を探すことも出来ないのに、彼の苦痛だけは伝わってくる」
アウラ様がはらはらと流した涙が、頬を伝いクリスタルの結晶となって、白百合の花弁にこぼれ落ちていきます。
「私の愛し子は皆、愛情深い者達だった。けれど人の子は、その心を学ぼうとしない。私は、あと幾度人の子を許さねばならないのだろう」
私が知るアウラ様は、お優しくて少し惚けた神様です。
でも本当のアウラ様は、傷つけられても愛する事をやめられず。孤独と苦悩を抱え、苦しんで来たのだと知りました。
私は、この孤独な神様のために何ができるのでしょうか?
「浄化も終わるし、君の番もすぐ近くだ。もう帰る時間だよ」
「でも、アウラ様が・・・・」
1人になってしまいます。
「レン?クレイオスを見つけてくれる?」
「はい!絶対見つけます!」
「もう番から離れちゃダメだよ?」
「はい!絶対離れません!」
私の目からボロボロ溢れる涙を、アウラ様は真っ白な袖で拭ってくれました。
アウラ様が "またね" と手を振ると "リーン"と聞き慣れた鈴の音が聞こえて、私は光の中に溶けたのです。
◇◇◇
ドンッ! ガガッ!!
耳障りな音に瞼を開けると、私は馬車の椅子の上で泣きながら丸くなっていました。
ドンドン ガンガン と、さっきからうるさ過ぎます。
涙に濡れた頬を拳で拭い、馬車の窓からこっそり外を覗こうとしました。
ちょうどその時、窓に向って剣が振り下ろされ ガンッ!! と音を立て金色の火花が散りました。
ビックリした~!
今、どういう状況?
「まだ結界は破れないのか」
「大願成就の為、ここで愛し子を生贄に捧げなければならない。何としてでも引き摺り出さなければ」
「アガス様、如何いたしましょう」
ここで相談でもしに行ったのか、声が聞き取れなくなってしまいました。
今の話しだと、アウラ様の結界はまだ効果がある様ですが、後どのくらい保つのでしょうか?
大願成就って言っていたけど、誰の?
なんの為?
結界が切れるまでにアレクさんが間に合わなかったら、どうしましょう。
私を生贄にするとか言っていましたが、簡単にやられるつもりは有りませんよ?
声の主は3人。
他に何人いるのでしょうか?
もう一度窓から外を覗き見ると、結界に包まれた馬車が金色に光って見えます。
少し離れた所に同じようなローブを着た誘拐犯が5・6・7・・・7人いる様です。
7人かぁ。ちょっと多いなぁ。
剣を持って居るのが・・・3人。
他の人は魔法が使えるのかなあ?
アガス・・・
また瘴気を使うだろうな・・・。
そんなことを考えていたら、誘拐犯の後ろで、ゴボッ と大きな音がして、黒い泥の様なものが数体立ち上がりました。
何あれ?瘴気溜まり?
瘴気溜まりから、何か出てくる!
瘴気溜まりから魔物が湧き出したというのに、ローブ姿の人達は全く気にした様子がありません。
どうなってるの?
息を詰めて観察していると、湧き出した魔物が瘴気溜まりの縁に向って移動して行きます。
するとそこに、転移陣が浮かび上がり、陣に触れた魔物をどこかに転移させてしまいました。
なんてこと?!
どこに転移させてるの?
魔物被害の原因はこれ?
ゴボリと音がして、また別の魔物が湧き出してきます。
今度はそこに大きな影がさして・・・。
「&%$##ーーッ!!!」
無理!ムリむりムリ無理ーーーー!!!
何あれ!!嘘でしょ!!絶対無理!!!
あれが、前にアレクさんが言っていたメイジアクネでしょうか?
糸を伝って上から降りてきた巨大蜘蛛が、湧き出した魔物を糸でぐるぐる巻きにして運んで行きます。
運ばれた先に蜘蛛の巣が張られ、あちこちから垂れ下がって居るのは、餌になった魔物の成れの果てでしょうか?!
絶対外に出たくない!!
やだもう~!
お家に帰りたい~!!
半べそ状態で、巨大蜘蛛を見上げていると、誘拐犯に気付かれてしまいました。
誘拐犯達は馬車に駆け寄ってくると「ここを開けろ!!」「今すぐ出てこい!!」などと口々に叫んでいます。
馬鹿なんですか?
怒鳴られたからって、安全な結界から出るわけないでしょう?
第一あんな巨大蜘蛛がいるのに、表になんか誰が出るか!!
剣を振り上げて怒鳴り散らす誘拐犯に、私は思いっきり あっかんべー としてやりました。
それに怒った誘拐犯の1人が、剣を振り上げたその時。
ドッカーン!! 轟音と共に爆風が吹き荒れ、誘拐犯が吹き飛ばされてしまいました。
結界に守られた馬車も激しく揺れています。
「レンッ!!」
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やっと。
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