獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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ヴァラクという悪魔

ヴァラクの世界2

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 こんな濃い瘴気の中にずっと居たら、魔物を倒し切るより前に、こっちがおかしくなってしまいます。
 
 だって、すでにアレクさんの息が乱れて・・・苦しそう?

「アレク?どうしたの?」

「大・・丈夫だ・・・問題・・・・ない」

 えぇ~?
 問題大ありでしょ?!
 額に脂汗浮いてますよ?

「アレク、苦しいの?」

 大丈夫と言いたいのでしょうか、首を横に振っていますが、絶対大丈夫じゃ有りません。

 袂から取り出したハンカチで、額に浮いた汗を拭いましたが、頬は紅潮して、息は荒いし・・・。
 潤んだ瞳で見つめ返すとか・・・。

 ・・・具合が悪そうなのに、なんで色気フルオープンなの?
 ダダ漏れどころか濁流ですよ??

 色気ダダ漏れな、イケメンを見ていると、私まで、濁流に飲み込まれておかしくなりそうで、膝立ちになって後ろの3人を見ると、3人ともアレクさんと同じように息が乱れ、胸を押さえたり、空に顔を向けたりしていて、とても苦しそうにしています。

「クレイオス様!どうしよう? 浄化? 治癒? どっち?!」

『心配せんでも良い。こ奴らが自分の本性を受け入れれば済むこと故、放っておけ』

 何それ?
 こんなに苦しそうなのに?
 
「放っておけって、どういうこと?みんな苦しんでるじゃ無いですか?!」

「グウゥゥ」

「アレクッ?!」

 苦しそうに呻めいたアレクさんは、両手で顔を覆い隠しました。

 どうして良いか分からず、オロオロする私の前で、アレクさんの両手の爪が見るまに伸びて鋭く尖り、指の隙間からくぐもった呻き声が聞こえて来ます。

「ガウゥ・・・」

「アレク?」

 顔を覆った手に私の手を重ね、顔を覗き込みます。

 ポフッ・・・・

 ポフ?

 緊迫した状況に似合わない、間抜けな音が聞こえたような・・・。

「・・・見・・・るな」

 くぐもった低い声に体を引くと、アレクさんの全身が見えました。

「えっ? えぇぇ~~??」

 ツヤツヤ、サラサラのガーネット色の髪が、所々黒髪の混ざった白髪に変わっています。
 肩までだった長さも、胸くらいまで伸びていて風に揺れて、キラキラと・・・・。

 頭の上には、モフモフのお耳。
 それにお顔が・・・・・。

「・・・・トラ?」

「見ないでくれ」

 アレクさんが、苦しんでいるような、悲しんでいるような、刹那げな声を出しました。

 呆気に取られつつ後ろの3人を見ると、3人とも何故か恥じたように俯いています。

 その姿は、マークさんが白銀の美しい狐。

 キツネ!? 
 ヤッヤベちゃんっ!!
 ちょっと違うけど
 ヤベちゃんが大好きな、妖狐◯馬がここに居るよっ!!

 その腰を支えるように腕を回したロロシュさんは、長い蛇の尻尾が生えている以外、見た目はあまり変わっていませんが、顔や手の甲が金色がかった鱗で覆われて光を反射しています。

 シッチンさんは、いつもは好奇心に溢れ、キラキラしている目を伏せていますが、あの独特のフォルムとお顔の白い線は・・・アライグマ?
 やだもう!! ラスカル~~~!!!

 スマホ、スマホ!写真撮らなきゃ!!

 あ~~!!
 スマホないんだったァーーー!!
 私のバカッ!!
 なんで魔道具のカメラ作って無いのよ!!
 携帯コンロの前に、カメラ作っとけばよかったぁーーーー!!

「うそ・・・泣きたい」

「すまない君を怖がらせるつもりは・・・」

 絶望に頭をかかえていると、アレクさんの悲しげな声が聞こえてきます。

 アレクさんに誤解を与えてしまった様です。

 早く誤解を解かなくちゃ。

 そう思って、顔を上げるとそこには、モフモフ、ふかふかなアレクさんのお顔が間近にあって。

 両手を下ろした、アレクさんのお顔は、まんまホワイトタイガーです。
 濡れたお鼻が艶々に光って、豊かな白いお髭が喋るたびにピクピク動いてます

「キッ・・・」
 両手のワキワキが止まらない。

「キ?」
 どうした、と首を傾げる視界いっぱいのホワイトタイガー。

「キ・・・・キャーーーッ!! かわいい~!! やだ。何これ!! モフモフ。超かわいい!!」

「えっ?いや、あの。・・・レン?」

 アレクさんは戸惑って居る様でしたが、モフモフ愛好家の私としては、こんなチャンスを逃すなんて考えられません。

 ふかふかの毛に覆われたアレクさんの顔を撫でくりまわすと、ちくちくのお髭がぴんと前に立って、それがまたなんとも可愛くて。

「レン。おい!?」

 まあるいお耳も、中まで白い毛がフッサフサで、やわらか~い!!
 
「キャー。しあわせ~!」

 顔の横のモッフリした毛に顔を埋めて猫吸いならぬ虎吸いをクンカクンカと堪能し、白黒の毛に覆われたぶっとい手を取って、次は肉球をとひっくり返すと・・・。

「肉球が・・・ない?」

 そんな!ここまで来て手だけ人間?
 魅惑の肉球フニフニが出来ないの?

 愕然とした私は、ガバっと身を起こし、マークさんとシッチンさんに「手の平見せて!」と叫んでしまいました。

 何が何だかわからない様子の二人は、惚けた様に手の平を見せてくれましたが、やっぱりそこには肉球は無くて。

「肉球が無いなんて・・・酷い」

 ガックリと落とした私の肩に、アレクさんがおずおずと手を置いて「怖く無いのか?」
 と聞いて来ました。

「怖い? なんで?」

 あちらに居たら、絶対叶うことのない、虎さんのモフりタイムですよ?
 目の前にモフモフの安全な虎が居るのに、愛でる以外の選択肢があるとでも?
 
 それの何処に怖がる必要が?
 
 白目のなくなった青灰色の瞳を見つめ返すと、白虎のアレクさんは気が抜けたように息を吐きました。

「そうだった・・君はそういう人だった」
 額に手を当てたアレクさんは、草臥れた様子で脱力しています。

 なんとなくディスられている気もしますが、アレクさんも通常モードに戻ったようで、安心しました。

『アウラが選んだ愛し子が、獣化程度で怖がるはずが無かろう』

 ゴロゴロと喉を鳴らしているのは、笑っているのでしょうか?

「これは、瘴気の所為か?」

『いや、ヴァラクの嫌がらせだろうな。獣化したお前達を見て、愛し子が怖がるとでも考えたのだろう』

 二人は真面目な話をしているのに、わたしはアレクさんの下唇毛が気になって仕方がありません。

 あの顎を撫でてゴロゴロ言わせたい!

 何か別のことで気を紛らわせないと、唯の変態になってしまいそうです。
 
「獣化って、よくあるの?」

「いや。戦場では稀に有るが、普通に暮らしていたら滅多にない」

 そう言えば、ステータス画面で獣人を検索した時に、獣人は種族の本性で生まれて来て、だんだん人化が進んで、歩き出す頃になると種族が分かる特徴は、耳と尾だけになるって書いてあったっけ。

『獣化すると、種族本来の力が使える様になるのだ。だが見た目が人と異なる故、耳と尾ですら大人になって隠せないのは、自分を律することが出来ない恥ずべき事、と言われるようになっての』

「そんなの気にしないのに」

『其方のような、モフモフ好き? は稀であろう。 獣人のこの風習も、人に気を使った結果であろうからな』

 動物が苦手な人って、結構いるものね。

『まぁ他にも理由はあるのだが・・・兎に角、普段の倍以上の力が出せるのだ、今の状況で獣化したのは行幸と言えよう』

 ふ~ん。そんなに違うんだ。

 確かに、アレクさんは元からシックスパックの、引き締まった逞しい体をしているけれど、今はさらに大きくなって、如何にも力が強そうな感じです。
 
 でも団服がパツパツでボタンが弾けちゃいそうだし、これ剣を振ったら破けちゃうんじゃないかしら。

「行幸と言うが、肝心のヴァラクの居処が分からねば、どうにも出来まい」

 襟元のボタンを外してます。
 やっぱりきついんだ。

『ふむ。其方の言う通りだが、これだけ飛んでも、影も形も見えん。これは幻惑魔法を掛けてあるな』
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