獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
320 / 765
幸福の定義は人それぞれ

皇太子と大公1 レンvsマーク

しおりを挟む
「そうですか。オズボーンが動き出しましたか」

「お前が出した、オーベルシュタインへの援助要請に、応えた体を装ってはいるが、輸送される物資の数と護衛の数が明らかにおかしい。前回の物資強奪を建前にすれば、護衛を増やしても、怪しまれないと踏んでいるようだな」

「そうなると、前回の物資強奪も筋書きの内でしょうか?」

「違うとは言い切れん。あの時は神殿も勢いがあったからな、ヴァラクの入れ知恵が有っても可笑しくはない」

「ウィル兄・・・陛下は昔からオズボーンを嫌っていました。あの頃から疑っていたのだと思いますか?」

「さあな。疑って居たとしても証拠はなかった。あいつは感覚で判断するところも多かったしな。そういう時、あいつは ”臭いがする” と言って、グリーンヒルに丸投げだった」

「そうですね。宰相からオズボーンの話を聞いたときは、驚きました。帝国有数の穀倉地帯を所有し、オズボーンの機嫌一つで麦の相場が変動する、とまで言われる程、富を集めて、何が足りないのかと・・・まさかギデオン帝の落とし種だとは・・・」

「自称だ。証拠はない」

「ですが」

「いいか?本当に奴がご落胤で、継承権を主張したいなら、国内の貴族に手を廻し、自らの派閥を作り上げた筈だ。まぁ奴は帝国の胃袋を押えて居る訳だから? これまでもすり寄る貴族は多かっただろう。だが、その中から一人でも、皇家の嫡流としての、後押しをしたものが居るか?」

「そうですけど」

「第一奴は、出自の正当性を主張したことなどない。俺やウィリアムを恐れた結果だったとしても、奴はこれまで皇家、皇族の義務を果たしてこなかった。仮に奴が本当にご落胤だったとしてもだ、体に流れる青い血だけでは、志尊の座に就く事等出来んのだ。そこは分かるな?」

「はい」

「まぁ。オズボーンに関して、ウィリアムが俺に一言も相談しなかった事は、癪に障るが、相談しなかったと云う事は、奴を切り捨てる気だった、と云う事だろうな」

「何故ですか?」

「始末しろ、と命じるだけで済むからだ」

「あ・・・・・」

「言っておくが、俺はウィリアムを信じていたが、妄信していた訳では無いぞ?あいつの命が理不尽だと感じれば、背景を調べさせ、納得できなければ断りもして来た。だがウィリアムは影の使い方が上手かった。俺に気付かれずに、始末をつけた事の方が多かった筈だ」

「あぁ、そうか・・・」

「俺は魔物相手で、手いっぱいなところも有ったから、あいつ為りに気を使ったのやも知れんが、これまで放置してきたのは、オズボーンを脅威ではなく、いつでも切り捨てられる、雑魚だと考えて居たからじゃないか?」

「そうかもしれませんね」

「ただ・・・・」

「なんですか?」

「ウィリアムは、東の穀倉地帯を直轄地にしたい、と考えてはいた。帝国の胃袋を一貴族が握るのは危険だとな?」

「それは僕もそう思います」

「だから、今の状況はウィリアムの望んだ結果やも知れん。愚かで生意気な貴族を叩き潰すチャンスだからな」

「なるほど。ついでにゴトフリーを黙らせることが出来れば、一挙両得か・・・」

「ウィリアムが、そこまで用意周到だったかと言われると、買い被り過ぎな気もするが、弟から賢帝だったと尊敬されるなら、見当外れでもあいつは喜んだと思うぞ」

「陛下は、間違いなく賢帝であられたと思います」

「ウィリアムが聞いたら、泣いて喜びそうだ」

「はは・・・オレステスの捕縛とタウンハウスの制圧は、予定通りで良いでしょうか?」

 これは確認というより、否定して欲しい顔だな。

「明日の茶会で、オレステスと顔を合わせるのは、気が重いか?」

「ええ、まぁ・・・エスカル殿下が居なくなってから、ちょっと・・・」

 表立って張り合っていた相手が居なくなり、オレステスは自分の天下と勘違いしているらしい。“茶会では媚薬に注意!!” とまでフレイアが言って来ている処を見ると、オレステスはかなり焦っているようだ。

 実力ではシエルとリアンに遠く及ばず、馬鹿にしている獣人の伴侶となったレンは、天才の域に達している。
 
 遅ればせながら、自分が王配として力不足だとに気付いた事による危機感か、単なる我儘か、休暇明けでレンが講義に復帰してからのオレステスは、ライバル達への嫌がらせが激化している、とレンも呆れて話していた。

「護身術の講義の話は聞いたか?」

「テイモンが怪我をした、とは聞きましたが、それ以外は。何かあったのですか?」

「それがな、珍しくレンがキレてな?」

 第二騎士団の練武場を使った護身術の講義で、オレステスが問題を起こした。

 候補者達が講義で練武場を使用する際は、必ず同席するよう、ロイド様から命じられて居る俺も、その場に居合わせたのだが、オレステスはテイモンに対し、怪我を負わせた上に、罵倒する言葉を放ったのだ。

 講師を引き受けていたのは、年齢を理由に引退した、第一騎士団の元将校なのだが、オレステスの行いは、騎士としてだけでなく、紳士としても恥ずべき行いだ、と震える拳を握りしめながら窘めていた。

 それを遠巻きに見ていた、うちの連中もオレステスに白い眼を向けていたのだが、本人はどこ吹く風で ”弱すぎるテイモンが悪い” と言い放った。

 するとレンはにっこり微笑んで、マークと俺への模範試合を申し込んできたのだ。

 レン曰「先生、オレステス君は本当の強さをご存じない様なので、一度見学した方が良いと思います。他の候補者の皆の後学の為にも如何でしょうか?」だそうだ。

 レンは始終微笑んでいたが、俺とマークは知っている、レンが浮かべるあの微笑みは、怒髪天を衝く程、怒り狂っている証拠だ。

 久しぶりのレンとの手合わせに、俺はウキウキしていたが、マークは諦めの深いため息を吐いていた。

 レンの強さを信じていなかったオレステスは、なにを馬鹿な、と鼻で笑っていたが、レンの手合わせと聞いて、大喜びの騎士達が集まってくると、白く傲慢な頬を強張らせていた。

「ではマークさん。全力でお願いします」

「真剣で宜しいのですか?」

「詰め所に替えの剣。ありますよね?」

「はは・・・お手柔らかにお願いします」

「ごめんなさい、今日は無理ですね」

 そんな会話をしながら、二人は練武場の中央に立った。

「おい。誰かご令息達に防護結界を張れ」

 防護結界と聞いて、候補者達は顔を青ざめさせたが、辺境を守護する家門のシエルとリアンは、好奇心の方が上回った様だった。

 審判役を買って出た講師にも結界を張ってやり、練武場の隅に下がる様に手で合図を送った。

「はじめっ!!」

 講師の掛け声と共にレンはマークへ向かって疾走し、マークが抜き放った剣を、掌底の一撃で砕いてしまった。

「おおーーーっ!!!」

「レン様かっけーーー!!」

 レンの戦い方は相手の攻撃を受け流すのが、基本的なスタイルだ。
 これ程攻撃的な姿は、ロロシュを叩き伏せた時以来かも知れない。

 剣を折られたマークは、後ろに跳躍しながら氷の剣を作り出し、後を追ってくるレンに、斬りかかった。

 しかしその氷の剣も、抜き打ちざまにレンの刀で両断され、マークはレンから距離を取ろうと下がりながら、自身の周囲に浮かせた氷の矢を、次々にレンに打ち込んだ。

 猛スピードで飛来する氷の矢を、レンは愛刀を翻し切り落とす。
 
 それを見たマークが、周囲に浮かぶ氷の層を厚く変えた瞬間、レンが放った劫火がマークを包み込んだ。

 騎士達の歓声と、候補者達の悲鳴が練武場に響き渡った。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...