獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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愛し子と樹海の王

優秀過ぎるのも考えもの

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 side・アレク


 異界には ”八面六臂の働きをする” という言葉があるそうだ。

 八つの顔と六本の腕を持つ異界の神が、人智を超えた力で人々を救済する様子から、出来た言葉なのだそうだが、あらゆる物事に、優れた働きをする人物を表す言葉でもある。

 俺の番の才能は多岐に渡り、そのどれもが一級品で、八面六臂とは、俺の番の為に作られた言葉なのではないか、と思う程だ。

 愛し子として、レンがアウラから頼まれたのは、魔物と魔物の元となる瘴気を浄化し消滅させることだ。

 魔物や瘴気を浄化をすると、膨大な魔力と神聖力を併せ持つレンですら、消耗が著しく、疲弊しきった姿を何度も目にして来た。

 ならば、浄化以外は何もせず、他の貴族の令息や貴族の伴侶達の様に、のんびりまったりと過ごしていても、誰も文句は言わないだろう。

 だがレンは、自分は貧乏性でじっとしていると落ち着かないから、と言い、主に事務方の仕事を度々手伝ってくれている。

 今回の事でもそうだが、レンの仕事の処理能力は、凄まじく早くて正確だ。
 そして手が足りていない所に、何の衒いも無く手を貸しつつ、最大の成果を上げてしまう。

 その事に感心する俺達に、レンは慣れだと笑い、自分の才能をアウラ神の加護によるズルだと言って、異界の知識を活かしているだけで、なんの努力もしていないのだ、と苦笑を浮かべている。

 そして、本当の天才や偉人は、自分の力だけで偉業を為す人の事だと謙遜するのだ。

 だが俺は思う。
 神の眼鏡に適う魂を持ち、異界でそれを育んだ人。

 世界の境界を渡り、見知らぬ世界に招来されて尚、慈愛の心を持ち続け、人々の安寧を願い続けられる人。

 そんな存在が他に居るか?

 レンはズルだというが、異界で培った技術や知識の基本が無ければ、能力のかさ増しも出来ないのだし、レン程、神の加護を与えられるに相応しい人は居ないだろう。

"占領した国の全ての財政を把握するには、少なくて数か月、長ければ何年も掛かるものだ" とギデオン帝の治世の頃、財務を担当していた文官に聞いたことが在る。

 それをレンは、ほんの数日で国庫金の残高と、金の流れの問題点を指摘。

 そして、今後の活動に必要な財を確保し、予想される収益の試算を出した上で、グリーンヒルが手配した文官に、引き継ぎまで終えている。

 そして、王城の表向きな使用人も、必要最低限の人員を確保し、その合間に浄化まで。

 これは、神の加護がどうとか言う話ではないと、俺は思うのだが・・・。

 レンの話を聞いて、他の騎士団の連中は、レンの処理能力の高さにポカンとしているな。

 マークとロロシュが笑いを堪えて居るのは、レンの能力を知っているだけに、他の連中の反応が、面白くて仕方がないのだろう。

 俺の番に賞賛の目が向けられるのは、とても誇らしいが、番にのんびりしていて欲しい俺としては、働き過ぎとしか思えず、複雑な気分だ。

 それなのに・・・・。

「私暇なの。何かやる事ない?」

 まだ働く気か?
 少しくらい、じっとしていても良いのじゃないか?俺と一緒に過ごしても良いのだぞ?

 思わず額に手を当て、見えない天を仰いでしまった。

 すると番は、直ぐに俺の身体の心配をしてくれた。

 どうしたらこの優しい人を、俺だけのものにして置けるのだろうか・・・・。

 本気でどこかに隠してしまいたい。

 ・・・・無理だな。
 そんな事をしたら、怒って口をきいてくれなくなるに決まっている。

 何かないか?
 王城の俺の目の届く範囲で、レンが無理せず楽しく働けて、邪な雄の目がない処。
 
 騎士団の財務は・・・ダメだ仕事が溜まり過ぎていて、レンが無理をする。
 料理が出来る厨房・・・・騎士より近い位置に雄が来るじゃないか!それに、騎士団全員分の料理をしそうだぞ?
それでは体がきつ過ぎる。

 時間通りに起きて、時間通りに帰って来れて・・・邪な雄が居ない・・・。

 働け俺の脳!!
 何か・・・何処かある筈だ。
 考えろ。
 レンが納得出来て、俺が安心できる場所。

 ・・・・あった。
 一か所だけ、レンを厭らしい目で見ない雄の集まりが!

「・・・分かった。では君に頼みたいことが有る」

「なんでもどうぞ?」

 クソッ!!
 なんでこんなに可愛いんだ!
 俺は脳みそフル回転で考えたというのに。
 期待に満ちた目でキラキラと・・・・。

「軍部にいる、子供たちの面倒を見てほしい」

「子供?」

 ん?
 誰を探して・・・・あぁ、エーグルか。
 軍部の子供と聞いて、直ぐに分かったのか。
 今日のレンも、可愛らしくて聡いな。

「あの子供達は、引き取り手を探そうと考えている。だが引き取り先が見つからない場合、騎士団で見習いとして、預かる事になると思う」

「子供の人数は何人?」

「26名。乳幼児8名、10歳以下と10歳以上15歳未満が、それぞれ9名だ」

「赤ちゃんが8人もいるの? 乳母的なお世話する人は?」

「・・・軍部の世話係は追い出した。今はエーグルが手配した7名で、子供の世話をしている。レンには子供の相手の外に、エーグルと手分けして、引き取り手の選定を行って貰いたい」

「里親探しも・・・責任重大ですね」

 ふんす と拳を握る番の、何と愛くるしい事か。
 
「そうだな。引き取り先によっては、簡単な礼儀作法も必要になるだろうから、そちらの指導も頼めるか?」

「勿論です! 早速行ってみたのだけど、エーグルさんを借りてもいいかしら?」

「構わんぞ。エーグル、すまんが一通り案内してやってくれ」

「はっ! 子供たちに過分な機会を与えて頂き、ありがとうございます」

 エーグルを急き立てる様に、ウキウキと部屋を出ていくレンを見送った俺は、ぐったりと背もたれに身を預けた。

「なんつーか、あんな可愛い子が、閣下の番だと聞いたときには、メチャクチャ羨ましかったけど、優秀過ぎるってのも、逆に大変そうだな?」

「セルゲイ。煩い」

「なんだよ。八つ当たりすんなよな」

「お前、明日は我が身だと分かっているか?」

「ヴッ!! それを言われると・・・」とセルゲイは胸を掴んで机に突っ伏した。

「なんだ?ゲオルグ団長は、番が見つかったのか?」

「それは初耳ですね。おめでとうございます。それでお相手は?」

「バカッ!!うるせえな。教えねぇよ!!」

「おやおや」

 モーガンと伯父上は、恥ずかしがるセルゲイが面白いらしく、ニヤニヤしながら揶揄っている。

「しかし、閣下も上手い手を考えましたな。子供相手なら、無駄な心配がいりませんからな」

「なんの事だ? レンは放って置くと倒れるまで働くからな。適当にのんびりできる仕事を頼んだだけだ」

「物は言い様ですな」

 なんだ?
 どいつもこいつも、生温い目で見るなよ。

「ふざけてないで仕事だ。大聖堂の始末と、粛清対象について報告は?」

 はあ~~~。
 レンと一緒なら、なんだかんだで暢気に楽しくして居られるが、俺がやる事は殺伐としたものばかりだ。
 
 いつになったら、レンと二人、楽しい隠居生活が出来るのだろうか。
 自領に引っ込んで、のんびり楽しい新婚生活をやり直して、子供も作って・・・・。

 うん。
 この一件が片付いたら、今度こそ辞表を出すぞ!
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