獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

南へ

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「ノリノリと言うか何と言うか、凄まじいですね」

「うむ」

「怪獣大戦争にしか見えない」

 外殻から飛び降りたクレイオスは、本性の姿に戻りその羽ばたきで魔物の群れをなぎ倒し、ブレス一発で犇めく魔物の約半数を塵に変えてしまった。

 しかし、レンがベヒモスと呼んだ幻獣は、全くの無傷。

 尻尾の先と角をギラギラと光らせ、クレイオス相手に一歩も引かない狂暴性は、見ているだけで背筋が震えて来る。

 クレイオスも、街への影響を考え、威力を抑えているのかも知れないが、歩廊の上から見渡す限りの、視界いっぱいに犇めいていた魔物の半数以上を、たった一度の攻撃で、塵に変えてしまう威力だ。

 このドラゴンが本気を出したら、世界は崩壊するのではないか。

 実際、クレイオスの羽ばたきとブレスの爆風だけで、外郭の壁は揺れ、新たな罅が入る不気味な音が聞こえてくる。

 そして、生き残った魔物達が、クレイオスとベヒモスの戦いから逃れようと、狂ったように壁に攻撃を加えてきているが・・・・・。
 クレイオスとベヒモスの戦いの巻き添えで、次々に魔物が遣られて居る様な・・・。

 クレイオスがわざと狙いを外して、魔物を攻撃しているのか?

 これは大神に対する言い訳・・・か?

 だとしても、壁に向かって来ている魔物の数は相当数いる状態だ。

 生き残りをかけた本能がそうさせているのだろうが、こちらとしても、何時壁が破られるかもしれない状況と言うのは、生きた心地がしないのだ。

「マーク」

「はい、閣下」

「バリケードの準備は出来ているか?」

「確認させます・・・・ですが。ここから見る限り、余り進んでいないようです」

「そうか」

 確認に走らせた部下の報告によると、どの家も家具らしい家具が残っておらず。バリケードを築く為には、家そのものを壊す必要が有りそうだった。

「なんで家具が無いのかな?」

「首都に避難民が押し寄せただろ?」

「うん」

「干ばつで森も枯れ、魔物の所為で、首都の外に薪を取りに行く事も出来ない。煮炊きの為に家具を使ったんだろうな」

「そっか・・・じゃあ。冬が来る前に燃料の確保もしなくちゃいけないのね?」

「そうなるな。今はそれほどでもないが、ここは寒暖の差が激しい土地だとアーロンも言っていたからな。越冬対策が遅れたら、死者が出る事も有るだろうな」

「・・・・やらなきゃいけない事が沢山ありますね」

「そうだな。だがこの状況を乗り切らなければ、冬を迎えられないかもしれん。出来る事、遣らなければならない事から順番にだ」

「アレクの言う通りだと思う。アレクのそういうとこ好きよ」

 そう言うとことはどう云う処だ?

「そうか?俺はレンの全部が好きなんだがな」

「うふふ」

「あ~。閣下。いちゃついてる所悪いんだけどよ。今いいか?」

「あ?なんだロロシュか。戻ったのか?」

「ひっで~なあ。戻っちゃ悪いのかよ」

「悪くはないが、用があるなら。お前も下の魔物を片付けながら話せ」

「下の?」

 歩廊の端に寄ったロロシュは、外郭の下を覗き込み、見なければよかったと言いながら戻って来た。

「住民の避難はおおむね完了。只避難民の数も多くてな。全員は城郭の中に入りきらなかった」

「あぶれた民はどうしている?」

「近場の貴族の屋敷に回す様に手配した」

「分かった。大公子は何か言っていたか?」

「閣下と愛し子様の尽力に感謝する、お二人に縋るしかない身が恥ずかしいってさ」

「ふん」

 あの歳にしてはしっかりしている、と言うべきなんだろうな。
 大公を亡くしたばかりで、いい経験にはなるだろうが、辛い事には変わりはないからな。

「南と東の報告は受けているか?」

「あ~。東はやけに虫が多いって話だ」

「種類は?」

「甲虫と蛾の幼虫が多いようだな。その幼虫が壁でさなぎになったらしい」

「蛾?モサンとか?モサンは大人しいのよね?」

「確かにモサンなら大人しいから問題なかったも知れねぇけど、今回のは毒蛾だ」

「また面倒だな」

「だろ?だから羽化する前にって必死で燃やしてるらしい」

「そんなに凄い蛾なの?」

「鱗粉が厄介なのだ。鱗粉に触れただけで皮膚は爛れ、高熱に苦しめられる」

「茶毒蛾みたい。クオン達がうごうごって言っていたのは、その幼虫って事かしら?」

「多分な。南はどうなんだ?」

「それが不思議な事に静からしい」

「静か?襲ってきていないのか?」

「そうじゃなくて・・・いや、そうなのか?」

「どっちだ?」

「あ~~。南も魔物の数は多い。けどよ。外郭に押し寄せてんのは、キラービーが中心で、獣型の魔物はそれを遠巻きに見てるだけなんだよ」

「なんだそれは。聞いたことが無いぞ?」

「だよな。ショーンとこの連中も戸惑ってるみたいだ」

「それって普通に考えたら、何かを怖がっているか、警戒してるんじゃない?」

 警戒して怖がる?
 ・・・・・!!

「「「あっ!!」」」

 俺とロロシュ、近くで話を聞いていたマークは、そろって声を上げた。

「みんな揃ってどうしたの?」

「レン!サンドワームだ!!」

「サンドワーム?・・・って、ヨーナムさんが言ってた魔物?でもあれってもっとゴトフリー寄りで見た人が居るだけって」

「もしかしたら俺達を追って来たのかも知れん。クオンとノワールも地面がモコモコと言っていた」

「・・・・大変だ」

「サンドワームが居るなら、壁なんて有ってないようなものだ。すでに首都の地下に入り込んでいるかもしれんぞ」

「どうしよう」

「もし首都の下に入り込まれて居れば、人が多く集まっている処に行くはずだ。避難させたのが裏目に出た」

「ここは平屋が多い。上階に逃げるってのも無理だしな」

「兎に角。南の大門へ向かうのが先決だ!」

「そうですね。魔物目当てで、まだ壁を越えていない可能性もありますから」

「ショーン!!」

「・・・はい!!閣下!!」

「俺達は南へ向かう。ここは任せたぞ!!」

「了解!!お任せください!!」

 マークが合図を打ち上げ、俺の直下の部隊が次々に外殻から離脱し、エンラに飛び乗っている。

 俺は最後に一発、残っている魔物に、劫火を放ち。そのまま歩廊の上から飛び降りた。

 勿論大事な番が腕の中に居るから、怖がらせない様に風を纏って、速度は調整済みだ。

「南へ向かう!!」

「「「「おーー!!」」」

 部下達の鬨の声が響き渡る。

 南の大門へ向け、俺達は再び外郭の下を駆け抜けたのだ。
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