獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
562 / 765
千年王国

殿下と閣下

しおりを挟む
 急に不機嫌になったアレクさんに、怪訝な顔をするリンガ殿下。

「許可を頂けませんか?」

「チッ!!」

「え?ちょっと!」

 縋るように見つめて来るリンガ殿下に、舌打ちって・・・。

「じゃ、じゃあ。軽く・・ね?」

「・・・軽くだぞ?」

 なんで不機嫌なの?
 
「あはは~~。そういう事なんでリンガ殿下、軽~くチャチャッと済ませましょう~ねぇ~~」

「え?あぁ、木剣を・・・」

「そんなのいいから、早く初めましょう」

「ですが、危険では」

「私も真剣で構いませんので、ささっお早く」

「でっでは。よろしく頼む」

 拙いわ。
 なんで機嫌が悪くなったのか、今一分からないけど。早く殿下との手合わせを終わらせて、アレクさんの機嫌を取らないと、大変な事になるのだけは分かる。

 夜のお相手が、えげつない事になってしまう。戴冠式を前に、2日も3日も寝込んでられません。

 シッチンさんの合図と同時に、打ち込んで来た殿下のバスターソードを、二合三合と軽く受け流し。ぶっとい刀身を抜丸で絡め取って場外に飛ばした後は、丸太みたいな腕の手首と肘を掴んで、クルンポイッと転がすと、殿下の巨体が、仰向けに地面に倒れ込みました。

「は?はははっ!!いやあ!お強い!!」

 リンガ殿下は立ち上がり握手を求めて来たのですが、その手首をガシッと掴んで止めたのは、アレクさんでした。

「・・・・俺の番だ」

 だから、なんで不機嫌なのよ~~!!

「あっはい。愛し子様、お手合わせありがとうございました」

 丁寧にお辞儀をして去って行く殿下の後姿に、アレクさんはまたの舌打ちを・・・。

 そして振り向いたアレクさんは、ニッコリ微笑んで・・・。

 いや、マジで怖いんですけど。
 顔は笑ってるのに、目が全然笑ってない。
 私が何したって言うの~~?

「魔法有りでどうだ?」

「良いですけど、雷は無しで」

「何故だ?」

「観戦してる方がいらっしゃるから?」

 それに私が結界は得意じゃないって、忘れちゃったの?

 結界が無いと雷撃は防ぐの大変なのよ?
 でもご機嫌取りの為に、出来るだけ話を合わせないと!

「ふむ。では雷撃は抜きだ」

「たっ大変だ!」

 そんな私達の話しを聞いていた、シッチンさんの顔色が見る見る悪くなって行きました。

「ふっ副団長ーーーーっ!!魔法!魔法使うってぇ!!!」

「魔法!?・・・シッチン逃げろ!!」

「ハッ!はいぃーー!!リンガ殿下も離れてぇ!!」

「え?何故だ?」

「いいから!!死にたくないでしょ!?」

「けっ結界っ!!防護結界ッ!!急げ!!最大だっ!!」

 ギイィィーーーン!!

 アレクさんの愛剣と抜丸の刃ぶつかり合い、散った火花の向こうで、大慌ての騎士さん達が結界を張り巡らせています。

 ああぁ~~~。
 みんなごめん。
 でも、私の安眠と、明日の健康の為に、協力して!!

 剣と刀の攻防は、やがて無手と魔法の攻防に代わり、最終的に私がアレクさんに捕まえられて終わりました。

 取り敢えず、アレクさんが満足そうで良かった。機嫌も直ったみたいで一安心。

 結界が解かれると、そこには魔力を使い切って倒れ込んだ騎士さん達と、大喜びのセルゲイとリンガ殿下。腰に手を当てて呆れるマークさんとモーガンさん。
 そして・・・・。

「アーレークーサーンードールーーーッ!!」

 顔を真っ赤にして、ミスリルの扇を振り回すロイド様に、私とアレクさんは、ご招待した王様たちの前で、こっぴどく叱られたのでした。

 煙をあげる、クッチャクチャの練武場を見れば、叱られても仕方ないとは思います。

 でもでも!
 安眠と、自立歩行だって大事です。

 なんて、ロイド様に言ったら、余計に怒られるんだろうなあ。

 しょぼぼん。


 side・アレク


 うむ。
 今日もレンの動きは素晴しいな。
 振り下ろされる剣を、掌底で叩き折るか。

 その前の顎への一撃は、普通の人間じゃ見えなかっただろうな。

 おいおい。
 受け身も取れないのか?
 あれはどこの王子だ?
 弱すぎて話にならんな。

 [あなた、リアンが優しい子で本当に良かったわね。相手がシエルだったら、今頃家畜の餌だったかもしれないわよ?]

「ブハッ! クッククク・・・・」

 確かにシエルは気が強い。
 レンもよく分かってるじゃないか。

 アセンの奴も陰湿な事をする割りに、戦闘はからっきしか。
 エーグルが、こいつらの事を暇人と言って居たが、自堕落な暮らしをしていたんだろう。

 どっからどう見ても、鍛えた体じゃないしな。

 おっ?今のは早い。

 木剣を真っ二つ。
 あれはうちの連中も練習していたが、叩き折れはしても、レンの様にスッパリとは斬れないのだよな。
 俺は一応斬れはするが、力業だからレンの太刀筋と同じではない。
 集中力と瞬発力だと、レンは言っていたから、俺は雑念が多すぎるのだろうな。

「愛し子様は、本当にお強い!」

「まあな」

「最初手合わせに参加すると聞いた時は、どうなる事やらと思ったが、身のこなしといい技量も一級品だ」

 そうだろう、そうだろう。
 俺の番は最高だ。

「しかし、こうも実力差があると、アセン殿が哀れだな」

「そうか?あれでも手加減しているのだが?」

「あれで?そうか手加減しているのか・・・素晴しい」

「手放しで喜んでいる様だが、いいのか?」

「なにがです」

「アセンが気に入って居ただろ?」

「あ~バレてましたか」

「あれのどこが良いんだ?性格最悪だぞ?」

「そうですねぇ。絶対手に入らないものの為に、悪あがきしている処ですかね。健気で可愛らしいじゃないですか」

 健気で可愛い?
 コイツ頭おかしいのか?

「・・・・・好みは人それぞれだからな」

「ハハハッ!俺の個人的な好みは、愛し子様のような方だ」

 なんだと?
 それは俺に対する挑戦か?!

「しかし、タランの後宮に相応しいのは、アセン殿のような身勝手な人間なんですよ」

「そうか」

 これはこれで、腹立たしいものはあるな。

「愛し子様はお優しい方のようだな」

「そうだな。レンは慈愛の人だ」

「うむ。やはりそうか。でなければこんな回りくどいやり方で、帝国と皇帝の婚約者を馬鹿にした奴らに、制裁を加えたりはせんだろうからな」

「分かってたのか?」

「あれだけ悪目立ちしていれば嫌でも分かる。これがもしタランの後宮だったら、今日の立ち合いに呼ばれた連中は、その場で切り殺されていただろう」

「それはそれで、恐ろしいな」

「確かにな。タランの後宮で競い合うのは子供達だけではない。妃たちの争いも相当なものだからな。愛し子様の美貌と、この強さがあれば正妃の座は間違いない。だが、ドロドロの争い事には向いて居られないと思う。だがアセン殿は少し頭は弱いが、陰湿な争いには向いていると思わないか?」

「そこは、理解したくないな」

「はは!!閣下も実に正しいお方のようだ」

 別にお前に褒められても、嬉しくもなんとも無いのだが?
 
「ヒッ!!も・・・もう!勘弁してッ!!」

「おぉ!!この投げ技も美しい」

 当たり前だ。
 うちの騎士達でも敵わない強さだぞ。

「しかし、愛し子様はアセンに何を話して居られるのか」

 そうか。こいつは人族だった。
 聞こえなくて当然か。

 ・・・レンは、じゃいあんと言うものが嫌いらしいが。じゃいあんってなんだ?

「ケッケダモノの番の分際で・・・偉そうにッ!!」

「今なんと?」

「たかが獣の番が何だって言うんだッ!!」

「なんて事を、いくら頭が弱くても、言っていい事かどうかの区別もつかんのか?」

「放って置け」

「閣下いいのか?」

「いい。黙って見て居ろ」

 レンの魔力が溢れて揺れている。
 俺の番はこの手の暴言を酷く嫌う。
 そして俺の為に、いつも怒ってくれるんだ。

「ねえ。天罰って知ってる?」

 ほらな?

 ドッドンッ!!

「おわっ?!なんだ?!」

「レンが魔力でアセンを抑え込んだ。天罰だそうだ」

「おっおお??凄まじいな」

 この程度でか?
 ロロシュの時の半分以下だぞ?

「口の利き方に気を付けないと、このまま潰しちゃうわよ?」

 上から覗き込んだレンの肩先で、いちごがむくむくと大きくなった。

 レンは全く気付いていないようだが、いちごがギザギザの牙を剥き出し、アセンを威嚇している。

「かっ閣下?あれは何です?!」

「あれか?あれはレンの従魔だ」

「従魔?愛し子様は魔物も使役なさるのか?」

「ああ、そうだ」

「すっ素晴しい!本当に素晴らしいな。惚れてしまいそうだ!」

 はぁ??
 何言ってんだコイツ。
 確かにレンは素晴しいが
 惚れそうとか、番の俺に言う事か?

 こいつは危険だ。
 絶対レンに近付けてはならない雄だ。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...