獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

ティエラ・ドラゴネス

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「あの二人。仲良いですよね」

「レンにとって、マークは特別だからな」

「ほんと、閣下が嫉妬しないのって、マークだけだもんな」

「ロロシュ。うるさい」

 コイツ人の事を小馬鹿にして。
 なに肩を竦めて見せてるんだよ。
 本当に、腹の立つ奴だな。

「おや?愛し子様は、騎士殿とダンスか?次は俺もいいかな?」

「大公閣下。この度はおめでとうございます」

 不躾に声を掛けて来たのは、リンガとキリョウだった。

 ただでさえむさ苦しいのに
 筋肉ダルマまで・・・。

「通達通り、レンのダンスの相手は皇家の人間と許された者のみ。お前は駄目だ」

「まあ。致し方ないか。相手は愛し子様だからな」

 そうでなくとも、お前のような危険な雄には近づけんがな!

「アセンはどうしてる?」

「戴冠式にも夜会にも参席できず。泣いて喚いて大騒ぎだ」

「だろうな。一緒に帰国するのか?」

「その積りだ。キリョウ殿もその方が気が楽だろう?」

 話を振られたキリョウは苦笑いだ。

「父が決めた事です」

「父君は、随分あっさり受け入れたな?」

「・・・・我が王家は兄弟が多いので」

「そうか・・・」

 お前は王にはなれない。
 どれだけ優れていてもだ。

 と、以前の俺なら言っていただろう。
 だが、今は状況が変わった。
 世界がそれを認めるには、時間が掛かるがな。

「リンガ殿下も物好きだよなぁ。ありゃ、じゃじゃ馬処の騒ぎじゃないぞ」

「暴れ馬を大人しくさせるのは得意だ」

「へぇ~~?どんな手を使うんだ?」

「簡単だ、閨を共にすればいい」

 そりゃな?
 妃が7人もいればそうなるだろうよ。

「は?」

「え~~と」

「兄弟の前でいう事か?」

 この後、ロロシュがリンガの手練手管を聞き出そうと、必死になって居た事は、マークには秘密だ。

 夜も更け、夜会の盛り上がりも最高潮となった時。

 皇家の席の方が、何やら落ち着きのない雰囲気に包まれた。

 上皇夫夫が席に着き、アーノルドとリアンも呼び戻され、何やらヒソヒソと話している。

「どうしたのかな?私達も行った方がいいかな?」

「さあ。俺達が呼ばれてないから、大したことでは無いのかも知れんぞ?」

 普段の俺ならこの距離でも、彼等の話しが聞こえただろうが、今は夜会の最中で、音楽や人々の話し声が邪魔で、彼等の声を聞き取ることは出来なかった。

 この時、無理にでも話に割って入り、アーノルドとロイド様を止めていたなら・・・。

「神の愛し子!レン・シトウ様!! アレクサンドル・クロムウェル大公閣下!!」

 大音声で呼び出された俺達は、互いの顔を見つめ合い。

 何事だろうかと首を傾げた。

 皇家の席へ向かいながら、俺の心の中は、嫌な予感で一杯になった。一歩足を踏み出すごとに、その予感が確信へと変わって行く。

 自分では気付いていなかったが、この日の俺は、レンとの二度目の婚姻式で舞い上がっていたのかも知れない。

 そうでなければ気付いたはずだ。
 何かある筈だと。
 それが俺にとって面白くない事だと。

 アーノルドのキリョウに対するやけに高圧的で、大袈裟な話し振り。

 クレイオスの意味深な発言と、レンがアウラ神へ伺いを立てた事への答え。

 キリョウが王になれる可能性。

 それが俺にも当てはまる事を。

「お呼びでしょうか」

 精一杯の嫌味を込めた問いかけ程度では、笑顔を張り付けた、ロイド様の顔の薄皮一枚も傷つける事は出来なかった。

「まあまあ。そんなに警戒しなくてもいいでしょ?」

「あの、ロイド様?」

「ふふ。レン様もそんな心配しないで。2人ともこっちへいらっしゃい」

 嘘だ。
 この顔は、絶対俺達に面倒事を押し付ける気だ。

「さあ、アーノルド」

「はい。母上」

 ミスリルの扇で、わざとらしくレンを扇ぐロイド様にアーノルドは一礼し、夜会の会場へと向き直った。

「おい。アーノルド!」

 肩をびくりと震わせて置きながら、頑なに俺の方を振りむこうとしないアーノルド。

 その時アーノルドの、意味深な言葉を思い出した。

 ”あの・・・えっと。うん。大丈夫です。休暇の邪魔はしません。ええ。はしませんから”

 休暇の邪魔はしない?
 なら、休暇が終わった後はどうなんだ?

「私の即位を祝いに、多くの者が集まってくれたことに感謝する。帝国は神の恩寵である愛し子様を迎え、クロムウェル大公は正に戦神と呼ぶに相応しい存在だ。このお二人が番として、婚姻が成った事は神の思し召しと言えよう!」

 クソッ!
 衆人の前で俺を持ち上げ、面倒事を断れなくするつもりだな?

「ねぇ。アレクなんかおかしくない?」

「そうだな。レンあれ持ってるか?」

「あれ・・・・?一応畳んで持ってるけど?」

「直ぐに出せるか?」

「え・・・っと。直ぐには無理かも」

「なんで?」

「なんでって・・・・マントの中に隠してくれる?それなら直ぐ出せる」

 と、レンは豊かな胸元を見下ろした。

「マント?・・・・あ・・・そんなとこに隠してたのか?」

「だって・・・使うとか思ってなかったし」

 そりゃあ、そうだよな。
 俺だって本当に使うとは思ってなかった。
 でも、なんとなく虫が騒いだと言うか・・・。

「あ~そうだよな。俺が悪かった。雲行き次第でマントの中に隠すから、そうしたらすぐに使ってくれ」

「うん。分かった。でも良いの?」

「明日から俺達は休暇だ。あとの事など知らん」

「あ・・・・ははは。了解」

「獣人を弾圧し、帝国へ攻め入ろうとしたゴトフリー王家は、大公の手により粛清され、その国土は帝国の領地となった!また愛し子様の支援を受けた、ウジュカの大公家からは帝国への恭順の意が示された、よって、ゴトフリー及びウジュカの両国を合併し、その国名を、ティエラ・ドラゴネス。首都の名をティグレ・ビアンカと改めるものである!」

「国の名前を変えちゃうの?」

「しっ。続きがあるみたいだぞ」

「しかし恭順に際し、ウジュカ大公家から一つの条件が提示されている。その条件はクロムウェル大公を主となす事である!」

 まさかあの予言を本気にして、サタナスは国を差し出したのか?
 いや。やるかも知れないと思っていたが、これ程早く?

「よって。大公のこれまでの働きに感謝し、その褒賞としてゴトフリー、ウジュカ改め、ティエラ・ドラゴネスをクロムウェル大公の領土とし、アレクサンドル・クロムウェルを樹海の王として封ずるものである!!」

 やられたっ!!
 二人はこれを企んでいたのか!!
 最悪だ!
 俺の楽しい引退生活が!

「獣人を王に?」
「神との契約を破棄される御積りか?!」
「これは神への冒涜だ!」

 王族達からは怒号の荒しだ。
 それも当然だよな。


「静まれっ!!」
「静まれっ!!」
「皇帝陛下のお言葉を最後まで聞くのだ!!」

「これは神の御意思でもある!!クレイオス様のお言葉を聞くがいい!!」

 アーノルドの叫びに呼応し、ダンスホールの中央に光が差した。この光は、クレイオスが空間を開いた時の光りだ。

 そして光の中から現れたクレイオスは、またもドラゴンの姿のままだった。

 再びのドラゴンの出現に、その場にへたり込むもの、逃げ出すものと反応は様々だったが、今回クレイオスは直ぐに人型に姿を変えたため、左程の混乱は起きなかった。と言って良いかも知れない。

『愚かな人の子等よ。先にアウラとの契約を蔑ろにしたのは、其方達であろう。我の神殿を破壊し、アウラの教えを、勝手な都合で捻じ曲げたのは誰ぞ?獣人を差別、弾圧し。獣と蔑んだのは其方達ではないか』

 創生のドラゴンの糾弾に、王達がソワソワと目を逸らした。

『”玉座を人に、獣人は剣と盾に、獣人を庇護し繁栄を助け続けるなら、玉座を与えよう” しかし人族の手により、契約は破られた。今日この時より、人族であることが、王であることの条件ではなくなる。アウラの教えを守る限り、人族であれ獣人族であれ。より優れた者が玉座へ就くことが許される。その事を肝に銘じよ』

 クレイオスめ。
 こうなる事を知って居ながら、シレッと知らん振りを決め込んでいたな!?

『アレクサンドル。新たなる樹海の王よ。我等の愛し子と共に、エストの地を治めるのだ』

 嫌なこった!!

「悪いな!今日から俺達は休暇だ!!」

「兄上?!」

『こら!アレクサンドル!!』

「レン!!」

「はいッ!!」

 マントの中に隠したレンは、胸の下着に隠していたスクロールを取り出した。

「蜜月の邪魔をするな!!」

 そう言い捨て、俺達二人は面倒事しかない皇宮から、自由を求め転移したのだ。

 その後の事?
 そんなの知るか?!
 勝手をしたのは、アーノルド達だ。
 後始末くらい、自分達でやれるだろう?

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