獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

出世と妬み

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 視察も残す処は、1階のみとなった。

 しかし昼を2刻ほども過ぎると、流石に腹が減る。そこで一旦休憩を取る事となった。

「その辺りで食べてもいいけど、暖かい物も欲しいですよね?確認がてら、厨房へ行きませんか?」

「良いのじゃないか?確か厨房の隣りは、使用人用の食堂だった筈だ。床で食うより、椅子に座って食いたいしな」

「スープとお茶の用意もしますね」

「そうだな。ローガンとセルジュは、レンを手伝ってくれ」

「二人ともよろしくね」

 ニッコリとするレンに、騎士達はほわほわした表情になった。

 レン手ずから、スープを用意して貰えるのが嬉しいのだろう。

 まあ。当然だな。
 独り者の騎士なんて、若くて可愛い雄の居るバルや食堂に通い詰めるものだ。

 だがレンは俺の番だ。

 コイツらには、なんの望みも無いのだと思うと、哀れに・・・なんて思えないな。

 せいぜい指を咥えて、見て居るがいい。

 自分でも性格が悪いと分かっては居るが、こればかりは、譲る事などあり得ない。

 全体にほわほわした雰囲気が漂う中、屋敷の侍従二人だけが、不機嫌な顔をしている。

 その二人の視線の先に居るのは、ローガンとセルジュ。

 ふむ。侍従の世界も、出世はやっかみの元のようだ。

「思ったよりきれい」

「軽く拭くだけで良さそうだな」

「手間が省けて良かった」

「レン様、竈に火を起こした跡が有ります」

「4人が利用していたみたいですね」

「そうね。それじゃあ、始めましょうか。セルジュ、お鍋と食器を出してくれる?」

 レンに言われ、アイテムバックから鍋や食器を取り出すセルジュを、侍従の2人が食い入るように見つめている。

 アイテムバックは、その容量にもよるが、小さなものでも家一軒分の値段がする。そんな高価なものを、セルジュが普通に使って居る事に驚いたらしい。

 厨房から、レンたちの和気あいあいとした声が聞こえて来るが、食堂の方は爺様達はあまり使っていなかったらしい。

 入り口付近のテーブルは、最近も使った形跡があるが、他は埃と蜘蛛の巣だらけだ。

 埃はともかく、蜘蛛の巣をなんとかしないと、レンは食事どころでは無いだろう。

 レンが気付く前に、洗浄魔法で、埃と蜘蛛の巣を一掃だ。

「閣下。愛し子様に調理をお任せして、良いのですか?」

「問題ない。レンは料理好きでな。宮で出てくる料理は、ほとんどがレンが教えたレシピで作られているのだ」

 そう教えると、副隊長のオーズは、俺になんとも羨ましそうな視線を向けて来た。

「なんだ?」

「いやぁ。私は番が居りませんので。美しい上に料理上手。しかも、新聞を賑わせるご活躍の愛し子様を、番に迎えられるとは。閣下が羨ましいです」

「だろう?レンのような人が番だなんて、幸せ過ぎて、俺も信じられん時がある」

 オーズは一瞬目を見開き、その後嬉しそうに破顔していた。

 セルジュはアイテムバックにどれだけ詰め込んで来たのか、テーブルの上には所狭しと料理が並べられ、レンの作ったスープが湯気を立てている。

「これ全部、愛し子様が作ったのですか?」

「うん。今日は人数が多くなるって言うから、昨日のうちに仕込んでおいたの。冷めても美味しいから、沢山食べてね。スープのおかわりも有るわよ」

 それを聞いた騎士達は歓声をあげ、並べられた料理に次々と手を伸ばした。

 そして美味い美味いと感動し、湯気を立てるスープを飲んでは、また美味いと感動しと、なんとも忙しい。

「喜んでもらえて良かった」

 膝の上でニコニコしているレンは、俺の差し出した物をもきゅもきゅと食べ、お返しに俺にも「はい。あ~ん」と食べさせてくれた。

 それを見た騎士やウォーカーが、信じられないものを見たと言う様に、口を開け、手にしたパンをボトッとテーブルに落としていたが、気にする事ではないな。

「なあ、閣下と愛し子様は、いつもああなのか?」

「いつもあんな感じですよ?」

「お二人は、大変仲が宜しいので」

「あ~~。いいなあ。羨ましいなぁ。俺の番は、どこに行っちゃったんだ」

「お前、まだ諦めてないのか?」

「当たり前です。私は隊長みたいに枯れていないのですよ。命が潰える時まで、番を探すつもりです」

「だったら、皇都にでも行ってこい。あっちの方が人は多いぞ」

 ウォーカーとオーズが、ローガンとセルジュ相手にひそひそと話している。

 そうかそうか、羨ましいか。
 新婚の番同士が仲良くするのは、当たり前だが、俺は新婚でなくなっても、番への給餌を止める気はないがな?

 オーズはまだ40代。
 頑張って番を見つけろよ。

「この後は、どうしますか?」

「そうだな。こっち側は使用人の作業場や居住スペースが殆どだったと記憶している。目録に乗って居る様な調度品はないが、傷み具合は確認せんとな」

「貯蔵庫も見てみる?」

「水が浸みだして居るかもしれんから、一応確認はしないとな?」

 そんな会話をしながら食事を済ませ、食後の茶をローガンとセルジュが配って歩いた。

「いやあ。最高に美味かったです。このお茶も初めて飲みましたが、すごく美味い」

「このお茶は、ミルクとお水を沸かして、その中に茶葉を入れて煮出してあるんです。そこに蜂蜜をいれてあるから、甘いけど体は、温まると思います」

「なるほど。茶を煮出す方法は初めて知りました。他にも変わった茶の入れ方が有れば、お教授頂きたい」

 オーズとレンが、茶の話しで盛り上がっていたのだが・・・。

「貴方達は侍従でしょう。主への給仕をほったらかして、どこへ行っていたのです」

 声は押えているが、ローガンがヒラリーとユーヴェルを、叱責しているのが聞こえて来た。 

「冷えたから、用足しに行って来ただけだ」

「用足し?二人揃って主人への給仕もせずに?そんなものは先に済ませて置くのが、侍従の常識です」

「そんなこと言ったって、出物腫物って言うだろ?」

「貴方は侍従の仕事を、なんだと思って居るのですか」

「お前は昔から、固過ぎるんだ。正式な晩餐でもあるまいし、用足しぐらいで目くじら立てるなよ」

「呆れた態度ですね」

「ヒラリー、ユーヴェル。お前達の態度は感心出来ないぞ」

「イワンさんまで、なんですか」

「席を離れた事は仕方がないとして、私やローガンに、一言断りを入れるべきだろう」

「なんで、ローガンに言わなきゃいけないんですか」

「ローガンの後任は決まっていない。ローガンは、今も侍従頭のままだからだ」

 レンには話の内容は聞こえていないようだが、3人の険悪な雰囲気に眉を潜めている。

「気にするな。あれはローガン達の領域の話しだ」

「・・・・・そうですね」

 頷いたレンだが、ヒラリー達に向けられるレンの瞳からは、今抱いている感情を読み取ることは出来なかった。

 そして・・・・。

「こっこれは・・・・?」

「何故、こんな所に?」

 ウォーカーとオーズが、目にした物に絶句して居る。

「ローガン、目録を確認してみろ」

「はい」

 昼食後、厨房から一番近い場所にある、貯蔵庫から視察を再開する事にした。

 食料貯蔵庫にはこれといった問題は無かったが、空っぽの貯蔵庫に何故か複数の足跡が残されていた。

 それを訝しく思いながら、隣のワイン庫の扉を開けると、整然と並んでいるべきワイン棚が隅へ追いやられ、空いたスペースに、城の中にあったと思しき、煌びやかな丁度品の数々が、運び込まれているのを発見したのだ。

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