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千年王国
絶品!おろしハンバーグっ!
しおりを挟む当然の事だけれど、そこからの話しは拗れに拗れ。最終的にロロシュさんは ”婚姻式に参加しない。式はエーグル卿と二人だけで挙げろ。婚約は破棄するから、これ以上自分にか構うな” と言いだしてしまい、マークさんは完全に打ちのめされてしまった。
いくら眠気が酷くて、イライラしてたとしてもよ?
無いわ~!
これは無い!
こんなのあんまりよ。
ロロシュさんの種族的なあれやこれやを、理解している積りだったけど、喧嘩したからって、何もそこまで言わなくてもいいんじゃないの?
「婚姻式なんかよりも、もっと大事なこと、やるべき事が有る。式も私も邪魔なだけだ。お前には、自分より大事な番がもう一人居るのだから、自分が居なくてもなんの問題も無いだろうと」
「なんてこと・・・を」
「・・・私達は、ロロシュの特性や複数婚だという事もあって、一般の婚姻と同じとは言えません。ですが、私にとって、二人のどちらが大事だとか、そういう気持ちは全く無かったのです。ですが、ロロシュは違ったのかも」
「複数婚を受け入れて居なかった? 私が見て居た限りだと、ロロシュさんとエーグル卿は、いい関係を結んでいる様に見えたけど」
「私もそう感じていました。しかし、こうなると私が・・・私だけが一方的に、そう思いたかっただけのようです」
俯いた顔は、髪に隠れてよく見えないけれど、膝の上で握ったタオルに、涙がぽたぽたと落ちているのが分かります。
「エーグルさんって狼よね?」
「そう・・・ですが・・・」
「私の居た世界にも、狼はいたの」
「え? あ、はい」
「あちらの世界の狼は、人や家畜を襲う害獣でもあったけれど、とっても愛情深い生き物でもあってね? 群れの仲間が年老いて狩りが出来なくなっても、群れから追い出したりしないで、最後まで面倒を見てあげるの。そして狼は、死ぬ時まで番一筋。只管に番を愛し続ける生き物なのよ?」
「死ぬまでですか?」
「そうなの。番を亡くすと、心を病んでしまう程に、愛情深い生き物なの。群れの一員として認めたら、最後まで面倒を見る。番への深い愛情を持っている。それってエーグル卿と同じじゃない?」
「イスと・・・」
「エーグル卿は複数婚でも、全く気にした様子が無かったわよね? それはロロシュさんを群れの一員だと認めて、マークさんが幸せであることを優先したからじゃない?」
「そうなのでしょうか」
「私はそう思う。だから、今マークさんが考えている様な事は、エーグル卿に限っては無いと思うのよ?」
「・・・・」
マークさんったら、ロロシュさんの所為ですっかり自信を無くしちゃったみたい。
これだから、モラハラエネ夫って最悪なのよ。
「私が言っても、信じられないかもしれないわね。だったらエーグル卿に本心を聞いてみたら?」
「イスにですか? そんな事を聞いても良いのでしょうか?」
「むしろ何故、聞いてはいけないの? 私思うのだけど、三人とも複数婚だという事に気を使い過ぎているのじゃない? もしかして、エーグル卿と複数婚である事について、深く話し合ったことが無いんじゃない?」
「そうですね・・・なんとなく、そう言うものだと」
やっぱりね。
大事な話をしないまま、流されていた感じなのね。
う~~ん。会話が足りていないのね。
「ねぇマークさん。3人は出会ってから、ず~~~っと忙しかったから、落ち着いて深い所まで、話をしたことが無いんじゃない?」
「・・・言われてみれば、そうかもしれません。ロロシュはあんな感じで、喧嘩の方が多かったですし」
「いい機会だから、ロロシュさんの事は一旦脇に置いといて。先ずはエーグル卿と、しっかり向き合ってみたらどうかしら? そうすればエーグル卿が、マークさんとロロシュさんの事を、どういう風に思っているのかも解ると思う。そうしたら、ロロシュさんへの対応の仕方も、変わって来るかもよ?」
「レン様の、仰る通りかもしれません」
ふむ・・・。
まだ釈然としてない感じ?
「ロロシュさんがお父さんに逢った、って話しは聞いてる?」
「ロロシュが父君にですか? いえ。聞いて居りません。・・・・そうですか、お父君と・・・やはり私は、彼から信用されて居なかったのでしょうか」
「そんな事はないと思うわよ? 私もつい最近、アレクから聞いたばかりなの。ロロシュさんはアレクにしか、話してなかったみたいね」
「閣下に・・・そうですか・・・」
「断言はできないけれど、ロロシュさんの言う、やるべき事って、お父さんが関係しているのじゃないかしら?」
「そうなのでしょうか?」
「ん~~断言はできないのよ? でも、他に思い当たる節が無いのも事実だから」
「レン様がそう仰るなら、そうなのかもしれませんね」
なんだか不服そうね。
それもそっか。
旦那になる人が、自分よりウトメを優先したら、面白いくないのは当然よね。
マークさんも落ち着いたようだし、私も聞きたいことは大方聞けました。
ちょっと惜しい様な気もしたけれど、真っ赤に泣き腫らしたマークさんのお顔に、治癒魔法を掛けて、スッキリ美々しいお顔に大変身。
それでも、これまでの心労と旅の疲れがあるだろうからと、ローガンさんに着替えを手伝って貰って、ベットへGOです。
「まだ閣下に、ご挨拶もしていないのに・・・」
「アレクは、そんなこと気にしないわ。ほらほら。風邪ひいちゃうから、ちゃんと手をお布団に入れて」
「ふっふふ・・」
「あれ? 変な事言った?」
「いえ。レン様が母上と同じ事を仰るので、つい」
「高名な乳母だったフランさんと、同じだなんて光栄だわ」
私達は、うふふと笑い合い。マークさんが眠りにつくまで、白銀の髪を撫でながら、小さな声で子守唄を歌い続けたのです。
・・・・・・・・・・・
マークさんの気晴らしも兼ね、今日の私は、料理教室の先生です。
マークさんは、ビーフシチューの作り方を習いたがったけれど、元になるデミグラスソースを作るのは、コスパも悪いし、何よりとんでもなく時間が掛かります。
でも、あったら便利なのよね。
デミグラスソースの瓶詰か、缶詰を売り出したら結構売れるかも。
という事で今回は、おろしハンバーグに挑戦です。
こっちで大根に一番似ているのが、ビッシュと言う名前の瓜なのだけれど、ビッシュは冬瓜をもっとシャキッとさせて、辛みを強くした感じ。生でも煮ても美味しい所が、ほんと大根っぽいのよね。
大公領の特産品なのだけど、ヴィースではあまり人気のないお野菜なんだって。勿体ない話しだけど、その分お安くてコスパは最高。
なので
存分に使わせて頂きます。
「レン。ちょっといいか?」
エーグル卿と一緒に、アレクさんがのっそり厨房に入ってきました。
「あっ! 丁度いい所に! お味見して?」
「む? これは・・・新作か?」
「いつものハンバーグに、ビッシュを使ったソースをかけてみました」
ビッシュと聞いたアレクさんは、がっかりした雰囲気を醸し出し、その様子からビッシュの人気が無さがよく分かりました。
エーグル卿の方は、育った環境が環境だけに、帝国の食べ物はどれも珍しいらしく、初見のおろしハンバーグにも、目を輝かせています。
気乗りしない様子だったアレクさんも、ハンバーグを口にした途端、カッと目を見開き、大き目に作ったハンバーグを、3口で完食してしまいました。
物欲しそうな目でこちらを見て来るアレクさんに、私の分を差し出すと、子供みたいに嬉しそうな顔で、ハンバーグを口に押し込んでいます。
「美味しかった?」
「うむ。ビッシュと聞いてどうしたものかと思ったが、さっぱりしていて美味いなこれ」
そうでしょう、そうでしょう!
なんちゃって大根おろしに、義孝様直伝のお醤油を使っているのです。
不味い訳がない。
よしよし。
「じゃあ、おろしハンバーグは、宮のメニューに採用決定ね」
ニコニコしているアレクさんの隣で、エーグル卿がなんとも言えない微妙な顔をしています。
どうしたのかとお皿を覗いてみると、何とハンバーグが生焼けだったようで、マークさんがしょんぼりしています。
まぁ、なんでも最初から上手にできる人は居ないもの。
何事もトライアンドエラーを繰り返して、成長して行くものよ。
蓋をして5分くらい釜に入れる様に、マークさんに教えてあげると、エプロンに三角巾の美貌の騎士様は、残りのハンバーグを持って、いそいそとオーブンに向かっていきました。
少しは元気になったみたいで、一安心ね。
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