獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

文字の大きさ
617 / 765
千年王国

絶品!おろしハンバーグっ!

しおりを挟む


 当然の事だけれど、そこからの話しは拗れに拗れ。最終的にロロシュさんは ”婚姻式に参加しない。式はエーグル卿と二人だけで挙げろ。婚約は破棄するから、これ以上自分にか構うな” と言いだしてしまい、マークさんは完全に打ちのめされてしまった。

 いくら眠気が酷くて、イライラしてたとしてもよ?

 無いわ~!
 これは無い!
 こんなのあんまりよ。

 ロロシュさんの種族的なあれやこれやを、理解している積りだったけど、喧嘩したからって、何もそこまで言わなくてもいいんじゃないの?

「婚姻式なんかよりも、もっと大事なこと、やるべき事が有る。式も私も邪魔なだけだ。お前には、自分より大事な番がもう一人居るのだから、自分が居なくてもなんの問題も無いだろうと」

「なんてこと・・・を」

「・・・私達は、ロロシュの特性や複数婚だという事もあって、一般の婚姻と同じとは言えません。ですが、私にとって、二人のどちらが大事だとか、そういう気持ちは全く無かったのです。ですが、ロロシュは違ったのかも」

「複数婚を受け入れて居なかった? 私が見て居た限りだと、ロロシュさんとエーグル卿は、いい関係を結んでいる様に見えたけど」

「私もそう感じていました。しかし、こうなると私が・・・私だけが一方的に、そう思いたかっただけのようです」

 俯いた顔は、髪に隠れてよく見えないけれど、膝の上で握ったタオルに、涙がぽたぽたと落ちているのが分かります。

「エーグルさんって狼よね?」

「そう・・・ですが・・・」

「私の居た世界にも、狼はいたの」

「え? あ、はい」

「あちらの世界の狼は、人や家畜を襲う害獣でもあったけれど、とっても愛情深い生き物でもあってね? 群れの仲間が年老いて狩りが出来なくなっても、群れから追い出したりしないで、最後まで面倒を見てあげるの。そして狼は、死ぬ時まで番一筋。只管に番を愛し続ける生き物なのよ?」

「死ぬまでですか?」

「そうなの。番を亡くすと、心を病んでしまう程に、愛情深い生き物なの。群れの一員として認めたら、最後まで面倒を見る。番への深い愛情を持っている。それってエーグル卿と同じじゃない?」

「イスと・・・」

「エーグル卿は複数婚でも、全く気にした様子が無かったわよね? それはロロシュさんを群れの一員だと認めて、マークさんが幸せであることを優先したからじゃない?」

「そうなのでしょうか」

「私はそう思う。だから、今マークさんが考えている様な事は、エーグル卿に限っては無いと思うのよ?」

「・・・・」

 マークさんったら、ロロシュさんの所為ですっかり自信を無くしちゃったみたい。

 これだから、モラハラエネ夫って最悪なのよ。

「私が言っても、信じられないかもしれないわね。だったらエーグル卿に本心を聞いてみたら?」

「イスにですか? そんな事を聞いても良いのでしょうか?」

「むしろ何故、聞いてはいけないの? 私思うのだけど、三人とも複数婚だという事に気を使い過ぎているのじゃない? もしかして、エーグル卿と複数婚である事について、深く話し合ったことが無いんじゃない?」

「そうですね・・・なんとなく、そう言うものだと」

 やっぱりね。
 大事な話をしないまま、流されていた感じなのね。

 う~~ん。会話が足りていないのね。
 
「ねぇマークさん。3人は出会ってから、ず~~~っと忙しかったから、落ち着いて深い所まで、話をしたことが無いんじゃない?」

「・・・言われてみれば、そうかもしれません。ロロシュはあんな感じで、喧嘩の方が多かったですし」

「いい機会だから、ロロシュさんの事は一旦脇に置いといて。先ずはエーグル卿と、しっかり向き合ってみたらどうかしら? そうすればエーグル卿が、マークさんとロロシュさんの事を、どういう風に思っているのかも解ると思う。そうしたら、ロロシュさんへの対応の仕方も、変わって来るかもよ?」

「レン様の、仰る通りかもしれません」

 ふむ・・・。
 まだ釈然としてない感じ?

「ロロシュさんがお父さんに逢った、って話しは聞いてる?」

「ロロシュが父君にですか? いえ。聞いて居りません。・・・・そうですか、お父君と・・・やはり私は、彼から信用されて居なかったのでしょうか」

「そんな事はないと思うわよ? 私もつい最近、アレクから聞いたばかりなの。ロロシュさんはアレクにしか、話してなかったみたいね」

「閣下に・・・そうですか・・・」

「断言はできないけれど、ロロシュさんの言う、やるべき事って、お父さんが関係しているのじゃないかしら?」

「そうなのでしょうか?」

「ん~~断言はできないのよ? でも、他に思い当たる節が無いのも事実だから」

「レン様がそう仰るなら、そうなのかもしれませんね」

 なんだか不服そうね。

 それもそっか。

 旦那になる人が、自分よりウトメを優先したら、面白いくないのは当然よね。

 マークさんも落ち着いたようだし、私も聞きたいことは大方聞けました。

 ちょっと惜しい様な気もしたけれど、真っ赤に泣き腫らしたマークさんのお顔に、治癒魔法を掛けて、スッキリ美々しいお顔に大変身。

 それでも、これまでの心労と旅の疲れがあるだろうからと、ローガンさんに着替えを手伝って貰って、ベットへGOです。

「まだ閣下に、ご挨拶もしていないのに・・・」

「アレクは、そんなこと気にしないわ。ほらほら。風邪ひいちゃうから、ちゃんと手をお布団に入れて」

「ふっふふ・・」

「あれ? 変な事言った?」

「いえ。レン様が母上と同じ事を仰るので、つい」

「高名な乳母だったフランさんと、同じだなんて光栄だわ」

 私達は、うふふと笑い合い。マークさんが眠りにつくまで、白銀の髪を撫でながら、小さな声で子守唄を歌い続けたのです。


 ・・・・・・・・・・・


 マークさんの気晴らしも兼ね、今日の私は、料理教室の先生です。

 マークさんは、ビーフシチューの作り方を習いたがったけれど、元になるデミグラスソースを作るのは、コスパも悪いし、何よりとんでもなく時間が掛かります。

 でも、あったら便利なのよね。

 デミグラスソースの瓶詰か、缶詰を売り出したら結構売れるかも。

 という事で今回は、おろしハンバーグに挑戦です。

 こっちで大根に一番似ているのが、ビッシュと言う名前の瓜なのだけれど、ビッシュは冬瓜をもっとシャキッとさせて、辛みを強くした感じ。生でも煮ても美味しい所が、ほんと大根っぽいのよね。

 大公領の特産品なのだけど、ヴィースではあまり人気のないお野菜なんだって。勿体ない話しだけど、その分お安くてコスパは最高。

 なので
存分に使わせて頂きます。

「レン。ちょっといいか?」

 エーグル卿と一緒に、アレクさんがのっそり厨房に入ってきました。

「あっ! 丁度いい所に! お味見して?」

「む? これは・・・新作か?」

「いつものハンバーグに、ビッシュを使ったソースをかけてみました」

 ビッシュと聞いたアレクさんは、がっかりした雰囲気を醸し出し、その様子からビッシュの人気が無さがよく分かりました。

 エーグル卿の方は、育った環境が環境だけに、帝国の食べ物はどれも珍しいらしく、初見のおろしハンバーグにも、目を輝かせています。

 気乗りしない様子だったアレクさんも、ハンバーグを口にした途端、カッと目を見開き、大き目に作ったハンバーグを、3口で完食してしまいました。

 物欲しそうな目でこちらを見て来るアレクさんに、私の分を差し出すと、子供みたいに嬉しそうな顔で、ハンバーグを口に押し込んでいます。

「美味しかった?」

「うむ。ビッシュと聞いてどうしたものかと思ったが、さっぱりしていて美味いなこれ」

 そうでしょう、そうでしょう!

 なんちゃって大根おろしに、義孝様直伝のお醤油を使っているのです。

 不味い訳がない。
 よしよし。

「じゃあ、おろしハンバーグは、宮のメニューに採用決定ね」

 ニコニコしているアレクさんの隣で、エーグル卿がなんとも言えない微妙な顔をしています。

 どうしたのかとお皿を覗いてみると、何とハンバーグが生焼けだったようで、マークさんがしょんぼりしています。

 まぁ、なんでも最初から上手にできる人は居ないもの。
 何事もトライアンドエラーを繰り返して、成長して行くものよ。

 蓋をして5分くらい釜に入れる様に、マークさんに教えてあげると、エプロンに三角巾の美貌の騎士様は、残りのハンバーグを持って、いそいそとオーブンに向かっていきました。

 少しは元気になったみたいで、一安心ね。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...