獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

久しぶりのお留守番

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「それで? 何か用事があったのでしょ?」

 問いかけるとアレクさんは、言い難そうにと言うか、物凄く嫌そうに眉を顰め、片手でで顔を撫で下ろしました。

「・・・出掛けて来る」

「今から? どのくらい?」

「早ければ一週間。遅くとも二週間以内には戻って来る」

「二週間も?」

 そんなに長い間離れ離れになるのは、ヴィースに来たばかりの頃に、アレクさんがミーネへ討伐に出掛けた時以来。

 どうしよう。
 出掛ける前なのに、既に寂しい。

「連れて行ってくれないの?」

「ゔっ!! エッエーグル・・・やめてもいいか?」

 私を抱き上げてアレクさんは、ちょっと情けない声を出しています。

「・・・閣下、自分も我慢しているのですが?」

「ううむ、だが・・・」

「エーグルさんも一緒なの?」

「うむ」

 これは、マークさんも知らなかったらしく、釜の中を覗いていたマークさんが飛び上がって戻ってきました。

「イス! どういう事? 何も聞いていないですよ?」

 詰め寄られたエーグル卿も、マークさんの勢いに降参のポーズでタジタジです。

「いや。急に決まった事なんだ」

「急に? 一体何の用があるというのですか?」

 自分も連れて行けと言うマークさんに、エーグル卿は困り切った顔をして、アレクさんの方は、苦虫を噛み潰したみたい。

 急に決まった事で、二人が一緒に出掛けるという事は、ロロシュさん絡みね?

 そして私とマークさんを連れて行けないという事は、私達に見せたくない何かがある、と予想しているから?

「スクロールは、使えない場所なの?」

「それがな、俺達もどこに行く事になるか分からんのだ」

 場所を知っているのは、ロロシュさんだけって事なのかな?

「じゃあ。行き帰りの分だけ渡すわね」

「いいのか?」

 出掛けるって言い出したのはアレクさんなのに、なんでショックを受けた顔をしてるのかしら?

「一緒に行きたいけど駄目なんでしょ?」

「それはだな、その・・・」

 そんなに困った顔をするくせに、二人でコソコソしちゃってさ。

 ちょっと意地悪したくなっちゃうわ。

「どこに行っても構いませんよ? 二人で娼館に遊びに行くのでなければね」

「「「娼館っ?!」」」

「だってそうでしょ? 伴侶に行き先も言わずに、2週間も家を空けるなんて、おかしいわよね? 田舎暮らしに飽きちゃった? それとも、飽きたのは私にかしら?」

「イス!! 本気で娼館に行くつもりなのですか?!」

「だッ断じて違う!! 俺が好き好んで、娼館になど行く筈ないだろッ?!」

 ふむ。
 好き好んでね・・・・。
 カマを掛けたつもりだったけど、ビンゴね。

 娼館なんかに隠れて居るから、伯爵達はロロシュさんを、見つけられなかったって事か。

 ロロシュさんは元影だし。

 年齢的にも、馴染みの人が居てもおかしくは無いのよね。確かにマークさんには、聞かせたくない話だけど、私にまで隠すってどういう事?

 疚しい事が無ければ、隠さなくたっていいと思うけど?

「レッレン? 俺を疑ってるのか?!」

 動揺しすぎ。
 隠れて風俗とかキャバクラに通ってたのが、嫁にバレた夫みたいよ?

「さあ、どうでしょうか? イケメンは浮気するものですし」

 わざとらしく溜息を吐いてみたけど。

 あらまあ。

 意地悪過ぎたかしら?
 顔が真っ青になっちゃったわ。

「冗談です。そんなに狼狽えてると、本当に疚しい事をしてるみたいよ?」

「し・・・心臓に悪い。洒落にならないぞ?」

 ぐったりと肩を落としたアレクさんだけど、夫婦の間で隠し事は良くないと思うの。コソコソしてる二人が悪いんだからね?

「そう? 半分は本気だし。隠し事をしてるのは事実でしょ?」

「ッ!!」

「はい、これ」

 懐から懐紙に包んだスクロールを手渡すと、アレクさんはきょとんとした顔になりました。

「・・・これは?」

「一枚目が柘榴宮行き。二枚目がこのお屋敷までのスクロールです」

「・・・なんで。こんな物持ってるんだ?」

「なんでって。何があるか分からないから、常にスクロールを持ってろって、アレクが言ったんじゃない」

「たしかに言ったが・・・何故、宮行きのスクロールまで・・・」

 ”皇都の娼館に、ロロシュさんが転がり込んでるのでしょ?”

 アレクさんは一瞬殴られたみたいにのけ反った後に、私の顔を覗き込んできました。

「な・・・・何故知ってる?」

「女の勘。迎えに行くだけならいいけど、本当に遊んで来たら・・・どうなるか分かってるわよね?」

 真っ青な顔でブンブンと頷くアレクさんに、満面の笑みを向けて、私を抱えた腕から滑り降りました。

「それじゃあ、行ってらっしゃい」

「えっ? このまま行くのか?」

 なにを驚いてるの?
 準備万端整っている様に見えるけど?

「マークさん、フランさんの所にハンバーグ持って行きましょう?」

「えっ? でも」

「いいから、いいから。伴侶に隠し事をする人たちなんて、見送ってあげる事ないわ」

「あ・・・はあ」

「セルジュ、釜からハンバーグ出して。私が作った残りも持って来てね」

「畏まりました」

「じゃあね、アレク。お土産は、ダンダンオレンジをよろしくね?」

「おい! レン! ちょっと待て!」

「マーク?!」

 騒ぐ二人に、一度振り返ってバイバイと手を振り、私はマークさんと腕を組んで厨房から出て行きました。

「閣下にあんな態度をとっても。宜しいのですか?」

「ん~~? 宜しくはないけど、物わかりの良い振りも疲れちゃうから」

「なんとなく分かる気がします」

「まあ私もね。アレクがああいう人だって分かってて、甘えている部分は大きいんだけど。でもね、マークさんも分かってると思うけど、二人が揃って出掛けるのは、ロロシュさん絡みな訳でしょ? だったら、全てじゃなくてもいいから、概要だけでも話してくれるべきだと思うのよ?」

「ですが、私達に聞かせたくない事なのかもしれないですよね?」

「かも知れないじゃなくて、そうなのよ?私達も馬鹿じゃないんだから、そのくらいの事は察することは出来る。だからこそ二人は私達に話すべきだったの。彼等にとっては思いやりのつもりだろうけど。彼等は私達から知る権利を奪ったの。話を聞いてどう行動するべきか、考える機会もね」

「レン様は、怒ってらっしゃるのですか?」

 へにょッと眉を下げるマークさんは、実年齢より幼く見えて、ちょっと可愛い。

「彼等の気持ちも分かるから、怒ってはいないけど、残念ではあるわね」

「残念?」

「夫婦は対等でなければならない。と私は考えているの。だから、二人が何をしに行くのかを話したうえで、私達に残って欲しいと言うなら、私も我を通して、あんな嫌味を言ったりはしなかったわよ? 」

「確かにそうですね」

 と呟いたマークさんは、まだ何か言いたそうにしていたけれど、伯爵達のお部屋の前に到着し、この話はここで終わり。

 伯爵と伴侶のフランさんに、アレクとエーグル卿がロロシュさんのもとに向かったようだ、と伝えると、お二人はホッと胸を撫で下ろして居ました。

 そして息子の初めての料理には、驚きつつもそれはそれは嬉しそうで、仲の良い親子っていいな、って、羨ましくなったのです。

 その日から私とマークさんは、番に置いて行かれた者同士、朝から晩まで遊びまくりました。

 料理にスケート、スケートはアレクさんのマーキングが無いお陰で、シッチンさんやピヨちゃんズにも、教えることが出来て、皆でワイワイと楽しむことが出来ました。

 そして、私が魔道具を作っている間は、マークさんは読書。

 マークさんが、シッチンさん達と鍛錬している間。私はセルジュとローガンさんに、体術の手解きをして居ました。

 そして、ベイさんと一緒にみんなで、お城まで出掛けて鏡の間の天井画を眺めたり、一度はヤノスさんも連れて、お城の温室を散策したりもしました。でもお城観光のメインはやっぱり図書館です。

 元々活字中毒だった私は、何万冊もの本に囲まれた図書館は、まるで夢の国。

 お城の修繕費の二割を支払うのは、中々痛い出費ですが、この蔵書を手に入れられるのなら、お安い買い物だとも思います。

 ベイさんにも、ゴトフリー・・・えーとなんちゃらドラゴネスに、一緒に行って蔵書の管理をして欲しいと頼みました。

 最初は渋っていたベイさんですが、ヤノスさんとリヒャルトさんも、一緒に王城で暮らせる様にするからと、お願いすると、そういう事ならと快諾してくれました。

 ゴトフリーの王城は無駄にお部屋が多いから、なんの問題もないし、王城には医局もあるから、ヤノスさんとリヒャルトさんのケアも万全です。

 そんなこんなで、番の居ない寂しさを抱えながらの楽しい日々も、二週間を迎えようとした頃、アレクさんとエーグル卿が、屋敷の玄関ホールへスクロールを使って戻ってきました。

 二人は泥と汗と返り血でドロドロ状態。

それなのにアレクさんは、ダンダンオレンジの入った袋を両手で抱え、エーグル卿は、同じくドロドロ、ボロボロのロロシュさんを小脇に抱えていたのです。

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