獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

隠密行動

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 side・アレク


「おい。本当にここで最後なんだろうな」

「ここで最後だ間違いない」

 そう言って、ここで五カ所目だぞ?
 まあ、裏の競売所に関わる事だ。

 潜伏先含め、ダミーもあれば開催場所が流動的に変わる事も有る。

 それにロロシュが追っていた組織は、大公領で好き勝手をしていた連中とも繋がりがあり、ゴトフリーの人身売買にも関わっていた、規模の大きな物だった。

 本来俺の裁可無く暗部を私的に動員していたことは、騎士団に所属するものとして、処罰対象になる。

 やって居る事は帝国の利益に繋がる行為だが、メリオネス家に敵対する、政治好きな連中に知られれば、反逆罪を問われかねない危険な行為であることに違いは無い。

 俺がロロシュに手を貸す事にしたのは、マーク達の憂いを払う為でもあるが、最終的に俺が関わる事で、狡賢く小賢しい貴族達に、付け入る隙を与えない為でもあった。

 ロロシュは陰としては優秀だが、政治的な配慮はかなり足りない。いや、そもそも配慮などする気が無いのだと思う。

 陰として生きて行くならともかく、侯爵の後継としては不十分だ。

 ロロシュの育ての親にあたる、影の頭目の教育の賜物か、本人の気質の所為なのか。

 その両方のような気もする。

 ロロシュが引き起こした騒動について、以前サントスと名乗っていた、影の頭目と繋ぎを付けたのだが、今はトバルカインと名乗っている様だ。

 そのトバルカインの本名を、俺が知ることは無いのだと思う。

 そんなトバルカインの薫陶よろしく成長したロロシュが、表の世界で生きていく事や、一般的な常識に沿って生きる事は、難しい事なのだろうか。
 
 だとしても、何が悲しくて新婚の蜜月の最中に、コソコソと影に隠れ、裏の連中の掃討をせねばならんのか。

 本来この様な捕物は、第一の管轄なのだ。

 しかし母上は仕事をバルドに丸投げして、親父殿にべったりで、職務を果たしてこなかった。

 指示を出すべき騎士団のトップが無関心だったのだ。第一の連中を役立たずだ、と責めるのは酷だろう。

 親の不始末を子が補う。

 本末転倒な気もするが、誰かが責任を負わねばならんのなら、それは俺であるべきだとも思う。

 そうは言っても、蜜月の最中に2週間近くもの間、番と離れ離れになるとは・・・。

 レンには遅くとも2週間、と言いはした。

 それは、ロロシュの予想をそのまま伝えただけで、個人的には遅くとも4.5日、ポータルでも移動も含めれば、1週間で済むのでは、と期待していた。

 しかし蓋を開ければ、ロロシュの予想が大当たりだった。

 しかも、人身売買に手を染める様な連中の遣る事だ。

 俺達が踏み込んだ奴らの拠点は、目を覆いたくなるような惨状と、人の世の悪を全て詰め込んだ坩堝のようだった。

 レンの不興を買い、嫌味まで言われてしまったが、ロロシュうの言う通り、あの人を連れて来なくて本当に良かった。

 それにマークもだ。

 レンは聡く、世の中に蔓延る悪がある事も理解している。だがレンは神に選ばれた慈愛の人だ。俺達が今、目にしている陰惨な状況に、あの人の暖かく柔らかい心が傷つくことが有ってはいけない。

 それにマークは騎士として、正道を生きて来た雄だ。

 あの外見の所為で、子供の頃から苦労はして来たし、貴族特有の陰湿なあれこれにも慣れて居はる。

 レンもマークも、物語に出て来るような、この世の穢れを全く知らない、清らかな聖人とその聖騎士ではない。故に、その全てが純白ではないだろう。

 それでもあの二人は、光りの中にいるべき人だ、と俺は思う。

 それはロロシュとエーグルも、同じ思いなのではないだろうか。

 レンとマークが光りの人ならば、俺とロロシュ、そしてエーグルは、眼前に広がる人の世の悪を煮詰めた暗黒と、対峙するに相応しい人間だろう。

 ロロシュは陰として、ウィリアムの為、人を陥れ、害する事を躊躇わないよう育てられて来た。エーグルは王の奴隷として数多くの悲惨な物事を目にし、自身も同じ目に遭って来た。

 そして俺の手は、肉親の血に塗れているのだからな。

 俺の前で命乞いをしている奴は、金と欲望の為に数多の命を弄び、大人と言わず子供にまで触手を伸ばし、虐げ蹂躙してきた雄だ。

 こいつ等はクズだ。
 いや、クズ以下の下等生物に違いない。

 だから俺は、こいつ等を屠る事に罪悪感など感じない。

 ただ、こいつ等の血で汚れた手で、あの人に触れる事に罪悪感を感じるだけだ。

「これで終いか?」

「そうだな。後は暗部の連中に始末をさせるだけだ」

「で? お前の目的は達成できたのか?」

「まあ、概ねな」

「概ねか」

「時間が立ち過ぎて、拐われた奴等がここに残ってる訳ねぇしな。時間を掛けて探していくしかねぇんだわ」

「・・・だろうな」

「だけどよ。こいつ等を潰しときゃあ、今までみたいな被害に遭う奴らも、激減するはずだろ? オレは子供に手を出す奴らは、好きにはなれねぇからな」

 欠伸をしながらボリボリと頭を掻いて見せるのは、ロロシュのポーズなのだろうか。

 今のロロシュの言動をレンが見たら、礼儀が成っていないと雷撃を飛ばしそうだな。

「閣下。押収品の中に大公領から盗まれた物もあるようです」

 オークションに出される物品を、確認していたエーグルが声を掛けて来た。

「それと地下に何かあるようです。見に行かれますか?」

「何かとは何か。中途半端な報告はするな」

「あ・・・申し訳ありません。地下に結界が張られ、中になにか若しくは誰か、がいるようだとの報告があり、現在結界を破っている最中です」

「蓋を開けてみなければ分からんか。気は進まんが、最後まで責任は取るべきだろうな」

 そうして、俺達3人は地下へと降りて行った。

 地下ではエーグルのいった通り、ロロシュの部下が3人がかりで結界を破ろうとしていたが、巧く行っていない様だった。

「どうだ?」

「芳しくないです。こんな癖の強い魔法陣は初めてです」

 どれどれと、魔法陣を覗き込んだロロシュも、眉を顰めガシガシと頭を掻いた。

「こりゃあ、野良の仕業だな」

 ここで言う野良とは、様々な理由から正規の教育を受けられなかった魔法師が、師匠となる者から、独自の知識を引き継いで来た者達の事を指している。

 正規の教育を受けていない彼等は、自分達に合った形の魔法陣を作り出し、自らの能力を高める事に余念がないのだ。

「・・・何処で野良と見分けるんだ? 邪法とは違うのか?」

「魔法陣の図式と、刻まれた呪文だ。邪法は魔族の文字や古代語が使われてっからな。あれはあれで、結構な知識が無いと使えねぇんだよ」

「だからシッチンは、魔法局に缶詰め状態で仕込まれていたんだな?」

「魔物が使う罠や仕掛けには、何故か邪法が使われる事が多い。その探知や解術にはセンスと知識は必要だ。シッチンはセンスはピカ一。けど圧倒的に知識が足りねぇ。魔法局の奴らは、魔力値はそこそこだが。研究に人生をかけてる変人ばっかだから、知識を身に着けるには打って付けなんだよ」

「ふーーん。ロロシュもそうやって知識を身に着けたのか?」

「うんにゃ。オレは魔法局の魔法師よりも、もっと変人に教えを受けた」

 影の頭目は、変人の上を行くのか。

「それで、どうやって開く?」

「そうだなぁ。下手に弄ると罠が発動する仕掛けになってるみたいだ。地道に解術して行くしかねぇだろうな」

「地道とはどのくらいだ?」

「さあな。30ミン後か1年後かわからねぇよ」

 1年後だと?
 そんな悠長に待って居られるか?!

「要は、罠ごと粉砕してしまえば良いだけだろう?」

「はあ? 何言ってんだあんた。どんな罠があるかも解ってないのに・・・って?!」


ロロシュを無視し、暗部の3人を押し除けて
結界に触れ、一気に魔力を流し込むと、結界は粉々に砕け散った。
 
 それと同時に起こった爆発は、仕掛けていた罠が機能不全になったからだろう。

 
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