獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

祝いの品と商売と

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 馬の習性に頭を抱えたレンだったが、話題を変えると次第に元気を取り戻して行った。

 遅ればせながらとマーク達への祝いの品を渡すと、その積み上げられた量の多さに、2人は目を丸くしていた。

「二人の趣味とか、自分達で用意したい物とかあると思うのよ? だけど嬉しくなっちゃって、つい」


 つい。と言える量ではないのだが。

 普段物を欲しがらないレンが、楽しそうに買い物をしているのを見たら、財布の紐も緩むと言うものだろ?

「邪魔だったら捨ててくれても良いのよ?」

「捨てるなんてとんでもない?! 大事に使わせて頂きます!

「ちびっ子、ありがとな」 

 なんだよ、俺も一緒に選んだのだぞ?
 俺には一言も礼は無いのか?

 まあ、いいけどな。

「ところでレン様。この可愛らしいおもちゃは、どうやって使うのですか?」

「これ? ベッドメリーって言ってベビーベットに付ける物なの。お店に無かったから私が作ったのだけど、こっちには無いの?」

「はい。見たことが有りません」

「そうなんだ。これは知育玩具でもあるのだけど、ベッドの上に吊るすとゆらゆらするでしょ?それで赤ちゃんが飽きない様にするの。お座りが出来るようになって一人遊びをし始めたら、この飾りを外して、遊ばせても良いのよ」

「なるほど、長く使える玩具なのですね?」

「うん。赤ちゃんが間違って飲み込まないように、パーツは大きめに作ったし。材料はシロップが採れるミープの木を使っているから、安全性も問題ないと思うのだけど」

「そこまでご配慮いただいたなんて、レン様、ありがとうございます」

 マークは感動している様だが、このベッドメリーの機能は、これで終わりではないのだ。

「それとね。上の輪っかに魔石が三つ着いてるでしょ?」

「ほんとだ、何に使うのですか?」

「えっとね。赤い魔石にちょびっと魔力を流すと・・・」

「あっ! 回ってます!」

「それで、青い魔石は・・・」

「光った! ロロシュ光りましたよ?!」

「うん。いい塩梅に光ってんな」

「夜中のおむつ替えの時に便利かなって。最後の紫の魔石は・・・」

「これは・・・子守唄ですか?」

「そう。魔石は全部同時に使うことが出来るから、ぐずった時とかに使ってね。それと、もう一度魔力を流すと止めることが出来るけど。ほったらかしでも15ミンで自動的に止まる様にしておいたから」

「画期的・・・素晴しいです!! ねぇロロシュ! こんなの見たことありますか?!」

「いや、ねぇな。流石はちびっ子。これ異界の玩具なんだろ?」

「うん。割と定番の玩具ね」

「やっぱ異界ってすげえな。赤ん坊の玩具なんて、ガラガラと積み木くらいだと思ってたわ」

「そうなの? じゃあ、向こうの知育玩具とか売れるかな?」

「その ”ちいく” ってのがピンとこねぇけど、このべびーめりー? てのだけでもすげぇと思うから、他のも売れんじゃなぇか? 愛し子様ご推奨とか言ったら、バカ売れ確実だろ」

「アレクもそう思う?」

「うむ。良いと思うぞ?」

「そっか・・・じゃあ、帰ったらディータと相談してみる」

 これでまた、レンの私財が増えるな。

 ウジュカへの支援で、大分目減りしていたようだが、これであっという間に元通り。いやそれ以上に増えるのは確定だ。

 しかし、折角増やした私財も、レンはまた、誰かの為に使ってしまうのだろう。

 別に食うのに困っている訳では無いから文句はない。それに番の身のまわりの物を揃えてやるのは、無上の喜びだ。

 それでも、自分で稼いだ金なのだから、たまには自分の為に使えばいいのに。と思ってしまう。

 暫くの間、レンの言う ”知育玩具” と言う玩具の話しで盛り上がったが、唐突にロロシュがウトウトし始めた。

 どうやら、腹の子に魔力を吸い取られたようだ。これ以上邪魔をするのは、ロロシュの負担が大きいだろうと、俺とレンは暇を告げた。

 帰り際、別れを惜しむマークに、明日も何か精がつく食べ物を持ってくる。とレンは約束していた。

「料理ばかりしていていいのか?」

「なんで?」

「いや、折角マリカムに来たのだから、観光とか買い物とか」

「そういうのは後でも出来ますよ? ロロシュさんと赤ちゃんは、2.3日もすれば落ち着くみたいだし。それまでは二人が魔力切れで倒れないように、いっぱい食べさせてあげなくちゃ」

「まあ、そうなんだが・・・」

「お買い物したいなら、今から食材を買いに行かない? 珍しいものがあるかも知れないし、アレクにも美味しいご飯を作ってあげる」

「うむ。レンがそう言うなら市場に行ってみるか?」

 そして足を運んだ市場で、ワイバーンとシーサーペントと言う、超レアな肉を見つけたレンは、本体の姿を思い浮かべ、悩んだ末に店主に調理法をあれこれ聞きながら、レア肉を購入していた。

 その他にも、野菜や果物を大量に買い付け、東方の干した海藻を見つけた時には大喜びで、店にある分を買い占めていた。

「こんな、板切れみたいなの、どうやって食うんだ?」

「なんか、こっちの人は水で戻してサラダにして食べてるみたいなんだけど、私はこれでお出汁を取ろうと思って」

「だし? 卵焼きの? あれは美味かったな」

「ふふ。他にも使い道は沢山あるのですよ。まあ、任せてくれたまえ」

 自慢げに胸を張る番。
 はあーー!
 可愛い!!

 レンの作る料理はどれも美味いが。
 俺は料理より、番本人を美味しく頂きたい。

 真昼間から、こんな不埒な事を考えている俺は、馬のラッセルと大して違わない気がするな。
 
 これも一重に、番が可愛いからに他ならない。

 俺達の蜜月はまだ終わっていない。
 それなのに一般人に気を使い、マーキングも出来ないでいるのだ。

 そろそろ人気のない場所で、思う存分マーキングしたいのだが?

 そんな事を言ったら、レンに呆れられてしまうかも知れない。

 営みがない訳ではないが、マーキング無しだと、そろそろ俺も限界が近い。

 タランのあの入り江に、レンを誘ってみようか?

 だが、思い出の場所と言っても、毎回同じ場所と言うのは如何なものだろうか?

 それに、マイオールの伯爵領も見に行かねばならんし・・・。

 休暇を得たからと言って、なんでも思い通りになるものでは無い、と思い知らされる、今日この頃ってやつだ。

「閣下」

「なんだ?」

「2人は一体何の話をしているのでしょうか?」

「あぁ、分からんか? あれは新しい商品の開発と、売り出し方法を相談しているのだ」

「あんなにガッツリ料理しながらですか?」

 市場での買い物を終え伯爵邸の離れに戻ると、レンは直ぐに厨房に入った。

 そこへディータが顔を出し、後ろにくっ付いて来たラッセルも厨房へ居座っている。

 かくいう俺は、味見役と言う大事な役目を帯びて、厨房の片隅で報告書や手紙に目を通している処だ。

「うむ、椅子に座って書類を眺めながらより、ああやって手を動かしながらの方が、2人ともいいアイデアが浮かぶそうだ。だが魔道具を作りながらだと、レンが集中しすぎて会話にならんから、料理程度が丁度良いのだそうだ」

「なるほど?」

「それにディータもレンから料理を教われて、一挙両得だと言っていたな。あの2人とテイモンが商売の話しを始めたら、間に入ることは出来ん。お前も早く慣れろよ?」

「テイモンとは、グレコ伯爵の御子息でしたか? 王配候補になった」

「あぁ。王配候補だった4人とレンは仲が良くてな。特にディータとテイモンとは気が合って、一緒に商会を立ち上げたのだ。レンは魔道具などの製作を担当し、テイモンは絵画や執筆などの芸術が専門だ。ディータとレンが帳簿その他の実務を見て居るが、販売に関してはディータが中心だな」

「そうですか・・・テイモン・グレコとも仲が良いのですか」

「おい、言っておくがテイモンとディータは、友人としてビジネスパートナーとして仲が良いだけだ。変な勘繰りで3人の邪魔はするな」

「う・・・了解しました」

「それよりお前。ゼクトバに戻らなくて良いのか?」

「そこは問題ありません。帰ってもどうせ暇ですし。休暇も消化できていなかったので、半年ほど休むことにしました」

「あ? 半年?」

「いけませんか?」

「いや。逆に半年で足りるのかと思ってな」

「・・・精進いたします」

 休むのは良いが、ラッセルは伯爵邸に居座るつもりなのだろうか。

「そんな目で見ないで下さい。今手ごろな家を探している処です。いい感じの家が見つかったら、そこに移りますよ」

「別に何も言ってないだろ?」

「目が言ってました」

 ふん。
 可愛くない奴。
 
 しかし、別に居を構えるのは良いが、今の様に四六時中後を付いて回れなくなっても、我慢できるのか?

 お前、馬だろ?

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