獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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千年王国

見栄っ張りな閣下

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 マークとロロシュに祝いの品を渡してから4日目。

 腹の子との魔力の奪い合いが落ち着いたロロシュは、妊夫特有の体のだるさが残ったものの、どうにか日常生活を送れるまでに回復していた。

 これにより、過剰な魔力の譲渡から解放されたマークも、幾分顔の色艶も良くなった様子だった。

「二人とも、元気になってよかった」

「これも全て、レン様のお陰です」

「そんな、私は何もしてないよ?」

「毎日たくさんの料理を運んでくださったじゃありませんか。レン様の作って下さった料理のお陰で、私達も力を蓄える事が出来、親子共々苦しい状況を乗り越える事が出来たのです」

「なんたって、ちびっ子の飯は美味いからな。ここの飯も美味い方だが、ちびっ子の飯と比べると、やっぱ雑つーか、物足りねぇ感じなんだわ」

「そう言ってくれると作った甲斐があるわね。でもまだダルさは有るんでしょ?」

「そりゃぁ、腹で子の核を育ててんだ。仕方ねぇだろ?」

「そうねぇ。向こうでも妊娠すると、やけに眠くなるって聞いたことが有るし、仕方ないのかもね」

「しかしなんだ。いくらダルくても、核が育ってる証拠だからな。4カ月くらい大した事でもねぇよ」

 ほう?
 ロロシュにしては、まともな発言だ。
 親になるという事は、色々と変化が起きるものなのだな。

「4カ月かぁ・・・」

「待ち遠しいか?」

「うん。私は赤ちゃんが繭になるって言うのが、ちょっと想像できないのだけど。クオンが卵だった時みたいなのかな?」

「少し違う気がするが?」

「そう? じゃあやっぱり、よく分からないな」

「あっちの出産と、そんなに違うのか?」

「うん。向こうではお腹のなかで赤ちゃんそのものを育てて、10カ月くらいで赤ちゃんを産むのよ」

「え゙っ?! 腹の中で人の形で大きくなるのか?」

「そうだけど? 大体3キロ・・・3ライくらいの大きさまで、お腹の中で育てて出産する感じ」

「さっ3ライ?! でかすぎねぇか?」

「普通だと思うけど? でも昔から出産は命がけだし、物凄く痛いんだって」

「どっから出すのか知らねぇけどよ。そんなデカいもの産むんじゃ、痛ぇだろうし命がけにもなるわな」

「向こうの男の人は出産は出来ないから、痛さを伝える時に、鼻の穴からスイカ・・・ウォーリンを捻り出すみたいな痛さって、表現したりするのよ?」

「鼻からウォーリン?!」

 それは初耳だ。
 3ライもの大きさだと、確かにウォーリンと同じくらいの大きさだろうが、あれは一抱えもあるのだ。

 それを鼻から?
 激痛では済まんだろう?
 やはり異界の出産は恐ろしいな。

「レン様は、大丈夫なのですか?」

「なにが?」

「いえ。その・・・」

 良い淀むマークに、レンは何かを察した様子で笑い出した。

「あはは! 大丈夫よ。アウラ様がヴィース仕様に体を作り替えてくれてるから、ロロシュさんと同じになると思うわよ?」

「なら良いけどよ。しっかし3ライねぇ」

 ロロシュはレンの腹をまじまじと見つめている。

 その不躾な視線にイラっとした。

「それより、教えて欲しいのだけど。向こうではお腹の中で赤ちゃんが育つでしょ? そうすると胎動って言って、妊娠後期になると、お腹の中で赤ちゃんが動くのが分かるようになるのだけど、核だけだとそういうのは無いの?」

「腹の中で動くだぁ~~??? キッショ! なんだそれ、おっかねぇ?!」

 さも恐ろし気に、両腕で自分の体を抱いて慄いて見せるロロシュだが、そういうのは、レンがやるから可愛らしいのであって、草臥れたオッサンがやっても腹が立つだけだ。

「キッショって何よ!! ほんっっと! 失礼ねっ!!」

 いいぞ!
 ロロシュは大分調子に乗っているからな。

 もっと怒ってやれ。

「レン様落ち着いて。ロロシュも口の利き方に気を付けないと、閣下に窓から放り出されますよ」

 その通り。
 腹に子がいなければ、とっくに放り出している。

「う・・・悪かったよ。閣下もそんな怖い顔すんなよ」

「ふん」

「もう! ロロシュさんになんて、聞かなきゃよかった!」

 まあまあ、と執り成すマークも苦笑いだ。

ロロシュの言い草には腹が立つが、こういう気の置けない話ができるのも、ロロシュならではなのだよな。

「まだ妊娠初期ですし、ロロシュも変化は感じにくいと思います。母の話しだと、核の状態でも子供は寝たり起きたりしているみたいで、起きている時は、魔力の揺らぎが活発になるそうですよ?」

「へぇ~~。そうなんだぁ。じゃあ、繭の中では動いたりする?」

「確かマシューの時は、繭の中でぐるぐる動き回って居ましたね。ただ体が大きく育って繭から出て来る直前には、じっとしていることが多かったように思います」

「そこは、向こうの赤ちゃんと変わらないのね」

 納得した様子のレンは、ロロシュに対する憤りはどこへ行ったのか、早く二人の子供に会いたいと、ニコニコ顔だった。

 それから一週間ほどで、治癒師と産爺から旅の許しが出た二人は、皇都へと帰って行った。

 旅程は短い方が良いのだろうが、ポータルを利用する事で、腹の子へ悪影響が出ないようにと考えた2人は、物見遊山方々、ゆっくりと皇都へ戻るのだそうだ。

 そんな二人にレンは、日持ちのする焼き菓子を山ほど持たせ、遠ざかる馬車に千切れんばかりに手を振り、送り出したのだ。

「マークさん大丈夫かしら」

「ん? 親バカ全開で幸せそうに見えたが、何かあったのか?」

「何も無かったよ?」

「んん? ならいいじゃないか」

 ロロシュと揉める事も無く、二人仲良く子を育てているのなら、いい事だと思うが?

「何も無さすぎだと思うの。、ロロシュさん相手によ? マークさんが我慢しているのじゃ無きゃいいけど」

「我慢しているようには見えなかったぞ?」

「・・・・」

 何故そんなジトッとした目で見て来るのだ?

 俺は何か間違えたのか?

「アレクって、偶にほんと~~に、鈍チンになることが有るのよね」

 にぶチン?
 随分な言われようだな?

「俺の姫は、何がお気に召さなかったのかな?」

「お気に召さなかった訳じゃないけど、ロロシュさんは子供が出来たら、マークさんの元を離れて、影に潜っちゃうのよ? 新婚旅行の最中だったのに、こんなに早く子供が出来ちゃったら、別れの日が直ぐに来ちゃうじゃない」

「言われてみれば」

「子供が出来た喜びと、番と離れ離れになってしまう事の間で。マークさんは複雑な気持ちを抱えているはずよね?」

「・・・うむ」

「でも、私達の前でマークさんは、そんな素振りすら見せなかった。それって、かなり無理していると思わない?」

 無理は・・・しているのだろう。
 だが、俺達が出来る事は多くない。

「薄情なようだが、マークが選んだ事だ。そして何か問題が起こっても、ロロシュとエーグルの3人で解決しなければならん」

「でも・・・」

「あの3人は家族になるのだ。互いを思いやり、子供を守り育てる。その過程で様々な困難があるかも知れんが、それは家族が手を取り合い、乗り越えていくべきものだ。そして、あの3人は困難と向き合う事で、家族としての絆が深まっていくのではないか、と俺は思う」

「ロロシュさんでも?」

「ロロシュは一般的な親にも伴侶にもなれんが、エーグルが上手く補っていくと思うぞ? それに、助けるな、とは言っていない。あの3人が助けを求め、頼って来たら、その時は出来るだけの事を、してやれば良いのではないか?」

 俺の話しを真剣な顔で聞いていたレンは、暫く考え込んだ後、にぱっと明るい笑顔を俺に向けてくれた。

「うん。アレクの言う通りね。賢くて頼りになる旦那様を持てて、私は幸せものね」

 手放しで褒めてくれるのは嬉しい。

 だが実の処、番との時間を邪魔されたくなくて、適当にそれらしいことを並べ立てただけなのだ。

 この事は、レンには秘密にしなければ成らん。

 こうやって、番の前で格好つける度に、話せない秘密が増えて行く。

 番にはいつでも、格好の良い雄だと思われたい。俺も大概な見栄っ張りなのだ。

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