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千年王国
オークとエンラ
しおりを挟む「オークだっ!!」
「オーガ?! グレイオーガも居るぞ!!」
「モクレンさん!! アークさん!! 危険だ!!」
こいつ等、俺を誰だと思っているのだ?この俺が、オーク如きに後れを取るとでも?
・・・まあ、仕方ないか。
今の俺達は放浪騎士のアークと、その伴侶のモクレンだった。
奴らが騒ぐのも当たり前・・・いやいや、護衛を任された傭兵が、オーク如きで騒いでどうする。
「アークさん! 一人でオークの群れを相手にするなんて無謀だ!! 俺達も!」
「煩い! お前達は邪魔だ。死にたくなければそこで大人しくして居ろ!」
「なんだと?! 人が心配してやってるのに?!」
「アレ・・・アーク言い方」
「事実だろ?」
「それは、そうだけど」
レンの言いたい事も分かる。
が、しかし。
俺の番に色目を使うような輩に、優しくしてやる謂れは無いのだ。
「ああ!! オークがっ!!」
崖の上から次々にオークが地響きを立て、街道へ飛び降りて来た。それを見た傭兵や行商人たちは大騒ぎだ。
「あれれ? こっちに来ない?」
崖から飛び降りたオーク達は、チラリとこちらに視線を向けたものの、俺達に構う事なく、街道を逃げて行った盗賊たちの後を追い始めた。
オークの知能はそれほど高くないが、危険を察知する事は出来る。
それが上位種の存在により、統率が取れられて居れば尚更だ。
グレイオーガに率いられたオークの群れは、俺とレンを脅威と判定し、より楽に狩れる盗賊たちを標的としたようだ。
そうでなければ、あの盗賊たちが、オークの群れを怒らせるような何かをしたか。
どちらにしても、盗賊相手に同情する気になどなれないが、オークの群れを放置することは出来ん。
オークの数は、盗賊を追ってて行った者を含め、ざっと見ただけでも30体近い。
更に上位種のグレイオーガが居るという事は、この近くにオークの集落があるという事だ。
人の行き交う街道近くに、オークの集落などがあれば、今後どれだけの被害が出るか。
オークやゴブリンによる被害は、命の危険に晒される恐れもある。それと同等、いやそれ以上に、奴らに攫われてしまうと、人としての貞操と尊厳が奪われたうえ、魔物の子を産ませられ続け、いっそ殴り殺された方がマシだと言える、生き地獄を味わうことになる。
そして子を産む体力が尽きれば、奴らに喰われてしまうのだ。
運よく奴らの集落から助け出されたとしても、被害にあった者は廃人同然。
二度と元の暮らしには戻れない。
「チッ! 面倒だな」
盗賊を助けてやるつもりは更々無いが、一匹たりともオークを逃すことは出来ん。
街道に添って烈風を起こし、空へ巻き上げたオークへ向けて劫火を放った。
蛇行する炎の龍は、風の中で勢いを増し、飲み込んだオーク達を灰燼に変えた。
「・・・相変わらず、凄まじいね」
「そうか? この程度、序の口だぞ?」
「うふ。オークには気の毒だけど。私の旦那様は、強くてかっこ良くて、惚れ惚れしちゃう」
クゥーーッ!
何と可愛い事を言ってくれるのか。
こんな状況でなければ、今直ぐ物陰に番を連れて行きたくなる。
「うわぁ! 上のオークがブヒブヒ言って怒ってるよ?」
「あいつ等は知能は低いが、仲間意識が強いからなっ!!」
仲間を殺され激昂したグレイオーガが飛ばして来た邪法を、抜き放った剣で両断すると、後ろの傭兵たちからどよめきが起こった。
しかし今は、そんな事に構っている場合ではない。
オークの上位種には種類があり、オーガ、レッドオーガ、ブルーオーガ、グレイオーガの4種が産まれて来る。
その中でもグレイオーガは、数種類の邪法を使いこなす、厄介な相手だ。
まあ、俺にかかればオークもオーガも大した違いは無いのだが。
「小うるさい蠅だ」
俺が放った雷撃が、バリバリと音を立て、崖の上から見下ろしてくるオーク達に直撃した。
久し振りの戦闘で、加減を間違え、近くに生えていた大木を何本か引き裂いてしまったが、火の手が上がらなかったから、まあ、御愛嬌と許して貰いたい。
「あれ? グレイオーガと周りのオークは無傷みたい?」
「生意気な。あのグレイオーガは、魔法障壁が使えるようだ」
「あっ!! 逃げた!!」
「仕方ない追うぞ」
「はい! あっでも、みんなはどうするの?」
どうするもこうするも、連れてはいけんだろ?
「おい! お前達は俺が戻るまで結界から出るな!」
「出るなって。アークさん達はどこに行くんだよ!」
「この群れの規模だと、近くに集落が有る筈だ。俺達は今から集落を潰しに行くが、他のオークが襲って来るかも知れん。絶対に結界から出るなよ!!」
すると行商人や同行していた旅人たちは、オークに襲われる不安から、おいて行くなと騒ぎ立て、傭兵たちは、レンを連れて行くのは危険すぎるとがなり立てた。
いやいや。
お前達と居るより、俺と居た方が安全なんだぞ?それに、お前達よりレンの方がはるかに強い。
「心配してくれるのは有難いけど、私は全然問題ないから。みんなはアレ・・・アークが言った通り、ここで待っててね!」
レンにニッコリと微笑まれた年若い傭兵たちは、うっとりと頬を染めて黙り込んだ。
クソッ。
俺の番に厭らしい目を向けやがって。
その目玉、くり抜いてやろうか!
「アレク急がないと、見失っちゃう」
「うむ」
レンに急かされ、ブルーベルの腹を蹴って崖を駆け登った。グレイオーガたちが逃げ込んだ森へと飛び込むと、ギャースカ騒いでいた同行者たちの声も、直ぐに聞こえなくなった。
オーク達が踏み荒らした下草の跡を追い暫く行くと、ブルーベルが速度を落とし、音を立てないよう、慎重に歩を進め始めた。
「近いぞ」
「ブルーベルちゃんは、本当に賢いのね」
「ブルーベルは、帝国一のエンラだからな」
俺達が褒めているのが分かったのか、ブルーベルは長い首を捻りこちらを向くと、自慢げに目を細めて見せた。
レンが招来される前から、ブルーベルは俺に忠実だったが、レンと触れ合う事が多くなってから、今の様に人間臭い仕草を見せる様になった。
野生のエンラは気性が荒く人には懐かないが、騎士団で飼育しているエンラは、卵の時から人が育て、その孵化 には騎手が立ち会う。
そうする事で騎手とエンラの間に絆を作り上げるのだ。
エンラは群れで行動する生き物だ。
孵化に立ち会う事で、騎手との絆を築いたエンラは、他のエンラや騎士を群れの仲間と認識するため、集団行動にも適している。
寿命も長く、寒さに弱い事を除けば、最高の軍馬と言えるだろう。
その中でもブルーベルは特に賢く、他のエンラよりも二回りほど大きく育ち、頭も良い。
ブルーベルのような名馬と出逢えたことは、レンが番であったことの次に幸運な事だった。
「あれが集落ね?」
藪に隠れ、オークの集落を観察するレンは、その規模の大きさに驚いている。
「そうだ・・・しかし、これほど大規模な集落が出来て居たとは」
ゴブリンとオークは自然に出来た洞窟などで集落をつくる事が多いが、オークは簡易的な家を作れるだけの知能がある。
人間から見れば掘っ立て小屋にしか見えないが、それでも家は家。
周囲の木を切り出して作られた小屋が・・・100以上ありそうだ。
一つの小屋に2匹のオークが住んでいたとしても、200体ものオークが居る事になる。
「オークとゴブリンは繁殖力が異様に強い。それでもこれだけの集落がつくられるとしたら、攫われた人間は10や20ではないな」
「盗賊に襲われたと思われていた人の中には、ここに攫われてきた人が居たって事?」
攫われた人間の末路を想い、その悍ましさに肩を震わせたレンの腕が粟立っている。
「今も居るのかな」
「断言は出来んが、居る事を想定し小屋を壊さないようにした方が良い」
「分かった。ここはいちごの出番ね」
そう言って髪を飾る花をレンが撫でると、真っ白な花弁がフルリと揺れ。
スルスルとレンの足の間に移動したいちごは、幼児程の大きさに変化していた。
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