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千年王国
雨と家令
しおりを挟む「今日は? 愛し子が危険な目に合ったのだ。どういう事か説明して貰おうか?」
何でそんなに怒ってるの?
なんとも無かったんだから、ビックリしたね。でいいじゃない?
過保護が過ぎると思うわよ?
「閣下は御存じありませんでしたか? シーパスは雨に濡れる事を殊の外嫌います。あのシーパスは多分雨の気配を感じて、厩舎に戻ろうとしているのだと思います」
「雨?」
蒼い空、白い雲。
アニメみたいなピーカンだけど?
「ふむ。確かに濡れたら乾かすのが大変そうだが」
「あの様子だと、1.2刻で降り出すのではないでしょうか?」
「それなら仕方ないよね? 動物の本能なんだもん。牧場主さんは悪くない。うん。これは不可抗力ってものですね!」
「・・・レンがそう言うなら」
なんで不服そうなの?
シ-パスは家畜だけど、訓練されてる訳じゃないのよ?
それに触ってみろと言ったのは、貴方。
「雨が降って来る前に、牧場の中を案内して貰いましょう? ね?」
「グッ、クウーーッ。わ・・・分った」
「大丈夫?」
どうしたのかしら?
具合が悪みたいだけど。
心臓が痛い?
背が高いと心臓に負担がかかりやすいって、聞いたことがある。
悪い病気とかだったらどうしよう。
「も・・・問題ない」
「本当に? 具合が悪いなら無理はしない方が」
「本当に大丈夫だ。少し油断していただけだから、心配するな」
油断しただけで具合が悪くなるなんて・・・。
前から偶に今みたいなことがあった。
もう大丈夫そうだけど・・・。
私が知らないだけで、何か持病があるのかしら?
言ってくれたら、治癒の魔法をいくらでも掛けるのに。
教えてくれないなんて、酷いわ。
アレクさんが教えてくれないなら、後でパフォスさんに確かめなくちゃ。
アレクさんの体が心配で、モヤモヤしながら牧場内のあれこれを案内してもらい。
1時間半くらいで雨が降り始めました。
最初はぽつぽつと、この程度なら帰り道も問題なさそうだと思っていましたが。
空はどんどん暗くなり、それにつれて雨脚も急激に強くなっていき。
「ゲリラ豪雨みたい。お家に帰れるかしら」
「雨脚は強いが、夕立のようなものだ。1刻もすれば止むだろう」
「なら良いけど」
「濡れたままでは風邪を引いてしまう。着替えの出来る部屋を用意させよう」
着替え?
そんな物いつの間に?
・・・あ。
ローガンさん達が用意してくれたのね。
正に侍従の鏡。
あの二人がいると、至れり尽くせり過ぎて、一人で何も出来ない人になっちゃいそう。
アレクさんも、私のお世話をしたがるし。
ヴィースの人達が私に甘すぎると思うのは、贅沢過ぎるのかな?
あれ?
フェーンさん、一人でどうしたのかな?
あんな端っこに居たら、濡れちゃうじゃない。
アレクさんは・・・。
牧場主さんとお話し中。
ちょっと気になっていた事があるのだけど。
今ならフェーンさんと、お話しできそうね。
「そんな隅っこに居たら、濡れちゃうわよ?」
「愛し子様?」
「ローガンさんのお手伝いをしなくて良いの?」
私に声を掛けられて驚いた様子を見せたフェーンさんは、今度は困ったように眉が下がっています。
感情表現が豊かな人ね。
「レンと呼んでくれる?」
「私などが名をお呼びしても、宜しいのですか?」
「勿論よ。貴方はもう家族みたいなものだし」
「家族・・・そんな勿体ない」
随分しおれちゃって、初日の元気はどこに行った?
「ローガンさんに怒られたの?」
「・・・自分は、にい・・・兄の期待を裏切ってしまったみたいです」
「そう? 私はよくやっていると思うけど」
「慰めなんていらないです。何をやっても駄目な事くらい、自分がよく分かってますから」
思ったより、自己肯定感が低いのね。
「フェーンさん? 思ってる事があるなら話してみて? 一人で抱えるより、良い解決方法が見つかるかもよ?」
「レン様・・・」
暫く迷った様子を見せたフェーンさんでしたが、何かを諦めたように重い口を開いたのです。
でもその声は雨音に掻き消されそうな程小さくて。ぽつぽつと心情を語る姿は、お調子者と呼ぶには、真面目過ぎる印象を受けました。
「結局自分は、何をやっても中途半端な、駄目な雄なんです」
あらら。
思った以上に落ち込んでるみたい。
「ローガンさんと一緒に来たセルジュって侍従の子がいるでしょ?あの子は、アレクが私の専属侍従にって、ローガンさんと一緒に呼び寄せてくれた子なんだけど。初めて会った時のあの子は、私よりちょっと背が小さくて、利発な可愛らしい子供だったの」
「はい?」
それがどうしたって感じね?
「見習いだったあの子は、ローガンさんの言い付けは、なんでも熟そうと一生懸命だったし。それ以外の時も、ローガンさんの後を追いかけて、仕事を覚えようと必死だった。たまに失敗する事もあったけど、私の役に立ちたいと、本当に一生懸命でね。きっとローガンさんが見習いの時も、同じだったと思うの」
「そう・・・ですか」
「侍従の仕事って、ただお茶を淹れるだけじゃないのよ? 貴方が思っているよりも、高度な知識と技術が必要な専門職なの。だから騎士だった貴方に、ローガンさんと同じ働きが出来るなんて思ってないし、もしあなたが出来ると考えているなら、それはお兄さんが積み上げて来た、全てに対する冒涜ね」
「冒涜なんて、そんな・・・では、では自分は、どうして家令として呼ばれたのでしょうか?」
「前の代官が、とんでもない人だったのは、知っているわよね?」
「それは聞いて居ります」
「私達に必要なのは、侍従としての能力が高い人ではなくて、誠実で領民の事をしっかり考えてくれる人なのよ? 貴方はその条件にピッタリだったし、実際慣れない仕事なのに、良くやってくれていると思う」
「ですが、にい・・・兄は」
「う~ん。アレクもローガンさん達も、私に過保護過ぎる処があるから、最初のサプライズは失敗だったわね。せめてフェーンさんだけでも出迎えに出て来て、私達をサプライズ会場に案内していたら、あんな風にアレクは怒ったりしなかったと思う。サプライズなのに、自分が楽しもうとしちゃ駄目よ」
「やっぱり、自分には家令の仕事は向いてないんです」
「そうね。向いてないと思う」
あらやだ。
本当の事を言われて、ショックだった?
でもここからが本題なのよね。
「そこで相談なのだけど・・・」
私の提案を聞いたフェーンさんは、なぜか恐ろしいものを見るような目を向けてきました。
ちょっと失礼じゃない?
まあ、いいけどさ。
「・・・どうして?」
「フェーンさんからは、オタクで陰キャな同類の臭いがするから?」
「おたく? いんきゃ?」
「そこは分からなくても良いので、私の提案を考えてみて?」
「はぁ」
「返事を急かしたくはないけれど、私の提案を受けるなら、手配その他諸々があるから、早めに返事をしてくれると助かるわ」
「・・・分かりました」
「それから、ローガンさんとの間に何があったのかは知らないけれど、言いたい事も言わずに、ただ言われた事に従っているだけじゃ、兄孝行には成らないの。そこの所も含めてよく考えてね?」
「・・・・」
俯いて考え込んでしまったフェーンさんから視線を外すと、そこには腕を組んだ仁王立ちのアレクさんが・・・。
「二人で何を話している?」
うわっ!
声ひっく。
魔王降臨みたいでかっこいい~!
質問に答える間もなく抱き上げられた私は、牧場主さんが用意してくれた部屋へ、不機嫌を絵に描いたようなアレクさんに、ドナドナされて行ったのです。
分かっちゃいたけど、この後アレクさんのご機嫌を取るのが大変です。
でもまあ。
こんなヤキモチ焼な所も、可愛いと思ってしまう私も大概なので、仕方ないのよね?
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