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千年王国
燕尾服と乙女な愛し子
しおりを挟む「全員揃った?」
「はい。城の使用人は全て揃いました」
きれいなお辞儀をするローガンさんは、今日も今日とて。染み一つ無い、手袋の白さが目に染みるわぁ。
以前は他の侍従さんと同じ様に、ジレとコートにクラバットって装いだったのだけど、前から動き難そうだな、って思ってたのよね。だからルナコルタさんに相談して、作ってもらいましたよ、燕尾服。
白シャツ、黒ネクタイ、白手袋に黒いテールコートの上下とくれば、まさに執事!
セバスチャン! と呼んでも良いかしら?
結構前に注文したのだけれど、最近ルナコルタさんのボッカサローネは大人気で、注文から納品まで、1年待ちとかざらなんだそう。
それでも、私とのお付き合いは特別だって言ってくれて、超特急で燕尾服を作ってくれたの。
それでも出来上がりまで、三ヶ月近くかかっちゃった。
その御礼じゃないけど、本当はもっと沢山注文して、儲けさせてあげたいのだけど、他のお客さんをお待たせするのも申し訳なく。
ローガンさんとセルジュ用の二着を作ってもらった後は、コピーで三着ずつ、お着替え用の燕尾服を作らせてもらいました。
これって偽物ブランド、って事になるのかな?
でも、デザインは私が提案したんだから、デザイナーは私って事で、著作権の侵害にはならないような・・・。
そもそもヴィースには、デザインとか文学とかの著作権の概念がまだ無いのよね。
道具の特許はあるのに不思議。
これって、新しい道具を作り出すのが、主に魔法局の魔法師さんだから優遇されてる?
まあ、本人が知らない所で、姿絵が売られていたり、吟遊詩人さんの歌が流行ったりって所で、著作権や肖像権を主張する方がおかしいのかも。
ってことで、お揃いの燕尾服を着たローガンさんとセルジュだけど。
ローガンさんは、The執事って感じでバッチリだけど、セルジュは初々しいと言うか、服に着られていると言うか・・・・。
似合ってはいるんだけど、七五三な感じ?
服の着こなしにも、年季って必要なのね。
おっと。
セバスチャンなローガンさんに、見惚れている場合じゃなかった。
いきなり城主に集められた使用人の皆さん達が、物凄く不安そうな顔をしています。
そんなに緊張しなくてもいいのに。
やっぱり、初日にアレクさんが大暴れしたのが、尾を引いているのかしら?
だとしたら、このプレゼントで気持ちが解れてくれたら良いな。
「今日は毎日頑張ってくれている皆さんへ、プレゼントを用意しました。順番に受け取ってくださいね」
お城の皆んなへのプレゼント。
造物師のスキルで、何処まで出来るのか気になった私は、材料が大量に有るのを良いことに、セーター、ベスト、カーディガン、帽子とマフラー。
日がな一日編み物に没頭し、数日でお城の使用人全員分を、編み上げてしまいました。
このスピードには、自分でもビックリ。
自分で言うのもなんですが。
ランクSSは伊達じゃない。
造物師、侮りがたしって感じです。
アレクさんは、根を詰めすぎるな、と心配してくれましたが、軽い肩こりくらいで、疲れは感じなかったのよね。
それでも流石に、編み物ばかりでしていると飽きてしまって、騎士隊の全員分は無理でした。
なので、大隊長のフルストさんの分+3人分を編んだ後は、こっちもコピーで人数分を確保しました。
ローガンさん達侍従さんと料理人、それとお掃除やお洗濯担当の下男の人達には、水仕事が多いから、袖を捲りやすい様にベストを。
外での仕事に従事している、庭師と厩舎の担当の人には、脱ぎ着がしやすいようにカーディガン。
騎士さんたちには動きやすくて、騎士服の下に着られるように、薄手のセーター。
マフラーと帽子は、それぞれセットで用意しました。
こんな大勢にセーター等々を作ってあげて、アレクさんがヤキモチを焼かなかったのか、ですって?
そこの対策は、バッチリしたので問題なし。
アレクさんと赤ちゃんの分は模様編みを駆使して、特にアレクさんの分は、全種類+カウチングセーターも作り、差別化を図りました。
他の人の分は、全て平編み一色なのだから、アレクさんの特別感は十分演出できたと思います。
私の狙い通り、アレクさんはカウチンセーターを気に入ってくれたようで、今も隣で皆んなに見せびらかして、ご満悦な様子です。
他の皆んなも喜んでいる様子ですし、頑張った甲斐がありました。
それにローガンさんとセルジュ以外にも、編み物に興味を持った様子の人が何人かいたので、近い内に編み物教室を開いても良いかも。
アレクさんは私の編み物も特許をとるべきだ、と言って来ました。でも私は、編み物が、この北の大地の文化になったら良いと思っているので、丁重にお断りしておきました。
「無欲すぎる」って呆れられてしまいましたが、生活必需品に成るかもしれない物に、使用料を課すのは如何な物かと思うのよ?
平民の人達は、自分たちの着るものを手縫いしているのだから、それと同じだし、編み物文化が広まったら、一々使用量の回収なんて不可能よね?
そんなこんなで、配布会も無事に終わり。
使用人の皆さん達が、配ったものを胸に抱えて持ち場に戻っていくと、アレクさんが私の頭をそっと撫でてくれました。
「あんなに沢山、大変だったろう?」
「ん~? そうでもなかったですよ? 新しく覚えたスキルの確認にもなったし」
「造物師だったか?」
「うん。結局最後は飽きちゃって、コピーでズルしちゃった」
「あ~。まあ、1人で全員分は無理があるしな?」
「へへ。でも皆んなが喜んでくれてよかった」
「編み物に飽きたなら、俺の事もかまってくれるか?」
かぁ~~~~ッ!!
何その、あざと色っぽい目は?!
そんな目で見られたら、かまうに決まってるでしょ?!
今ならなんでも、してあげちゃう!!
「部屋に戻るか?」
「ん~。それも良いけど、ちょっとお散歩したいかな?」
何でもしてあげちゃいたいけど、編み物をしている間、ずっと暖炉の前でじっとしてたから、少し体を動かしたい。
部屋に戻っても、別の運動が待っていそうだけどね?
でもそれは、もうちょっと暗くなってからが良いかなぁ~。
明るい内は、健全に過ごしたほうが良くない?
「そうか・・・」
あからさまに残念そうね?
でも落ち葉を踏みしめてのお散歩も、ロマンチックで素敵よ?
「それなら、歩きながらでいい。一つ相談というか提案がある」
「提案?」
何かしら。
また、ジャスティンのことかな?
ジャスティンの事を聞くのは、今はちょっとやだな。
最近アレクさんは、ジャスティンの話をすることが多い。
彼がジャスティンに抱いている感情は、そういう類の気持ちじゃない、って解ってるけど。
なんとなくモヤってしちゃう。
・・・なんて言えない。
こんな仄暗い気持ちになっているって、彼に知られたら、失望されるんじゃないかって不安になる。
過去と向き合おうとしているアレクさんを、支えてあげなくちゃいけないのに、私一人でヤキモチ焼いてモヤモヤして。
ほんとやな女。馬鹿みたい。
「それで? 提案ってなあに?」
「うむ。一度皇都に戻らないか?」
「・・・ジャスティンの領地替えの手続きでもあるの?」
今の言い方は、嫌味に聞こえたよね。
私最低だ。
「いや? それはもう全て終わらせた。後は適当な時期に、引っ越すだけだ」
「ふ~ん。なら何しに行くの?」
・・・また、やっちゃった。
「・・・ここはもうすぐ、雪が降る。そうなると移動も大変だし、雪に埋もれる前に、マーク達の顔を見に行こうかと思うのだが、どうだろうか」
どうだろうか?って。
別にスクロールを使えば、雪なんて関係ないのに・・・。
あ・・・私、完全にネガティブになってる。
もう、嫌だ。
「・・・マークさん達に、会いに行っても良いの?」
「駄目な理由はないだろ?」
「でも、魔力が混ざらないように、あんまり近くに寄っちゃいけないって」
「あぁ、それか? それは腹の中にいるときだ。繭になれば別の部屋に置いて来ることも出来る。握手程度なら、魔力が混ざる事はほぼ無いし。繭をベタベタ触らなければ問題ないはずだ」
「そうなんだ・・・」
「どうする?」
「私、マークさんに会いたい」
「よし。では直ぐに準備させような」
逞しい腕に優しく抱き上げられ、何故だか泣きたくなった事は、アレクさんには内緒です。
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