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氷の華を溶かしたら
125話
しおりを挟む「・・・たしかに」
「2つ目。彼女は私のことを、商会を通じ王国の経済を乗っ取ろうとしている。と言いました」
「言ってたな」
「領地運営に関わっていない、典型的な深窓のご令嬢が、経済云々など口にするでしょうか?」
「普通しないな」
「あの子なら、金貨は木の枝に生ると思っていそうだ」
「私は彼女は控えめで、とてもおとなしい方だと聞いておりました。以前お見かけした時も、友人に庇われ、あまり主体性がある様にも見えなかった」
「うん。そんな感じだ」
「ですが殿下を呼び止めた時、彼女は体が震えるほどの興奮状態でした。その後の騒ぎ方も、控えめで大人しいと評判のご令嬢と、同じ人だとは思えません」
「う~ん。そうだなぁ。茶会の時はモンテ侯爵家のジューン嬢ばかり喋っていて、リリアナ嬢は相槌と、"はい" か "いいえ" の返事しかしていなかった気がするな。緊張していたのかも知れないが、気の毒になるくらい大人しい令嬢だった気がする」
「それは殿下が、不機嫌を絵に書いたみたいな態度だったからでしょう?」
「ですがリリアナ嬢は、殿下が優しくしてくれたと、言っていましたよね?」
「それが不思議なんだよ。俺はあの時必要最低限の礼儀を守っていただけだし。ジューン嬢はセリーヌよりよく喋るしで、うんざりしていて・・・」
「そう言えば、リリアナ嬢に帰れ、と言ってませんでしたか?」
「あ~ぁ?・・・そんな事・・・・言ったな。あんまり大人しいから、具合でも悪いのかと思って、調子が悪いなら、家に帰って休めと・・・これって優しくした内に入る?」
「さあ。私なら礼儀としての気遣いと取りますが、相手はうら若き乙女ですから、優しさと捉えるてもおかしく有りませんよ?」
「なんて面倒な」
「殿下に。乙女心を理解するのは一生無理」
「サイラス、黙っとけ」
まるで俺にデリカシーがないみたいじゃないか。
「そうですねぇ。セリーヌ様を山猿と言うお方ですし」
「キャニスまで?」
なんだよ二人して。
セリーヌは昔からキャンキャンうるさくて、縁談がまとまった今でも、事あるごとに突っかかってくるんだぞ?
あれが王女で良いのか?
他国に嫁いで大丈夫か?
リリアナだって、人となりを知るための茶会で、まともに話しもせず、黙って茶を飲んでるだけだったんだ。
乗り気じゃないのか、具合が悪いと思うじゃないか。
ジューン1人でも持て余してたんだ。
嫌なら帰れと言ったつもりが、逆に優しく気遣ったことになるって?
そんなの知るか!
「殿下の妃候補として名前が挙がった段階で、他の縁談は来なくなりますから、リリアナ嬢は男慣れしていないのでしょう。ですがその後、殿下と個人的な接点が無いにも関わらず、あの執着ぶり。夢見がちな乙女が妄想のはてに愚行を犯したのだとしても、少々悪質過ぎると感じます」
「大人しいのは見せかけで、本当は精神に異常が有ったとか?」
キャニスを害そうとした時点で、正常とは言えないんだ。
修道院行きなんて、甘い罰で済ませる気はないぞ。
「それは言い過ぎです。本当に精神に異常が有ったなら、もっと早くから、醜聞が広がっていたでしょう。キャピュレット卿が言うように、あの年頃は夢見がちで、恋に恋するお年頃です。大人しい分、妄想が広がり、無限の大宇宙を作り上げたとしても、不思議ではありません。その妄想が、あのような行動を起こさせた要因、と考えられなくもないですが・・・」
「しっくりこないか?」
「ええ。普段おとなしい人が一旦怒ると、手がつけられなくなるのは、よく聞く話です。それでもリリアナ嬢の様子はどうも・・・」
「とち狂った奴だぞ?」
「伯爵家のご令嬢なら、幼少期から礼儀作法を仕込まれ、淑女教育が骨まで染み込んでいるものです。それがあの様にはしたなく騒ぐなんて、若さ故の暴走と片付けるのにも違和感を感じます」
「そう言われると、そんな気がしないでもないな」
曖昧で投げ遣りな俺の返事に、菫色の瞳がスッと眇められた。
あれ?
俺はまた間違った?
「殿下。お怒りなのは理解できます。ですが怒りに任せ、思考を停止するのは王になられる方に、相応しい態度でしょうか?」
何でもお見通しか。
キャニスには敵わないな。
「キャニスが傷つけられていたらと思うと、腹が立って。どんな罰を与えてやろうかと、そればかり考えてしまうんだ」
「私的な制裁を加えれば、その時から殿下は暴君と呼ばれるでしょう」
俺は、キャニスという暴君に支配されてみたいけどな?
「悪かったよ。身を入れ直すから話しを続けてくれ」
推し量るように俺に向けられた菫色の瞳は、深く澄んでいた。
そして何故か深い溜め息を漏らすと、姿勢を崩せと勧められた。
「足が痺れてしまいますよ」
そう言って座り直した俺の脚に、キャニスはそっとブランケットを掛けてくれた。
キャニスは美しすぎる容姿から、冷たい人間に見られがちだが、実は結構世話好きだ。
本人が無意識っぽいのも、グッと来るんだよな。
「殿下もお疲れのご様子ですし、すぐに話がそれてしまいますので、要点をまとめますね」
「あ・・・すまん。話の腰を折るつもりはなかった」
「構いません。オセニアの騎士がおしゃべりなのは存じております」
まったく家の奴らは、何をしてるんだよ。
辺境に居た時、キャニスに魔法を教えてくれと、纏わり付いていたのは知っていたが、騎士なのに、おしゃべり認定受けてどうすんだ?
いや。俺もか?
俺もおしゃべりだと思われてる?
サイラスめ。
ニヤニヤしやがって。
お前も同罪だぞ!
「私が違和感を感じるのは、リリアナ嬢が、年若い令嬢らしからぬ考えを口にした事。彼女は何処に隠れていたのか。普段大人しいと評判だった彼女が、その性格と真逆の行動を取ったのは何故か」
ここまでは良いか? と問うてきた視線に頷くと、キャニスは黄金の酒で喉を潤し、おもむろに口を開いた。
「伯爵は、医療や薬事に関係したことが有りません。では深窓のご令嬢がどうやって、私に投げつけたあの劇薬を手に入れられたのか」
「あ・・・そうか。そうだよな」
「あの年頃の女の子なら、愛の妙薬と言われて、裏町の占い師から、怪しげな薬を買わされることならありそうですが。あのような劇薬は取り扱いが難しいため、街の薬屋で簡単に手に入れられる品ではないのです。あの薬品は、愛の妙薬を手に入れた、子供の火遊びの範疇を遥かに超えています」
「キャニス様は、リリアナ嬢の単独犯ではないと、お考えなんですね?」
「少なくとも、薬を渡した者が居るはずです。其の者は、私や殿下への殺意は無かったとしても、害意は有ったのだと思います」
「何故だ?」
「大理石を溶かすような劇薬ですよ? 其の者はリリアナ嬢を含め、誰が被害にあっても厭わなかったのでは?」
「・・・」
面白そうだから。
そんな理由で人を操り。
自分の思い通りに、事を運ぶためには手段を選ばず。その過程で誰が傷ついても、一抹の痛痒も感じる事がない。
そんな頭のおかしい人間を俺は、1人だけ知っている。
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