氷の華を溶かしたら

こむぎダック

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氷の華を溶かしたら

22話

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「・・・・それは契約結婚?この場合は契約的な婚約という事でしょうか?殿下に意中のお相手が出来るまで、私を隠れ蓑にしたいと?」

「いや。どちらかと言うと、キャニスに俺との結婚を考えて貰う為の、お試し期間と言うか・・」

「・・・・即答は出来かねます」

「だが! だが会議は今日なのだ・・・・・」

しょんぼりと肩を落としたシェルビーに、キャニスは感情のこもらない眼差しを向けている。

シェルビーは息を詰め、返事を待っているが、まるで針の筵に座っている気分だ。

 こんな事なら堂々と求婚するべきだった。
 キャニスに呆れらてしまった。
 本当に俺は最低だ。
 このまま、嫌われたらどうしよう。

「・・・・分かりました。契約は1年で。1年後に契約の継続と内容の見直しをしましょう。契約期間中に殿下に想い人が出来た場合、即時報告と契約の解除。賠償のお支払いをお願い致します。契約期間中は、婚約者に相応しい対応を義務付けて下さい。不仲を噂されるのはお互いに困りますからね。それと、殿下に重大な契約違反が有った場合、穏便な婚約破棄に対する対価の、倍額を請求させて頂きます」

うんうんと頷くシェルビーだったが、問題が山積みであることに変わりはない。

「私は誰かと縁付くことを望んではいませんが、続け様に王家との婚約が破棄されたとあっては、カラロウカ家の恥となってしまいます。ですので理由の如何に関わらず、私からの婚約破棄の申し出が有った場合。即時契約を終結させる事。婚約破棄の理由は殿下の、殿下ご自身の有責という事にして頂きたい。これは、殿下からのお申し出の場合も同様です。それと無いとは思いますが、万が一私に想い人が出来た場合、その相手への接触は禁止させて頂きます」

「それだけで良いのか?」

「そうですね・・・後は婚約が破棄され、契約の対価の支払完了以降、私と一切の接触を持たないこと。今の所はこんな物でしょうか。後はその会議で私が婚約者の候補と認められるとしても、条件を出される可能性も有りますので、そちらと擦り合わせつつ、改めて契約内容を確認し、魔法契約を結びましょう」

「本当に、受け入れてくれるのか?」

「カラロウカの人間は、利の無い行動は致しません。ナリウス殿下との事は、公爵家としては何の利も有りませんでしたが、私個人としては、良い勉強をさせて貰ったと考えています。そしてこの契約も、私は利があると考えます」

「そうか。利があるか・・・」

 この短時間でスラスラと。
 キャニスの頭の中はどうなってるんだ?

「なにより、私と殿下は友達なのでしょう?友人と言うものは、困ったことが有る時は、互いに助け合うものだ、と聞いた覚えが有ります。違いますか?」

「友達・・・はは・・・。友達・・・そうだ友達だ」

 違う!
 友としてではなく。
 俺は男としてキャニスが欲しい!
 なんで、こんな馬鹿な話を持ち掛けてしまったんだ。

 アホだ! 
 アホすぎるぞ俺!

がっくりと肩を落としたシェルビーに、キャニスは表情を変えないまま、小首を傾げて見せた。
その様子を見たシェルビーは、己の中に闘志が湧き上がるのを感じた。 

 いいや!まだだ!!
 まだ挽回のチャンスはある!
 これから1年。
 規約が更新されれば。
 されればだが、何年だって時間はある!
 その間に、キャニスに俺の事を、男として見て貰えるよう努力すればいい。

 そのためには、これからの1年が正念場だ。
 
 俺はこの1年で、絶対にキャニスの心を手に入れて見せる!!

 その為の第一歩!

「ではキャニス。契約の証を交わそう」

「証ですか?契約書なら後で魔法契約書を」

「そうではない。契約とは別に互いを裏切らないと言う、誓いの印だ。それに慣れておく必要もあるだろ」

「誓いと慣れですか?」

「契約期間中、私はキャニスに対し、最大限の誠意と敬意をもって接すると誓う。しかしだ、周りの目から見て、キャニスも言ったように、不仲だと思われても困る。場合によっては同衾せねばならんかも知れん。そんな時、お互いがぎこちなければ、疑われてしまうだろ?」

「そうなのですか?」

「そうなんだよ。お互い健康な男だからな?」

「はあ・・・・それで、私は何をすれば」

「まずは、相思相愛の恋人らしく、こうやって・・・」

シェルビーは、キャニスの滑らかな手を掬いあげ、指先に口付けを落とした。そして次に手の甲へ。

この程度なら、挨拶としてキャニスも経験があった。
探る様に見上げて来るシェルビーにも、キャニスはまだ余裕があった。

しかしその手をくるりと返され、頬に摺り寄せる様に手の平に接吻され、熱い唇を滑らせ手首に唇を寄せられて、素肌をペロリと舐められたキャニスは、驚きで王太子の手から逃れようと、思わず手を引いてしまった。

しかし、武人でもあるシェルビーの力は強く、逆にシェルビーの胸へと引き寄せられ、力強い腕に囚われたキャニスの唇に、シェルビーの唇が重ねられた。

時間にして5秒ほどの短い時間だったが、驚きで目を見開いたままのキャニスは、重ねられた唇の熱さと、目の前で震えている榛色の長い睫毛に、固まって動けなくなった。

 な・・・何をするんだこの人は?!
 只の契約なのに。
 何故キスを?!

「・・・何をなさるのです」

熱っぽい唇が離れると同時に、キャニスがシェルビーを押し返し、手の甲で自分の唇を拭うと、シェルビーは眉を下げ悲しそうな視線をキャニスに向けて来た。

「なにって誓いの印だが?それに、お互い今から慣れて置かんと、相思相愛には見えんだろ?」

「ですが、だからと言って、こんな急に」

「キャニスは、キスも初めてか?安心しろ俺も初めてだ」

「は?」

 初めて?
 こんな女慣れしてそうな顔をして?
 あ・・・男相手が初めてという事か?
 それなら納得だ。

「・・・・そういう問題では・・・」

更に抗議しようとしたキャニスだが、諦めたように肩を落とし、小さく息を吐いた。

「殿下。契約の追加事項です」

「なんだ?言ってみろ」

「性的な接触はキスに限定。素肌への接触は手首まで。過度な触れ合いは、服の上からでも禁止。もし何らかの理由で同衾する事が有っても、当然性行為は禁止です。もし少しでも違反した場合。一回につき罰金として100万フラーいただきます」

「え・・・それはちょっと厳しすぎないか?」

「私達は友人でしょう?友人相手に許容できるのはここ迄です。それとも殿下は、最近巷で "セフレ" と呼ばれている関係をお望みですか?もしそうなら、他を当たって下さい。私は男娼ではありません」

「あ・・・すまん調子に乗り過ぎた」

「分かって下されば結構です・・・本日は殿下も会議が御有りなのでしょう?今日の所は、これでお引き取りを」

「すまん・・・帰るよ」

トボトボと一人帰って行くシェルビーの背中が見えなくなると、キャニスは額に指を当て盛大に溜息を吐いた。

キャニスがこの世界に回帰してから、初めての感情の発露だった。

 何なんだまったく。
 前世を合わせれば、40歳近く。
 他の人生も合わせれば、250歳近く年下の殿下に振り回されるとは。

 11回も人生を繰り返して来て、キス以上の経験だってあるのに、これではおぼこ娘のようじゃないか。

 私も殿下もどうかしている。
 こんなものは、只の契約だ。
 
 どうせ裏切ると分かっている相手だ。
 心を揺らされたりなんかしない。
 してはならない。

 カリスト殿下の件を早く片付けよう。
 その後は、さっさと契約を解除して。
 どこか別の国で、隠遁生活を送るべきだ。

 さて、次はどの国にしようか・・・・。

 手の中に残ったウィステリアの花を見つめながら、キャニスは頭の中で世界地図を広げ、まだ見ぬ国へ思いをはせる事で、シェルビーの熱い唇を忘れる事に専念した。

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