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荷馬車の場所まで行って何度も往復し、三人の仏さんと残されていた無事な荷物をゲンテンの町へ運び、それが終わる頃には日が傾いていた。ティアの父親である行商人は、この町では顔の知られた商人だったらしく、この町で手厚く葬られた。
ティアに聞くと未だ気を失っている初老の男はティアの父親の友人らしく、港への行商の途中で盗賊に襲われたらしい。一応用心棒は雇っていたようだが、俺が運んだ仏さんのひとりがそうらしい。盗賊の方が実力者だったということか。
「死人が出てしまったのは悲しいことだが、故人を葬ることもできたし、助かった命もある。キミのおかげだ」
医者であるヘンリー・バーンは席につく俺に水の入った木のコップを出してくれた。喉が渇いていた俺はそれをありがたく飲み干す。ちなみに俺の隣にはティアが座っている。俺の顔をじっと凝視しているのが気になるが…。
「話を聞くに、アザミはこの子らの仲間じゃないんだろ? これからまた旅を続けるのかい?」
「いえ、俺は旅をしている訳じゃないんです。少し道具を揃えてあちら方面にあった森林…といえばいいのかな。とりあえずそこへ行って調べたいことがあるんです」
「あちらというと…まさか大聖樹の森か!? 何でまたそんなところに…」
「大聖樹っていうんですか?」
「大聖樹の森にいる魔物は、聖樹の加護を受けていて通常の魔物よりもずっと脅威なんだ。俺は冒険者やモブマスターではないが、それでも討伐ランクAはあると分かるよ?」
ヘンリーが言う加護を受けた魔物と聞いて巨大蟻を思い出す。あれもそんな大層な加護を受けていたのだろうか。
「もしも本当に向かうつもりなのなら、冒険者ギルドで用心棒を雇った方がいい。まぁ、余程の熟練者メンバーを揃えても生きて帰れるか分からないけどね」
ハッキリ言うなこの人は。しかしそんな危険な場所に対策も練らずに突っ込むのは自殺志願者のする事だ。早く元の世界に戻りたいという思いはあるが、死んでしまっては元も子もない。有給は切れて仕事はクビになるかもしれないが、職場の為に命をかけてまで急ぐ義務も義理もない。
これからどうするかを考える。ヘンリーは用心棒を雇うよう言っていたが、それでも安全の確実性はないか。当面の目的が未だ決まらず、俺は頭を抱えた。そんな俺に思い出したかのようにヘンリーが訊ねる。
「そういえばアザミ、傷口に酒をかけたのはキミなんだってね。あれはどうしてだい?」
「え?」
何かいけなかったのだろうか? 酒は結構なアルコールの臭いがあったので、傷口の消毒として使用してしまったと伝えると、ヘンリーは口を開けたまま固まった。
「え、酒って消毒できるのかい?」
「違うんですか? 俺はてっきりそう思ってましたが…」
「ちょっと待って、盗賊の使ってたサーベルには毒が塗られていたのかな?」
「ん?」
そこで俺の言っていることとヘンリーの考えていることに食い違いがあるのに気付いた。
「いえ、毒ではなくて菌の方ですね。雑菌が傷口に入ると悪化してしまうので…」
「キン…か。アザミ、申し訳ないがキミの言っている言葉が良く理解できない。ザッキンとはなんなんだい?」
菌を知らない?
俺は学生時に習った知識を思い出す。確かに授業でも菌の存在が本格的に発見されたのはコッホが見つけてからだったろうか。正確な年代は覚えていないが、1800年代だったはずだ。どちらかといえば近代に近い。今いるゲンテンの町並みを見ても、文化や科学は相当遅れているように見える。菌の存在が知られていないのも仕方ない。
「どういえばいいのかな。目には見えないすごく小さな生物です。それにも色んな種類がいて、時には人を病気にしてしまったりすることもあるんです」
「まさか…いや…だけどそう考えると…。いや、悪い、アザミ。キミの話は実に興味深い。今のシアール大陸の常識には無い見解だ。キミの職業は学者なのかな? キミが言うキンについて、もう少し教えてもらってもいいかい?」
ヘンリーは目を輝かせてこちらに体を乗り出す。この興奮具合から見て、長く拘束されそうな予感がし、何か解決法はないかキョロキョロと辺りを見渡す。すると隣に座っているティアが眠そうにコクリコクリと舟を漕いでいた。
「あ、これはいけない。ヘンリーさん、ベッドを貸してもらってもいいですか?」
「おや、お嬢ちゃんには色々あった1日だったようだし、疲れているようだね。すぐに客用のベッドを用意するよ」
ヘンリーはそう言って立ち上がる。ヘンリーが隣の部屋に行き姿が見えなくなると、ティアは俺の顔を見て舌を出す。
「コウタロー、これでよかった?」
「演技だったのか…まぁ、助かったよ」
ティアの機転の利いた演技のおかげで、今日のところはヘンリーの質問責めを逃れられそうだ。この日は俺もベッドを用意してもらい、名残惜しそうな表情のヘンリーを背にしてベッドに横になった。
翌朝、分厚い医学書のような物をもったヘンリーに起こされてしまい、結局菌の深い説明をすることになってしまったが、多少なり休めた後なので良しとしよう…。
ティアに聞くと未だ気を失っている初老の男はティアの父親の友人らしく、港への行商の途中で盗賊に襲われたらしい。一応用心棒は雇っていたようだが、俺が運んだ仏さんのひとりがそうらしい。盗賊の方が実力者だったということか。
「死人が出てしまったのは悲しいことだが、故人を葬ることもできたし、助かった命もある。キミのおかげだ」
医者であるヘンリー・バーンは席につく俺に水の入った木のコップを出してくれた。喉が渇いていた俺はそれをありがたく飲み干す。ちなみに俺の隣にはティアが座っている。俺の顔をじっと凝視しているのが気になるが…。
「話を聞くに、アザミはこの子らの仲間じゃないんだろ? これからまた旅を続けるのかい?」
「いえ、俺は旅をしている訳じゃないんです。少し道具を揃えてあちら方面にあった森林…といえばいいのかな。とりあえずそこへ行って調べたいことがあるんです」
「あちらというと…まさか大聖樹の森か!? 何でまたそんなところに…」
「大聖樹っていうんですか?」
「大聖樹の森にいる魔物は、聖樹の加護を受けていて通常の魔物よりもずっと脅威なんだ。俺は冒険者やモブマスターではないが、それでも討伐ランクAはあると分かるよ?」
ヘンリーが言う加護を受けた魔物と聞いて巨大蟻を思い出す。あれもそんな大層な加護を受けていたのだろうか。
「もしも本当に向かうつもりなのなら、冒険者ギルドで用心棒を雇った方がいい。まぁ、余程の熟練者メンバーを揃えても生きて帰れるか分からないけどね」
ハッキリ言うなこの人は。しかしそんな危険な場所に対策も練らずに突っ込むのは自殺志願者のする事だ。早く元の世界に戻りたいという思いはあるが、死んでしまっては元も子もない。有給は切れて仕事はクビになるかもしれないが、職場の為に命をかけてまで急ぐ義務も義理もない。
これからどうするかを考える。ヘンリーは用心棒を雇うよう言っていたが、それでも安全の確実性はないか。当面の目的が未だ決まらず、俺は頭を抱えた。そんな俺に思い出したかのようにヘンリーが訊ねる。
「そういえばアザミ、傷口に酒をかけたのはキミなんだってね。あれはどうしてだい?」
「え?」
何かいけなかったのだろうか? 酒は結構なアルコールの臭いがあったので、傷口の消毒として使用してしまったと伝えると、ヘンリーは口を開けたまま固まった。
「え、酒って消毒できるのかい?」
「違うんですか? 俺はてっきりそう思ってましたが…」
「ちょっと待って、盗賊の使ってたサーベルには毒が塗られていたのかな?」
「ん?」
そこで俺の言っていることとヘンリーの考えていることに食い違いがあるのに気付いた。
「いえ、毒ではなくて菌の方ですね。雑菌が傷口に入ると悪化してしまうので…」
「キン…か。アザミ、申し訳ないがキミの言っている言葉が良く理解できない。ザッキンとはなんなんだい?」
菌を知らない?
俺は学生時に習った知識を思い出す。確かに授業でも菌の存在が本格的に発見されたのはコッホが見つけてからだったろうか。正確な年代は覚えていないが、1800年代だったはずだ。どちらかといえば近代に近い。今いるゲンテンの町並みを見ても、文化や科学は相当遅れているように見える。菌の存在が知られていないのも仕方ない。
「どういえばいいのかな。目には見えないすごく小さな生物です。それにも色んな種類がいて、時には人を病気にしてしまったりすることもあるんです」
「まさか…いや…だけどそう考えると…。いや、悪い、アザミ。キミの話は実に興味深い。今のシアール大陸の常識には無い見解だ。キミの職業は学者なのかな? キミが言うキンについて、もう少し教えてもらってもいいかい?」
ヘンリーは目を輝かせてこちらに体を乗り出す。この興奮具合から見て、長く拘束されそうな予感がし、何か解決法はないかキョロキョロと辺りを見渡す。すると隣に座っているティアが眠そうにコクリコクリと舟を漕いでいた。
「あ、これはいけない。ヘンリーさん、ベッドを貸してもらってもいいですか?」
「おや、お嬢ちゃんには色々あった1日だったようだし、疲れているようだね。すぐに客用のベッドを用意するよ」
ヘンリーはそう言って立ち上がる。ヘンリーが隣の部屋に行き姿が見えなくなると、ティアは俺の顔を見て舌を出す。
「コウタロー、これでよかった?」
「演技だったのか…まぁ、助かったよ」
ティアの機転の利いた演技のおかげで、今日のところはヘンリーの質問責めを逃れられそうだ。この日は俺もベッドを用意してもらい、名残惜しそうな表情のヘンリーを背にしてベッドに横になった。
翌朝、分厚い医学書のような物をもったヘンリーに起こされてしまい、結局菌の深い説明をすることになってしまったが、多少なり休めた後なので良しとしよう…。
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