囚われし創造主の遊び

白黒yu-ki

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第1章 始まりの創造主

#5 創造主、異星人と会う

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冒険者ギルドにあるという鍛冶場。
そこの使用料は銀貨で5枚だという。宿の料金も考えると懐が心許無くなってきた。鍛冶場で鉱石も売っているようだが、ここはどこかで調達する事にしよう。

「鉱石が発掘できるところですか? それならリュアラの街から東に位置する鉱山ですね。しかしそこはある貴族の土地ですので、高い発掘料がとられますが…」

「発掘料…ね」

創造することで鉱石を生み出すことは容易い。しかしスキルポイントを消費する為、可能であればなるべくならその手は使いたくはないのだ。

こんな事なら、別の星から鉱石を持ってくるんだったな。

千万を超える星々の中には、鉱石で形成された星も多くあった。銀や金でできた星や、ダイヤモンドでできた星…それは地球での相場を知っている者としては驚きだった。だがそのような『高価』な鉱石も、経済を生み出す生命体が存在しなければ意味も為さず、路傍の石も同義だ。

この星の鉱脈はどうなっているのだろうか。『千里眼』で地表から地中へと探っていく。すぐに発見できたのは銅の鉱脈だった。しかしその傍に関所のような建物がある事から、ここがフェリスの言う貴族の所有物だという鉱山なのだろう。

「…ん?」

ボクは思わず眉をひそめた。
そことは別の場所、リュアラの北にある氷山に鉱山を発見したのだ。そこには人が踏み入った形跡もなく、まだ未踏の鉱山だと思われる。

「フェリス、北にある氷山はどうだ? 鉱石が取れるという話は聞かないか?」

「え…そんな話は聞いた事もありませんよ。それに、生物が生存する事のできない魔の山として伝えられているんです。今ではそこに出向く冒険者もいません…」

「生物が存在できない?」

「ええ、そう云われています。未開の地として帝国の調査隊や依頼を受けた冒険者が何度か挑みましたが、到達できたのはふもとまで。それ以上立ち入ろうとすると、命を落とすとか…。あの、まさかとは思いますが、魔の山に行くつもりではないですよね?」

フェリスは目の前の新人冒険者を心配そうに見上げてくる。勿論、そんな物騒な場所に出向こうとは思わない。…本当に話の通りだったとしたら、だ。

「安全に鉱石を手に入れるには、お金を貯めて貴族様の鉱山に入るのが一番のようだな」

「そう、そうです! ミズキさんももう冒険者なんですから、依頼を受ける事もできます。自分の体は大切にして下さい!」

強張った表情のフェリスだったが、安心したのか笑顔に戻り、お勧めの難易度の低い依頼を紹介してくれた。

日中はフェリスが勧めてくれた依頼をこなした。まさか創造主になって飲食店の皿洗いというアルバイト紛いの事をするとは思わなかった。

4時間働いて銀貨3枚という報酬だった。

夕刻に宿へ戻るとリアとシアが出迎えてくれた。

「お疲れ様でした、ミズキ様」

「ミズキさま、シアがマッサージします!」

ボクが腰を降ろすとシアが肩を揉んでくれた。孫に孝行されるお爺さんの気分だ。懸命に奉仕してくれる幼いシアの姿はとても和む。

笑顔のシアとは対照的に、リアは浮かない表情だ。大方、ミィとの勝負事を気にしているのだろう。

「リア、済んでしまった事は仕方ないんだ。いつまでも気にするな」

「しかし…私はミズキ様にご迷惑を…」

「迷惑をかけられたなんて思っていない。リアはボクを信頼してああ言ってくれたんだろう? だったらその気持ちに喜びこそすれ、嫌な気分にはならないさ」

「…ミ…ミズキ様…有難うございます…」

リアは懺悔ざんげの念を抱え込んでいたのか、それが解消されて思わず涙ぐんでしまっている。

しかし事が解決した訳ではない。確かにフェリスが紹介してくれた依頼は小金が入るし、何より安全だ。だがこのままではミィとの勝負に勝つ以前に、同じ土俵に立つ事が出来ないのだ。やはり鉱石を直ぐにでも手に入れる事だろう。

ボクは暫し悩み、立ち上がる。

「2人とも、ボクは少し出掛けるよ。今夜は帰れるか分からないから、先に食事して休んでいてくれ」

千里眼で何度か確認したが、やはり行くしかないだろう。あの魔の山へ…。

◆◇◆◇

リュアラの街を出たのは夕刻だったが、魔の山に到着する頃には夜空に月が浮かんでいた。

「風の精霊に運んでもらって飛んできたが、結構遠かったな…」

この世界に空を飛ぶ魔法が存在するのかは分からないが、これはとても便利だった。ボクに頼まれた精霊は張り切ってスピードを上げるが、新幹線並みの速さが出ていたかもしれない。それでもこの時間はまでかかってしまっていたが…。

フェリスの話は真実のようで麓まで来ても人の姿はどこにもなく、冷たい風が吹き下すのみ。このゲームにおいてプレイヤーの死は存在しない。凍え死ぬことはないのだがそれでも防寒具は用意するべきだったと後悔した。

ボクが一歩山に足を踏み入れると、急に天候が曇り、吹雪き始めた。

「タイミングが良すぎる。何かあると言っているようなものだな」

千里眼で既に把握しているが、この山に隠れ住んでいる生物はこうして侵入者を阻んでいるようだ。だがこの程度で調査隊らが引き返すとも思えない。まだ何かやってくるはずだ。

少し進むと空気が変わった。創造主の眼からすれば一眼で分かるのだが、空気中に毒素が入り込んでいる。常人が吸っても意識を失う程度だろうが、こんな吹雪の中で気を失えばその後は言わずもがな、だろう。だがこの毒は純粋な自然物から噴出した毒ではない。この世界でいう魔法で出現させたものであり、その証拠に毒を生み出している精霊が見える。

「悪いが、そこを通してくれ」

ボクの頼みに精霊は悩んでいたようだが、毒素を消して招き入れてくれた。道すがらその精霊に話を聞く。魔法の原理はまだ調べていないが、精霊の知識によると人が使用する魔法には2種類あり、1つが生まれ持った自身の大量の魔力を魔法に変換する方法。だが生まれついて魔力をもつのは稀なケースであり、人界では『天才』と称される存在となる。そしてもうひとつが少ない魔力で精霊に魔素を与え、魔法を発動してもらう方法だ。大気中にもたくさんの精霊が存在し、その手段も可能ではあるが場所によっては発動できない恐れもある。

後者の方法だと水気の少ない砂漠などでは水の精霊がいないせいで水魔法は使えないという事だ。

反対に前者の魔力もちであれば、精霊の有無を関係なく発動する事ができる。自身のイメージした魔法も使えることから、どちらが優れているか分かりきっている。

その精霊は魔素を与えられ、侵入者を阻む役割を頼まれたらしい。

千里眼でそいつの姿を確認すると、慌てた様子で「どうしよう、どうしよう」と転がっていた。

精霊と別れ、山の中腹に辿り着く。そこにあった洞窟に入り、暗闇の中を進む。更に温度は冷え込み、足元も見えない状況で移動速度が落ちる。

「…さっきの精霊の話、生まれ持った魔力もちなら精霊のいるいないに関係なく魔法を使えるって言ってたな」

冒険者ギルドで自分の魔力は莫大なものと判明した。それだけの魔力があれば、イメージした魔法も使えるかもしれない。ボクは目を閉じ、自分の体の気配を探る。

ボクの内在する魔力は莫大だ。使用する魔力には慎重にならなければならない。脆い極小の虫を摘むように、零よりもほんの少しの魔力を掌に浮かべる。イメージするのは明かり。この暗闇を照らすライトだ。

そしてカッと眩い光が走った。それは閃光のように激しく、一気に暗闇を消し去る。逆に明るすぎて周囲は真っ白になってしまっている。

「…これでもまだ強いのか。難しすぎるだろ」

確かボクの魔力は1億とちょっと。半分や4分の1、せめて10分の1程度なら力を抑える感覚は掴めるが、それ以下となるとコントロールが難しい。この世界にいるという天使や上位精霊の魔力は2500という話だったが、ボクの魔力からすると数万も千もあまり変わりはないのだ。

「これくらい…いや、これくらいか?」

掌にある魔力を更に少しずつ減らしていく。この微妙なコントロールは気を使う。これだけで精神的に疲れてしまいそうだ。

光を抑え、周囲をある程度照らす小さなライトになる。これくらいの魔力放出の感覚をよく覚えながら再び歩き出す。

暫く歩くと広い場所に出た。そこにいたのは人がドラゴンと呼ぶ巨大なモンスターだ。全身が硬そうな岩に覆われたその姿に、普通の冒険者であれば腰を抜かしたかもしれない。

…でも、千里眼でとっくに正体知ってるんだよな。

「ワレはこの地に巣食うモノなり。大人しく立ち去れ。去らねば…食ろうてやる」

緑の眼光で威圧するドラゴン。これがさっきまで「どうしよう、どうしよう」と慌て転げていた奴だと思うと、思わず笑いを誘われてしまう。

「キミに人を消化する胃袋はないだろ? それにキミの生活を脅かすつもりはない。その奥にある鉱脈に興味があるだけだ」

「…ならば後悔するがいい。踏み潰してくれる!」

ドラゴンが戦闘態勢に入った。その巨体に対し、ボクは魔力やMP以外はレベル1相当の数値しかもたない。正面から迎え撃つのは悪手というものだ。

体内の魔力を練り、身体能力の向上を図る。これで動きはなかなかのものになったに違いない。ドラゴンの動きをよく見て、攻撃を避けていこう。

…と考えていたのだが、ドラゴンは大口を開けて硬直していた。

「…どうした?」

「な、な、なんやその魔力は!? ありえへんやろ!」

ドラゴンはビシッとこちらを指差してツッコミを入れる。練る魔力は抑えたつもりだったが、まだ大きすぎたらしい。

「諸事情で魔力は人より多いらしい。それよりボクも聞きたいんだが、キミはなぜこんなところに? キミの種族が生活していたのは別の星だったはずだ」

「な…!?」

「確か…スリング星…いや、違うな。ストン星だったかな」

「そ、それ、ウチの星や」

ドラゴンの巨大な体は突然崩れ始め、その場に人型の生物が残った。ストン星という惑星の代表的な人種で、その体は全て石でできていた。ストン人の年齢は分かりにくいが、目の前のストン人はまだ若い。人換算で15歳くらいだろうか。

ストン人はこちらに駆け寄ってくる。髪は腰まで届き、顔の造形も細かなところまで表現されている。ストン人に服という概念は存在せず、裸ではあるがその見た目は芸術的な石像だ。

「ボクの名は瑞樹。詳しい話は出来ないが、キミの星の事は知っている」

「ウ、ウチはダイア。それより、何でウチの星の事知っとるん?」

「えっと…実はここだけの話、ボクもこの星の住人じゃなくてね。キミの星の事はこの星にやってくる少し前に知ってたんだ」

嘘は言っていない。

「そうなんや…。でもさっきの様子やと、ストン星が爆発したの知らんみたいやね。ウチは両親に脱出させてもろて、この星に堕ちたんや。他に生き残りが何人いるかも分からへん…」

ダイアはそう話し、顔を俯かせる。

ストン星に生命、つまりストン人が誕生したのは今から凡そ10万年前。まだ文化も存在せず、残りスキルポイントの少なさからその星に顕現する事はなかったが、生命体の誕生にはいつも喜ばされる。今回この星に自分と姿形が似た人間が誕生していたことから、こちらへの顕現を選択したが、ストン星も候補に入っていたのだ。

それにしてもストン星の爆発…まだ星の寿命には早かったと記憶している。

「原因は分かるか?」

「ううん、両親は何も教えてくれへんかった。それでウチはこの星に堕ちて100年、ずっと隠れてたんや。ウチみたいな姿したのはこの世界の人間からしたら討伐対象みたいやったし…たまに精霊に魔素あげて追い払ったりもしてたんや」

寿命よりも早すぎる星の爆発。
何かこのゲーム内で不具合でも起こっているのだろうか。

自分の知らぬところで、何か嫌な事が起こっている気がした。
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