囚われし創造主の遊び

白黒yu-ki

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第1章 始まりの創造主

#9 創造主、魔力量バレる

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冒険者ギルドのフェリスに鋼の剣のレシピを伝え、難易度Gの依頼を受ける。「子どもの遊びを教えてほしい」という依頼だ。この依頼内容のどこに冒険者要素があるのか疑問を抱くが、モンスター蔓延はびこるこの世界では一般市民は気軽に他の街に移動できず、情報も閉鎖的になるのかもしれない。仮に情報のやり取りをしても『遊び』なんてものの優先度は低くなるのだろう。

「…パッと思いつくのはリバーシ、将棋、チェス辺りかな。囲碁は…ルールが分からん」

面白い囲碁漫画を買った事はあるが、結局終始ルールが理解できなかった。

まずはリバーシを作るとしよう。ボクは悪目立ちを防ぐ為、街の外に出て周囲に人の目がない事を確認する。すると突然大地が盛り上がり、ダイアが現れた。

「…ダイアか。どうやってここに?」

「んっとな、宿屋の庭の地面からここまで潜ってきたんや。ウチにとって地面って、人でいう水中みたいなもんやしな」

思わずモグラを想像してしまう。

「そんで、ミズキはこんな所で何しとるん?」

「ちょっと実験をな」

ボクは大地に両手をつき、少量の魔力を流す。地中に存在する鉱石を汲み上げるイメージを浮かべると、大地から鉱石が出現した。ボクはそれを手に取り眺める。うん、良い磁鉄鉱だ。

「なぁ、ミズキ。そないに簡単に土魔法使われるとウチの立つ瀬が無いんやけど…。ウチに頼んでくれたら、どんだけでも作ったるに…」

「そうだな、今度作る時にはお願いするか」

呆れた表情のダイアにボクはそう頼む。確かにボクの魔法は我流もいいとこだ。ストン人なら石や土のエキスパート。今度からこれ系の生成はダイアに頼むとしよう。

お次は地面に置いたその磁鉄鉱に向かって別の魔法を流す。ボクの掌が光った瞬間、周りの空気が膨張した。

眩い程の閃光と「ゴロゴロゴロ」という雷鳴。あまりの衝撃にダイアは腰を抜かしていた。

「…ミズキ、今雷走ったで?」

「そういう魔法をイメージしたからな。でもこんな至近距離で使うと心臓に悪いな。今度から閃光と雷鳴対策してから行うよ」

「…魔法って、イメージしただけで使えるようなもんやないんやけどね」

ダイアの呆れた視線が痛い。だが当初の目的は達成したはずだ。ボクは再び魔力を流して真空の刃を放ち、磁鉄鉱を切断する。2つに別れた磁鉄鉱は離れる事なく、カチリとくっついた。どうやら思惑通り磁石になったようだ。

「よし、これでマグネットのリバーシが作れるな」

「何か知らんけど、おめでとう?」

ボクはその磁石を持って街に戻る。ダイアは体を小さくしてボクの胸ポケットに入っている。事情を訊ねるダイアにボクは「子ども向けのゲームを作る為」と伝えると、やり過ぎだと怒られてしまった。

冒険者ギルドでリバーシを製作しようと向かっていると、ギルドから慌てた様子でクリスたちが出てきた。ブリットや他の冒険者たちも一緒だ。

「やぁ、クリス。フェリスからレシピは受け取ったか?」

「…ミズキ、その件は後だ。今さっきとてつもない魔力が放出されていたのだが、キミも気付いたか? 強力な魔獣や魔族の可能性もある。これから街の周囲を見回るのだが、キミも協力してくれないか?」

強力な魔力…か。街の近くにそんな危ない存在がいるのなら放ってはおけないな。何ができるか分からないが、ボクも協力するとしよう。そんな事を考えていると、胸ポケットに隠れているダイアに胸を突かれた。そちらに視線を落とすと、ダイアがこちらを指差している。

「………あ」

ボクか!?

この騒動の原因は自分だと気付く。先程磁石を作るのに魔力を流した。一応僅かな量にするよう気を配ったのだが、一般的な魔力量を知らない自分にとってそれは難しい。

どう説明するべきか…この中でも僅かながらでも事情を知っているブリットに視線を合わせて訴えかける。初めはこちらの表情に何事かと理解してもらえなかったが、何かに気付いたように目を見開いて大口を開けた。どうやら察してもらえたらしい。ブリットはどう説明するべきか頭を掻き、冒険者達に向き合った。

「あー…済まない、オレが失念していた。オレの考えた街の防衛結界の実験の為、ミズキに幾つか魔石を渡していてな、その魔力だったのかも知れん」

罰の悪そうにブリットは彼らにそう説明する。しかしサラサは納得していないようで、ブリットに訊ねる。

「しかしあの魔力量は明らかに異常でした! 魔石を幾つか使ってもあの量に届くとはとても思えません!」

「…う、うむ、だがな、オレが調合した魔石だ。偶然が重なって強力な魔力量になったのかもしれん。詳しい話は後でしてやる。皆も済まないな。そういう訳で解散してくれ」

ブリットの説明に冒険者達は「なぁんだ」と肩透かしをして散って行った。お言葉に甘えてボクも解散しようとすると、ブリットに頭を掴まれてしまった。

「おっと、お前には聞きたい事がある」

ブリットはボクの頭を掴んだ状態でクリス達と向き合った。あわよくば逃げ出そうと思ったが、現実は甘くない。

「ミズキ、サラサはこれでも高位の魔術師だ。オレのあんな説明では納得させられん。こうなったらお前の話をさせてもらう。いいな?」

「拒否権は…無いのだろうな」

「当たり前だ」

冷たく言い放つブリットの言葉に、ボクはため息をついて肯いた。

◆◇◆◇

ブリットのギルド長室。
そこでクリスとサラサにボルクス、ブリットとボクがテーブルを挟んで座っていた。ボクの胸ポケットに隠れているダイアには皆気付いていないようだ。

「説明をしてもらおうか!」

サラサが開口一番ボクを睨み付けてくる。ボクに対する彼女の親愛度はマイナスになっているようだ。

いきり立つサラサを制し、ブリットが机の引き出しの中から用紙を一枚取り出し、テーブルの上に置いた。

「こいつはミズキが冒険者になった時に測った能力値シートだ」

「え…」

クリス、サラサ、ボルクスの3人はその数値を見て硬直した。いつかのフェリスと同じ反応だ。

サラサはその能力値シートを手に取り、思わず覗き込む。

「ま…魔力量…1億…超え…?」

「オレが作った能力値シートだ。間違いない」

クリスとボルクスの信じられないという感情が内包された視線がボクを射抜く。

「ミズキ…キミは一体…何者なんだ…?」

「…自分でもよく分からん。どういう存在なんだろうな」

この世界にとっては自分は神になるのだろうか。だがここで「神様です」と話すのは勘弁してもらいたい。この世のあらゆるモノを創造してはいるが、自分が「神」だという実感はない。

ボクはこのゲームにとってただのプレイヤーに過ぎないのだ。

そんなボクにブリットはため息をつき、他の新しい能力値シートを取り出した。

「ミズキ、お前は自分がどれだけ異常なのかという認識が甘い。これからオレ達の能力値を見せてやる。自分のと比べてみるといいだろう」

ブリットはそう言って能力値シートに血を一滴垂らす。クリス達も同様に能力値を見せてくれた。

ーーーー
名前:ブリット・アルスマン
レベル:35
HP:410
MP:60
力:155
素早さ:98
タフネス:162
魔力:95

総合ランクA-
ーーーー
名前:クリスウォルト・シアンダイト
レベル:25
HP:224
MP:74
力:78
素早さ:112
タフネス:75
魔力:145

総合ランクB
ーーーー
名前:サラサ・ラズリス
レベル:22
HP:94
MP:320
力:35
素早さ:97
タフネス:40
魔力:350

総合ランクB-
ーーーー
名前:ボルクス・ディーガ
レベル:28
HP:326
MP:0
力:128
素早さ:64
タフネス:110
魔力:8

総合ランクC+
ーーーー

「オレは元帝国の兵士長だった。今は現役を退いてリュアラでギルド長やってるがな。これでも帝国一番の兵士だった。そしてクリスは王族だ。王族は生まれつき魔力の総量が高い。そして高位の魔術師であるサラサでも魔力値は350。これらは人の中でも高いレベルなんだが、これでお前がどれだけ異常か分かったろう?」

「…ああ、それは理解したよ」

そこは認める他ない。そんなボクにサラサは未だこちらを睨み付けていた。

「私は…幼少の頃より魔法の修練を積んできた。私の経験値は決してお前に劣らないはずだ。なのになぜこれ程の差が…」

サラサは未だに納得していない様子だ。だが魔力が創造主としてのスキルポイントと同義であるならば、ボクの経験値は100億年近い。この世界を生きるどんな者にも勝るのは間違いない。

「…魔力は多いかもしれないが、コントロールが下手なんだ。魔力量の調節が苦手で、先ほどもほんの僅かな魔力を流したつもりだったのだが…魔法はまだ素人同然だ」

「…ハハッ、それだけの魔力量だと苦労するだろうね。いつから練習してるんだい?」

苦笑い気味のクリスの質問にボクは初めて魔法を使った時の事を思い出す。最初に魔法っぽいのを使ったのはリア達と会った時か? でもあれは水の精霊に頼んだだけで、自分が何かしたという実感はない。魔法としてイメージしたのは魔の山で使ったライトが最初だろうか。

「初めて魔法を使ったのが一週間ほど前か。でもそこから数える程しか使ってないな」

ボクのその言葉を聞き、全員が口をあんぐりと開けていた。

「…くっ…クワッハッハッ! もうここまでくると呆れるな。とんだ変態だよお前は!」

大笑いするブリットに、ボクの胸ポケットに隠れているダイアも「うんうん」と肯いていた。

ブリットにつられ、クリスも笑い出す。

「ハハハッ、そういう事なら魔法の手解きをサラサから受けるといい。彼女は優秀な魔法指導者だからね」

「え、あ、あの、クリス様!?」

「頼んだよ、サラサ。彼に魔力のコントロールを覚えさせないと、どんな被害がもたらされるか予想も出来ない。大丈夫、キミが教えるならボクも安心して任せられる」

笑顔でそう対応するクリスに、サラサは拒否できず慌てている。そしてキッとこちらを振り返り、「あなたのせいで…」と恨めしそうに睨みつけてきた。

なぜだ。
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