囚われし創造主の遊び

白黒yu-ki

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第1章 始まりの創造主

#13 創造主とマイホーム

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人間と魔族が共に手を取り合い生きていける世界…レミーにはそう言ったが、具体的な方法は未だ思い付いていない。

ボクは具体案を思惑しながら、リュアラの街が一望できる丘で横になった。

バウムの死は包み隠さずクリスに伝えた。魔族の手にかかった事、バウムが魔族の奴隷に酷い事をしていた真実も伝えると、あの温和なクリスが怒りを露わにしたのだ。

「貴族の行いは我ら王族の責任でもある」

クリスは少し考え、今回の事件を魔獣の襲撃によってバウムは死亡したという報告書を作成すると言った。

「良いのか?」

「今回の非は人間側にある。父王の制定した奴隷制度の被害者だ。息子である私にも責任はある」

この帝国に存在する奴隷制度も、クリスは嫌っているらしい。クリスが王になってくれれば、この国も少しは生き易くなるのだろうか。

「だが魔族は脅威だ。再び人間を襲わないとも限らない。守りは固めておいた方が良いかもしれぬな」

「…あー、その件なら問題ない。そこで痛い目に合わせて大人しくなったから」

その時のクリスの呆れたような表現が忘れられない。事実、気絶から覚めたヴァイスはボクにとって従順な執事と化した。

「ミズキ様、お飲物をお持ちしました」

ひとりでのんびり休んでいたというのにこの様子だ。ボクは苦笑して体を起こし、ヴァイスから飲み物を頂く。

「…これは、お茶か? この世界では初めて飲んだな」

「魔族の領土では一般的な飲み物です。お口に合えば宜しいのですが」

「うん、美味しい。やっぱり日本人ならお茶だ」

「…ニホン…ジン…とは何でしょうか?」

無知な自分をお許しくださいとでも言いそうな表情のヴァイスに、ボクは「気にするな」と笑ってリュアラの街を眺めた。

「ヴァイス、まだ人間は憎いか?」

「……」

ボクのその問いにヴァイスは口を紡ぐ。それは「憎い」と答えているも同義だ。

「確かに人間の中には…バウムのような人間もいる。でもそれだけが全てじゃない。魔族相手にも優しく接してくれる人間もいる。ボクが、これから増やしていく。その時にヴァイスの気持ちが変わっていたら嬉しいな」

「…レミーから聞きました。ミズキ様は人と魔族の架け橋になろうとしていると。しかしそんな面倒な事をせずとも、ミズキ様が全てを支配すれば良い事では?」

それもひとつの手ではある。だがボクは、全て自分の思い通りになる箱庭を再現したい訳ではない。この世界に生きる者たちに共存の可能性を委ねたいのだ。ボクは「それは最終手段な」と苦笑して伝えた。

それよりも今考えないといけないのは住居の件だ。ボクやリア達は宿を利用すれば良いが、魔族をリュアラの街に出入りするには時期が早すぎる。第一、ヴァイス達が嫌がるだろう。そんな訳で、街の外に家を作る事にしたのだ。

「ミズキー、リア達連れてきたでー」

ダイアが手を振りながら駆け寄ってくる。その後ろにはリアとシアが辺りを見渡しながら歩いていた。

「リア、シア、ボクの隣にいるのが新しい仲間のヴァイスだ。仲良くしてやってくれ」

「…人間め…」

「ヴァイス、めっ!」

「うぐっ」

ボクに叱られたヴァイスは肩を落とす。

「ヴァイスは魔族だけど、変な目で見ずに接してやってくれると嬉しい」

「ま、魔族…ですか?」

リアの目に、明らかに怯えが見えた。これが普通の反応なのだろう。そこでボクはリア達に自分の夢を語る。人間と魔族の共存。普通の人には夢物語に聞こえるその話に、リアは最後まで耳を傾けてくれた。

「…ミズキ様って、本当に凄い人ですよね。ミズキ様なら実現できるって信じます」

「なんだ、人間。ミズキ様の凄さに今更気付いたのか? 鈍感な種族め」

「むぅ、私は初めてミズキ様と会った時から凄いって思ってます! ミズキ様は私にとって王子様です!」

「フッ、甘いな。ミズキ様は私にとって魔王様だ!」

人間と魔族の共存。その垣根は意外と低い気がしてきた。

「ヴァイス、他の人たちはどうした?」

「…レミーは例の子どもを家族の元に届けに行きました。他の部下は周囲の警戒をしております」

部下というのはあの時の集団か。あの時の老人でさえ並みの冒険者以上の実力というのだから驚きだ。そんな実力者が辺りを見張っているのなら、自宅作りの最中に魔獣の類に邪魔される事はないだろう。

「そんな訳で、今からここにボクらの家を作りたいと思う」

ボクのその発言に、リアは「自分たちで…ですか?」と不安そうな表現を浮かべた。職人でもいれば話は変わってくるだろうが、ボクらは皆建築に関して素人だ。その不安も分かる。

だがこの世界には魔法がある。何とかなりそうな気がするのだ。

まずは住宅に使用する木材の準備をする事にしよう。自分の中で理想とする条件は水、湿気に強く、抗菌作用もあって虫除けも兼ね、尚且つ耐久性と強靭性に優れた木材だ。それらをイメージし、大地に魔力流す。

シアは『木』の属性もちであったと聞いた。そのような属性があるのならば、今から行うコレも可能のはずだ。

ボクの魔力を吸い、大地からピョコッと小さな芽が出た。もっと大きな木が生えるのをイメージしていたのだが、魔力が少な過ぎたか?

改めて魔力を追加しようとしたところ、地鳴りが響き、小さな芽は一瞬で山よりも大きな巨木と化した。これはアレだ。魔力が多過ぎたんだな。

「でも住宅用の木材としてはイメージ通りのはずだ。さて、少しばかり切り落とすとするか」

ボクが巨木に向き合おうとしていると、驚いた表情のヴァイスが「ユグドラシル…」と呟いた。ボクは彼に視線を向ける。

「何だ、この木はこの世界で普及している植物だったのか?」

「い、いえ! ユグドラシルとは別名を世界樹といい、魔族に伝わる神話の中にのみ存在する神聖樹です。まさか…ミズキ様がユグドラシルを生み出す事も可能であるとは…このヴァイス、部下としてミズキ様に仕える事のできる喜びに涙を隠しきれませぬ!」

「…部下じゃなくて仲間で良いって言ってるんだがな」

ボクは改めて巨木を眺める。これが世界樹か。ゲームの世界では何度かその単語を目にした事はあったが、伝説級の巨木をも生み出してしまう自分の魔力が恐ろしい。しかも『創造』の力を使わずにこれだ。そのレパートリーの中にはこのユグドラシルと呼ばれた巨木よりも優れた植物も数多く存在する。世界から神を排除した方が世の中は平和になるのではと考えてしまう。もっと力を抑えた方が良さそうだ。

「先に風呂も作っておくか。風呂…温泉でもあるといいと思うのだが…」

ボクは大地に手をついて魔力を流す。魔力は地中深く浸透していく。1000メートル…2000メートル潜ってもそれは発見できなかった。この場所に源泉は無いのかと諦めかけた時、3000メートル地中で手応えを感じたのだ。

「見つけた!」

ボクは魔力でそれを引き抜く。リア達はボクが急に叫んだ事に驚いていたが、その直後、大地が震え始めた。

大地が割れ、その場から温泉が吹き出したのだ。そしてボクはすぐに足元の地中の硬質化を行った。これで温泉が大地に漏れてしまう事もないだろう。

「後はポンプを作って設置すれば…自由に温泉を汲み上げられるようになるか。ん…皆どうした?」

不意に視界に入った呆然とするリア達。ああ…どうやらまたやり過ぎてしまったようだ。加減が分からん。大量の魔力のコントロールが出来るようになれば普通に生活する事ができるのだろうか。

「ダイア、ここに浴場を作る。ストン星にもあっただろ? ダイアの土魔法で頼むよ」

「…おー、ミズキの魔法の後やと、ウチの土魔法も霞むなぁ…」

大地が魔力の波動を受けて形を成していく。5分も経つ頃には立派な浴場が完成していた。後はシャンプー、リンス、ボディソープ…といったところか。これに関しては具体的な製造法は知らない為、創造することにした。

それから僅か5時間、途中から参加したヴァイスの部下達の尽力もあり、巨大な館が出来上がった。ボクは程々の大きさで良いと言ったのだが、ヴァイスの「ミズキ様に相応しいお住まいを!」と巨大化していったのだ。

その頃、リュアラの街では激しい地震と一瞬にして誕生した巨木で騒ぎになっていたのだが、後に事を起こした張本人としてブリット達に呆れられてしまうのだった。
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