囚われし創造主の遊び

白黒yu-ki

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第1章 始まりの創造主

#15 創造主とサラサの思い

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その日のボクの世界は少し違った。
頻繁に目が回ったり頭痛がしたり喉が痛くて寒気が治らない。一体何なんだこれは。

「風邪やん」

自分の部屋のベッドで横になりながら震えるボクに対し、ダイアは冷静に言い放った。

「それにしても驚いたなぁ。でも安心したわ、ミズキも普通の人間なんやなって」

「…お前がボクの事をどう思ってたのかはよく分かった」

実際のところ、ボクも自分が風邪をひくとは思ってもみなかった。創造主になって約100億年。その期間一度も病気になった事がなく、創造主に病気は無縁であると思っていたのだ。虚無空間と様々な大気が含まれているこの星では環境も異なる。虚無空間では病気になる原因が存在しないという単純なものだったのかもしれない。

「強大な魔力もこうなってしまっては形無しだな」

部屋に入ってきたレミーがそう言い捨てた。そうなのだ。体調不良のこの体はいつもと感覚が違う。なので上手く魔力を練り上げられず、自身の治療が行えなかったのだ。無理すれば出来ないことはないと思うが変に暴走されても困るし、今回は普通に治すことにした。

「やぁ、レミー。ヴァイスはどうした?」

「ヴァイス様なら急遽魔族領へ飛んで行かれた。ミズキ様の為に万能薬を手に入れてくると息巻いてな」

「それはそれは、面倒をかけるな。ん…その手に持ってるのはお粥か。わざわざ作ってくれたのか?」

「か、勘違いするな! これは…そう、そうだ。料理のレパートリーを増やす為に戯れで作っただけだ。棄てるのも勿体無いし、くれてやる!」

慌てる様子のレミーは見ていて微笑ましかった。

「食べたら器はそこに置いておけ! 私はリア達と共に薬草でも探してくるとする。いいか、大人しく寝ているんだぞ!」

レミーはそんな調子で部屋を出て行った。どうやらリアやシアとは衝突する事なく、それなりにやれているらしい。リア達の奴隷であった過去を聞き、魔族の幼子の姿を重ねたのかもしれない。

「あの姉ちゃんは…可愛げないなぁ」

「そうか? あれもレミーの魅力だとは思うがな」

「ミズキはああいう素直やないのがタイプなん?」

「タイプとかそういうのじゃないが…惹かれる要素ではあると思う。さて、せっかくレミーが病人食を作ってくれたんだ、冷める前に頂くとしよう」

ボクはこの世界で初めての米への喜びも噛締めつつ、ゆっくりと咀嚼する。レミーの作った粥は優しい味だった。

◆◇◆◇

先日よりクリス様は貴族バウムの報告書作成に勤しんでおられる。ボルクスはブリット殿の依頼を受け、低ランクの冒険者を引き連れて魔獣退治に向かった。メインは低ランク冒険者の腕試しだが、引率として高ランク冒険者もパーティに含めるのもセオリーだ。

私にクリス様のお手伝い出来ることはなく依頼掲示板を眺めていると、フェリス殿が私に声をかけてきた。

「あの、サラサ様。少し宜しいでしょうか?」

「私なら構わない。どうかされたか?」

「実は…先ほどリアさんが来られて風邪に効く薬草の在り処を聞きに来られまして…どうやらミズキさんが体調を崩されたようなのです」

「あの男が…風邪?」

あの男にも普通の人間のような一面があったのだと私は胸の内で苦笑した。

「…はい。それで私お見舞いに行きたいのですが、仕事は抜けれないしリュアラの外を平気で歩ける程の腕もないので、お見舞いの品を届けて頂きたいのですが…やはりご迷惑ですよね」

フェリス殿は残念そうな表情を浮かべ、俯いた。正直な事を言うと、今はあの男の顔を見たくない。だがフェリス殿は昔から世話になっている人だ。その頼みは無下には出来ない。私は無理矢理表情をつくり、フェリス殿の頼みを引き受けた。

リュアラの街を出てすぐに目に入る山よりも大きな巨木。その根元にあの男の家がある。あの巨木も魔力で生み出したと聞いた時は、魔力の定義を見失いそうになった。あの男はつくづく、規格外なのだ。

途中グリーンワームという2メートル程の虫型の魔物に襲われたが、炎の魔法で一蹴した。この程度の魔物は私の敵ではない。この国一番の魔術師であるという自負はあったのだ。…あの男と出会うまでは…。

ミズキの家に到着する。だがなかなか戸へ手が伸ばせなかった。それはあの男に会う事への葛藤か。

「何か御用かね」

「!」

私は思わず飛び退いた。そこには以前バードンと呼ばれていた老人が立っていた。ミズキの話によると、この老人も魔族だという。私はこの老人の気配に全く気付けなかった。あの瞬間いつ殺されてもおかしくなかったのだ。魔族であるならば、それくらいは容易く行えるのだろう。

私は震える腕で果物の入ったカゴをバードンに見せた。

「…知人からの見舞い品の預かり物だ。ミズキに渡して頂きたい」

だがこれであの男の顔を見なくて済むと思うと、少し救われた気分だ。だがバードンはいつまでもそれを受け取ろうとしなかった。

「あの…?」

「せっかくお越し頂いたんじゃ。少し上がって休んでかれるが宜しかろうて」

バードンはそれだけを言い残すと、煙のように姿を消失させる。そしていつの間にか戸が開け放たれていた。

私は覚悟を決めて中に入る。
玄関口にはバードンや他の者の姿もない。誰もいないのか、それとも単に私が彼らの気配を探れないだけであるのかは分からなかった。

ゆっくりと廊下を突き進み、戸の開いていた部屋を覗き込む。その部屋であの男は眠りについていた。

「…他の者は外出中なのか」

私は部屋の中に入り戸を閉める。そしてベッドへ近付き、ミズキの顔を見下ろした。未だ熱があるのか息苦しそうにうなされ、汗もかいている様子だ。

この男と初めて会った時は、クリス様に無礼な態度をとる愚か者だと思った。

次に顔を合わせた時には、圧倒的な魔力量を見せつけられた。

魔法を教える立場になるが、異常な数の並行魔法を見せつけられ、才能の違いを見せつけられた。

そして貴族であるバウムを殺害した魔族を、ミズキは簡単に制したという。魔族とは人間の能力と根本的に違う。生まれ持った強大な魔力に、戦闘に特化した肉体。魔族が1人送り込まれただけでも、国内に大きな被害が出るのは間違いないのだ。魔族は脅威。だがそれを簡単に制すミズキの脅威は魔族の比ではない。

それでもミズキは人間だ。魔族とは違うと思い込んだ。しかしミズキは人と魔族の共存を謳い始めた。そしてその手段として新たな国の建国も視野に入れたのだ。そこで私は気付いた。この男には愛国心がない。自身の理想の為であれば、この国を脅かす危険もある。そんな危険人物が、今私の目の前で無防備な姿を晒しているのだ。

私は懐から短剣を取り出す。

もしミズキを殺したら、クリス様からお叱りを受けるだろうか。禁固刑に罰せられるかもしれない。いやその前に、ミズキの仲間だという魔族に殺されるのが先か。どのみち、私は国の為に命を捨てる覚悟はとうに出来ている。

だが、なぜこの手は震えているのだ。私は恐れているのだろうか。自分の死を? いや、違う。私のこの覚悟は確固たるものだ。ならば何故…。

私は改めてミズキの顔色を窺う。ミズキの目が、薄く開けられていた。私はすぐに短剣を隠す。

「…サラサ…か? どうしてここに?」

「…フェリス殿から見舞い品を預かった。それだけだ」

私はミズキの顔を見れなかった。殺意を抱いた相手に、どのような顔をすれば良いのか分からなかった。

「…ミズキ、お前に聞きたいことがある。お前はどこの生まれだ。家族はどうした?」

ミズキの愛国心の無さ。それはその辺りに関係があるのかもしれない。私は目を合わせないまま、ミズキにそう訊ねた。ミズキは少し考えていたようだったが、ゆっくりと話し始めた。

「もう…生まれ故郷は存在しない。ボクの生まれは地球。だが、もうとっくに滅んでいる」

チキュウ…聞かない名前だがどこか地方の村であろうか。滅んでいるという事は魔獣等の襲撃があったという事か?

「…家族はいない。ボクが幼い頃、両親は事故で亡くなった。身寄りのいなくなったボクは施設に送られ、16になった時にその施設を出て1人で生きてきた」

ミズキが天井を見上げていた。恐らく、当時の状況を思い出していたのだろう。私は勘違いをしていた。私は今までミズキを規格外の天才だと思っていた。あの魔力があれば苦労もなく生きてきたのだと…。だけど違ったのだ。ミズキは誰よりも辛い経験をしていたのだ。

ミズキは私が悲しそうな表情を浮かべていたのに気付き、背を向けた。

「…熱で頭が働いていない。こんな身の上話をするつもりはなかった。忘れてくれ」

「…いや、無遠慮にお前の過去を聞いたのは私の失言だった。謝罪しよう」

それからどれだけ時が過ぎだろうか。ミズキの寝息が再び聞こえてきた。私はそっとミズキの顔に手を伸ばす。肌は熱く、未だ高熱に苦しめられている事が分かる。

「お前が…この国にとって危険因子である事は変わりない。変わりないが…今後も傍にいてお前を見定めさせてもらう事にする」

私はミズキの髪を撫で、笑みをこぼした。

◆◇◆◇

サラサが帰り、バードンは屋根の上に姿を現した。そこにはダイアも腰を据えていた。

「サラサの姉ちゃん、ミズキに不信感もってるって聞いてたけど、どうやったん?」

「危ういところもございましたな。まぁ、あの短剣の切っ先を少しでもミズキ様に触れさせていたら、即座に私があの人間を殺しておりましたよ」

怪しく笑うバードンに、ダイアは呆れて笑う。

「ミズキが傷つけられるんも嫌やけど、知り合い…あの姉ちゃんはミズキとってもう仲間って言っていい程の仲やと思う。そんな仲間が殺されたら、ミズキはきっと怒るし、哀しむんやないかなぁ」

「…ミズキ様は優しいお方故、人間と魔族の共存を謳われた。この道は敵が多いじゃろうが、ミズキ様ならやり遂げると信じたい。願わくば、私の生きている間にその世界を見たいものですな」

ダイアとバードンは遠ざかっていくサラサの姿を見送りながら、ミズキの夢に思いを馳せた。
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