青の嬢王と勿忘草

咲月檸檬

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真実の愛。母の気持ち。

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 私が公園に着くとエイジさんはタバコを吸って待っていた。

『エイジさん』

私が声をかけるとエイジさんは私に駆け寄った。

「そんな急いで来なくても大丈夫だったのに。そんなに会いたかったの?」

エイジさんのその笑顔はとても可愛かった。

『待たせたら悪いと思って…』

「もう可愛いなぁ。」

そう言うと私のおでこにキスをした。

『なんでそんな事…私彼氏いるんです。』

「でもさぁ俺のこと少しでも気になるんでしょ?」

気になる…。

なんか吸い込まれていく感覚に近い…。

『碧の事教えてくれるんじゃ…。』

「え?そんな事言ってないよ?」

『確かに…じゃ何んで?』

「本当に君のこと好きになっちゃったんだ。だから君も好きになってよ?もっと俺に夢中になって?」

『でも私には淏が…』

「彼氏ってさっきいた男なの?」

やばい

これは知られない方が良かったかな。

エイジさんは私を強引に抱きしめた。

「君を幸せにするよ?君を愛すから…。だからそばにいて?」

まただ。

吸い込まれていく。

気づけば私とエイジさんは何度も何度もキスをしていた。

私の心には《夢中になりたい》って気持ちと《淏になんて言ったらいいんだろう。》という気持ちでぐちゃぐちゃになっていた。

そしてこの日私は未来の部屋にもどることは無かった。

淏…ごめんね

この気持ちが何なのか私には分からなかった。

ただこの事は誰にも知られたくない。

朝方私はエイジさんの家を出た。



  私が未来の部屋に戻ると未来は起きていた。

『ただいま。遅くなってごめんね。』

「心配した。どこに行ってたの?」

『大学の友達と会ってそのままその子の家に泊まっちゃった。心配かけてごめん。』

秘密を持つってこういうことなんだ…嘘ついて隠すってこんなに辛いんだ…。

「今度から連絡ぐらい頂戴よ。」

『うん。私少し眠いから寝るね。』

「わかった。おやすみ。」

私が眠りにつくと夢に碧が出てきた。

『碧?』

「あんたも中々やるねぇ。友人の兄と元ホストの二股なんて。」

碧はニコニコ笑いながら言った。

『二股なんて…。』

「だってエイジとキスしたんでしょ?」

『何でか分からないの。淏が好きなのになんでキスしちゃったんだろう…』

「後悔してるの?じゃもうエイジと会わないの?」

『……………分からない。』

「なにそれ。」

また碧は笑った。

『また会いたいと思うって事は私エイジさんの事好きなのかな?』

「私から見たらあれはただエイジの気持ちに流されただけでしょ?逆に言えば私のお兄ちゃんへの気持ちがその程度ってこと。」

『違う!私は…』

「あはははは」

碧は高笑いしながら私の夢から消えていった。

最後の碧の言葉には言い返す事が出来なかった。

自分の気持ちを整理したい。

淏とは少し距離を置こう…。

私は目を覚ますと未来が私の隣で寝ていた。

未来…きっと寝ないで私を待っててくれたんだ…。

淏に言わなきゃ…。

エイジさんへの気持ちは分からないけど、淏の事が好きなのは分かってる。

私の中で淏が1番特別なんだ…。

嫌われてしまうかもしれない…でも黙っていたら淏が傷付く事になる…。

やっぱり淏に言わないと…。

私は淏をホテルのカフェに呼ぶ事にした。

私が部屋から出ようとしたら未来が言った。

「どこに行くの?」

『ちょっと淏と会ってくる。』

「そんな急ぎなの?」

『淏にどうしても言わなきゃいけない事があるんだ…。』

「ふーん。まぁいいけど…。」

納得しきれていない未来と別れ私は、淏と会うカフェに向かった。



  私がカフェに急いで行くとまだ淏は来てなかった。

私は席に着き淏を待っていたら、淏は割と早く来た。

「おはよう。こんな朝早くどうしたの?」

『私淏が好き。でも私昨日淏を悲しませる事をしてしまったの。』

私の発言に淏の顔色が変わったのが分かった。

凄く怖い…でも言わないと。

『昨日淏と別れた後エイジさんに会いに行ったの…。私だけに言いたい事があるって呼ばれて、私碧の事を教えてもらえると勘違いしてしまったんです。エイジさんはそんな事言ってなかったのに…。』

「それで?」

『エイジさんに告白されました。私には彼氏がいると断りましたが、勢いでエイジさんとキスしてしまったんです。ごめんなさい。』

私が言い終わると淏は黙り込んで下を向いてしまった。

許してもらえないかもしれない…でも黙っておく訳にはいかない…。

『淏…許せないよね…許してもらえないんじゃないかと思ってたんだ…。』

「許せない…とは思わない…でも混乱はする。だから少し考えさせてくれ…。」

『考えるって…。』

「これからの2人について…。」

『そうですよね…』

「聞きたいんだけど、咲乃はエイジの事どう思ってるんだ?」

『今まで会った事のない不思議な人だと思ってます。』

「それは恋愛的な意味で好意に思ってるって事なのか?」

『それとは違うと思います。私が好きなのは淏だけで…』

「じゃなんでキスなんてしたんだよ‼︎」

淏は少し大きな声でそう言って私にiPadを渡した。

「これは碧のiPadだ。警察から借りて来た。未来ちゃんに解析頼む。少し考えたい。」

そう言って淏は去って行った。

私は淏の背中を見つめる事しか出来なかった…。

視界がぼやけて、息がつまる…。

私は声を殺して泣いた。

私に泣く権利なんてない…。

すると足音が近づいて来るのを感じて、その方向を見たらそこには樹さんがいた…。

『どうしてここに?』

樹さんは小さくため息をついたて、さっきまで淏が座ってた席に座った。

「なんでだと思う?君達を手伝えだって、君に裏切られてもあいつは君のことが心配なんでってさ。」

『淏が私を?』

「この席をたった後淏は君の泣く姿を俺と見てた。ちなみに俺はずっと見てた…。」

『そうなんですか…』

こんな私なんかをなんで…。

当たり前だけど淏は怒ってた…

「しばらくの間俺と君と未来ちゃんは碧の事を、淏は碧ちゃんの店のパソコンの行方とダイスケの事を調べるらしい。」

『淏は1人で大丈夫ですかね?』

「警察として動くから1人じゃないよ。君が今できる事は淏を信じることだよ。それと3人でこのiPadの日記の謎を解く事くらいじゃない?」

『日記って…碧の日記ですか!?』

「うん、でも事件に関することは書かれていなかったらしい…ただ淏はそう思っていなかったんだ…だから警察から借りて来た…でも2日程度しか時間はないらしい…だから今は急ごう。」

そうだ…

私のできる事を淏の為にしよう…。

『分かりました。早速未来のとこにこれを届けてきます。その間私達は碧の金銭について調べませんか?』

「金銭?」

『はい。今回の事件を追っていて私はずっと疑問に思っていました。どうして碧はそんなにお金に困っていたのか…。』

「それはホストの所為じゃないか?」

『私も最初はそうかなと思いました。でもそれは多分違います。あの2人に協力してもらい店でお金を稼ぐ事を目的に、ホストに通っていたんだと思います。だからその前からお金に困っていたのではないかと私は考えています。』

「なるほど…確かにそう考えると碧がお金に困っていたのはおかしいな…。」

『碧のお父さんは政治家で、お兄さんは警察で、生活の面でお金には困って無かったと思います。』

「家族にも誰にも言えない事でお金に困っていた…。」

『はい。』

「それで?俺らはどんな風に調べるんだ?」

『とりあえず私は未来にこのiPadを渡して来ます。』

「わかった。待ってる。」

私は未来の部屋へ向かった。

『未来!頼みがあるんだけど!』

私が勢いよく部屋に入ると未来は歯磨きをしていた。

終わるまでおとなしく待っていると未来はあくびをしながら私の所に来た。

『このiPad碧のらしいんだ。この中の碧の日記を調べて欲しいんだ…。警察も解読不可能らしい。』

「わかった。」

『2日くらいしか借りれないから急いで?私はこれから樹さんと碧の金銭関係を調べてくる。』

「淏さんは?」

さっき淏と何があったのか未来に全部話した。

未来は凄く驚いていた…。

「まぁ確かに今は淏さんをほっておくしかないね…。」

『うん。』

「分かった。取り敢えずやってみるよ。」

『ありがとう。』

私は樹さんと捜査を始める事になった。

樹さんの車で私達はホテルを出た。

「それで?これからどうする?」

『取り敢えず碧のお母さんに会いに行きたいです。』

「じゃその間俺はフラワークラブの客について調べるよ。」

『分かりました。』

こうして私達は碧のお母さんの所に向かった。



  私を碧の実家に下ろすと樹さんは近くに車を止めた。

どうやら車の中で作業をするらしい。

私がインターホンを鳴らすとお母さんが出た。

『こんにちわ!咲乃です。』

「咲乃ちゃん?上がっていいわよ!」

私は中に入りおばさんの隣に座った。

「どうしたの?連絡も無しに急に…。」

『すみません。どうしてるか心配になって…。』

「知ってるのよ…淏と碧の真犯人を探していること…。」

『はい…私達は知りたいんです。どうして碧が殺されたのか…碧はどんな子だったのか…。』

おばさんは少し冷たい顔になった。

真犯人を知りたくないのかな?

「人によって悲しみの対処の仕方は違うと思うから、それが貴方達なりの対処の仕方なら口出しはしたくないけれど…。今回の事件をあまり公にしたくないと私も主人も考えているの…。」

『つまり捜査を辞めて欲しいという事ですか?』

「知りたくないとは思わないけど、碧には秘密が多すぎる。そしてその秘密は主人の政治家という立場が危うくなるかもしれないの。それは淏にも話したけれど聞いてはくれなかったわ。」

碧のお父さんの立場を心配してるんだ。

でもそれじゃ碧の事は誰が心配するの?

私達が辞めたら碧の気持ちは?

『碧には確かに秘密がありました。その秘密は良いものではありません。でもきっとその秘密を抱えなければいけなかった碧なりの理由があったはずです。世界で2人しかいない碧の両親がその理由を聞かなければ誰も何も聞きませんよ?警察だって碧の秘密の理由までは調べてはくれません。だからこそ碧の家族が調べなければならないと私は思います。』

私が言い終わるとおばさんはおもむろに3冊のノートを物置から出した。

「私は主人と結婚した時覚悟を決めたの…あの人の努力を台無しにする事は出来ない…。でも私は碧の母親でもあるから、このノートを渡すことしかできないの…。」

『このノートは何ですか?』

「碧は日記を書いていたの…咲乃ちゃんと出会う少し前から。私は最初の3冊しか持ってないわ。」

『これは碧の日記なんですか?』

「碧は昔私達両親についての大きな罪…秘密を知ってしまった。それから碧は気持ちを外に出す事を辞め、日記で気持ちを明かすようになった。」

『この日記は3冊以上あるって事ですか?』

「多分…でもどこにあるかは分からないわ。」

『この3冊借りても良いですか?』

「淏にも見せてあげてくれる?」

『淏さん見てないんですか?』

淏さんも見てないんだ…。

このノートに何か秘密があるのかな?

「うん。日記の存在は知っていたみたいなんだけど…。」

『分かりました。一緒に見ます。』

私は帰る事にした。

私が家を出ると中からかすかに泣き声がきこえた。

きっとおばさんも気持ちを押し殺してるんだね…。

そんなおばさん為にも早く解決してあげよう。

私は樹さんの車に向かった。

私が車に乗り込もうとしたとたんスマホが鳴った。

着信はお父さんが入院している病院からだった。







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