青の嬢王と勿忘草

咲月檸檬

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最後のメッセージ

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  私は未来に連絡して病院へ向かった。

昏睡状態の父の容体が急変して危険な状態だと知らされた。

私は慌てて父の手術をしてる部屋の前に行くと未来がすでに来ていた。

『未来!』

私が駆け寄ると未来は泣いていた。

「咲乃…私嫌だよ…おじさんには色々助けてもらったのに…。」

未来…

私は実感がわかない…いつか目を覚ますと思ってたし…信じていた。

後ろから誰かが走ってくるのが分かり振り向くとそこには淏がいた。

淏は汗だくで急いで来たのだと分かった。

「2人とも大丈夫か?」

淏の言葉に私は何故か分からないけど涙が溢れた。

きっと安心したのかもしれない…。

淏の声を聞くだけでこんなにも安心できる。

私が泣き出すと淏が強く抱きしめてくれた…淏の温もりにまた涙が溢れる…

お父さん…淏…

お願いこんな事言えない立場かもしれないけど、私から離れていかないで、私を離さないで。

手術室から慌てた様子で看護婦さんが出てきた。

「松岡月夜さんのご家族の方はいらっしゃいますか?」

「はい。ここです。」

未来が返事をしてくれた。

「娘さんですか?」

「私は姪でこの子が娘です。」

「そうですか。月夜さんが危険な状態です。最後に面会をして下さい。」

「そんな…」

『会いに行きたいです。会わせて下さい。』

私は淏や樹さんにもついて来てもらい中に入った。

お父さんは目が覚めていた。

かすかに喋る事も出来るらしい。

「何で良くなってるのに直せないのよ!」

未来が先生に掴みかかった。

それを樹さんが止めていたが、私はそんな事も気にならないほど真剣にお父さんを見つめた。

『お父さん…死なないで。私を1人にしないでよ。お母さんもお父さんも居なくなって私どうすればいいの?』

「ごめんな…お父さん頑張ったんだけど…それにお前は1人じゃないじゃないか。未来もいるんだぞ?」

「おじさん…」

「2人とも聞いてくれ。俺も母さんも犯罪者の手によってこんな事になっている。でも恨んだり、真犯人を探したりするなよ。それは2人の人生じゃない。恨みや憎しみからは何も生まれないとよく母さんも言っていただろ?」

『でも…』

「俺の姪と娘は俺の事が大好きなんだ。だから俺の最後のお願いを聞いてくれるはずだ。」

少し笑うと目を閉じて最後に言った。

「ごめんな。でも俺は2人が大好きだから俺みたいに苦しんで欲しくないんだ。幸せになれ。咲乃、未来。」

そう言って父は息をひきとった。

私と未来の泣き声が響き渡り、父の目からは最後の涙が流れ落ちた。

それからお通夜や葬式など全部淏と樹さんが準備してくれた。

私と未来はその場にいるので精一杯だった。

気づけば父の49日も終えていた。

何も口にしない2人を心配して淏はサンドイッチ、樹さんはたこ焼きを作ってくれた。

「さぁいい加減に食え。」

樹さんは無愛想に言った

『ごめんなさい。食べたいと思えないです。』

「食べたくなくても食べないとダメだろ。」

「おじさんの為に私は頑張る。本来なら私が咲乃を支えないといけないし。」

未来は勢いよく目の前のサンドイッチとたこ焼きをほうばり始めた。

『私…お父さんのお見舞いに来る度に、ずっとお父さんが目を覚ましたらお母さんを殺した犯罪者のことを聞く事ばかり気にかけてた…。お父さんの事とかお父さんの体の事とか全然眼中に無くて…。私最後まで最悪な娘だ…。』

私はお父さんの死に悲しんでるんじゃない…。

お父さんにとって最悪な娘だった事に悲しんでる…。

私はいつだって自分の事ばかりで…本当に情けない。

こんな私に何が出来るのだろう…碧の為に、お父さんやお母さんの為に、そして…淏の為に…

「咲乃は一生懸命だったんだね…お母さんの事。それをお父さんもちゃんと分かってるんじゃないのかな?」

淏が言ったその言葉に息苦しさが無くなる感覚がした。

私はまた淏に救われるのか…。

救わないでよ…

『やめてよ。この苦しみは持ってなきゃ…それが私の償いだから。そんな言葉かけるのはやめてよ。』

私が少し大きな声で言うと、淏は立ち上がり私より大きい声で言った。

「じゃお父さんはなんであんなお願いをしたんだよ。犯人の事ばかり考えてる娘を心配して言ったんじゃないのか?
それに姪っ子も巻き込まれに行くんじゃないかと、心配して言ったお願いじゃないのか?自分の事ばかり考えていたと反省できたなら、何でお父さんのお願いを聞こうと思わないんだよ!」

「淏の言う通りだよ。お父さんはお母さんの犯人の事考えてとても苦しでいたんだよ。だから2人にはそんな思いして欲しく無いと思ったんじゃないかな。」

そう言う淏と樹さんの目がうっすら潤んでるのが見えた。

私なんかの為にこんなに一生懸命になってくれる2人の為にも頑張らないと…。

『私…食べます。』

私が食べ始めるとまた未来も泣き始めた。

きっと辛いことや悲しい事の後には良いことや嬉しいことがあると信じていた。

生きてる人間は前に進み続けるしかないから。



  私と未来はお腹いっぱい食べ終えた後これからについて話し合いを始めた。

淏と樹さんには帰って碧の捜査の続きをしてもらう事にした。

『私に収入は無いからあの家を売りに出したいと思っているんだよんね…。思い出が詰まった家だけど大学を止めるのはお父さんも嫌だと思うし…。まぁ一時期休学も考えた時期もあったけど…。』

「私と住むよ!ホテル暮らしをやめて咲乃が大学を卒業するまで!」

『そんな…未来に悪いよ…。』

「おじさんは私達を家族と言ってたじゃん。助け合おうよ。」

『でも…私ね。大学卒業したらお父さんみたいに探偵しようと思ってるんだ。事件の依頼や猫探し、お父さんは仕事を選ばずに頑張っていた。』

「いいと思うよ。私も手伝いたい。おじさんの手伝いをして仕事で初めて楽しいと思えたんだ。だから咲乃が探偵やるなら凄く嬉しい。」

私も未来がいてくれたら嬉しいけど。

『本当にいいの?』

「当たり前。それにパソコンに強い人がいた方がいいと思うよ?咲乃は全然パソコンダメだし…。」

図星…。

言い返す言葉も出て来ないのが悔しいが、未来の言う通り色んな角度から調べるのは大切…。

『じゃ一緒にやろう!』

こうして私達は2人で夢を持った。

「それじゃそろそろ淏さん達と合流しますか!」

きっと悲しくて、辛くて、悔しい事もたくさんあるんだと思う。

でもそんな中にも幸せや希望があるから前に進める。

前に進むから幸せも希望出てくる。

そう言うものだと思うんだ…

人生って?














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