敗残王と亡国姫、冒険者として再起す  ~王女も聖女も皇女も魔女も、巫女も受付嬢も獣人もエルフも、いい女はぜーんぶ俺のもの!~

春風トンブクトゥ

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第五十七話 事情聴取

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「そこのメリーはツケで花を買っていてね。今までは遅れつつも返していたんだが、最近それも止まってる。そこで俺たちがお金を払うよう頼みに来たってわけだ」

「そう、私が払うわ。いくら?」

「あんたじゃ到底払えない額さ。もっとも二人まとめて別の花を売ってくれるってんなら話は別だけどなあ。店をすぐ紹介してやるよ。どっちも美人だから行列ができるぜ。その前に俺たちに味見させてくれよなア」

 ハーフリングの下品な物言いに獣人二人が楽しそうに笑った。
 ミーティアが俺に一歩身を寄せた。

「ジャン、まずいよ。リゼさんが」

「あんなチンピラごとき、リゼなら問題ないだろ」

「違うよ。すごい魔力練ってる。ブチ切れて街中じゃ使っちゃいけない威力の魔法撃つ気だよ」

 なるほど、それはまずい。

「おいお前ら、俺の女たちになんの用だ!?」

 男たちと、この街に助け舟を出してやることにした。

「ああ?」

 熊族の獣人がこっちを見てすごむ。

「てめえには関係ねえだろ。格好つけたいならよそでやれよ毛無し猿」

「俺の女ってのが聞こえなかったのか? 熊族ってのは頭だけじゃなく耳まで悪いらしい」

 犬狼族が腕を組んで俺をにらむ。

「てめえ、俺たちと揉めようってのか?」

 俺は大げさに周囲を見渡した。

「ここだと人目に付くな。そこの路地に行こうぜ」

 俺が動き出すと三人がぞろぞろと付いてきた。今後ろから襲えばいいのに、素直で馬鹿な奴らだ。

 ドゴッ、ゴスッ、ガリガリガリガリ!

「ふーっ、ちょっと張り切りすぎて息が上がっちまったぜ」

 俺は手の甲で額の汗をぬぐった。手を開くと獣人の体毛がパラパラと足元に落ちる。

 地面には両足を折られた犬狼族の男と、石壁で顔面をもみじおろしにされた熊族の男が転がっていた。壁には熊男の血の跡が長々と塗られている。
 ハーフリングはさっきから口をパクパクさせて動けないでいた。

 路地裏に転がっていた木箱を拾い上げると、ハーフリングの目の前にバンと音を立てて置いた。それだけで気の毒になるくらい彼は体をびくつかせた。

「逃げたら殺す。あの花について聞きたい」

 箱に座って足を組んだ俺がそういうと、彼は膝をガクガクさせながら目をそらした。

「あ、あの、俺……何にも知らなくて。このことも、誰にも言いませんから」

「まあ……あの二人よりは話が通じると思って君を残したわけだが、まだあれだな、もうちょっとお口が滑らかになる何かが必要かな。ミーティア、何か案はあるか?」

「あるわけないでしょ」

 彼女は俺の後ろで飽きれたように両手を背中で組む。

「はいはいはい、俺ちゃんあるぜ」

 おしゃべりガラスが口を開いた。

「いいか、まずは嬢ちゃんがあの犬獣人に催眠魔法をかけるんだ。熊獣人の指を一本ずつ食べるようにってな。で、ダンナがハーフリングに好きなように質問する。あんまりまごついてると、お友達はもう二度と指で数が数えられなくなるって寸法よ」

 人間には出てこない発想だ。

「だがいい案かもな。そこの熊族が、暗算が得意だといいんだが。おいミー……」

「ま、ま、待ってくれ!」

 ハーフリングが顔面を蒼白にしながら言った。

「しゃ、しゃべる。なんでもしゃべるからやめてくれ。その二人は、俺のダチなんだよ」

「ふん」

 クズやカスにも友情はあるらしい。

「じゃあ聞こう。メリーが吸っていたあの花、そこいらのチンピラに用意できるものではないようだが、どっから手に入れた」

「う、上だ」

「上?」

 その後のいくつかの問答やさらなる脅迫と命乞いを省くと、ハーフリングから聞き出せたのはおおむね次のような話だった。

 彼らは今までこのソトの街でも二次三次くらいのちっぽけなマフィアだった。だが数年前に急に組織が再編され、一本化された。それはこの街に限らず、アルダン王国全体で大規模な首のすげ替えがあったのだという。
 そして「上」から言い渡された仕事がこの喪失花ルフランの販売である。

 今までのケチな地上げや女衒(ルビ:ぜげん)と並行しての仕事だが、モノ自体は定期的に届くため、仕入れのリスクは低く、安定した利益を出している。

「ふん、おおむね分かった。それで、その上とやらはどこに行けば会えるのだ」

「お、俺たちのボスか? 直接取りつなぐことはできないが、拠点はソトの──」

「違う、その大本の喪失花を送ってくるヤツだ」

「し、知らない。俺たちみたいな下っ端はそういうことは知っちゃいけないんだ……」

 俺は膝を組んだまま姿勢を崩さず、小さな身をさらに縮こまらせているハーフリングの目をジっと見つめる。
 一拍の間をおいて彼は声を絞り出した。

「……王都だ。以前ボスが話しているのを聞いたことがある。ブツは王都から送られてきているって」

 さらに彼を観察していたが、どうやら搾り取れる情報はここまでのようだ。王女のことを聞いてもいいが……こんなチンピラが知ってる様ならとっくに見つかっているだろう。

「話は以上だ。俺たちはもう行く。友人を手当てするなり、逃げるなり好きにしろ」

 小人は目に見えてほっとした様子を見せた。
 立ち上がるとその肩に手を置く。

「それと、メリーにはもう干渉するな。言ってる意味、分かるな?」

 ハーフリングがつばを飲み込む。

「あ、ああ。ツケはもういい。それに花ももう売らない。そ、そ、そうするよう売人仲間にも言っておく」

「それでいい。お前が思ったよりも賢くてうれしいぞ」

 俺とミーティアが路地裏から出ると、ちょうど角の所にエルフの魔法使いリゼが腕を組んで壁にもたれて立っていた。どうやら今の会話を聞いていたらしい。

「……ありがとう。メリーのこと、花のこと、私が聞きたいこと全部聞いてくれて」

「礼なら体で払ってくれ。それに気にするな、俺の方もちょうど暴れたいとこ……いや、この国の裏社会について軽く知りたいところだったからな」

 俺達の脇を散々脅したハーフリングが青い顔で走っていった。小柄な自分の体格では獣人二人はどうにもならないため、助けを呼びに行ったのだろう。

「メリーを宿に返したら、少し俺達に付き合えるか。聞きたいことがある」

「分かったわ」
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