私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

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第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!

19 処分

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 「疲れた~」

 私は無意識にそう口から愚痴をこぼしてた。場所は誰もいないライラの部屋の中であり、完全な独り言だ。
 言いながら私が使用しているベッドにうつ向けに倒れ込む。

 今日はあの騒動から5日後だ。再び開かれた会議に出席して帰ってきた。
 今日は何の問題もなく、遅刻することなく、時間前に席につくことができた。
 
 会議開始時刻の鐘が鳴る前に学園長と副学園長以外の出席者全員が席に着席して、鐘が鳴って数分後に学園長と副学園長が会議室に入室して会議が始まった。

 会議の本題に入る前に法学部長からの話があった。

 問題を起こした王子とその取り巻きは法学部の所属であり、指導管理責任は法学部が負う。

 法学部長は椅子から立ち上がり謝罪をした。

 「この度は我が学部の生徒が皆様に多大なるご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありませんでした。特に、ルリエラ理術師には我が学部の生徒が大変な無礼を働き、会議への出席を妨害致しましたこと心より謝罪いたします。誠に申し訳ありませんでした」

 そう謝罪して私へと頭を下げた。

 法学部長から謝罪されるとは全く予想だにしていなかった私はどう対応していいのか分からずに慌てることしかできない。
 会議の出席者全員の視線が私に集中する。
 法学部長はずっと頭を下げたままだ。
 私は困り果てて視線を右往左往させて、すがるように学園長を見た。

 学園長は何も言わず、ただいつも浮かべている優しげな微笑のまま、私の視線に小さく頷いた。

 私はそれで(あなたの好きにしなさい)という学園長の意図を何となく察することができた。

 好きにしてもいいと言われても、私の今の望みは私へと下げられている法学部長の頭を上げさせることだけだ。

 「……法学部長の謝罪は受け入れます。どうか顔をお上げください」

 その言葉でやっと法学部長は頭を上げてくれた。

 「謝罪を受け入れてくださりありがとうございます」

 頭を上げてそう言った後に法学部長が一瞬だけ視線を向けた先は私ではなく、ガイボーンだった。
 ガイボーンは我関せずという態度でこちらに視線を向けることもせずに自分の手元を見ている。
 
 今回、このように法学部長が会議で頭を下げて謝罪することになったのは、前回の会議でガイボーンが私へ遅刻に対する謝罪を強く迫ったからだ。
 ガイボーンのせいで要らぬ恥をかかされたと法学部長は思っているのかもしれない。
 恨みが私へと向いていないのは助かる。今回の件について私は完全に被害者だ。私を恨むのは逆恨み以外の何物でもない。

 その後、法学部長から王子とその取り巻きたちの処分についての話が続いた。

 王子と取り巻き二人は口頭での厳重注意処分。
 一生徒が学園の認定理術師へとあのような無礼な態度をとることは許されていない。
 王子の発言や要求などを考えると甘い処分だが、やはりこの国の王子へ厳しい処分を下すことは避けたのだろう。

 代わりにもう一人の取り巻きが退学処分となった。
 私の肩を掴んだことが暴力行為に当たるとして厳しい処分が下されることになったようだ。

 問題を起こした当人達の処分で今回の問題は終息するかと思ったがそうはならなかった。
 今回の騒動について学園側が調べた結果、学園の情報漏洩と虚偽情報の流布が発覚した。
 私の肩を掴んだ学生に認定理術師の個人情報を流していただけでなく、私が不正をして認定理術師になったという嘘の情報まで流していたらしい。
 それを真に受けた学生が王子へとその情報を話し、王子もその情報を真に受けて、今回の騒動を引き起こした。

 情報漏洩と虚偽情報の流布を行った人間は学園の事務員であり、肩を掴んだ学生が所属する貴族の派閥の末端の貴族に属する者で、貴族の繋がりからその学生に接触して情報を流したようだ。

 学園に勤める職員として決して許されない行為だ。

 明日査問会が開かれる、という報告が副学園長からされて会議は本題へと入っていった。

 会議後に私は副学園長に呼ばれて、私も当事者ということで出席を求められた。
 ひどく憂鬱だ。
 どこの誰がそんなことをしたのか。
 なぜそんなことをしたのか。
 そんなことをして何の得が本人にあるのか。

 そんなこと私には関係ないし興味も無い。

 査問会に出席するせいで行きたかった講義に行けなくなった。
 なぜこんなことに私が巻き込まれているのだろう?私はただ空を飛びたいだけなのに。

 私はベッドにうつ伏せながら、大きく溜め息を吐いた。

 そこで部屋の扉が開いた。
 ノックも無く部屋に入ってきたのはもちろん部屋の主のライラだ。
 私がベッドに倒れこんでいる状態を見たライラは驚いて、

 「ルリエラ、大丈夫!?気分でも悪いの?」

 と私の体調を心配してくれた。

 5日前、会議から帰って部屋に戻ったときのライラの第一声は、
 「ルリエラ!王子があなたにパンツを見せないと学園から追放すると脅したって聞いたけど大丈夫?」だった。

 噂が広まるスピードの早さにも驚いたけど、いったいどんな伝言ゲームを経たらそんなことになるのか想像がつかないくらいに真実が歪められてしまっていることにも驚いた。

 私は慌ててライラの言葉を否定して、実際にあったことを簡潔にライラに教えて大丈夫だと伝えた。
 ライラはひとまず噂が嘘だと知って安心してくれたが、私に王子とその取り巻きが絡んできたことを心配してくれた。

 それからライラはまた何か私の身に危険なことが降りかかるのではないかとずっと心配してくれている。
 心労をかけてしまって申し訳なく思うが、それ以上に親身に心配してもらって嬉しいという気持ちのほうが強い。
 
 「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だから」

 私は顔だけライラへ向けて笑顔で元気だと伝えた。
 会議の内容をライラに伝えることはできない。
 いずれ噂で王子とその取り巻きが処分を受けたことを知るだろう。
 明日の査問会のことも噂で知ることになるだろう。
 その時に再び心配を掛けてしまうことだけが申し訳ない。
 
 私はただ普通の学生と同じようにこの学園で理術を学びたいだけなのに、なぜこんなことに巻き込まれているのだろう。
 基本的に誰にも迷惑を掛けてはいないはずだ。
 今私が一番迷惑を掛けてしまっているのはライラだ。迷惑というか面倒を掛けているというか心労を掛けさせてしまっている。

 私はベッドにうつ伏せながら、ライラへの申し訳なさから再びこっそりとライラにバレないように静かに溜め息を吐いた。
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