私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

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第2章 私はただ普通に学びたいだけなのに!

20 査問会①

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 査問会は私の試験のときと同じ部屋で行われた。

 試験のときに私が座っていた場所に私をここまで案内した案内人失格の中年女性が真っ青な顔色で座っている。まるで死刑を待つ罪人のようだ。

 そして査問会が始まった。

 査問会は学園の監査部が主導する。
 学園の運営には関わっていないが、こういった学園内の違反者の捜査や取り締まりなどをしている事務の一部署だ。
 管轄は学園長の直轄となっており、非常に強い力を持っている。

 その監査部の監査官の一人が真ん中に座っている学園長の右隣に座って査問会の進行をしている。

 その監査官が無表情で感情を交えない冷たい言葉で罪人の罪を述べていく。

 その中には私の個人情報の漏洩と虚偽情報の流布だけでなく、他にも些細なものから重大なものまで多岐にわたる数多くの罪があった。
 聞いているこちらが呆れ返るほどに本当に多くの罪を犯している。
 平民学生への嫌がらせ、学園の下働きへの無理難題の強要、他の女性事務員へのいじめ、職務怠慢、職務放棄などから学園の公金の横領までやっていた。

 有能ではあったし、長年勤めていたことで周囲からの信用も厚く、事務部では事務部長、副事務部長に次ぐ地位に就いていた。
 その立場にいることで慢心して腐っていき、自分よりも立場の弱い人間に対して徐々に横柄な態度を取るようになっていった。
 そして、婚期を逃したことの焦りからか、若い男性をお金で繋ぎ止めて付き合うようになり、多額のお金を必要として公金横領の罪に数年前から手を染めるようになった。

 書類だけは完璧に仕上げて提出されており、上手く下の人間を使って誤魔化していたので、これまで学園側は気付けなかった。
 ずる賢くて、程ほどに割り増しした金額を書類に記載して、少額だけ抜くという発覚がしにくいようなやり方をしていた。
 減った費用の分は人を無理に働かせたり、何か問題が起こっても下の人間に責任を押し付けるなどして上手く隠していた。

 はっきりと公金横領が判明したのは私への支度金を丸々彼女が懐に入れたからだった。
 私の部屋が埃だらけで放置されていた状態だったのは、彼女が私の研究室の準備のための支度金を懐に入れて何もしていなかったからだった。
 説明も何もせず、鍵だけ渡して放置した私をただの無教養で無知な平民だと侮っていた。

 (何か言われたとしても上手く説明して取り繕って騙してその場を凌げばいい。だって、空を理術で飛ぶなんてあり得ない。そんなのは嘘に決まっている。他の人たちは愚かにも騙されてしまったんだ。でも、私は騙されない。私は上手くやってさっさとその大嘘つきの身の程知らずの平民の小娘を追い出してやる)

 彼女の慢心は止まるところを知らなかったようだ。
 学園長や他の講師や他の認定師まで私に騙される愚か者で自分のほうが賢くて正しいと思い込んで暴走した。
 自分の不正に気付かない学園を彼女は完全に舐めきっていた。

 途中までは彼女の思惑通りだったようだ。
 平民の私が何も文句を言って来ないのは、やはり認定理術師になったことに後ろ暗いことがあるからだと自分に都合のよい解釈をした。

 彼女の実家は子爵家で、私の肩を掴んだ男は侯爵家で派閥的な繋がりもあり、学園での生徒と事務員という立場も利用して個人的に接触を持つことに成功し、私の情報を嘘や妄想を混ぜて流していった。
 元々正義感に強いタイプだった彼は不正は許せないという思いから王子と他の取り巻き達にこの話しをした。
 学園の内部からの密告であり、裏がとれている情報だと勘違いした王子たちが暴走して、結果あのようなことになった。
 その件を法学部だけでなく監査部も調べた結果、芋づる式に彼女の存在とその罪が明かになり今に至るということだ。

 彼女も王子たちがあそこまで露骨に私を断罪するとは思っていなかったのだろう。
 あんな公共の場で大勢の人の前であのような愚かなことをしたせいで、内々に処理することもできず大事になった。徹底的に調査されたせいで彼女のことまで調べられることになってしまった。

 彼らの正義感の強さと愚かさは彼女の想定外だったのだろう。きっともっと賢いと思っていたのだろうな。
 その点だけはほんの少しだけ同情してしまう。
 さすがにその同情をここで顔に出すことはしないが。



 監査官にお金の使い道についても詳細に述べられて、彼女の男癖の悪さと若くて見目麗しい男に目がない色狂いでお金でしかその男たちを繋ぎ止めていられない彼女の魅力の無さなどが暴露された。
 
 彼女にお金を貢がれていた男たちは自分の保身のため、「お金の出所は知らなかった。彼女が勝手にやったことだ」と一様に彼女のことを売っていた。
 
 やはり、お金だけの繋がりは脆くて儚い。
 まさに、「お金の切れ目が縁の切れ目」と言える彼女の状況に納得してしまった。

 そんなことを思っている内に監査官の調査報告が終わったようだ。
 
 「アリーナ・オルロー、最後に何か述べることはあるか?」

 監査官が感情の一切籠っていない冷たい声で、死刑宣告を待っているかのような彼女へ尋ねた。

 こういった場合、罪を認めて反省を口にして減刑を嘆願するのが一般的だ。
 無罪を主張したり、同情を買おうと言い訳などを口にしても、無駄。これは裁判ではない。本人の言葉には何の意味もない。罪を否定しても、情状酌量を願っても、すでに有罪という結果は決まっていて覆らない。
 内々の査問会であり、アリーナの背後には誰もいない。アリーナの私情による単独犯でアリーナを庇う人間もいないのだから当然の成り行きだ。

 査問会に出席している人たちは私以外そう予想していた。
 しかし、アリーナは予想だにしない行動に出た。

 私は初めての査問会で何も知らず、アリーナは何を言うのだろうと思って彼女へと視線を向けた。
 真っ青で今にも椅子から落ちてしまいそうな顔をしているアリーナの瞳は虚ろでぼんやりと何も写していない。私はその瞳をはっきりと見てしまった。
 その瞬間、突然その瞳に光が灯った。監査官の報告の間、一切身動きをしなかったアリーナが顔を両手で覆って俯いた。

 「……違う、違う、こんなの、こんなこと間違っている」

 アリーナが査問会で初めて発した言葉は独り言みたいに囁くような小さな声だったが、部屋によく響いた。

 響いた直後にアリーナはガバッと頭を勢いよく持ち上げて強い意思が込められた目で私を真っ直ぐに見返してきた。

 「そう、そうだ!その女が、その平民の小娘が、全部そいつが悪いんです!!」

 私を指差してアリーナはそう叫んだ。
 彼女の行動と発言に私を含む査問会の出席者全員が呆気にとられていた。

 





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