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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに

1 爆弾① 手榴弾

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 ライラとの大喧嘩とその後の仲直りから一月が経過した。

 今の私の状況を一言で表すなら、「平穏」という言葉が相応しい。

 それくらい元通りの平和な生活に戻りつつある。

 私が立案していた「共食い作戦」を決行した結果、自称両親連中は私の元へやって来ることはなくなった。

 私が両親を求めているのではなく、ただ産みの親について知ることを求めているだけだと理解してくれたライラはこの作戦を必要なこととして受け入れてくれた。

 私としては自称両親連中の中に本物の親がいて、その人たちが他の自称両親連中に排除された後に本当の産みの親という事実が判明したとしても、これまでの様子や態度などからどういう人間かは知ることができているので、それ以上に知りたいことも会いたいことも関わりたいと望むこともない。

 産みの親を知りたい自分を受け入れたことで、私の中にあった産みの親へ対する一方的な罪悪感と産みの親を知らなくてはならないという強迫観念は消えた。
 だから、過度な配慮をする程の義務感は感じなくなった。会いに来ない相手の気持ちや事情を最優先するのではなく、自分の知りたい気持ちの方を優先させる。
 産みの親を知る義務は無いので知りたい気持ちだけしか動機はないから自分の都合を優先させる。
 でも、やはり必要最低限の配慮は必要とする倫理観や道徳心は持っているので、相手にむやみに迷惑をかけないようにするだけの配慮はする。

 自分からこの騒動に飛び込んできた人間の中に本当の両親がいるのならそれはもう自業自得の自己責任と言えるが、そうではないならこの騒動に巻き込むわけにはいかない。

 産みの親を探すのはこの騒動が完全に片付き、そして自分にもっと力がついた成年後にするとはっきり決めた。

 成人していれば戸籍は完全に独立し、保護者を必要としなくなるので、万が一実の両親が厄介な人間であったとしてもそこから無理矢理干渉して攻めてくることはできなくなる。
 また、成人すれば社会人としての強固な立場を手に入れて、それなりの権力などを持っていれば、実の両親からの理不尽な要求に抗うことができるようになる。
 あとは、自分が精神的にも成長して心の余裕や度量も大きくなっていれば、産みの親に関する衝撃的な事実を知ることになっても精神的な衝撃を減らせたり耐えられるかもしれない。
 
 そのためには、私自身が成長して強くならなければならない。精神的にも、社会的にも。

 自分自身の準備が整ったとき、その時にまだ産みの親を知りたい気持ちがあれば探してみる。
 もう自分の気持ちを誤魔化したり、隠したり、抑え込んだりはしない。

 ライラとそう約束した。

 「……分かった。今後はわたしからルリエラに親に会うようにとは二度と勧めない。でも、いつかルリエラが親のことを知る準備と覚悟ができたら教えてね。その時は出来る限り協力するから!」

 ライラは全部吹っ切れたような笑顔でそのように協力を約束してくれた。



 こうして今回の騒動を解決することを優先して、共食い作戦は決行された。

 自称両親連中たちに「あなたたち以外にも私の両親を名乗る人やその親族が現れたのですが、あなたたちは本物ですか?こちらでは真偽が判断できないので、当事者同士でお話し合いをして結論を出してください」という内容の手紙と自称両親連中たちの名前などの身元情報の一覧表を全員に送りつけた。

 これで勝手に潰しあってくれるだろう。

 私の元に「自分達こそが本物だ!信じてほしい!!」という嘆願書のような手紙が届いたが、「他の人たちからも同じような手紙が届いているが、今後は両親かどうか分からない人の手紙は受け取らない」と全員を偽物扱いしてそれら全て送り返した。

 今の自称両親連中たちが大勢いる状況では全員を偽物扱いするしかない。完全に公にしたことでそれが正当化される。
 これまではプライベートなことであり、相手にあからさまな偽物である証拠が無いということでひとまず全員を本物として扱わなければならなくて無碍な対応はできなかったから大変だった。
 自称両親連中全員を偽物扱いして拒絶して関わりを絶つことができただけでもこの共食い作戦を実行した価値はあった。

 自称両親連中の中から一組だけが本物として勝ち残るか、それとも共食いして全員が共倒れするか、その結果が出るまでは自称両親連中はこちらには何もできなくなった。

 万が一、自称両親連中の中に本物がいたとしても、その人物が本物だからと残る可能性は高くはないだろう。

 この共食い作戦で勝ち残る者は後ろ楯の人間の影響力や権力が一番強い者だ。

 自称両親連中たちの背後で黒幕たちが互いに牽制したり潰しあったりしているだろう。

 その過程で自称両親連中がどのような目に遭うかは分からないが、それは自業自得ということで私は責任を負わない。罪悪感は感じない。

 下手したら、有力な対抗相手は物理的に潰されるか消されるかするかもしれないが、それは己の欲の結果だ。

 私はただ共食いの結果を待つだけ。



 そんな結果待ちの平穏な時間を過ごしているときに、ライラの爆弾発言を思い出した。

 仲直りした後、ライラと一晩語り明かした。他愛もない話から孤児院での懐かしい思い出話や私が孤児院でシスター見習いとして過ごしていた苦労話や学園で再会する前の私が知らないライラの過去の話などたくさんお喋りをした。

 その中で、ライラがぽろりと爆弾発言をうっかり落としてしまった。

 「……この際だから聞いてしまうのだけど、ジュリアーナ様がルリエラの産みの親ということはないのかな?」

 突然、手榴弾を投げられたかのように、爆弾を投げ渡されて私は上手く掴めなかった。
 掴んで爆発を防ぐことも、逃げて直撃を避けることもできなかった。
 爆弾発言をもろに受けた衝撃で表情も会話も思考も停止しまう。
 私は笑顔で誤魔化すことも、さり気なく話題を変えることもできなかった。

 




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