私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako

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第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに

55 選択③ 説明

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 昼食時にマルグリットと話をしようと待ち構えていたが、昼食は運ばれて来なかった。

 いつもの夕食時を大幅に過ぎてやっとマルグリットが物置部屋に食事を運んできた。

 これまでと様子が違いどこか落ち込んでいるような元気のないマルグリットに気を取られて、私は他の違いに気付くのに遅れてしまった。

 席についてやっと用意された食事がこれまでと違いパンとスープだけになっていることに気付いた。

 私が物置部屋に閉じ込めただけでは音を上げないことから兵糧攻めをすることにしたようだ。

 私は溜め息を一つ吐いた後、何事もなかったかのようにいつも通りに食事を始める。

 そんな私に申し訳無さそうな視線を送るマルグリットが声を掛けてきた。

 「……あの、ごめんなさい」

 「何を謝っているの?」

 「その、お食事の量が少なくて……。でも、わたしにはどうすることも出来なくて……」

 「そんなことマルグリットが気にすることではないよ。マルグリットが謝ることではないから。それに、この食事はそんなに悪いものではないわ」

 私は嫌味でも強がりでもなく本心からマルグリットへそう告げる。
 
 「……で、でも、夕食がパンとスープだけだなんてあまりにも少な過ぎるでしょう?」

 マルグリットは私の言葉が本心とは思わなかったようでまだ罪悪感に苛まれている。

 「そんなことないよ。普通の村人の食事ならこんなものだよ。私も村の孤児院で暮らしていたときは食事はこれが普通だった。寧ろ、このパンとスープの方が贅沢なくらいだよ!だから、この食事に文句も不満も無いからね」

 孤児院ではスープに浸さなければ食べられないほど固いパンと酸っぱいパンで味を誤魔化さないと食べられないほど不味いスープが常食だった。

 それぞれ単体で食べられるほどに美味しくて柔らかいパンとスープなど普通の村人では食べられないご馳走だ。

 平民にとってのご馳走が貴族や富裕層の人間にとっては普通の日常の食事なのだから、貧富の差というものは凄まじい。

 きっと辺鄙な田舎の村の孤児院で育った私よりも衣食住は貴族の家で育ったマルグリットの方が恵まれていただろう。

 でも、それを羨ましいとも妬ましいとも思わない。

 衣食住は恵まれてはいなかったが、私はマルグリットよりも精神的には恵まれた環境で育ったと思っているから。

 私はいつもよりも少ない食事をいつもよりも早く食べ終えて、マルグリットと向き合う。

 「マルグリット、私はここから抜け出したい。学園に帰りたい。どうか私に協力してほしい」

 私は頭を下げて真剣にマルグリットに直球で頼み込んだ。

 マルグリットは私の申し出が思ってもみなかったことのようで目を丸くして呆然と私を見つめている。

 「……ここから抜け出したい?どうしてそんなことを言うの?」

 なぜ私がそのようなことを言うのか本当に理解できず、信じられないものを見るかのように私を見ている。

 こんな場所にいたいと望む人間なんているはずがないのに、なぜマルグリットは私の気持ちを理解出来ないのだろうか。

 私も信じられないものを見るかのようにマルグリットを見そうになったが、私が勘違いしているだけかと思い直す。
 マルグリットは私の気持ちが理解できないのではなく、私の脱出に協力することに乗り気ではないだけなのだろう。きっとそうに違いない。

 私は冷静にマルグリットに私に協力する利点を説明する。

 「私の脱出に協力することはマルグリットにとっても損にはならないはずよ。私は学園でとある貴族の支援を受けているの。私の背後にも貴族がいる。貴族は自分が支援している人間を見捨てたら貴族の沽券に関わるから、私が誘拐されたのを黙って見過ごすことはあり得ない。今も私を探しているはずよ。その貴族が私をここから救出すれば、ここにいる人間全員が罪に問われることになる。そうなる前に自力で脱出すれば穏便に済ませることができるわ」

 私は南部辺境伯家のことと南部辺境伯との養子縁組のことは伏せて曖昧に言葉を濁してマルグリットに他の貴族の介入を匂わせる。
 嘘は言っていないが、多少大袈裟な部分と私に都合のよい言い方をしたことに後ろめたさを覚える。
 脅すようなことはしたくないが、マルグリットの反応があまりにも想像と違って私は焦っていた。

 しかし、そんな私の思いとは裏腹に私の言葉にマルグリットは劇的な反応を示した。

 「──誘拐!!罪に問われる!?い、いったいそれはどういうことなの?!」

 私はマルグリットの驚き様に驚いて、マルグリットに現状の認識について尋ねてみる。
 
 すると、マルグリットの認識では、私は誘拐されていたがやっと発見されて保護されたリース男爵夫妻の実の娘のマルグリットであり、現在は躾の真っ最中ということのようだ。

 現在の物置部屋での監禁はあくまでも家族内、家庭内での躾の問題という意識しか持っておらず、外の人間が関わってくるとは夢にも思っていなかった。

 だから、私が家族の元から逃げ出そうとするなんて考えもしていなかったらしい。

 私はマルグリットに現状について正しく説明する。

 私が学園の廊下ですれ違った男に薬か何かで意識を奪われてこの屋敷に無理矢理連れて来られたこと。
 私のネックレスをブリジットが盗み、それを返却してもらったが、ブリジットにネックレスをあげることを強要されて揉めて殴られたこと。
 私は誘拐されて行方不明になっていたのではなく、私を狂言誘拐しようとしていたリース男爵夫妻の元から救出して保護されていたこと。
 リース男爵夫妻に後ろめたいことがあるから公に私との親子関係を証明できないため、私に親子関係の証明のための書類にサインすることを強要していること。
 兄を侯爵家の婿養子にするための後ろ盾に北部辺境伯家の協力を得るために私を欲している北部辺境伯家へ私を嫁がせるためだけに私との親子関係を法的に認めてもらって戸籍に復帰させようとしていること。

 時間がないので、大まかにだがマルグリットに真実を教えた。

 真実を知ったマルグリットは私を見つめながら狼狽して首を何度も横に振っている。

 「で、でも、わたしは、お父様とお母様を裏切るなんて……。わたしはお父様とお母様に恩を返さないと……。血の繋がらないわたしを引き取って育ててくれたお父様とお母様にきちんと報いないといけないから……」

 私に言い訳するように言葉を発しながら、マルグリットは自分自身に言い聞かせているように見える。
 
 その姿はとても痛々しくて、私の胸が痛んだ。
 
 


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