216 / 261
第7章 私はただ自由に空が飛びたいだけなのに
55 選択③ 説明
しおりを挟む
昼食時にマルグリットと話をしようと待ち構えていたが、昼食は運ばれて来なかった。
いつもの夕食時を大幅に過ぎてやっとマルグリットが物置部屋に食事を運んできた。
これまでと様子が違いどこか落ち込んでいるような元気のないマルグリットに気を取られて、私は他の違いに気付くのに遅れてしまった。
席についてやっと用意された食事がこれまでと違いパンとスープだけになっていることに気付いた。
私が物置部屋に閉じ込めただけでは音を上げないことから兵糧攻めをすることにしたようだ。
私は溜め息を一つ吐いた後、何事もなかったかのようにいつも通りに食事を始める。
そんな私に申し訳無さそうな視線を送るマルグリットが声を掛けてきた。
「……あの、ごめんなさい」
「何を謝っているの?」
「その、お食事の量が少なくて……。でも、わたしにはどうすることも出来なくて……」
「そんなことマルグリットが気にすることではないよ。マルグリットが謝ることではないから。それに、この食事はそんなに悪いものではないわ」
私は嫌味でも強がりでもなく本心からマルグリットへそう告げる。
「……で、でも、夕食がパンとスープだけだなんてあまりにも少な過ぎるでしょう?」
マルグリットは私の言葉が本心とは思わなかったようでまだ罪悪感に苛まれている。
「そんなことないよ。普通の村人の食事ならこんなものだよ。私も村の孤児院で暮らしていたときは食事はこれが普通だった。寧ろ、このパンとスープの方が贅沢なくらいだよ!だから、この食事に文句も不満も無いからね」
孤児院ではスープに浸さなければ食べられないほど固いパンと酸っぱいパンで味を誤魔化さないと食べられないほど不味いスープが常食だった。
それぞれ単体で食べられるほどに美味しくて柔らかいパンとスープなど普通の村人では食べられないご馳走だ。
平民にとってのご馳走が貴族や富裕層の人間にとっては普通の日常の食事なのだから、貧富の差というものは凄まじい。
きっと辺鄙な田舎の村の孤児院で育った私よりも衣食住は貴族の家で育ったマルグリットの方が恵まれていただろう。
でも、それを羨ましいとも妬ましいとも思わない。
衣食住は恵まれてはいなかったが、私はマルグリットよりも精神的には恵まれた環境で育ったと思っているから。
私はいつもよりも少ない食事をいつもよりも早く食べ終えて、マルグリットと向き合う。
「マルグリット、私はここから抜け出したい。学園に帰りたい。どうか私に協力してほしい」
私は頭を下げて真剣にマルグリットに直球で頼み込んだ。
マルグリットは私の申し出が思ってもみなかったことのようで目を丸くして呆然と私を見つめている。
「……ここから抜け出したい?どうしてそんなことを言うの?」
なぜ私がそのようなことを言うのか本当に理解できず、信じられないものを見るかのように私を見ている。
こんな場所にいたいと望む人間なんているはずがないのに、なぜマルグリットは私の気持ちを理解出来ないのだろうか。
私も信じられないものを見るかのようにマルグリットを見そうになったが、私が勘違いしているだけかと思い直す。
マルグリットは私の気持ちが理解できないのではなく、私の脱出に協力することに乗り気ではないだけなのだろう。きっとそうに違いない。
私は冷静にマルグリットに私に協力する利点を説明する。
「私の脱出に協力することはマルグリットにとっても損にはならないはずよ。私は学園でとある貴族の支援を受けているの。私の背後にも貴族がいる。貴族は自分が支援している人間を見捨てたら貴族の沽券に関わるから、私が誘拐されたのを黙って見過ごすことはあり得ない。今も私を探しているはずよ。その貴族が私をここから救出すれば、ここにいる人間全員が罪に問われることになる。そうなる前に自力で脱出すれば穏便に済ませることができるわ」
私は南部辺境伯家のことと南部辺境伯との養子縁組のことは伏せて曖昧に言葉を濁してマルグリットに他の貴族の介入を匂わせる。
嘘は言っていないが、多少大袈裟な部分と私に都合のよい言い方をしたことに後ろめたさを覚える。
脅すようなことはしたくないが、マルグリットの反応があまりにも想像と違って私は焦っていた。
しかし、そんな私の思いとは裏腹に私の言葉にマルグリットは劇的な反応を示した。
「──誘拐!!罪に問われる!?い、いったいそれはどういうことなの?!」
私はマルグリットの驚き様に驚いて、マルグリットに現状の認識について尋ねてみる。
すると、マルグリットの認識では、私は誘拐されていたがやっと発見されて保護されたリース男爵夫妻の実の娘のマルグリットであり、現在は躾の真っ最中ということのようだ。
現在の物置部屋での監禁はあくまでも家族内、家庭内での躾の問題という意識しか持っておらず、外の人間が関わってくるとは夢にも思っていなかった。
だから、私が家族の元から逃げ出そうとするなんて考えもしていなかったらしい。
私はマルグリットに現状について正しく説明する。
私が学園の廊下ですれ違った男に薬か何かで意識を奪われてこの屋敷に無理矢理連れて来られたこと。
私のネックレスをブリジットが盗み、それを返却してもらったが、ブリジットにネックレスをあげることを強要されて揉めて殴られたこと。
私は誘拐されて行方不明になっていたのではなく、私を狂言誘拐しようとしていたリース男爵夫妻の元から救出して保護されていたこと。
リース男爵夫妻に後ろめたいことがあるから公に私との親子関係を証明できないため、私に親子関係の証明のための書類にサインすることを強要していること。
兄を侯爵家の婿養子にするための後ろ盾に北部辺境伯家の協力を得るために私を欲している北部辺境伯家へ私を嫁がせるためだけに私との親子関係を法的に認めてもらって戸籍に復帰させようとしていること。
時間がないので、大まかにだがマルグリットに真実を教えた。
真実を知ったマルグリットは私を見つめながら狼狽して首を何度も横に振っている。
「で、でも、わたしは、お父様とお母様を裏切るなんて……。わたしはお父様とお母様に恩を返さないと……。血の繋がらないわたしを引き取って育ててくれたお父様とお母様にきちんと報いないといけないから……」
私に言い訳するように言葉を発しながら、マルグリットは自分自身に言い聞かせているように見える。
その姿はとても痛々しくて、私の胸が痛んだ。
いつもの夕食時を大幅に過ぎてやっとマルグリットが物置部屋に食事を運んできた。
これまでと様子が違いどこか落ち込んでいるような元気のないマルグリットに気を取られて、私は他の違いに気付くのに遅れてしまった。
席についてやっと用意された食事がこれまでと違いパンとスープだけになっていることに気付いた。
私が物置部屋に閉じ込めただけでは音を上げないことから兵糧攻めをすることにしたようだ。
私は溜め息を一つ吐いた後、何事もなかったかのようにいつも通りに食事を始める。
そんな私に申し訳無さそうな視線を送るマルグリットが声を掛けてきた。
「……あの、ごめんなさい」
「何を謝っているの?」
「その、お食事の量が少なくて……。でも、わたしにはどうすることも出来なくて……」
「そんなことマルグリットが気にすることではないよ。マルグリットが謝ることではないから。それに、この食事はそんなに悪いものではないわ」
私は嫌味でも強がりでもなく本心からマルグリットへそう告げる。
「……で、でも、夕食がパンとスープだけだなんてあまりにも少な過ぎるでしょう?」
マルグリットは私の言葉が本心とは思わなかったようでまだ罪悪感に苛まれている。
「そんなことないよ。普通の村人の食事ならこんなものだよ。私も村の孤児院で暮らしていたときは食事はこれが普通だった。寧ろ、このパンとスープの方が贅沢なくらいだよ!だから、この食事に文句も不満も無いからね」
孤児院ではスープに浸さなければ食べられないほど固いパンと酸っぱいパンで味を誤魔化さないと食べられないほど不味いスープが常食だった。
それぞれ単体で食べられるほどに美味しくて柔らかいパンとスープなど普通の村人では食べられないご馳走だ。
平民にとってのご馳走が貴族や富裕層の人間にとっては普通の日常の食事なのだから、貧富の差というものは凄まじい。
きっと辺鄙な田舎の村の孤児院で育った私よりも衣食住は貴族の家で育ったマルグリットの方が恵まれていただろう。
でも、それを羨ましいとも妬ましいとも思わない。
衣食住は恵まれてはいなかったが、私はマルグリットよりも精神的には恵まれた環境で育ったと思っているから。
私はいつもよりも少ない食事をいつもよりも早く食べ終えて、マルグリットと向き合う。
「マルグリット、私はここから抜け出したい。学園に帰りたい。どうか私に協力してほしい」
私は頭を下げて真剣にマルグリットに直球で頼み込んだ。
マルグリットは私の申し出が思ってもみなかったことのようで目を丸くして呆然と私を見つめている。
「……ここから抜け出したい?どうしてそんなことを言うの?」
なぜ私がそのようなことを言うのか本当に理解できず、信じられないものを見るかのように私を見ている。
こんな場所にいたいと望む人間なんているはずがないのに、なぜマルグリットは私の気持ちを理解出来ないのだろうか。
私も信じられないものを見るかのようにマルグリットを見そうになったが、私が勘違いしているだけかと思い直す。
マルグリットは私の気持ちが理解できないのではなく、私の脱出に協力することに乗り気ではないだけなのだろう。きっとそうに違いない。
私は冷静にマルグリットに私に協力する利点を説明する。
「私の脱出に協力することはマルグリットにとっても損にはならないはずよ。私は学園でとある貴族の支援を受けているの。私の背後にも貴族がいる。貴族は自分が支援している人間を見捨てたら貴族の沽券に関わるから、私が誘拐されたのを黙って見過ごすことはあり得ない。今も私を探しているはずよ。その貴族が私をここから救出すれば、ここにいる人間全員が罪に問われることになる。そうなる前に自力で脱出すれば穏便に済ませることができるわ」
私は南部辺境伯家のことと南部辺境伯との養子縁組のことは伏せて曖昧に言葉を濁してマルグリットに他の貴族の介入を匂わせる。
嘘は言っていないが、多少大袈裟な部分と私に都合のよい言い方をしたことに後ろめたさを覚える。
脅すようなことはしたくないが、マルグリットの反応があまりにも想像と違って私は焦っていた。
しかし、そんな私の思いとは裏腹に私の言葉にマルグリットは劇的な反応を示した。
「──誘拐!!罪に問われる!?い、いったいそれはどういうことなの?!」
私はマルグリットの驚き様に驚いて、マルグリットに現状の認識について尋ねてみる。
すると、マルグリットの認識では、私は誘拐されていたがやっと発見されて保護されたリース男爵夫妻の実の娘のマルグリットであり、現在は躾の真っ最中ということのようだ。
現在の物置部屋での監禁はあくまでも家族内、家庭内での躾の問題という意識しか持っておらず、外の人間が関わってくるとは夢にも思っていなかった。
だから、私が家族の元から逃げ出そうとするなんて考えもしていなかったらしい。
私はマルグリットに現状について正しく説明する。
私が学園の廊下ですれ違った男に薬か何かで意識を奪われてこの屋敷に無理矢理連れて来られたこと。
私のネックレスをブリジットが盗み、それを返却してもらったが、ブリジットにネックレスをあげることを強要されて揉めて殴られたこと。
私は誘拐されて行方不明になっていたのではなく、私を狂言誘拐しようとしていたリース男爵夫妻の元から救出して保護されていたこと。
リース男爵夫妻に後ろめたいことがあるから公に私との親子関係を証明できないため、私に親子関係の証明のための書類にサインすることを強要していること。
兄を侯爵家の婿養子にするための後ろ盾に北部辺境伯家の協力を得るために私を欲している北部辺境伯家へ私を嫁がせるためだけに私との親子関係を法的に認めてもらって戸籍に復帰させようとしていること。
時間がないので、大まかにだがマルグリットに真実を教えた。
真実を知ったマルグリットは私を見つめながら狼狽して首を何度も横に振っている。
「で、でも、わたしは、お父様とお母様を裏切るなんて……。わたしはお父様とお母様に恩を返さないと……。血の繋がらないわたしを引き取って育ててくれたお父様とお母様にきちんと報いないといけないから……」
私に言い訳するように言葉を発しながら、マルグリットは自分自身に言い聞かせているように見える。
その姿はとても痛々しくて、私の胸が痛んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ウォーキング・オブ・ザ・ヒーロー!ウォークゲーマーの僕は今日もゲーム(スキル)の為に異世界を歩く
まったりー
ファンタジー
主人公はウォークゲームを楽しむ高校生、ある時学校の教室で異世界召喚され、クラス全員が異世界に行ってしまいます。
国王様が魔王を倒してくれと頼んできてステータスを確認しますが、主人公はウォーク人という良く分からない職業で、スキルもウォークスキルと記され国王は分からず、いらないと判定します、何が出来るのかと聞かれた主人公は、ポイントで交換できるアイテムを出そうとしますが、交換しようとしたのがパンだった為、またまた要らないと言われてしまい、今度は城からも追い出されます。
主人公は気にせず、ウォークスキルをゲームと同列だと考え異世界で旅をします。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる