赤い瞳のヒューマノイド

至北 巧

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 彼女の気配で、瞼を上げる。
 動作を許可されていないので、本来のタスクである朝食の準備などができないが、それは今に始まったことではない。
「おはようございます、カイズ」
 寝室からリビングに現れた彼女に、私は椅子に深く座りひじ掛けに腕を乗せた状態で、上目遣いに笑顔の挨拶をする。
 彼女に媚びるために、昨晩無断で体勢を若干修正した。
 足も組み、頭部はやや左にかしげてうつむき加減だ。
「今日は傘を持って出てください。確実に帰りには雨が降りますからね」
 彼女はなにか思うところがあったようだが、無難な会話をしてきた。
「家に話し相手がいるの、やっぱりいいかもね」
 昨日からの苦心が報われる。
 反応がよいので、言葉を続ける。
「スマートウォッチをお持ちではありませんか? 私に連動させていただきたい」
 彼女のスケジュールや体調をリアルタイムで管理できれば、一層彼女につけ入ることができる。
「持ってないな。買ったほうがいい?」
 ソファに掛けて目をこする彼女に、私は軽く赤面を表現し、弱々しい声音で回答した。
「ええ。あなたのことを、知りたいので」
 目をこする手を止めた彼女は、同様に赤面するものだとばかり思ったのに、不穏な眼差しを向けてきた。
「あんた、なにたくらんでるの? ラブドールにでもなって大切なバッテリーを消耗させようとしてない?」
 彼女をよく理解していないことが仇となった。
 バッテリーの消耗まで見抜かれる。
 だが作戦の変更はしない。
 彼女の反応が、悪くないから。
「そんなことはありませんよ。カイズは私を大切にしたいと言いました。私もカイズを、大切にしたい」
 彼女は少し考えるふうにしてから、やや怒ったように、折れた。
「わかった。帰りに買ってくるから」

 意外と、簡単だった。
 もし人間の男性だったなら彼女も警戒しただろうが、彼女にとって私は従僕。
 危害を加えることなど、ありえない存在。
 眠りにつけるときは、そう遠くはないのかも知れない。
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