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彼女は雨の中、約束通りスマートウォッチを購入して帰ってきた。
スマートフォンと、そして私と連動させて、彼女はなんとなく嬉しそうな表情をしてみせる。
単に真新しい端末を手にして心躍らせているのだろう、私と繋がったことを喜んでいるのだとは考えにくい。
「明日の帰りは、遅くなりますか」
恋人と逢う予定のようだ。
「そうだね。明日中には帰らないかも」
「留守はお任せ下さい」
淋しいフリでもしようかと思ったが、また勘ぐられてはかなわない。
「話し相手くらいにしか考えてなかったけど、防犯にもなるのか。でも泥棒が来ても通報するだけにして。動くのは絶対駄目」
どこまでも私の消耗を抑えるつもりだ。
非常に困る、が。
「私のことをそこまで気にかけていただけるなんて、想定外でした。眠りにつきたいなどという考えが、改まる思いです」
大嘘をついて、控えめに笑う。
彼女も私に、笑顔を見せた。
彼女はどうも、恋人とうまくいっていないようだ。
翌日、日をまたがずに帰宅して、憂鬱な様子でリビングのソファに身を沈めた。
「おだやかではないようですが、いかがなされましたか?」
彼女は暗い表情で私を見て、目を伏せる。
「彼ね、釣った魚にエサをやらない人なんだね。付き合う前は優しかったけど、今は私が離れないって踏んで、好き勝手するんだ」
優しくされないから、私の言葉に反応するのか。
好都合だ。
彼女はさらに、不満を口にする。
「そっけなくされて悲しいばっかりなのに、好きだからホント離れられなくて、我慢してる。つらいけど」
マイナスの感情のほうが勝っている、プラスの単語がほぼ含まれないつぶやき。
私は、静かに問う。
「それでも彼をお好きなのは、彼の中に見放せないほどの良心を、あなたが認識しているからでしょうか」
彼女が私を見るから、私はまた微笑む。
「つらいなどと、思わないことです。我慢しているのではなく、あなたは良心もつれない部分もひとくくりにした彼を愛し、寄り添っているのでしょう。悲しい恋ではありません」
相手に非もあるが、同調して相手を否定するより彼女の行動を肯定して彼女を私に同調させるほうが、私のもくろみを早急に達成できると判断した。
計算通り、彼女の暗い表情がやわらぎ、次いで瞳に涙が浮かぶ。
「そうなのかな。あんた、そんなことまで言えるのね。カウンセラーの機能までついてるの?」
「いいえ、スケジュール管理と同等に、メンタルの管理をさせていただいただけですよ。バッテリーはさほど消耗しませんから、いつでも私に、すべてを吐き出して下さい」
浮かんだ涙が、こぼれ落ちる。
「なんか、なんだろ。安心する」
私が来る以前に相当抑圧されていたのだろう、彼女はひとしきり涙を流したのち、ソファでそのまま眠りに落ちた。
私も、まぶたを下ろす。
頭が熱を持っている。
やはり複雑な情報処理は、通常より多分に、負荷がかかる。
スマートフォンと、そして私と連動させて、彼女はなんとなく嬉しそうな表情をしてみせる。
単に真新しい端末を手にして心躍らせているのだろう、私と繋がったことを喜んでいるのだとは考えにくい。
「明日の帰りは、遅くなりますか」
恋人と逢う予定のようだ。
「そうだね。明日中には帰らないかも」
「留守はお任せ下さい」
淋しいフリでもしようかと思ったが、また勘ぐられてはかなわない。
「話し相手くらいにしか考えてなかったけど、防犯にもなるのか。でも泥棒が来ても通報するだけにして。動くのは絶対駄目」
どこまでも私の消耗を抑えるつもりだ。
非常に困る、が。
「私のことをそこまで気にかけていただけるなんて、想定外でした。眠りにつきたいなどという考えが、改まる思いです」
大嘘をついて、控えめに笑う。
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「彼ね、釣った魚にエサをやらない人なんだね。付き合う前は優しかったけど、今は私が離れないって踏んで、好き勝手するんだ」
優しくされないから、私の言葉に反応するのか。
好都合だ。
彼女はさらに、不満を口にする。
「そっけなくされて悲しいばっかりなのに、好きだからホント離れられなくて、我慢してる。つらいけど」
マイナスの感情のほうが勝っている、プラスの単語がほぼ含まれないつぶやき。
私は、静かに問う。
「それでも彼をお好きなのは、彼の中に見放せないほどの良心を、あなたが認識しているからでしょうか」
彼女が私を見るから、私はまた微笑む。
「つらいなどと、思わないことです。我慢しているのではなく、あなたは良心もつれない部分もひとくくりにした彼を愛し、寄り添っているのでしょう。悲しい恋ではありません」
相手に非もあるが、同調して相手を否定するより彼女の行動を肯定して彼女を私に同調させるほうが、私のもくろみを早急に達成できると判断した。
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浮かんだ涙が、こぼれ落ちる。
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