赤い瞳のヒューマノイド

十

　私は人ではないのだからかわいそうなことなどなにもなく、して欲しいことと言えば充電なのだから、それは無理なこと。
　彼女は職場のヒューマノイドとの別れの際に何もできなかったという負い目があるようだ。
　そこで、人と置き換えたなら死期の迫せまった私を彼女が、穏やかに看取ることのできる手立てを模索した。
「私が稼働停止した時、昨日のように取り乱されては非常に未練が残ります。カイズに自立していただきたい」
　かわいそうな私の望みを叶かなえる体ていで、私の死に耐え得る精神力を彼女に身につけてもらおう。
「私は自分が即座に眠りにつきたいあまりに、あなたが私に依存するよう仕向けました。依存していると自覚していますか」
　彼女は深刻そうに、首を横に振る。
　彼女に私がいれば全てが解決すると思い込ませた。
　思惑通り、彼女は私との対話や交わりで安心感を得るようになった。
　間もなく確実に失われる手段。
　酷なことを、してしまった。
「以前の恋人にも多分に依存しているよう見受けられました。依存していては相手のいいように扱われるだけで、あなたはまた辛つらい思いをしなければなりません。それは嫌でしょう」
　私の言葉を把握してうなずく彼女に、胸が痛む。
　私にはどうすることもできない彼女のこの先で、彼女が再び辛い思いをするなど、私も非常にやるせない。
「私がいても私に頼らない生き方をして下さい。それがあなたにできると確認できたなら、私も安心して眠りにつくことができます」
　課題を達成した先に待つのは、私の死。
　不釣り合い極まりないこの提案を、彼女は悲しげに、受け入れた。

　私にも彼女を強制的に依存させた責任がある、始まりだけ、助言をした。
　すでに私と切断されたスマートウォッチを外させた。
　そして距離を取るために、なるべく外で過ごすよう願い出た。
　彼女を彼女の家から追い出すなどおかしな話だが、私は今この家から去る気になれなかった。
　習い事や芸術鑑賞、運動や食事をしてから帰るよう提案した。

　日々同じ場所へ出向くわけにもいかず、帰れば私の目もあるので、彼女は苦心しながら外での時間を過ごした。
　帰宅する彼女に私は表情もなく迎えの挨拶をするだけで、彼女をねぎらったりはしなかった。
　彼女の出来事を無言で聞き、その日の最後に一言ひとことだけ、就寝前の挨拶をした。