音が鳴る方へ

椿英-syun_ei-

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第1話:星の降る夜

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 悟の部屋。スマホ越しに大田原 勇の盛大な笑い声が響く。
「それで、俺との約束忘れたのか!」
「いや、本当に、ごめん…」
「いいよ、いいよ。これはもう仕方ない。でも、こんな面白い話、なかなか…。」
 と、全て言い終わる前に、また笑いの波が押し寄せてきたらしい。状況を説明している間もずっと笑っているから、申し訳ない気持ちと同じぐらい、いい加減にしろと言いたくなる。まぁ、今回はそれをいう権利はないのだが。いっそ、笑いすぎて腹でも攣ったらいいんだと内心で呪っておく。
「笑い事じゃないよ。この前は警察に職質されるし、本当に大変なんだぞ。」
「お前がどこでも何でも録音しなきゃ、そんなトラブルにはならないだろ。」
「まぁ、それはそうだなぁ…。」
 俺のぐうの音も出ない様子に、顔は見えなくても、勇がニヤニヤしている気配を感じる。
「あー、笑った。もう今日はこれで満足だわ。待ってた甲斐があった。」
 勇は人の失敗をすぐ許してくれる。すごくさっぱりしている代わりに、忘れた頃にネタにされるので、一長一短かもしれない。勇は続けて言った。
「もう11時か。寝る準備しなきゃだな。明日、時間ありそうなら遊ぼうぜ。」
「そうだな。まぁ、また連絡するよ。」
 そう言って通話を切った。
 夜更かしをする気分でもなかったので、シャワーを浴びてパジャマに着替える。歯を磨きつつテレビを点けると、アナウンサーがニュースの原稿を読み上げていた。

「3日後、三大流星群の一つ、『しぶんぎ座流星群』が活動のピークを迎えます。深夜から明け方にかけて、特に北東の空を中心に流星が夜空を彩るでしょう。雲ひとつない晴天となれば、1時間に10から20個の流星が期待できる見込みです。この時期は大変冷え込みますので、外で観測される方は厚手の防寒着やブランケット、ホットドリンクなどを用意して、防寒対策を徹底しましょう。くれぐれも体調を崩さないよう暖かくしてお出かけください。」

 流星群か。俺はスマホを開いた。気になるニュースはとりあえず調べる。何が創作のきっかけになるか分からないし、面白い情報を取り逃がすのは損に感じる。

「流星」

 検索。流し読みしていると、流星は音を発しながら移動している、という記事をいくつか見つけた。とあるサイトの一つに、流星群を見ていたら、空から音が聞こえたと書かれていた。
 つまり、録音ができるかもしれない。流星の音とは、どんな音なんだろうか。なんとなく、線香花火の音を連想する。いくつかの投稿サイトを見て回るも、鮮明に録音できている動画は見つからなかった。
 これはもしかしたら、素材としてコレクションに加えてもいいかもしれない。となると、長い夜にお供が必要になる。
 勇を誘おうと、通話ボタンに指が向きかけるが、寝ているかもしれないと思い直し、メッセージに切り替えた。
「3日後、空いてるか?屋上で夜空でも見ないか?」
 すると、割とすぐに返信が返って来た。
「送る相手間違えてないか?俺を口説いても意味ないぞ。」
 文面から確かにロマンチックな要素を感じて、思わず顔がニヤける。
「違うって。流星群が来るらしい。」
「あー。なんか姉ちゃんが言ってたわ。」
「流星って、音が聞こえるらしいんだよね。」
「音(笑)本当に録音ジャンキーだな。仕方ねぇな。付き合ってやるよ。」
「ありがとう。助かるわ。」
 協議の結果、最終的に勇は酒、俺は食べ物、外で待機するための防寒グッズはお互いに用意することになった。と言っても、お互いに連れ立って色んなところに行くので、防寒グッズはすでに一通り揃えている。
 なので、気楽な気持ちで誘えるというのもあった。問題は、遠くから聞こえる小さな音を、クリアに録音できる機材を選定することだ。
 まぁ、本番まで3日もあることだし、それまでに押し入れと化した一室を探索して、ぴったりのものを見つければいい。段取りが決まったことで、今日はゆっくり寝れそうだった。そのままベッドに潜り、寝落ちするまでは数分といらなかった。
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