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第1話:星の降る夜
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「よっ!待たせたな。」
そう言いながら勇が家に来たのは、俺たちが到着してから大体10分後ぐらいだった。毎度、両手いっぱいのお酒を持ってきて、リビングにあるミニ冷蔵庫に隠していく。実家に置いていくと2日も保たないとボヤきながら、俺の家を隠れ家にしている。
無論、俺1人だと思っていた勇は、背後にいた朝比奈さんを見て、いつもリビングまで降ろすことのない荷物を玄関に起き、農家仕込みの遠慮会釈ないストレートな驚きの声を上げる。
「彼女かぁ!!?」
言い終わらないうちに、彼の肩を掴み、口を塞いだ。頼むから黙ってくれと思いながら目配せをすると、頷きながら叫ぶのをやめてくれたが、それでも質問は止まらなかった。
「何があった?何がどうした?」
「俺もよく分からないんだが、よく行くコンビニ店員が急に俺の家に来たいって言い出して、全然引かないから連れてきたんだ。」
「はぁ?説明聞いても全然分からん。」
「安心しろ。俺も全然分からない。」
「あの…。」
朝比奈さんが後ろから呼びかけてくるのを「あ、ごめん、ちょっと待って。」と断りながら、なおも説明を続けた。
「家に知らない人を入れるのは苦手なんだ。」
「いや、もう入れてるだろ。」
「そうだな。確かにそうだ。それで、俺はどうすればいい?」
「そんなの知るかよ。はぁ。とにかく、詳しくは後で聞く。」
そう言うと、勇の肩に組んでいた俺の腕をゆっくりと外す。あれだけデカい声を出していたくせに、瞬く間に平静に戻り始める勇に置いて行かれた気がして、俺は呼び止めた。
「おい。」
「まぁまぁ。びっくりしたけど、このままで良いだろ。面白そうだし。」
勇はニヤリと笑うと、ドアから顔を覗かせていた朝比奈さんの方へ向き直る。
「初めまして。大田原勇と言います。」
「初めまして。朝比奈栞里です。」
朝比奈さんの名前を初めて聞いた。彼女は小柄だから、勇と朝比奈さんが並ぶと、隣にいるだけで朝比奈さんが潰れるのではないかと不安になる。
俺と朝比奈さんで頭一個分、勇と朝比奈さんだと胸ぐらいの高さになる。しかも、毎日農作業をしているだけあって、勇は肩幅がデカい。いつも薄っすら日焼けをしていて、土とか太陽とかが似合う見た目をしている。「それは偏見だ」とよく抗議されるが、比較対象がいないのだから仕方がない。俺にとって、農業といえば勇なのだ。
対して、朝比奈さんは笑う時に口元を押さえたり、しっかりと相手に体を向けて話したりと、どことなく育ちの良さを滲ませている。ジーンズに灰色のニットがよく似合っている。コンビニで会っている時の方が、幾分か元気に見えるのは、流石に緊張しているのかもしれない。
家に着いてから、俺はまだ朝比奈さんから3歩以上近くに寄ることができないでいるのに、勇はすでに隣を歩いて談笑までしている。あの心のバリアフリーさにはいつも感心する。もう少し、俺のペースというのも考えてほしいが。
他人と関わるより、少し近しい人間と関わる方が何倍も緊張する。他人に拒否されるのは当たり前だと思えるけれど、少しでも情が湧けば、関係のひび割れは実生活に大きな影響を与える。故に、朝比奈さんが境界線を越えてきたことに、とにかく動揺していた。
まだ心の準備ができていない俺は、勇と朝比奈さんが話している間、飯の準備をすることにした。タレに漬けておいた肉を焼くだとか、野菜を刻んでチャーハンを作るだとか、見栄えよりも量と腹持ちの良さだけをとにかく考えたメニューを作る。
途中で、女の子に高カロリーなものばかり振る舞うのはどうかと思い、カット野菜と鶏肉を鍋に入れてスープにする。他にもっとあるだろ、と思うものの、今ある材料の中で、より良い答えが思いつかなかった。
気づくと、勇と朝比奈さんがリビングのソファに座って楽しそうに話している。いつもなら、勇も下拵えや調理を手伝ってくれるのだが、必然的に朝比奈さんがキッチンに来てしまうことを案じて、向こうで寛いでいるのだろう。本当は、勇の方が料理が上手いのだ。材料のいくつかは、あいつのリクエストで買ってきたものだから、余った食材をどう処理するのか、後で相談することにした。
料理を振る舞って星を見るだけの気楽な集まりのはずなのに、相手がどう反応するかを終始気にして、先周りしてしまう自分が心底嫌いだった。手を洗いながら深い溜息を吐く。いつもより汚れてしまったシンク周りを綺麗に掃除しつつ、夕飯の準備を続けた。
そう言いながら勇が家に来たのは、俺たちが到着してから大体10分後ぐらいだった。毎度、両手いっぱいのお酒を持ってきて、リビングにあるミニ冷蔵庫に隠していく。実家に置いていくと2日も保たないとボヤきながら、俺の家を隠れ家にしている。
無論、俺1人だと思っていた勇は、背後にいた朝比奈さんを見て、いつもリビングまで降ろすことのない荷物を玄関に起き、農家仕込みの遠慮会釈ないストレートな驚きの声を上げる。
「彼女かぁ!!?」
言い終わらないうちに、彼の肩を掴み、口を塞いだ。頼むから黙ってくれと思いながら目配せをすると、頷きながら叫ぶのをやめてくれたが、それでも質問は止まらなかった。
「何があった?何がどうした?」
「俺もよく分からないんだが、よく行くコンビニ店員が急に俺の家に来たいって言い出して、全然引かないから連れてきたんだ。」
「はぁ?説明聞いても全然分からん。」
「安心しろ。俺も全然分からない。」
「あの…。」
朝比奈さんが後ろから呼びかけてくるのを「あ、ごめん、ちょっと待って。」と断りながら、なおも説明を続けた。
「家に知らない人を入れるのは苦手なんだ。」
「いや、もう入れてるだろ。」
「そうだな。確かにそうだ。それで、俺はどうすればいい?」
「そんなの知るかよ。はぁ。とにかく、詳しくは後で聞く。」
そう言うと、勇の肩に組んでいた俺の腕をゆっくりと外す。あれだけデカい声を出していたくせに、瞬く間に平静に戻り始める勇に置いて行かれた気がして、俺は呼び止めた。
「おい。」
「まぁまぁ。びっくりしたけど、このままで良いだろ。面白そうだし。」
勇はニヤリと笑うと、ドアから顔を覗かせていた朝比奈さんの方へ向き直る。
「初めまして。大田原勇と言います。」
「初めまして。朝比奈栞里です。」
朝比奈さんの名前を初めて聞いた。彼女は小柄だから、勇と朝比奈さんが並ぶと、隣にいるだけで朝比奈さんが潰れるのではないかと不安になる。
俺と朝比奈さんで頭一個分、勇と朝比奈さんだと胸ぐらいの高さになる。しかも、毎日農作業をしているだけあって、勇は肩幅がデカい。いつも薄っすら日焼けをしていて、土とか太陽とかが似合う見た目をしている。「それは偏見だ」とよく抗議されるが、比較対象がいないのだから仕方がない。俺にとって、農業といえば勇なのだ。
対して、朝比奈さんは笑う時に口元を押さえたり、しっかりと相手に体を向けて話したりと、どことなく育ちの良さを滲ませている。ジーンズに灰色のニットがよく似合っている。コンビニで会っている時の方が、幾分か元気に見えるのは、流石に緊張しているのかもしれない。
家に着いてから、俺はまだ朝比奈さんから3歩以上近くに寄ることができないでいるのに、勇はすでに隣を歩いて談笑までしている。あの心のバリアフリーさにはいつも感心する。もう少し、俺のペースというのも考えてほしいが。
他人と関わるより、少し近しい人間と関わる方が何倍も緊張する。他人に拒否されるのは当たり前だと思えるけれど、少しでも情が湧けば、関係のひび割れは実生活に大きな影響を与える。故に、朝比奈さんが境界線を越えてきたことに、とにかく動揺していた。
まだ心の準備ができていない俺は、勇と朝比奈さんが話している間、飯の準備をすることにした。タレに漬けておいた肉を焼くだとか、野菜を刻んでチャーハンを作るだとか、見栄えよりも量と腹持ちの良さだけをとにかく考えたメニューを作る。
途中で、女の子に高カロリーなものばかり振る舞うのはどうかと思い、カット野菜と鶏肉を鍋に入れてスープにする。他にもっとあるだろ、と思うものの、今ある材料の中で、より良い答えが思いつかなかった。
気づくと、勇と朝比奈さんがリビングのソファに座って楽しそうに話している。いつもなら、勇も下拵えや調理を手伝ってくれるのだが、必然的に朝比奈さんがキッチンに来てしまうことを案じて、向こうで寛いでいるのだろう。本当は、勇の方が料理が上手いのだ。材料のいくつかは、あいつのリクエストで買ってきたものだから、余った食材をどう処理するのか、後で相談することにした。
料理を振る舞って星を見るだけの気楽な集まりのはずなのに、相手がどう反応するかを終始気にして、先周りしてしまう自分が心底嫌いだった。手を洗いながら深い溜息を吐く。いつもより汚れてしまったシンク周りを綺麗に掃除しつつ、夕飯の準備を続けた。
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