音が鳴る方へ

椿英-syun_ei-

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第1話:星の降る夜

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「私、ここに来たの、迷惑でしたかね。」
 時折、黙々と料理を作る風浦さんの様子を見ながら、大田原さんに聞いた。すると、大田原さんは人好きのする笑顔で答えてくれた。
「大丈夫。あいつ、環境の変化に戸惑ってるだけだから。」
 その割に、風浦さんはずっと曇った表情をしている。普段の様子から、雑多な部屋を想像してたのに、余計なものがほとんどない部屋に案内されて、モデルルームに連れてこられたのかと思った。神経質な人なんだということを、ここに来て初めて知った。
「なんか、小動物みたいですね。」
 と言うと、大田原さんが顎が外れるんじゃないかと思うぐらい大きく口を開けて爆笑した。そんなに面白かったかなぁと思っていると、一回横に倒れた大田原さんが起き上がって言った。
「そうだな。あいつはまだ子犬なんだ。」
「子犬…」
 大田原さんは熊みたいだけど、風浦さんはよく言ってもゴールデンレトリーバーぐらいには大きいから、いまいち腑に落ちなかった。大田原さんがテーブルに置いた缶ビールを一口飲んだ。
「よかったら、可愛がってやって。」
「可愛がるって、変なの。」
 私は未成年だったから、お酒を飲むことができない。さっきコンビニを出る前に、風浦さんが買ってくれた缶ジュースを飲む。「二人ともお酒を飲むから、気分だけでも同じものを飲もう」と言って、炭酸飲料とお茶を何本か買ってくれた。「気分だけでも同じものを飲む」というフレーズは、子供扱いされてるみたいでちょっと嫌だったけど、なるべく同じものをシェアしようとする気持ちはちょっと嬉しかった。
「大田原さんは風浦さんと長いんですか?」
「そうだなぁ。」
 体を少し後ろにのけ反らせながら、大田原さんが天を仰ぐ。遠い景色を見るみたいに天井を見つめている。
「中学校ぐらいからの友達だから、10年ちょっとじゃないかな。」
「10年!すごい!」
「いやー、俺の最古の友達は幼稚園から続いてるぞ。」
 つまり、私が生まれる前から友達関係が続いているのか。なんだか、天然記念物でも見ている気分だった。
「はぁ…私なんて、卒業したら疎遠になっちゃうから、なんだかすごいですね。」
「まぁな。でも、あいつより面白いやつは会ったことないなぁ。」
「あ、やっぱり、風浦さん変わってますよね!」
 今日一番の共感ポイントが大田原さんのツボに入ったようだ。
「そう。そうなんだけど、やっぱそう思うよなぁ。」
 釣られて笑っていると、風浦さんが料理を持ってテーブルまで来た。遠くから香っていた匂いが急接近したことで、私の興味は否が応でも手に持った皿の上に注がれた。
「おーいーしーそー。」
 はしたないかもと思ったが、家族以外の誰かが目の前で作った料理というのはレアリティが高い気がして、普段以上に食欲がそそられた。男の人が料理するイメージもなかったから、なんだかすごい体験をしてるんじゃなかろうか。
「簡単なものだけど。」
「そんなことないです。すごく美味しそう。」
「腹減ったー。」
 振り向くと、私の隣から大田原さんがいなくなっていて、キッチンで取り分け用の皿やフォーク等の準備をしていた。しまった、出遅れた、と立ちあがろうとしたが、風浦さんに「大丈夫。座ってていいよ。」と言われ、手伝うことができなかった。
 実を言うと、大田原さんが来る前にも、下ごしらえを手伝おうとして、「大丈夫。」と言われた。押しかけた身で言えたことではないが、風浦さんの中で、きっちりと線引きをされている。いつもコンビニで話しているから、それなりに近しいつもりだった。でも、はっきりと分かるぐらい遠かった。
 私も、その線の内側に入ることができるのだろうか。それはきっと、これからの数時間にかかっている。自然と伸びた背筋に「負けるな、自分。」と言い聞かせた。
 まずは、みんなで食事を楽しもう。思い直して、また、胸いっぱいに香りを吸い込んだ。
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