俺の基準で顔が好き。

椿英-syun_ei-

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異変

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「あいつ、最近来ないなぁ…。」 
 放課後の部活中、プールの中から顔を出した中西がプールサイドにあごを付け、両腕を組んだまま言った。なんだかやる気が無さそうにぷかぷか浮いたりばた足を延々と繰り返したり、うんうんと唸っている。
 夏休みに一緒にプールに行こうと約束してから数日、突然竹内が屋外プールに顔を出さなくなった。まだ四日目だが、しばらく毎日のように来ていたし、来れない日は連絡が来ていたから心配するのも当然だった。
 近頃は三人で始めたグループチャットにもあまり書き込みはなく、理由を聞いても「ごめん…。」の一点張りだった。
 問い詰めたい訳ではなかったが、何かあるなら教えて欲しかった。
「教室行ってみるか?明日とかさ。」
 そんなに心配なら、と中西に問いかける。仰向けになった中西が鼻を鳴らし、考えるように目をつぶった。
「んー…やめとく。」
「面倒くせぇな。」
「だって、あいつの取り巻き絡みだったら余計ややこしくしちゃうだろ。」
「まぁ。そうだなぁ。」
 本当は調子が出ないのは俺もだった。最近は放課後はほぼ一緒にいたから会話のテンポが悪くてムズムズする。何より泳ぎきって水面から顔を出した時、嬉しそうに笑うあいつがいないことを寂しく思うようになってしまった。
 水面から顔を上げる一瞬、水面に輪郭が浮かび、少しずつはっきりと眩いばかりの微笑みが俺達を待っていてくれる。なんだか気持ち悪いなと思いつつ、はっきりと竹内が特別な奴に変わっていくことを感じていた。この、暖かいのに時々ざらっとする気持ちの正体をもう少しで掴める気がする。
「大丈夫か?」
 知らぬ間に俺は突っ立ったまま惚けていたようだ。いつのまにか俺のそばにまで寄ってきていた中西が下から俺を見上げていた。
「悪い。ボーッとしてた。」
「大丈夫かよ。」
「んー。なんだか調子が出ないわ。今日はもうアガるか。」
 そんなに泳いでいないが、あまり気分でもなかったので提案する。
「そうだな。今日はもう帰ってどっか寄り道でもしようぜ。」
 そう言って俺と中西はプールを出て制服に着替えて校門を出た。
 その駅に向かう道中のことだった。
「あっ。」
 中西が先に気付いて俯き気味だった俺が視線を上げる。不意を突かれて少し口を開けて驚く竹内の顔がそこにあった。
ファミレスから出てきて階段を降りてきたところのようだった。後からぞろぞろと取り巻き達が出てこようとしていたので、
「よっ。」
とだけ声をかけるとコクりと頷くだけだった。
「またBINEでな。」
 俺と中西も空気を読んでそれ以上話しかけず、ただその場を歩き去ることにした。まだ誰もこちらを見ていなかったはずだからきっと大丈夫だと思った。俺達はまだ今までの関係でいられると思った。不安定な綱渡りをしていても、絶対にヘマはしないと思っていた。きっと皆、同じ気持ちでいるだろう。きっと、そうなんだ。
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