8 / 92
#7、 3人目の攻略キャラ、盗賊トラバット
しおりを挟む「この思いは私の独りよがりでないと、そうおっしゃってください……! ナナエ姫……!」
「や、やめてっ! 離して!
わ、わたしから離れなさい! ぶ、無礼ですよ!」
奈々江はロージアスの胸を拳で叩いて突き放した。
離してくれたからいいものの、ロージアスの甲冑を強く叩いたせいで、拳にはじんじんと痛みとしびれが広がった。
(うう~……っ!
い、痛みまでリアル……!
それじゃあ、死ぬときも痛いってこと……!?)
「ナナエ姫……」
傷ついた表情のロージアスが、潤んだ眼で見つめている。
思わず奈々江の口から洩れた。
「そんな顔しないで……」
(……って、ああ、もう!
ロージアスに付き合ってる場合じゃないのに。
ゲームなのに、夢なのに、本当に傷つているみたいな顔をするから……)
ロージアスが小さく笑った。
「私ではない誰かなのですね……」
(わ、わたしに答えられないよ……)
「わかりました……。
あなたがその胸を焦がす存在が誰であろうと、あなたがこの世からいなくなってしまうなんて、私は耐えられない。
お願いですから、どうか生きて幸せになってください……。
私にできることならなんでもしますから……」
(な、なにこの人、急に切ない……。
健気だわ……。
って、ああ、また感情移入しちゃった。
これじゃいつまでたっても、きりがない。
……ここは、ここは、ちょっと卑怯かもだけど……)
奈々江はぎこちなく、ロージアスに向かってほほ笑んだ。
「ありがとう、ロージアス。
あなたのおかげで少し前向きになれました。
気持ちを落ち着けたいから、少しだけひとりにしてください。
少しだけ泣きたいから、こちらを見ないでね」
「ナナエ姫……。わかりました……」
ロージアスが切ない微笑みを浮かべ、後ろへ下がった。
ある程度の距離ができるのを見計らうと、奈々江はえいやと、石柵によじ登り、その身を夜空に投げた。
「ナ、ナナエ姫―――っ!」
夜空に響くロージアスの声を聞きながら、奈々江はぎゅっと目をつぶった。
(ごめんね、ロージアス……。
だまし討ちみたいなことをして。
だけど、わたしは夢から覚めたいの……!)
夜風が身を切っていくのがわかる。
重力が加速度的に奈々江を地面へと引き寄せる。
(お願い、目覚めさせて……!)
ドンッ、と強い衝撃が体に響いた。
だが、それは明らかに地面によるものではなかった。
目を開けると、視界はまるでターザンのロープのように大きな弧を描きながら揺れていた。
「な……?」
「口を閉じろ。
舌を噛むぞ」
「えっ!?」
奈々江はロープを掴んだ男性にしかと抱き留められていた。
「だ、誰なの?」
「俺か? 聞いたらきっと後悔するぜ」
身をよじると、同時に月明かりが男性の顔を照らした。
(と、盗賊トラバット……!?)
"恋プレ"攻略キャラのひとり。
各国の裏社会で暗躍する盗賊団団長の悪名高きトラバット。
まるで猫のように光る眼と、こちらもトラ猫のような黄色い髪。
白いターバンを巻いて、腰には弓なりの大剣。
器用にロープを操ると、あっという間に大地に降り立ち、奈々江を下ろした。
辺りをビャクダンのような香りが舞う。
星が割増しにして、異様にきらきらと輝きだす。
野性味あふれるその風体に、いたずらっぽい瞳の輝き。
「下見に来ただけなのに、珍しいお宝が手に入っちまったな。あんた、名前は?」
(あああ、なんでこうなるの!?)
「おいおい、どうした?
恐怖で声も出ないってか?
それとも、盗賊なんかに名乗る義理はないってか?」
「……奈々江」
「ふうん、ナナエか。
見た目よりなかなかいい肉付きしてたぞ」
「ちょっ……!」
「城から身を投げるなんざ、ナナエもなんか訳ありだな。
俺の五番目の妻にしてやらんでもないぞ」
「け、結構です!」
「わはは、遠慮するなって!」
トラバットがぐいっと奈々江の腰を引き寄せた。
またも拳を丸めてトラバットの腕や胸を殴りまくった。拙い抵抗が功を奏し、なんとか距離を取れた。
すかさず、こめかみを叩いてラブゲージを確認する。
(ああ、やっぱり!
トラバットもラブゲージマックスになってる!
ロージアスの次はトラバット。
いつになったらわたしは死ねるの!?)
「なかなか活きのいい子猫ちゃんだ。嫌いじゃないぜ」
現実だったら失笑ものの台詞も、乙女ゲームならではだ。
そう、これは現実ではない。
これは夢。
これはゲーム。
努めて冷静になろうと気を取り直した。
(とにかく、トラバットに関わっていたら、多分死ぬことなんてできない。
トラバットは軽そうなキャラに見えて、実は自分の仲間や家族には深くて強い愛情を持っているのよね。
五番目だろうと、妻を死なせるはずがない。
今後見張りが厳しくなったとして自殺は難しくても、城にいた方が毒殺や暗殺で死ねる可能性もある……)
「ナナエ、俺はお前を気に入っちまったみてぇだ。
ここからかっさらいてぇが、お前は違うみてぇだな」
(え、びっくり……。意外と紳士的?)
「それにちと長居しすぎたようだ」
そのとき、警笛が鳴り響いた。
城のあちこちで火が灯ったのがわかった。
ロージアスが兵を動かしたのだろう。
「じゃあな、ナナエ。
すぐ会いに行くからな」
「……」
トラバットはウインクをしてみせると、ロープを巧みに操って、まるで風のように世闇に消えていった。
*お知らせ-1* 便利な「しおり」機能をご利用いただくと読みやすいのでお勧めです。さらに本作を「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届きますので、こちらもご活用ください。
*お知らせ-2* 丹斗大巴(マイページリンク)で公開中。こちらもぜひお楽しみください!
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
2/26 番外編を投稿しました。
読んでいただけると嬉しいです。
思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。
とてもとてもありがとうございます!!
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる



