【完】こじらせ女子は乙女ゲームの中で人知れず感じてきた生きづらさから解き放たれる

国府知里

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#7、 3人目の攻略キャラ、盗賊トラバット

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「この思いは私の独りよがりでないと、そうおっしゃってください……! ナナエ姫……!」
「や、やめてっ! 離して!
 わ、わたしから離れなさい! ぶ、無礼ですよ!」

 奈々江はロージアスの胸を拳で叩いて突き放した。
 離してくれたからいいものの、ロージアスの甲冑を強く叩いたせいで、拳にはじんじんと痛みとしびれが広がった。

(うう~……っ!
 い、痛みまでリアル……!
 それじゃあ、死ぬときも痛いってこと……!?)
「ナナエ姫……」

 傷ついた表情のロージアスが、潤んだ眼で見つめている。
 思わず奈々江の口から洩れた。

「そんな顔しないで……」
(……って、ああ、もう!
 ロージアスに付き合ってる場合じゃないのに。
 ゲームなのに、夢なのに、本当に傷つているみたいな顔をするから……)

 ロージアスが小さく笑った。

「私ではない誰かなのですね……」
(わ、わたしに答えられないよ……)
「わかりました……。
 あなたがその胸を焦がす存在が誰であろうと、あなたがこの世からいなくなってしまうなんて、私は耐えられない。
 お願いですから、どうか生きて幸せになってください……。
 私にできることならなんでもしますから……」
(な、なにこの人、急に切ない……。
 健気だわ……。
 って、ああ、また感情移入しちゃった。
 これじゃいつまでたっても、きりがない。
 ……ここは、ここは、ちょっと卑怯かもだけど……)

 奈々江はぎこちなく、ロージアスに向かってほほ笑んだ。

「ありがとう、ロージアス。
 あなたのおかげで少し前向きになれました。
 気持ちを落ち着けたいから、少しだけひとりにしてください。
 少しだけ泣きたいから、こちらを見ないでね」
「ナナエ姫……。わかりました……」

 ロージアスが切ない微笑みを浮かべ、後ろへ下がった。
 ある程度の距離ができるのを見計らうと、奈々江はえいやと、石柵によじ登り、その身を夜空に投げた。

「ナ、ナナエ姫―――っ!」

 夜空に響くロージアスの声を聞きながら、奈々江はぎゅっと目をつぶった。

(ごめんね、ロージアス……。
 だまし討ちみたいなことをして。
 だけど、わたしは夢から覚めたいの……!)

 夜風が身を切っていくのがわかる。
 重力が加速度的に奈々江を地面へと引き寄せる。

(お願い、目覚めさせて……!)

 ドンッ、と強い衝撃が体に響いた。
 だが、それは明らかに地面によるものではなかった。
 目を開けると、視界はまるでターザンのロープのように大きな弧を描きながら揺れていた。

「な……?」
「口を閉じろ。
 舌を噛むぞ」
「えっ!?」

 奈々江はロープを掴んだ男性にしかと抱き留められていた。

「だ、誰なの?」
「俺か? 聞いたらきっと後悔するぜ」

 身をよじると、同時に月明かりが男性の顔を照らした。

(と、盗賊トラバット……!?)

 "恋プレ"攻略キャラのひとり。
 各国の裏社会で暗躍する盗賊団団長の悪名高きトラバット。
 まるで猫のように光る眼と、こちらもトラ猫のような黄色い髪。
 白いターバンを巻いて、腰には弓なりの大剣。
 器用にロープを操ると、あっという間に大地に降り立ち、奈々江を下ろした。
 辺りをビャクダンのような香りが舞う。
 星が割増しにして、異様にきらきらと輝きだす。
 野性味あふれるその風体に、いたずらっぽい瞳の輝き。

「下見に来ただけなのに、珍しいお宝が手に入っちまったな。あんた、名前は?」
(あああ、なんでこうなるの!?)
「おいおい、どうした? 
 恐怖で声も出ないってか?
 それとも、盗賊なんかに名乗る義理はないってか?」
「……奈々江」
「ふうん、ナナエか。
 見た目よりなかなかいい肉付きしてたぞ」
「ちょっ……!」
「城から身を投げるなんざ、ナナエもなんか訳ありだな。
 俺の五番目の妻にしてやらんでもないぞ」
「け、結構です!」
「わはは、遠慮するなって!」

 トラバットがぐいっと奈々江の腰を引き寄せた。
 またも拳を丸めてトラバットの腕や胸を殴りまくった。拙い抵抗が功を奏し、なんとか距離を取れた。
 すかさず、こめかみを叩いてラブゲージを確認する。

(ああ、やっぱり!
 トラバットもラブゲージマックスになってる!
 ロージアスの次はトラバット。
 いつになったらわたしは死ねるの!?)
「なかなか活きのいい子猫ちゃんだ。嫌いじゃないぜ」

 現実だったら失笑ものの台詞も、乙女ゲームならではだ。
 そう、これは現実ではない。
 これは夢。
 これはゲーム。
 努めて冷静になろうと気を取り直した。

(とにかく、トラバットに関わっていたら、多分死ぬことなんてできない。
 トラバットは軽そうなキャラに見えて、実は自分の仲間や家族には深くて強い愛情を持っているのよね。
 五番目だろうと、妻を死なせるはずがない。
 今後見張りが厳しくなったとして自殺は難しくても、城にいた方が毒殺や暗殺で死ねる可能性もある……)
「ナナエ、俺はお前を気に入っちまったみてぇだ。
 ここからかっさらいてぇが、お前は違うみてぇだな」
(え、びっくり……。意外と紳士的?)
「それにちと長居しすぎたようだ」

 そのとき、警笛が鳴り響いた。
 城のあちこちで火が灯ったのがわかった。
 ロージアスが兵を動かしたのだろう。

「じゃあな、ナナエ。
 すぐ会いに行くからな」
「……」

 トラバットはウインクをしてみせると、ロープを巧みに操って、まるで風のように世闇に消えていった。




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