サンドプレイシュミレーション

国府知里

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Simulation Introduction

十五、メイオウ領(8)

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 この世のすべての大地とすべての海をいだく強大なる「居神国」。
 居神国はさる惑星における人類の平行世界。
 最も近しい例を上げれば、日本国における弥生時代にも似た原始国家である。
 大きく違うのは、徹底した女系王が管理する女性優位の社会であること。
 政治的権力と社会的優位性を持つこと、また継承できるのは女のみ。
 男は子種をもたらすだけの家畜である。……

 居神国に属するメイオウ領。
 ここに生きるシュンという男がこの物語の主人公である。

 歌というものを学んで以来、シュンにはひそかな楽しみができた。
 詩作にふけるとともに、男たちに許されたひそやかながらも立派に整えられた庭をふらりふらりとめぐることだ。
 この庭では、季節の花々が咲き、池には鳥が水を飲みにやって来ては飛び立つ様子、虫が羽をこすりあわせて涼やかな音色を鳴らすこともある。
 滓穴しか知らぬ男たちからしたら、まるで天国のように穏やかな場所なのだ。

「わあっ……、この白い花、かわいらしい。なんだか、ミライ様ににているみたい……」

 先日ミライの寵愛を巡って、ゲツとギョクに激しい嫉妬を抱いたはリェンとジンは、それぞれに嗜好を凝らして今宵のお渡りを掴むためにあれこれと忙しい。
 その騒ぎに巻き込まれて、キョウやガイは呆れたり文句を言ったりとして、また忙しい。
 喧騒を離れて、シュンはひとり歌の練習を続けることが、心の安らぎなのだった。

「しろきはな……、いとしきひとの……はだに……にて……」

 庭の片隅に咲く花に、ミライの白い肌を思い出し、シュンはひとりで、ポッとなった。
 つい歌が口からこぼれた。
 まだうまく字が書けないシュンだが、心のままに歌を書きとめようと帳面と筆を出したものの、ハッと気づいて頭をブンブンと左右に振った。

(だ、だめだめ……。こんな歌を披露したら、兄様たちににらまれるに決まってるよ……)

 一番下っ端のシュンはリェンに引き上げられ、弟分のように可愛がられているが、それは兄達をうまく引き立て、害にならぬようにうまく立ち回って来たからだ。
 例え、ささやかな歌ひとつであっても、兄達よりもミライ様を求めたり愛おしがったり、前に出ようとすれば、その関係性は崩れてしまうだろう。 
 自分の立場をわきまえているシュンは、そんなまずいことは自分からは決してしないのだ。

「ふー……、危ない危ない。自分からの池に飛び込むようなものだ……」

 息をつきながら、帳面と筆を袖の中にしまっていると、後ろから声がかかった。

「なにが危ないのだ?」
「――ひぇっ!?」

 その声に慌てて振り向くと、立っていたのはミライだった。
 従者もつけずに、こんな明るい時間に、庭をフラフラしているなんて、めったに見かけることなどない。
 あんまりびっくりして、立ち上がると同時に足がおぼつき、シュンは前につんのめった。

「あっわわっ!」
「おい、気を付けろ」

 あわや自分で言った通り池に飛び込もうかという寸でで、ミライがシュンの袂を引いた。
 おかげでミライの前で粗相は免れたものの、シュンはすっかり委縮して縮こまった。

「すっ、すみません……!」
「ふっ、気まぐれに来て驚かしたのは俺の方だな。それより、シュンはなにをしていたのだ」
「あの、えと……、う、歌を……」
「ほう、庭で歌読みか。どれ、ひとつ聞かせてみよ」

 日の下で柔らかく笑うミライは、閨の妖しさとはまた違って美しい。
 シュンはどぎまぎしながらさっきの歌を読んだ。
 ミライは不思議そうに笑った。

「ふ……、シュンにはこの俺がこんな可憐な花に見えているのか。これはなかなか興味深いことだ」
「……ご不興を買いましてもうしわけ……」

 ますます縮こまって困ったように目を伏せているシュンを見て、ミライはふと尋ねる。

「一番若く嫉妬を受けやすい身の上なのに、シュンはよくやっているな」
「……は、はあ……。僕は兄様がたと仲良くここで生涯を過ごせたら、どれだけ幸せだろうかと思っています……」

 それは生まれつき気性の穏やかなシュンの本音だった。
 男として生まれ、その運命を受け入れざるを得ないと知った時を思い出せば、自分が今ここでどれだけ幸せで生きているかを日々感じ入る。
 序列はあれども、衣食住が足りてミライの庇護下で守られて暮らす。
 幼かった日々のシュンからすれば、ここはまさに、夢のような場所なのだ。
 嫉妬渦巻く男の園で一輪、清涼として風になびく花のような風情。
 ミライには、ふと、シュンがそのように見えた。

「ふぅむ……、お前はさほど俺に愛されたい願望しておらんのだな……」
「い、いえっ……! そういうわけでは……! ただ、兄様がたを差し置いてまでとおもうだけで……」
「ふぅん」

 赤くなってうろたえるシュンに、そこはかとなくいじらしさを感じ、ミライはスッと距離を縮めた。

「あっ」

 シュンが身じろぐ間もなく、唇はふさがれた。

「んっ、んちゅ、うっ、うん」

 突然の口づけと、やわやわと濡れたぬくもりに、シュンは一瞬で自我を忘れそうになる。

「はっ、あぁっ、ミ、ミライさ、ま……っ」
「ふっ、俺にはお前の方がよっぽど可憐に見えるがな」

 衣の上からミライの愛撫が、するするとシュンの竿をなでると、瞬く間にシュンは仔犬のような目になり、戸惑いと慎重さをないまぜにしながら、おずおずと求めるような態度になる。

(こんな外でなんて、ミライ様とは初めてだけど、ああ……。
 ミライ様と僕、誰にも邪魔のされず、ふたりきりなんてこんな機会めったにない。
 ああ……、欲しい……!)

 シュンの欲望を受けて、すかさずミライは男たちを酔わせとろかす手練手管でシュンを組み敷いた。
 池のほとりであられもない姿にされたシュンは晴天を仰ぎながら、麗しく愛しい人の影を一身に見つめた。

「ああっ、ミライ様、ミライ様……っ!」
「ここにはお前の兄達は誰もいない。思う存分、その猛りを振るがいい」

 ミライの導きによって、シュンは今までになく激しく開放的になり、血潮の騒ぐままにミライの股に自分を突き上げた。
 
「ふんっ、ふんっ! うっ、ううっ!」
「なかなか、いいぞ、そうだ、シュン」

 日の光を浴びてまるで天女のようなミライに向かって、思うままになんども突き、何度も爆ぜた。

(ああ……! ミライ様が僕の種をこんなにおとりになってくださるなんて……!
 僕はなんて幸せなんだ……!)

 疲れ知らずの甘美と興奮の中で、シュンに小さな優越感が芽生えた。

(太陽に見守られながらミライ様と思いきりまぐわうなんて、きっと兄様たちは、きっと一度もしたことないんじゃ……)

 そう思うと、いつも自分よりもはるかに長くそして強く君臨する兄達に対して、性のものとは違った別の快楽が心をくすぐるような気がした。

(ああ、ミライ様……! 離したくない……!)

 シュンは突き上げると同時に、半身を起こし、勢いに任せてミライを、ぎゅっとその腕に抱きしめた。
 ふわっとかおる、香と、ミライの髪の匂い。
 また、興奮がつき上げてきた。

「ほう? いつもより元気ではないか」
「ミ、ミライ様……、僕もっと……」

 そのとき、庭の陰からふたつの悲鳴が響いた。

「あああっ、シュン、お前~っ!!」
「なっ、なぜ、ミライ様がここに……っ!?」

 ギクッとしたまま目を向けると、顔を真っ赤に怒らせたリェンと、今にも泣き出しそうなジンがいた。
 一瞬で興奮が気まずさに変ったシュンは、力なくオロオロとしたが、ミライは、はっはと笑う。

「きぃいぃぃぃっ……! ミライ様をひとり占めしようだなんて……!」
「俺に断りもなく、シュン、一体どういうつもりだっ!」
「そうか、ここはお前たちの部屋の裏だった。うるさくしてすまなんだ。たまたまぶらついているシュンを見つけたので、俺が押し倒したのだ」

 そう言ってくれたので、シュンはそれ以上ふたりに絡まれることはなくなり、ホッと胸をなでおろした。
 とはいえ、男の嫉妬は燃え盛る。
 今度いつミライが庭にふらりとやってきてもいいように、男たちはこぞって庭をうろつくようになった。
 男たちが庭で鉢合わせると、決まって見えない火花を散らすのだった。

 今回はジン、リェンともに軍配上がらず。
 そしてシュンは、兄達が庭で日焼けするのを横目に、日陰で歌を読むのだった。



 ミライと七人の男たち。

 積もる話は山あれど、語る機会はまたいずれ……。




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