【完】左手だけの婚約者~Hanamun Life~一緒にワープした婚約者は、左手だけなのに最強です!?

国府知里

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30、ターマン師父の流

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 旬さんはああいっていたけど、わたしはクランに打ち明けた。
 本当に術を使っているように見えない方法があるのか。
 マッカリは人の心を読んだりするような術を使う可能性があるのか。
 打ち明けると同時にクランは、はっとしたように目を丸くした。

「そうかもしれません! 今までなんどもしてやられてきたのは、心を読まれていたのかも! さすがにそこまでは考えもしませんでした。旬浮者のテレパシーもそうですが、人の心や精神に働きかける術はいろいろと存在しますが、どれもとても高度な術で、師父の位を持ってしても、簡単に会得できないのです。美波、さっそく父に話にいきましょう!」

 勢いのままコルグさんの部屋に向かった。
 この様子だと、旬さんがいっていた懸念はあまりなさそうだ。

「なるほど、術を使っているように見えない方法ですか……」
「コルグさんもお気づきだとは思うのですが、旬さんいわくマッカリさんの流は層になっていてめずらしいそうです」
「確かに、キリ家の女性はみなあのような変わった触りをしています。単に家系的なものというだけでなく、なにか特別な訓練をしているのでしょうが、その方法がキリ一族から漏れたことはありません」
「彼女がそうだという確信はありませんが、人の心や精神に働きかける術というのはどんなものがあるのですか?」
「わしにはそちらの方面の才が乏しく、残念ながらお見せできる術は持ち合わせていません。ターマンを訪ねてみてください。この寺では彼がもっとも適任でしょう」

 旬さんが、ぴっと指を上げた。

「流者や浮者の間で、自分の術を隠しておくのは自然なことだと思うが、間違いないか?」
「それに対する答えは、はいであり、いいえです。寺に関わる者であれば、術者としての位を持つ者についてはおおよその把握しておりますし、予想がつきます。あるいは、浮流の通った者には、浮流の量と触りによって、術の方向性を感知できます。されは己の力を磨くのと同時に、他者の浮流にも各核と理解が増すので、自称術者を名乗っていたとしても、見る者が見れば三文か本物かはすぐにわかります。具体的に誰がどんな術を使うかについては、実際にそれを見るか、印帳をみるしかありませんかありませんが、その威力や難度は、おおっぴろげに語ることはありませんが、かといってむやみに隠し通せるものでもありません。また、隠すというのは、相手によっては不敬の表れであり敵意と取られることもあります」
「例えば相手の心が読める術や、相手の気分や考えを操れるような術があったとしたら、それは隠すのは当然だと思うが。俺はあなたがそうであってもおかしくはないと思っている」
「流をご覧になれば、わしにそれが出来ないようもないのはおわかりのはず。寺に入って裕四十年流術を極めんとしてまいりましたが、流の方向が一度定まると、それを変えるのは非常に困難です。流はその者の人生をも表します」
「それを聞けて安心した。あなたの流からは一定の音階が流れている。偽らざる澄み切った音だ」
「音が聞こえるのですか?」
「今は音で人が考えていることや気分がおおよそわかる」
「でしたら、ますますターマンはお役に立てるかもしれません」

 術を使っているように見えない方法については、可能性を考えてみるとコルグさんがいってくれた。
 クランがターマンさんのいる場所に案内してくれた。
 ターマンさんといえば、パンドラムのような金属の楽器クワンランを弾いてくれた師父だ。
 お寺において師父というのは、住職に次ぐ役職で、その分野で最も流術に優れ、後進を育てる役割を担っているという。
 役職とは別に、僧階という位があって、八級に分かれている。階級の決定は、入門してからの年数に加え、流術への理解と修練度が加味されるそうだ。二年に一度、階級試験というものがあるらしい。その試験が今年の夏にある。小坊主さんたちが触りを鑑定して欲しがったのは、そういう理由もあったのだろう。

 部屋に向かう途中から、クワンランの音が響いてきた。
 寺の東の棟にはまだ行ったことがなかったけれど、どうやら楽器の練習場があるようだ。
 廊下を行く間に、楽器の手入れなどをする僧侶の姿が見えた。
 ハープのようなものや、枇杷のようなもの、笛や打楽器もあった。
 こんなにいろいろな楽器がお寺にあるなんて、知らなかった。

「毎年春と秋の奉納のときに音楽も奉納するのです。美波は体調を崩していたので、どちらもまだ見たことがありませんでしたね」
「うん、春はいつやるの?」
「中央からの浮者がお見えになることになったので、それと合わせて行うことになっています。浮者の来訪は、我々にとって最大の恵みですから」
「どんな音楽なんだろう、すごく楽しみ」

 一室に向かうと、ターマンさんと向き合って幾人かの僧侶たちがクワンランを練習していた。
 その末席で、カーツさんとマシンくんも目の前の楽器に集中している。
 曲の終わりで、クランが声をかけた。
 目元の優しいターマンさんが、奥の部屋へと誘ってくれた。

「それで、コルグ流者にわたしを訪ねるよう勧められたのですね。でしたら、わたしの術をお目に掛けましょう。しかし、思われているものとは違うかもしれません」

 奥の間に座したわたしたちの前で、ターマンさんは部屋の隅に置かれていたクワンランを手元に置いた。

「今から奏でるのは、ユーファオーの樹を称える曲です。一時的に聞く人の心を落ち着かせます」

 ボワァンと金属の柔らかな音が響く。
 以前聞いた音響治癒法の雨の曲やその他の曲も素晴らしかったけれど、この曲はとても荘厳な感じがする。胸にずっしりと来て、それでいてとてもすがすがしくて心地いい。

「いかがでしたか?」
「凄く力強くて、心地よくて、敬虔な気持ちになりました」
「美波浮者の気持ちが安定しているからでしょう。クラン様はいかがでしたか?」
 
 はっとしたように、クランはわずかに肩をとがらせた。

「わ、わたしは、少し圧力を感じました。この曲にはいつも大いなる力の壮大さと畏怖を感じます。今日は自分の心が少し乱れていましたので余計に……」

 クランにはそう感じるんだ。
 もしかして、これが流術の威力ってこと?
 
 旬さんが指を滑らせた。

「マヌーケルエンの光はないが、クワンランやあなたから流が発せられているのがわかる。これも流術なんだな?」
「申し訳ありません。わたしは下町言葉についてはほとんどわかりませんので、旬浮者はなんとおっしゃっているのでしょうか?」
「マヌーケルエンの光はないけれど、これが流術なんですね? と聞いています」
「その通りです。記帳法が広まる以前は、このように楽器を介したり、道具や薬草を介して、流を扱う術が多くありました。この方法の良い点は、物体そのものの力を借りることが出来るので、流の力が弱い者でも効果があるということです。言い換えると、記帳法は極めて容易な方法で複雑な術を使いこなすことが出来ますが、ある程度の流がないと、印帳と師筆そのものが有効に使えません。マヌーケルエンの光はその基準となるのです」
「それなら、浮の弱いわたしでも、クワンランなら使えるかもしれないっていうことですか?」
「ご興味がおありでしたら、浮術のためとむずかしく考えずとも、楽しんでみようというくらいの軽い気持ちでお試しになってみて下さい。クワンランには昔から人の神経や体調にいい影響を与えることがわかっていますから、きっと良い効果があると存じます」

 えー、すごい、わたしにも、浮の修業が出来ちゃうかも!
 わたしの興奮をよそに、旬さんは指を進めていた。

「人の心や考えを読んだり、そういう術はないのか? 美波、訳してくれ」
「えっ、あ、はいはい」

 ターマンさんは旬さんの疑問に、浮流の見えないわたしにもわかりやすく答えてくれた。

「まず、他者の心を読むということについてですが、寺で研鑽を積む者からすれば、そのような方向性に悪意を持って自らの力を伸ばすそうと考えるのは、無意味でむなしいことです。その力でどのように隣人や郷里の役に立てましょうか。もしそれを承知で行うものがあれば、それはとても危険で利己主義的な思想です。その一方で、この国に訪れたばかりの浮者や、幼い子ども、ものいわぬ獣など、ときにそうした力が必要になる場合もございます」
「じゃあ、やっぱりあるんですね」
「ございます。わたしの印帳をお見せしましょう」

 ターマンさんは袂から印帳を取り出し、開いて見せた。
 残念ながら、わたしにはなにも見えない。
 ただの白紙だ。

「美波浮者はお読みになれますか?」
「いいえ。旬さんもまだハナムン語は読めないので……」
「そうでしたか。では、実演してお見せしましょう。クラン様、よろしいでしょうか?」
「えっ、あっ、は、はい」

 クランは緊張に顔をこわばらせた。
 ターマンさんが師筆を取り出すと、自分の手に「目」と「耳」を書いた。
 マヌーケルエンの光が輝く。
 ここまでは、コルグさんと同じだ。

「わたしの目と耳は、ある条件を課したときのみ、他者の考えを見る、あるいは聞くことが出来ます。質問をして、その考えを相手に引き出させておく場合と、そうしたこととは関係なく、いわば相手の記憶から強制的に引き出す場合とがあります。さらには、誰に知られるはずのないその情報を揺り動かすことで、相手をわたしの位置する方向へ動かすこともできます」
「……予想はしてましたけど、結構、怖いですね……」
「子どもが迷子になったときや、動物が錯乱したときなどは、どうしても必要になるのです」
「な、なるほど……」
「さらに条件を課した場合、わたしの目と耳は特定の過去に起こった出来事を見て聞くことが出来ます」
「え……! 過去も見えるんですか? それって、まさか、未来も見えるんでしょうか?」
「残念ながら、わたしにはできませんが、術に長けたもの、あるいは浮者の中には未来を見る術を持つ方もいらっしゃるかもしれません」

 旬さんが人差し指で空中に質問を投げかける。

「ターマンさん、その条件というのは、どんなものなんですか?」
「それはわたしに生命にかかわることなので、はっきりとは申し上げられません」
「そっか、術が他人に知られると危険なこともあるということなんですね……。術を受けるのも怖いけれど、施すほうも怖いのですね」
「この手の術者は誰しも、そのことをよく知っておかなくてはなりません。一通りの説明は済みましたので、術を見て頂きましょう。クラン様ご準備はよろしいでしょうか」
「は、はい……」

 クランはこぶしを握って不安げにターマンさんを見つめた。

「これからお見せするのは、記憶の誘導です」
「記憶の誘導?」
「例えば、寺に外部からの侵入者があり、宝物が盗まれたとします。調べた結果、クラン様があいさつを交わした男がその侵入者であったと仮定します。しかしクラン様は男と初対面で、誰とはわからない。ですが、その顔を思い出し、わたしが見ることで、犯人がわかる可能性があります」
「なるほど、確かに犯人の特定に役立ちますね」
「ただし、わたしもその人物を知っているとは限りません。なので、この記憶を知っていそうな他者に送信をします」
「送信! そんなこともできるんですか?」
「これには受け手が必要なので、誰か呼びましょう」
「でしたら、わたしに送ってみて下さい。ぜひその術を受けてみたいです」

 思わず手を挙げていた。
 ターマンさんが優しくほほ笑んだ。

「美波浮者は浮が弱いので、鮮明に受けられるかどうかわかりません」
「術を受けるのにも、浮が必要なんですか?」
「正確には、送るほうに受けるほうにも必要ですし、触りによってもうまくいく行かないがあります。わたしの流はさほど多くありませんから、浮の少ない美波浮者にはっきりとお見せできるだけの力がないは思われます。旬浮者ほど豊富な浮があれば、どなたに対してでも十分可能かと思います。今いるこの棟にいる中では、カーツかマシンが適任でしょう」

 そうか、送るほうと受けるほうと両方の条件が満たされなきゃできないんだ。
 旬さんはテレパシーを送るとき、マシンくんの触りがつかみやすかったからっていっていた。
 それを話すと、ターマンさんはマシンくんを呼んだ。
 部屋にやってきたマシンくんは興味津々に瞳を輝かせていた。

「ではクラン様、誰でも結構です。頭に特定の人物を思い浮かべてください」
「はい……」
「その人のことで、あなたが知っていて、マシンが知らないであろうことを思い出してみて下さい」
「はい……」
「それでは、この記憶をマシンに送ります。マシン、どうですか?」
「はい、見えます。美波浮者が二つ目の山椒入りのクルミ餅を食べています」

 ちょっとぉ……!
 なんでよりにもよって、そんな場面なの!

「ちょっとクラン! なんでその記憶なの! せめて、もっと他にあるでしょう?」
「す、すみません、とっさだったので……」
「わたしがすごい食いしん坊みたいじゃん……!」
 
 ターマンさんとマシンくんにくすくす笑いされてしまった。
 もー……、恥ずかしいなあ。

「術がすごいってよくわかりました。あと、人の記憶に残ってる自分って結構恥ずかしいなって。できればもう人のも見たくないし、人からも見られたくないなって思いました」
「その通りです。このような力は使わないで済むのなら、そのほうが良いのです」
「だとすると、もしマッカリさんが本当に人の心を読むような術が使えて、しかもそれを隠しているとしたら、かなり悪質ですね」
「奉納祭のときにキリ家の方々を目にすることがありますが、かなり特殊な触りをしています。あの一族が術を使っているのにもかかわらず、使っていないように見せることが出来ると聞いても、それほど驚きはありませんね。触りの変容、流の量ともにともにわたしには到底真似できることではありませんが。もう一つ、彼らの流の位置は千大きな特徴としては、ほとんど拍子がないことです」
「リズムのことですか? あ、えっと……」
「リズムというのはわかりませんが、音楽でいう調子のことです。浮流はその人固有の強弱や繰り返し、明暗や遅速、あるいはくせのようなものがあるのです。彼らからはそういうものがない。ないというよりは、出ないように強く調教されているという印象です」
「旬さんも、マッカリさんから流の音が全く聞こえないといっていました」
「旬浮者には流の音が聞こえるのですか? なんと興味深い……。しかし、もしそうなら、音がないということは非常に不自然な事です。生きるものには当然ですが、命のない物体にも音はあるものですから。自分の音を最小限にする必要があるとすれば、目的としてはただ一つでしょう」
「目的があるんですか?」
「キリ家は、恐らく人の心を聞く流術を身に着けています。聞くために、自分の音を鳴らさないようにしているのです」

 音楽を聞こうとするとき、普通人は黙る。相手の話を聞こうとするとき、口を閉ざし耳を傾ける。
 キリ家に伝わっている流術は、恐らく極限まで相手に集中して耳を傾けるものだろうということだった。
 それに加え、他者の触りに自分の触りを近づけるための特訓を受けている。
 マッカリの力は、寺とは違うある意味英才的な流術教育を受けた賜物なのでは、ということだ。
 ターマンさんの部屋を出た後、クランとわたしの部屋に戻った。

「ターマン師父の話が本当なら、キリ家の人望も地位も地に落ちたも同然です。守長一族として到底ふさわしいとはいえませんね。今度こそ、鼻を明かしてあいつにぎゃふんといわせてやりますわ。あとはどうやって確かめるかです」
「ここまで分かったなら、とりあえず、あまり近づかないようにすればいいんじゃない?」
「えっ、仕返しをしないのですか?」
「そんなことしないよ……」

 クランはマッカリのことになると、直情的になりがちだ。
 気持ちはわかるけど、性急に運びすぎるのは良くない気がする。
 ただ、旬さんのいうとおり、術を使っているように見えない方法については知っておく必要がありそう。
 中央からの浮者の件もあるし、なんかあんまり不安要素が増えると、心配になっちゃうな……。
 思わずため息が出る。

「あの……、美波……」
「浮者が来るのはもうすぐでしょ? クランもマッカリのことより、そちらのほうを考えた方がいいよ」
「そ、それはそうですね……」

 それからの数日間、浮者がやってくるその前日まで、寺はその準備に明け暮れた。
 いつもより念入りな掃除。
 奉納祭のための祭壇や普段は見ない黄色い毛の敷物、お供え物や切り花。
 本来、春の奉納祭は種をまく時期に合わせて行われるらしい。
 ユーファオーの樹から多くの浮が天地を巡るようにと、経、音楽、演武、その他の流術を奉納するのだという。
 当日は、近隣の町や村からも人が集まってくるという。
 僧侶たちにとっては、日ごろの修業の成果を発揮する、晴れ舞台のようなものらしい。

 檀家さんたちは、浮者をもてなす料理と、祭壇に飾る菓子作り、来訪者に配られる甘酒や麦菓子、豆菓子作りに追われている。
 わたしもお菓子作りを手伝わせてもらった。
 祭壇に飾るお菓子は、お餅や米粉に砂糖や薬草を混ぜて型を取ったり、彫刻したりする飾り菓子で、わたしにはとても手が出せそうにない、手間のかかった美麗なお菓子だった。
 わたしが手伝った麦菓子は、雷おこしのようなものだ。炒ってつくった麦のぽん菓子に、黒糖を絡めて固めたもので、クムンという。
 豆菓子は、炒った豆にクランの花蜜で風味づけた砂糖のシロップを絡めたもので、ロントンというのだそう。
 どちらも縁起物で、ハナムンの人々には広く親しまれているお菓子なのだそうだ。

「あら、今年のクムンにはクルミを入れないの?」
「こないだ季節はずれのクルミ餅をやったでしょ? だからもうクルミがあんまりないのよ」
「ああ、そうだったわ。おいしかったわねぇ」
「じゃあ、かわりにゴマをいれましょうよ」
 
 わいわい楽しく作業している間に、炊房の作業は終わった。
 この世界に来てから料理をするのはほぼ初めてだ。
 久しぶりにすごく楽しかった。
 
「お料理って本当に楽しい。みんなでやるから余計にそう思うのかな」
「美波は料理が好きなのですね。裁縫はまったくですけれど」
「裁縫はね……。まあ料理もわたしじゃ釜や薪を扱えないし、こちらの炊事ではたいした役に立てないけど」 
「それなら今度、チョコレートかコロッケか生ハムのどれかを一緒に作りませんか?」
「えっ、ほんと? ……いやでも、わたしのためならわざわざそこまでしてくれなくてもいいよ」
「なぜですか? わたしも浮者の国の食べ物に興味があります」
「今日炊房を見てて思ったんだけど、お寺の食材ってやっぱり人数に対して割り当てがあるよね? お砂糖とか油とか、貴重なものや高価な物はたくさん使えないし。薪の量もきちんと決められてるみたいだった。やっぱりお寺は修行の場だから、必要のない分まで取りすぎないんだなあと思ったよ。そのかわり、こういう奉納祭で配るお菓子にはたっぷり砂糖を使ってる。締めるところを締めているから、出せるときに出せるんだよね? それなら、わざわざ嗜好品のチョコレートや、油をたくさん使うコロッケをつくらなくてもいいと思う。日本にもクムンやロントンに似たお菓子があるよ。だから、ハナムンの食事と和食は結構似ているところが多いと思うよ」
「ワショク、ですか?」
「日本では地球上のいろんな国の料理が食べられるの。その中でも日本の伝統的な食事を和食というんだけど、お寺で食べるものはその和食に似てるよ。チョコレートやコロッケや生ハムは、外国から入ってきたものだから」
「そうですか、美波に懐かしんでもらえるならと思ったんですが……」
「それに、イスウエンにいけばもしかしたらあるかもしれないしね」
「それもそうですね……」

 その夜、旬さんに奉納祭の準備のことを話して聞かせた。

「雷おこしと豆の菓子か。味が想像できるな。意外と浮者が伝えたものだったりしてな」
「あ、そっか! その可能性もあるね。だとしたら、どれぐらい前なんだろう」
「そうだな、浮者がいつごろから現れるようになったのか、ハナムンの歴史も機会があれば知りたいな」
「またグアンさんに聞いてみる?」
「まあ、その前に中央から浮者が先だな」
「うん、ついに明日だよ。どんな人が来るんだろう」
「若白髪でも、ロマンスグレーのイケおじでも、人のよさそうな好々爺でも、油断するなよ」
「あんまり脅かさないでよ……。それに、旬さんのシールドとシェルターがあるから大丈夫でしょ?」
「まあな」
「クランとうまくいきそうな人ならいいんだけど。今はそれが一番気がかりだよ」
「ゼンジとはどうなってるんだ?」
「ゼンジさんも忙しそうで、クランとも話しているのかどうか……」
「話したところでクランの気持ちは変わらないんだろ」
「なんかとゼンジさんに頑張ってもらいたいなと思ってたんだけど、結局話す機会がなかったの。話したところでゼンジさんにとっても余計なお世話なだけかもしれないけど」
「まあそうだな。それもそうだしあんまり肩入れしすぎるなよ。俺たちは俺たちで、中央からの浮者にはいろいろ聞きたいことがある。いきなり親しくなる必要はないけど、険悪になるのは避けたいからな」
「そうだね……」

 旬さんの手と手をにぎり、考える。
 そうだ、わたしたちはまだなにもわかっていない、この世界のこと。
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