【完】左手だけの婚約者~Hanamun Life~一緒にワープした婚約者は、左手だけなのに最強です!?

国府知里

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16、出立の日

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 幸いゼンジさんの薬湯のおかげで、翌日まで熱を持ち越さずに済んだ。
 けれど、大事をとって今日は部屋でゆっくり休むようにとくぎを刺されてしまった。
 せっかく乗馬の訓練も楽しくなってきて、今日はケトーに人参あげる約束していたのにな。
 せっかく馬との絆ができてきたのに、言葉が通じない動物が相手とはいえ、約束は破りたくない。
 あとで、マシンくんにお願いしてみよう。

「でも、昨日はびっくりしたね。みんな、あんなに真剣に触りのことを知りたがって」
「それはそうだろう。ハナムンは浮流で身分や収入が決まるといっても過言じゃないんだろ?」
「これまでの情報から推測するとね」
「それじゃ真剣にならざるをえないだろう」
「昨日クランがいっていたけど、旬さんは人の触りをすごく細かく分析しているからすごいって。あんなに細かな違いがわかる人をクランは見たことないって」
「それは、逆だよ。おれには浮流の量と触りでしか、人を区別できないから、自然とそうなるんだ。コルグさんの目と耳に頼らないと、顔の表情は認識できないし、距離が離れすぎていると聞こえない。怒りとか喜びとか、感情が動くことで浮流も動いてしまう人はわかりやすいけど、コルグさんとか年上の僧侶たちはさすがだな。めったなことでは流がよどんだり飛び跳ねたりしない」
「そっかぁ、そういうことなんだね。わたし、今までは全然浮流のことわからなかったけど、今回のことで少しは理解が深まったよ。分類もみんなの役に立っていたみたいだし。あ、あと、旬さんがザラザラなんて、思いもよらなかった」
「美波は千切れたクモの巣だけどな」

 それいう? 
 人が気にしていることを……。
 あっ……?
 わかった、旬さん、わざといってる。
 ふうん、そう。

「わたし、浮の修行して、触りがわかるようになたっら、旬さんとやっていけないかも」
「なんで?」
「だって、ザラザラなんてやだもん。マシンくんはコットンみたいなんでしょ? そういう手触りのいい人がいいな」

 ほーら、黙った。
 いじわるいうからそうなるんだよ。

「そんなことになったら」
「なったら?」
「泣く」

 あはは、旬さん、かわいい。
 許してあげる。
 わたしは旬さんから筆を取って、腕の中に抱きしめた。

 本を読みながら、旬さんは術式の試行を繰り返しながら過ごしていると、マシンくんが訪ねてきた。

「あ、マシンくん、よかった。お願いしたいことがあったの」
「美波浮者、おはようございます。よかった、お顔の色がよさそうで安心いたしました」

 マシンくんの手にはお膳があって、その上にはなにやらいろいろが積み重なるように載っていた。

「あ、お仕事の途中なんだね。急ぎじゃないから、わたしの用はあとでいいんだ。後でまた寄ってもらえるかな?」
「いえ、これは、すべて美波浮者と旬浮者へのお礼の品です」
「えっ?」

 マシンくんが持ってきたお膳には、いくつもの御礼状らしき手紙と、巻物、お菓子、飾り紐、新品の筆、櫛、香油など、お寺とは似つかわしくない、ずいぶんと値の張りそうなものまで山とある。

「な、なんで? もしかして、昨日のこと?」
「はい、あのような触りの鑑定は、普通コルグ様のような高名な僧侶に高額な報酬を支払わなければ見ていただけないのです。旬浮者の素晴らしい鑑定に加え、詳しい分類法をもご教授いただきました。美波浮者におかれましたは、お疲れのお体を押してもなお、懇切丁寧にご説明いただきました」
「で、でも……こんなにいろいろもらえないよ。今までさんざんお世話になっているのに」
「いいえ、受け取っていただかなければ、逆に不敬に当たります。どうか、お納めください」
「そんなつもりじゃ……」

 だって、コルグさんもクランも、そんなこと一言もいってなかったのに。
 旬さんがしれっとわたしの手に書いた。

「くれるんだから、もらっておこう」
「でも……」
「フが、カネになるって、はっきりした」

 うう~っ……。
 旬さんが急に守銭奴みたいなことを……。
 待って、待って……。
 こういうことは、まず、クランとコルグさんに相談しよう……!

「それは正当な対価です。お納めください」
「いやでも、コルグさん……」
「浮流の鑑定は、とても高度な技なのです。わしのような長年流者を務めているものであっても、一日に一人を相手するだけで精一杯です。これは豊富な浮を持つ旬浮者と、細やかな通訳の技能を持った美波浮者おふたりのなせるわざ」
「でも確か、こうもいってましたよ? 領民はいかなる対価も代償も支払わなくていいと」
「それは流術の場合です。さらにいえば、他の術ならいざ知らずとも、鑑定は術者への負担が大きいので、依頼する方も受けるほうもよほどの便宜をはかるものなのです。表向きは無償という形を取りますが、その分その年の寄進を多くいただくこともあります」
「ううーん……」
「美波浮者、なにをそんなにお悩みなのですか? わたしからのお礼の品は絹の靴です。街の職人に急ぎで作らせています。首都マローへの旅立ちの日には間に合いますから、楽しみにしていてくださいませね」

 見ると、旬さんは、ほらね、というように軽く指を開いた。
 わたしは旬さんの手を乱暴につかんだ。
 
「旬さんとよく相談してみます」

 クランとコルグさんが部屋を出て行ったあと、旬さんと向き合った。
 
「やっぱり、わたし受け取るのは違うと思う。旬さんだって、そんなつもりで見てあげたわけじゃないでしょ?」
「でも、受け取らないのも違うと思う。ハナムンの人にとって、浮者の力はやっぱり大きい。安売りするなというわけじゃないけど、適正な価値を守らないと、市場が崩れて世の中がゆがむ」
「市場って……、わたしは対価が必要なら、お金のやり取りを産むなら、鑑定なんて受けるべきじゃなかったと思うよ」
「だけど、コルグさんもクランもそのことには触れなかった」
「……だから、余計に受け取りたくないんだよ」

 友達だと思っていたのに。
 クランにとって、わたしは結局利用価値のある浮者っていうこと?
 正確には、利用価値があるのは旬さんで、わたしはただの通訳。
 マシンくんもそう思っていたってこと?

「わたしはみんなと友情とか、信頼とか、感謝でつながってると思ってた。それなのに、急にこんな高価な品をもらうなんて、わかんないよ。浮流のこと少しわかってきたと思ったけど、ぜんぜんわからなくなった。怖いよ。わたしの力じゃなくて、旬さんの力だけど、こんなに強い影響力を見せつけられたら、これまでのことなんて、簡単に全部、吹っ飛んで消えちゃいそうだよ」

 旬さんがぎゅっと手を握ってくれた。

「そうだな、俺には見えないことを見て、聞こえないことを聞いて、一生懸命この世界となんとかつながろうとしてきた美波の努力があるんだよな」
「うん……」
「俺も早合点だった。どうすればいいかふたりで考えよう」
「うん、ありがとう……」

 ああ、やっぱり旬さんがいてくれて、本当によかった。
 わたしひとりじゃ、頭がこんがらかっちゃう。
 
 最終的にわたしたちは、お礼を受け取ったことを正式な返事にしたためた。
 品物はすべて、寺に寄贈することにした。
 クランはせっかく一番いい店に依頼したのにと嘆いたけれど、わたしの気持ちを話したら納得してくれた。
 
「じゃあ、友達として靴を送るなら受け取ってもらえるんですね?」
「うん、それならありがたくいただくね。いっておくけど、わたしがクランにあげる貝殻も、浮の付与はないからね」
「親友からの贈り物にどのような付与も必要ありません」
「よかった、クランならわかってくれると思った」

 クランのいっていた通り、マローに旅立つ数日前に靴が届いた。
 わたしたちは今、マローまでの道のりを地図で確認している。

「およそ半月ほどの旅になります。暑さの盛りも過ぎましたし、道中ゆとりを持っていきます」
 
 月日の数え方はハナムンでは少し違っていて、月は十三か月ある。
 一か月は、二十七日か二十八日。トータルするとだいたい三百六十五日くらいになるから、多分地球近い時間感覚なんだと思う。
 日本にいる旬さんに日にちを聞くと、こっちへ転移してからの日数とあっているみたい。
 腕時計の時刻には、少しずれがあるけど、おおむね一日二十四時間だ。
 気候や季節が地球とは違うみたいだから、それがときどき混乱する。
 星だけじゃなくて、もう少し、気候のこと勉強しておけばよかったな。

「残りの四人の同伴者は、カーツ、ローアン、ビアン、それから、檀家からミック婦人がついてまいります」
 
 ローアンさんとビアンさんはそれぞれ三十前後の若くて体力があり、腕っぷしに覚えのある僧侶だ。
 ローアンさんは、マシンくんと一緒に旬さんの救出に骨を折ってくれた人でもある。
 ビアンさんは地理や土地の情報に詳しく、その時期一番安全で、なおかつ美しい景色を見れる道を知っているのだという。
 ミックさんはよくお寺の奉仕に来ていた中年のご婦人で、快活で明るい人、足腰も丈夫だという。
 ミックさんがいれば、道中ひもじい思いをすることはないので、ありがたい。
 
 カーツさんが参加することになったのは正直驚いたけれど、わたしからいうこともないので黙っていたが、どうやら、カーツさん自身が志願したらしい。
 クランにいわせると、自分だけ抜け駆けするみたいでいやだったんだろうということだ。
 律儀……なのかな。
 でも、クランの想い人と、クランのお婿さん候補のふたりが三人一緒になるなんて。
 喧嘩なんか起こらないと思うけど、正直ちょっぴり気を遣う。

 一番年上のローアンさんが、びしっと響く低音でこちらを伺う。

「美波浮者、旬浮者、準備はよろしいですか?」
「は、はい……」
「美波浮者、大丈夫ですよ、僕がついてますから」
「あ、ありがとう、ゼンジさん」

 いつにも増してうきうきしたゼンジさんに、わたしは苦笑いした。
 コルグさんの馬具を乗せた愛馬ケトーにまたがると、クランがそばに来て手を握ってくれた。

「旅のご無事を。靴にわたしと父で流を込めましたから、きっと大丈夫ですよ」
「この白い靴すごくかわいい。クラン、ありがとう」
「今どんな気分ですか?」
「緊張が半分と、もう半分は……、まな板の上の鯉って感じ……」 

 さあ行こうと、ローアンさんが声をかけたとき、門の向こうからムラークくんがかけ出てきた。

「美波浮者、これをどうか、持って行ってください!」
 
 ムラークくんの手には手作りの星座盤があった。

「僕なりに地球の位置を計算して、新しい星座盤をつくってみました。道中のお慰めになればと」
「うそ……、ムラークくん、すごい、ありがとう!」
「この白い星が、地球です」

 丁寧に打たれた無数の星の点の中に、白い星が一つ。
 くっきりとした文字で、その下に書かれている。
 地球。
 涙が出そうなほど、感動した。

「イスウエンにいっても……、どうか忘れないでください」
「え?」
「……正中星の見方を」
「うん、忘れないよ! この星座盤で、毎日星を見るよ!」

 ムラークくんに感謝を述べて、もう一度、トラントランのみんなの顔を見わたした。
 コルグさん、クラン。
 シュトンさん、ムラークくん、一緒に星の勉強会をしたみんな。
 ターマンさん、ことあるたびに交代でクワンランを弾きに来てくれたみんな。
 真面目で勉強熱心で、いつも礼儀正しくて、尊敬を示してくれた、サンクーくん、みんな。
 いつもきれいに洗濯をして、温かい食事を作ってくれた檀家の皆さん。
 
 うう……。
 離れてもないのに、もう恋しい。
 涙でにじむ目をこすった。

「みなさん、いってきます……!」
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