30 / 59
24、エレベーター
しおりを挟む二度目の旅。
前回と同様にミックさんも同行してくれた。
しかし、今度はわたしを含めて四人だ。
あと何人か供をつけるという話を、旬さんが断った。
四人が妥当だという。
ケトーの上でわたしは旬さんに尋ねる。
「それで、四人が妥当ってどういうこと?」
「もりをでたら、せつめいする」
森を抜けて田園地の道へ出た。
水が張られた田んぼに、空が映って美しい。
旬さんが、このへんでいい、とわたしの肩を叩いた。
一行は道の真ん中で止まり、わたしの手の中の左手に注視した。
「いまから、エレベーターをつくる」
「エレベーター?」
「なんでございますか、その、えれべーたー、とは」
ローワンさんが首をかしげている。
わたしも首をかしげてしまった。
「つくるって、浮でつくるの? わたしには見えないんだけど、ちゃんと乗れるのかな」
「だから、みなみにもみえるように、ふをぶっしつかする」
「物質化?」
「じゅうたんに、ふをながしこめないなら、いちからじゅうたんをつくることにした」
「ええっ、そんなことができるの?」
旬さんは指をならすような仕草をすると、軽く閉じた手を開いた。
その中に、二センチ角ほどのサイコロのような灰色と銀色でできた箱があった。
これが、浮の物質化?
マジックを見ているみたいな早業だった。
「えっ、すごい……」
その箱を軽く握り、もう一度手を開くような動作をすると、旬さんはそれをポンと地面に放った。
「ちょっとはなれてて」
「みなさん、離れてください」
「えっ!」
三人は初めて見る箱に警戒して、さっとわたしの後ろへ回った。
箱は見る間に大きくなって、二立米ほどの灰色の箱が、わたしたちの前に、でんと現れた。
正面の真ん中には、上下にまっすぐのくぼみがある。
プシュ―。
空気の漏れる音ともに、スライドしてドアが開いた。
「うわあっ!」
「なっ、なっ?」
「ふ、ふえ~、こりゃあなんだろうね」
三者三様の驚き方だ。
「すごい、旬さん! これが魔法のエレベーターなの?」
「とりあえずのってみて。よにんなら、はいれるおおきさだとおもう」
「でも馬が入らないよ」
「うまは、いらないだろ、そらとぶエレベーターなんだから」
「あ……、それもそうか」
わたしは三人に説明して、馬を置いてエレベータに入ってもらうようにいった。
馬は作業中の農夫にお願いした。
おじさんは奇妙な四角い箱を見ながら、目をぱちぱちさせながらも、快くケトーたちを預かってくれた。
男性僧侶二人の動揺に比べて、ミックさんの適応力はすごかった。
「へえ、つるつるぴかぴかの箱だねぇ。水面みたいに顔が映ってるよ。こんなの見たことないよ」
「こ、これはまさか、われわれの棺おけになのでは……」
「カーツさん、とりあえず、棺おけではないです。ローワンさん、ちゃんと入ってくれないと閉められません」
「ぬ……、僧侶のわたしが婦女子と共に狭い箱に入るなど……」
「僧侶ならなにもしませんよね、信頼してますから」
四人が入ると、プシュッとドアが閉まった。
ローワンさんとカーツさんが無言のうちに緊張でこわばったのがわかったけれど、ミックさんはしげしげと観察しながら、どんなしくみになってるんだろうねぇ、とつぶやいていた。
「それで、ボタンがいっぱいあるけど、どれがテリ村に行くの?」
「テリむらっていうか、おれにはそっちのちずがわからないし、くうかんやぶったいを、はっきりとにんしきできない。だから、そのボタンは、じんぶつにつながっている」
「でも、どのボタンにも名前がないよ?」
「おれにとって、いちばんわかりやすく、ひとをくべつするほうほうは、さわりだ。だから、そのボタンはさわりでじんぶつとリンクしてる」
「へえ~、すごい! じゃあ、ビアンさんの触りはどれなの?」
「みぎのれつの、うえからにさんばんめ」
「じゃあ押すよ」
「あっ、まて!」
「あ、えっ?」
ご、ごめん、押しちゃった!
エレベーターの中にいるわたしたちに、ぐんと重力がかかった。
「おおっ!」
「うおっ!」
「わあ、なんだい?」
時間にして、五分くらいだろうか。
わたしはここだけ日本に戻ったみたいで、懐かしさを感じていたけれど、あとの三人、特に男性二人にとっては、地獄のように長い時間だったらしい。
そっか、外の景色が全く見えなかったし、いつまでともわからないから、不安にもなるよね。
ガラス張りのエレベータにしてもらって、目的地までの距離を示す電光掲示板があったほうがいいかもね。
ポーン……、プシュー。
ドアが開いたとほぼ同時に、それぞれが駆け出すように外へ出た。
「うぐ、うおお……」
「こ、ここは、テリ村か……?」
「ああ~、びっくりだね、こりゃあ」
続けてわたしもエレベーターを降りた。
さっきまでトラントランの森を出てすぐの道だったのに、今、目の前には初めて見る村の風景が広がっている。
「わあ、すごい、旬さん、ちゃんと着いたみたいだよ」
「よろこぶまえに、まわりをかくにんしてくれるか? ビアンのまうえに、おろすのは、さけたつもりだけど、なんかつぶれてないか?」
「ええっ!?」
旬さんがまた指をならすような素振りをすると、エレベーターが小さくなって消えた。
あっ……、うわあ……、これやっちゃったよ……。
幸い、人はつぶれていなかったけど、ビアンさんの家の半分を、エレベーターが破壊していた。
手足の包帯が痛々しいビアンさんと、その家族が、あんぐりとした顔で、壊れた家からこちらを見ていた。
「ビアンさん、ご家族のみなさん、ごめんなさーい……っ!」
思わず、叫んだ。
うわぁん、叫んだところで、どうしょもないよ!
8
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

