【完】仕合わせの行く先 ~ウンメイノスレチガイ~

国府知里

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シリーズ2 ~ウンメイノイレチガイ~

Story-2 郷里(1)

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 時間は遡る。
 シーラとケインがシリネラについたところから話を進めよう。



 シリネラ駅を出た二人は、すぐさま馬車と従者を雇い、ゼルビア行きに繰り出した。
 ゼルビアは地図上では王都シリネラの郊外と呼ばれる場所に位置しているが、その実は大変な僻地である。
 流れが急なマルー川と、ザンダルと呼ばれる樹海が道を阻んでいる。
 タルテン国から大回りで行く道を除けば、行く道も帰る道もちょっとした荒旅支度が必要だ。
 その困難を知る旅慣れた従者は、それなりの給金をはずまなければ、なかなか気持ち良い返事をしてくれない。

「いいでしょう、旦那。あっしがお伴しましょう。
 ちなみに、旦那は銃を扱えますかい? それならよかった。
 たまに川辺には熊がでるんでね。
 樹海に詳しい案内人に声をかけてくるから、ちょっと待っててくださいよ」

 この男はホーミーという。
 ホーミーはゼルビアへの行き来を心得ていて、過不足なく手はずを整えてくれた。
 ホーミーはシュラという老人を連れてきた。

「見た目はよぼよぼだが、シュラじいさんほど樹海に詳しい人を俺は知りませんね。旦那たちは運がいい。
 経験の浅い案内人をつかまされて、丸々一か月も樹海をさまよったって話があるくらいですからねぇ」

 そして、一行はシリネラを出発した。

「もともとシュラじいさんはタルテン国の生まれなんでさ。
 ゼルビアというところは地理で言ったらむしろタルテン国でございやしょう。
 昔の戦で、タルテン国がザルマータ国にあの土地を譲ってやったんですな。
 だから、結局ゼルビアの連中はどっちかといえば、買い物するにも、作物を売るにも、タルテン国へ行っちまんでさ。
 つまり、ゼルビアはザルマータ国に属していながら、文化や流通のほとんどはタルテン国ってこってす。
 だから、タルテン生まれのシュラじいさんがゼルビアに詳しいのも通りってわけでさ」

 この道に詳しいホーミーは行く道すがら、そのようなことをシーラとケインに話して聞かせた。
 ゼルビアを訪れたことのないケインはただへえとかなるほどといって聞いていた。
 シーラは、昔の記憶が呼び起こされ、ザルマータ国にいながらにしてどうりで一度もこの道を通ったことがないわけだとふに落ちた。

「それにゼルビアの館の主人。この間の火事で、おかわいそうなこと、一家全員亡くなったんですがね。
 そのマリ―ブラン家はザルマータ国王家の遠い親戚筋だったんでさ。
 ゼルビアの屋敷にはファースラン・マリーブラン様が一家で住まわれていました。
 シリネラにもマリーブラウン家の本屋敷があるが、それは弟のキューセラン様が家族で住んでいまさ。
 つまりですなあ、兄君のファースラン様を、弟君のキューセラン様がシリネラから追い出したんですな。
 この二人の仲が悪いというのはずいぶん前から知られていたことで。
 ファースラン様は決して評判の悪いかたではなかった。
 ただ、キューセラン様のように競ったり戦ったりするのが性に合わなかったんでしょうな。
 追い出されたというよりは、自ら望んでゼルビアへ引きこもったんでさ。
 おかわいそうなこって。
 宮廷での出世を捨て、一族にも世にも捨てられ、僻地にこもられたばかりか、不遇な事故で一家もろとも亡くなられてしまっては。
 いいところが一つもないですよ。
 いい人ほど早死にだといいますが、ファースラン様はそういうかただったんでしょうな」

 これを聞いていたシーラは、その顔から次第に色を失った。

「あの、本当に、本当に、みんな死んでしまったんですか?
 奥様も? サラ様も?…………」
「サラ様、ああ、ファースラン様の一人娘だね。
 サラ様の遺体は見つからなかった。
 だが、火が出たのはサラ様の部屋だったらしい。
 一番燃え方がひどかったそうだ。
 遺体は見つかっちゃいないが、生きてはいないだろうよ。
 まだ十六になったばかりだったのになあ。おかわいそうになあ……」

 ケインは横目でシーラを見たが、シーラはそれ以来ぷっつりと何も言わなくなってしまった。

 ・・・・・・

 ゼルビアへの旅路は、従者と案内人に恵まれたおかげで、順調だった。
 途中雨に降られて悪路もあったが、ホーミーの言った通り四日目にはゼルビアの町に足を踏み入れることができた。
 ゼルビアの町は小規模で、町というよりほとんど村といってよかった。
 その土地のほとんどが林や丘、牧草をはむ牛、風に揺れる麦の穂であった。
 そののどかな田園風景の中で、痛ましいまでに黒々とした場所が、屋敷のあった場所なのであった。
 ゼルビアには宿屋はなく、ホーミーはいつも世話になっているという農家に話をつけてくれた。
 シーラとケインは連れ立って、焼け跡へ向かった。
 焼け跡は町の人間によって片付けられていたが、それでもところどころ暖炉の跡や台所の窯、主柱やその土台などが残っていた。
 それらはシーラに過去の記憶を少しずつよみがえらせて、シーラにかつてあった屋敷を思い出させた。
 ケインは黙ってシーラの背中を見つめていたが、その頼りなげな背中は次第に震えだし、しばらくの間も置かず、シーラは崩れるようにひざを折った。
 叫びにも似た泣き声があたりに響いた。
 ケインはシーラのそばに寄って、その背中を支えてやった。
 シーラはただただ、子供のように、ケインの腕にすがり、悲しみを吐き出すしかなかった。
 ケインもその肩を抱いてやるほかに、何もできることはなかった。
 シーラは泣き止んだ後も、呆然としたまま、ぽつんしそこへ座り込んでいた。
 ケインはしばらくシーラをそのままにしてやった。
 今はどんな言葉もシーラの慰めにはならないと思ったからだ。
 本当に長いこと、シーラはそうしていた。
 日が傾きかけて、ケインはシーラを宿の農家へ連れて行った。
 それから数日の間、シーラは何もしゃべらず、何も食べず、ただ、焼け跡と宿を往復する日々を過ごした。

「シーラ、町の者がみんなで、マリ―ブラン家の墓を見晴らしのいい丘の上に建てたそうだよ。いってみるかい?」

 ケインはシーラの様子を見ながら、いろいろと心を配った。
 シーラは墓に花を供え、そこでも長い時間祈りをささげた。

「シーラ、屋敷に勤めていた使用人の行き先を知っている人がいたよ。
 今はタルテン国にいるらしい。話を聞きに行ってみようか?」

 シーラはなかなかゼルビアを離れる気にはなれないようだった。



 それでも、次第にシーラの砕かれた心は少しずつ補修が始まり、周りのことに気を配るだけの余裕が出てきた。

「すみません、ケインさん。わたし、気が動転して。
 何日も私に付き合ってくださって、ありがとうございました。
 本当に、感謝しています。…………」

 シーラは力なくケインに礼を述べた。
 ケインはちっともうれしくなかった。
 自分が受け取った銀の鏡は、素晴らしい品物だった。
 それを手放したシーラが、ゼルビアの地を踏むまで。そう思って始めた同行の旅だったが、このような悲しみにくれたシーラを置いてこの旅をおわせらるのだと思うと、ケインにとってもつらかった。
 この後、君はどうするの?
 ケインはどうしてもその言葉を口にすることができなかった。
 今のシーラに次など考えられるはずがないのは、わかりきっている。

「シーラ、一緒にタルテン国にいった元使用人を訪ねてみないかい?
 そうすれば、きっと思い出を語り合えるし、お互いに慰めにもなると思うよ」
「そうですね……。それもいいかもしれません……」

 シーラは青ざめた顔で消え入るような声でいった。
 その時、ホーミーがおずおずと口を開いた。

「その、余計なことかもしれませんが、ちょいとお耳を汚してもよろしいですかい」



 ホーミーはシーラがマリーブラン家ゆかりのものだと知り、シーラの気落ちぶりを見て、ゼルビアの民に聞き込みをしてくれたらしい。

「おれが聞いた話ですと、ひょっとするとですがね。

 サラ様は生きているかもしれないそうです」

「なんだって? どういうことだね、ホーミー」
「サラ様の部屋のあたりから火が出たかと思うと、館に一気に燃え広がったそうです。夢中で馬を走らせたタニは、館から馬車がかけ去っていくのを見たそうなんでさ。
 その時は、館の者が避難か、あるいは人手を呼びに行ったんだと思ったので、何ら不思議にはおもわなかったらしいんですが。
 でも、あとから思えば、館の馬車は残っていたし、館の者はほとんどが逃げ遅れ、わずかに生き残った者も最後までその場にいたそうです。
 だとすれば、タニが見たあの馬車はなんだったのか。…………」
「つまり、もしかすると、その馬車にサラ嬢が乗っていた可能性があるということかい?」
「サラ様の遺体だけ見つかっていやせん。可能性としてはありうる話でさ」

 うなだれていたシーラの瞳に、大きな光が宿った。

 ・・・・・・

 シーラとケインはホーミーとシュラを率いて、再び、シリネラへ戻る道の途中にいた。
 タニが見た馬車は、樹海に向かって走り去ったという。
 とすれば、むかった先はシリネラであろうと思われるが、今もシリネラにとどまっているとは限らない。
 いったん樹海に身を潜めた後、どこか別の方角へ向かった可能性もある。
 だが、今はその痕跡を求めて歩を進めるしかない。
 シーラとケインは馬車の幌の中で静かにサラ・マリーブランの行方について話し合った。

「サラ嬢が火事から逃れたとすれば、みっつの可能性がある。
 ひとつは、何者かによって救い出された。
 ひとつは、何者かによって連れ去られた。
 ひとつは、自ら逃げた。
 連れ去られたのだとすれば、火事は連れ去った者が起こしたのかもしれない」

 連れ去られたというケインの推論が正しいとすれば、話は一気にきな臭さを増す。
 シーラは眉をひそめたが、それについて推測を深めることのできる材料を、シーラは何一つ持っていなかった。

「いずれにしても、サラお嬢様の無事を確認することが先決だわ」

 サラは固く拳を握った。
 ケインはシーラのまっすぐなまなざしに、ためらいながら投げかけた。

「シーラ。もしも、サラ嬢が自ら逃げた場合だけど……」
「自力で逃げられたのなら、サラ様はどうして姿を現さないのかしら。
 助けを呼びに行こうとしたけれど、けがを負って、今もどこかで動けないのかもしれないわ」
「うん……。その可能性もある。だが、こういう可能性もあるよ。
 火事を起こしたのはサラ嬢本人という可能性だ」

 シーラは目を見開いた。
 次の瞬間、シーラは燃えんばかりに目を光らせて、怒りに震えた声でケインに挑んだ。

「ありえないわ! 絶対に、そんなことはありえない。
 次におなじことを口にしたら、あなたとは二度と口をきかない。
 二度とよ」
「ごめん……。可能性の話だ。
 そうだね、そんなことがあるはずないね。僕が、悪かったよ……」

 シーラはぷいっとそっぽを向いた。
 こちらを見ようともしないシーラを前に、しばらく居心地の悪い時間を過ごした後、ケインはこう切り出した。

「シーラ……。君が、サラ嬢の生存を信じて、無事に再会できることを望んでいることはわかっている。
 だけど、僕が心配なのは……。
 こんなことを言うと、また君に嫌われるかもしれないけど。
 サラ嬢と再開できなかった場合のことだよ……。
 君が五年もの歳月をかけて戻ろうとしたゼルビアに、君の戻るべき場所はもうない。もしも、この先サラ嬢がもう生きていないとわかったら、君はひどく落ち込むだろう。
 本当の姉妹のように育てられた君とサラとの絆は、君にとって代えがたいものだった。だからこそ、君はサラ嬢の無事を願っている。
 だけど、そうではない可能性も少しは考えておくべきだよ。
 マリ―ブラン家の主人たちは死んだが、君は生きている。
 これからも、君は生きていくんだ。
 前に話してくれた親元に帰るとか、シリネラのマリ―ブラン家を頼るとか……、そういうことを」
 ケインの話を聞いて、少し冷静になったシーラは、感情を押してこらえるような表情を浮かべた。
「ケインさん、あなたには本当に感謝しています。
 私のことをそこまで心配してくださって……。
 あなたがいなかったら、私はきっとここにはいません。
 シリネラについたら、どうぞご自分のお仕事にいってください。
 本当に、ケインさん、ありがとうございました……」
「ちょっと、まってくれないか、シーラ。
 ここまで来て、今更僕を締め出す気かい?
 ここまで来たら、最後まで付き合わせてくれなくてはいけないよ」
「え? …………」
「マハリクマリックは、最後には必ずほしいものが手に入るんだろう?」

 ケインは眼鏡の奥で優しい微笑みを浮かべた。

「僕に、君の幸せな結末を見せておくれよ、シーラ」

 シーラはにわかにあふれ出す涙を両手で拭って、うなづいた。

 ・・・・・・

 ベンジーは報告書を書く手を止めて、モリスを振り返った。

「モリスさん、いい加減、ハリー様の写真とにらめっこするのは、よしたらどうですか」
「睨んでなどいない。見つめているのだ」
「それよりも、報告書が書けましたよ。目を通してもらえますか?」

 タルテン国ベリテモンロ町、そして、ペグロラン町をへて、シーラの足跡のほとんどがはっきりした。
 タルテン国に入ってからは、汽車と馬とを乗り継いで、今は、ペシュトランという町の宿屋にいる。
 モリスは報告書を手に取った。

「あの娘は平民のくせに生意気でまったくどうしようもないと思っていたが、こうしてみると……。
 これだけの波乱万丈の旅をしてきたのだ。ふん、あれほど図太くもなるのもうなずける」
「彼女が流浪の旅に投げ出されたのは、たった十歳ですよ。
 その苦労はぼくには、はかり知れません」
「お前はあの娘に目がくらんでいるから、そんな甘いことが言えるのだ。
 私から言わせれば、愚かしいにもほどがある」
「く、くらんでなんかいません!」

 ベンジーは首を振ってテーブルの上にあった姉妹が映った写真をつかむと、じっと見つめた。

「僕は、この世で一番美しいのは、ノエル姉さまと、マチルちゃんだと思っていますから!」
「誰が一番だって? ふたりいたようだが」
「ふたりとも一番なんです!」

 ベンジーは負けじと言い返した。

「それをいうなら、モリスさん。
「シーラのことを悪く言うのは勝手ですが、そんな態度ではシーラから月夜の君のことを聞き出すのは難しいのではありませんか?
 もしかして、代わりに僕に聞き出させるつもりじゃないでしょうね?」
「ああ、そのつもりだ」
「やっぱり。それは構いませんけど、聞きたがっているのがモリスさんだと分かれば、シーラは答えないかもしれませんよ」
「そこを聞き出すのがお前の役目だろう」
「だったら、もう少しいい印象を持たせれるように努力してくださいよ」
「むう……」

 モリスは眉根を寄せた。
 ベンジーは話題を変えた。

「この報告書を出したら、ぼくたちはもう帰れるんですよね?」
「ああ。このあと、シーラの生まれた町に寄った後、シリネラ経由でな」
「シリネラでハリー様と合流できるといいですね。
 シーラも見つかっているといいんですが……」

 ベンジーはモリスが戻した報告書を整えながら、その書き出しを見つめた。

 ・・・・・

 報告書の内容は、おおむね下記のようである。



 リバエル国リベル王都に来る前のシーラは、ビリル町にいた。
 モクの宿屋で世話になりながら路銀を稼ぎつつ、南下して王都へやってきたのだ。
 この宿屋の奥方であるサラはこう証言する。

「シーラは、宿屋で歌と寸劇を合わせたような芸を披露したことがある。
 それ以前に、タルテン国立劇場のドノバン歌劇団の巡業に同行していたらしい」



 この証言をもとにタルテン国へ向かう途中のシビル町で、偶然にもドノバン歌劇団の巡業にはちあう。
 当時を知る幾人かの証言からから、シーラがタルテン国ペグロラン町からベリテモンロ町まで、歌劇団と同行していたことが明らかになる。
 歌劇団で世話になっている間に、シーラは珍しい果物レモンの砂糖漬けをふまるった。
 この果実は、のちにシーラの足跡を示す手掛かりとなった。
 歌劇団長のボクスマンは、それ以前のシーラについてこう証言する。

「シーラはペグロラン駅で、見知らぬ女に汽車の切符を譲ったらしい。
 老い先短いらしい女から、死ぬ前にタルトランに住む息子の会いたいと泣きつかれたという。
 代わりに古いウールのコートをもらったらしい」

 この証言をもとに、ペグロラン町で聞き込みをするとシーラは商店や宿屋で住み込みで働いていたことがわかった。
 シーラは周囲に、ゼルビア町に帰るつもりだということを話していた。
 そして、ゼルビアにほど近い、国境沿いのタラクサ駅までの汽車賃をためていたという。
 シーラが二番目に長く滞在したのがこの町である。
 この時点でシーラは、タルテン国営鉄道を東から西へ下る経路でゼルビアへ戻ろうとしていたと思われる。
 シーラの薄給で汽車賃をためるのは容易ではなかったはずだが、それをコート一枚と交換してしまうことには少々理解に苦しむ。
 タルテン国ではめずらしくタコの乾物を扱う食材店の店主ファーゾは、シーラについてこう証言する。

「それまでは、トリシュラン町にいたそうだ。
 タコの乾物はシーラに勧められて店に置くようになった。
 町の人はほとんど買わないが、最近ではリバエル国に卸す量が増えてきた。
 トルレン町ではいいタコが採れるそうだ」



 トリシュラン町を訪ね、聞き込みをしたがおもうような証言は得られなかった。
 というのも、トリシュラン町は沿岸の港町で、冬の潮風が冷たく、数年に一度という周期で流感がはやるらしい。
 そうした時期に親を亡くす子どもが増えるので、町に身寄りのない子どもはかなり多い。
 くわえて、トリシュランは裕福な街とは言えず、稼ぎに出ていく若者も多い。
 シーラだとはっきりわかる証言を絞り込むに至らず、探索は苦戦する。

 数日がたったころ、町で少年がレモンの砂糖漬けを販売しているのを発見した。
 少年によれば、これは町からやや離れた場所で救子院が育てているレモンだという。
 みなしごが多いトリシュランでは救済政策として、十数年まえから町は救子院をおいているのだという。
 救子院は町はずれにひっそりと建ち、その周囲はレモンやそのほかの作物が育てられていた。
 以前は町の中に院を設けていたが、レモンの栽培を始めるにあたって、場所を移動したそうだ。
 救子院の院長ロブカの証言によると、こういうことがあったそうだ。

「いつからか院のなかに、このレモンの木が一本だけあって、黄色い実をつけるようになった。
 木の苗は、むかし町に来た旅人が置いて行ったものだ。
 だが、自分は無論、タルテン国のほとんどがそうだが、この果物がレモンというものだと知らなかった。
 食べてみても、酸っぱいばかりでおいしく食べられないので、腐らせてしまうだけだった。
 それを、ザルマータから来たというシーラが、レモンの食べ方をおしえてくれたのだ。
 ザルマータではレモンのほかにも幾種ものオレンジなどが採れ、常食するらしい。
 シーラは、レモンを飲み物にしたり、瓶詰にしたり、砂糖漬けにしてみせた。
 そしてこれを売ることで、院は運営費の一部をまかなうことができるようになった」

 ロブカが覚えていることには、シーラはトルレン町からきたということだ。

「馬車の乗り継ぎを間違えたらしい。
 そうでなければ、トリシュランなんて言う田舎に来ることはなかっただろう」

 トルレン町は、シーラが最も長く滞在していた町である。
 トルレンは豊かな漁場と平地とに恵まれ、タルテン国有数の豊かな街だ。
 シーラはここでも住み込みの仕事を得て、帰郷のための金を稼いでいた。
 しかし、シーラにとってこの町で働いた年月は、恵まれていたとはいえない。
 年端も行かないシーラは、いいようにこき使われ、不当な搾取を受けたていたらしい。
 トルレンから汽車でタラクサへは三駅だが、その汽車賃をためることはシーラには叶わなかった。
 しかし、そんなシーラにこの町を離れるチャンスが訪れる。
 だがそのときの、ちょっとした勘違いがシーラの道を分けた。
 給仕として働いていた飲食店で、シーラはある旅団と知り合った。
 彼らは西の最果てから来た外国人で言葉は不自由だったが、気のいい人物だったらしい。
 この旅団がタラクサ方面のトロタランに行くというので、シーラも一緒に同行させてもらうことになったのだ。
 出発の間近まで働き詰めだったシーラは、旅団の馬車に乗ると、すぐに眠ってしまったらしい。
 それも、日ごろの疲れもたたって、ほとんど丸一日。
 そして、数日ののち、着いた町がトリシュランだったのだ。
 シーラが丸一日眠ってしまったこと、幼いシーラが地理に通じていなかったこと。
 旅団の外国人たちの言葉が不自由だったこと、そして、トロタランとトリシュランを取り違えてしまったこと。
 これによって、シーラは故郷に近づくどころか、大きく離れてしまったのだった。



 トルレンでのシーラに関わる証言はまばらではっきりしたものは少ない。
 複数の証言を合わせ推測した結果がこうである。
 そうした証言の中でも、その苦しかったであろう暮らしぶりはうかがえる。
 タルテン国では食べられずに捨てられるタコを漁師から譲ってもらっていたこと。
 この漁師はその後、タコの乾物を作るようになり、今はペグロランに出荷している。
 漁師テトーはこう証言する。

「シーラは真冬にはく靴下さえ持っていなかった」

 漁師の記憶では、シーラは自分の身の上をこのように説明したらしい。

「ゼルビアのお屋敷勤めをしていて、久しぶりに里帰りを許された。
 ゼルビアからタラクサまで川を上って、タラクサからペシュトランまで汽車に乗った。
 町はずれの農家が生まれた家。
 子ヤギが生まれたから、それを見るのが楽しみだった。
 屋敷へ帰る日、ペシュトランから乗った汽車が脱線した。
 乗り合わせた一家が気にかけてくれて、彼らと一緒に乗り合いの馬車の乗せてもらえることになった。
 暗くなり、あたりは月と星明りの中を馬車は走った。
 もう少しでタルトランの町に着くだろうというところで、馬車が強盗にあった。
 馬車で唯一の男手だった父親が撃たれ、けがを負った。
 馬車は強盗に奪われ、全員強盗の言うなりにタルトランとは離れた道を行った。
 シーラと一家は、馬車と荷物、服や帽子などほとんどのものを奪われて、山の中に置き去りにされた。
 そこから歩いて森を出て、半日かけて近くの村にたどり着いた。
 シーラはその村でしばらく厄介になった後、馬車に相乗りしながら、トルレンの町へ来た。
 そして、トルレンでお金をためて、ゼルビアへ帰るつもりだと」

 ・・・・・・

 ベンジーは書類を机に打ち付けて、はしをそろえた。

「不思議なのは、シーラはなぜ、屋敷に連絡をしなかったのか、ですよね」
「平民の考えることなど知らん」
「そう言ってしまっては、なんにもならないじゃないですか」
「考えたところで、なんにもならない、のほうが正しい」
「…まあ、そうなんですけど。でも、おかしいじゃないですか。
 そんな事故や事件に巻き込まれたなら、手紙を書いて、自分の窮地を知らせるのか普通じゃありませんか?
 子どもだったとしても、それくらいのことは思いつきそうなものですが」
「だから、私にはわからん」
「手紙を書く機会は何度もあったと思うんですよね。
 もしかすると、手紙は送っていたのにもかかわらず、雇い主のほうがそれを無視したのでしょうか」
「そのほうがあり得そうな話だ」
「そういえば、あの話は本当に報告しなくてもよかったんですか?」
「別に構わないだろう。ただの子どもの遊びだ」

 ベンジーの言ったあの話というのは、トリシュランの救子院でのことである。
 救子院に身を寄せていた間、シーラは子どもたちの世話を手伝った。
 その際、シーラは歌と踊りと寸劇を交えた遊びを子どもたちに教えたのだ。
 それが、マハリクマリックだった。
 この遊びは、子どもたちに大人気となり、瞬く間に村中の子どもたちがこぞって遊ぶようになったのだ。
 たしかに、この遊びは想像力さえあれば、たいした道具もいらなければ、時間も場所も関係ない。
 そして、ごく単純な歌の繰り返しと、同じ仕組みの繰り返しで、誰にでもすぐに覚えられるものだった。
 トリシュランでは流感がはやらない間は、マハリクマリックが流行っているといわれるほどだった。

「そうですね…。でも、ああいう話を聞くと、シーラにより親しみを感じます。そのほかに集まったシーラについての証言もそうです。
 ちょっと信じられないようなこともあるけれど。
 でも、彼女はきっといい人なんですよ。
 モリスさんもそう思いませんか?」
「まあ…。さすがに悪人だとは思わない。腹は立つがな」
「シーラはゼルビアにたどり着けたんでしょうか。
 そこで、シーラを迎えてくれる人はいたんでしょうか…?」
「さあな。俺には関係ないことだ」

 モリスはベッドに身体を投げ出した。
 ベンジーは報告書を封筒に入れ、封をした。

 ・・・・・・



 ハリー一行がゼルビアに向けて旅立ったのは、シーラ一行の出立から数えて、そう長くは開かなかった。
 シーラが放心していた数日を加味すれば、十分ゼルビアで再会する可能性があったのだ。
 しかし、ハリーたちが雇った案内人は、外れだったらしい。
 数日のあいだ、樹海を迷う間に、シーラ一行と行き違っていたのである。
 ハリーたちはシーラが聞いた話をそっくりそのまま聞いて、またもすれ違ってしまったことを知るや、すぐさまシリネラに折り返すことになった。
 しかし、大丈夫だろうか。
 復路だから迷わないという確証はまったくないのだった。

 時を同じくして、モリスとベンジーはペシュトランから大廻の陸路でシリネラに向かっていた。
 とはいえ、一か月という制約が課せられていた二人は、宿場につくごとにつぎつぎと馬を換え、早馬でシリネラに向かっていた。
 速さは通常の三倍、費用は五倍近くかかった。
 支払書の束をみるとベンジーはいささか穏やかではいられない心持になったが、モリスは違った。

「己の腹がいたくもかゆくもないことに、なぜ気をやむ必要があるのだ」

 しれっとした顔でつぎつぎと支払書にサインして、金額を改めもせずにベンジーに渡すのだった。
 そのかいあって、彼らもシリネラの目前に迫っていた。

 ・・・・・・



 シーラとケインは有能な従者と案内人と別れ、再びシリネラで行動を始めていた。
 ケインはあらゆる可能性を考え、慎重にことを進めるようをシーラに勧めた。
 サラが連れ去られたのが真実だとすれば、それは隠された闇を暴くことになるからだ。
 そうした闇に近づけば、当然危険が増す。

「僕はザルマータの貴族とそれなりに付き合いがある。
 まずは、君の雇い主だったファースラン・マリ―ブラン殿が、誰かから恨みを買うようなことがあったかどうか、それとなく聞いてみよう。
 君も一緒に来るといい。
 そうだな、君は僕の鑑定の仕事の助手ということにしよう」

 ケインは先送りしていた鑑定の仕事を果たしに、約束の屋敷を回った。
 シーラはケインに買ってもらった仕立てのいいブラウスとスカートを身にまとい、そしてヒールのついた革靴と白い花をあしらった帽子を身につけ、ケインの助手として付き添った。
 きちんとした身なりをして、髪を結いあげたシーラは、ただの使用人というにはもったいないほどだった。
 これまでの旅の辛酸や、ゼルビアでの悲劇をおくびにも出さず、シーラは礼節と品格をもってふるまった。
 ケインはシーラにシノラという名を名乗らせた。
 ケインがシーラは親せきから預かっている姪だと話すと、屋敷の家人はすっかりそれを信用し疑うそぶりはみじんもなかった。
 実のところ、その変容ぶりに一番驚いていたのはケインだった。
 出会い頭に切符を譲ってくれと取引を持ち掛けた豪胆さ。
 マハリクマリックのみをたよりに旅を続けてきたという健気さ。
 焼け跡で日が暮れるまで泣き果てたその憐れな姿。
 シーラのいろんな顔を見てきたケインには、シーラという娘がたとえるなら、珍しい石に思えた。
 宝石や骨とう品、美術品の鑑定を生業とするケインならではの視点だった。
 ケインが仕事で鑑定する石には、名前がある。
 ダイヤやサファイヤなどの高価なものがそれだ。
 名前のつかない石は、ごく簡単に言えば、一目置くべきものがないから、名前も価値もつかないのである。
 確かに、シーラは変わった娘だ。
 宝石ほどの見栄えはないとしても、屋敷暮らしの経験や世間の荒波は、ただの石ころだった彼女を、もの珍しくも特異な形に形成した。
 だが、今のシーラはどうだ。
 その特異な形をしたシーラがこうもしっくりと淑女のなりと形におさまるとは。
 はたして、シーラはほんとうにただの石ころなのだろうか。
 屋敷で鑑定の仕事を終えたケインは、家主と席を共にしてお茶を飲みながら談笑する。
 しかし気がつくと、仕事で鍛えられたケインの観察眼は、すっかりいい家のお嬢様然としているシーラの姿に目が行くのだった。

 ・・・・・・


 屋敷を出た後、ケインは手を取ってシーラを箱馬車に乗せた。
 足首の隠れる長いスカートさばきも、シーラは様になっていた。

「ホーミーが言っていた通りのようだね。
 ファースラン殿は、ファースラン殿亡き後、家督を継いだ弟のキューセラン殿との折り合いが悪かったというのは、本当だった。
 シーラが屋敷にいたころはどうだった? そんな話を聞いたことは?」

 馬車に揺られながら、シーラは過去に思いを巡らせた。

「私はちっとも……。でも……、今にして思えば、ゼルビアからシリネラへの生き来は、ほとんどなかったような気がします。
 出かけるにしても、タルテン国のほうが多かったですね。
 キューセラン殿との交流も、ほとんどなかったように思います。
 私の記憶の限りでは、当時のお嬢様はキューセラン殿とは幼いころに会ったことがあるという程度でした。
 とはいっても、私も十やそこらの知恵と判断しかなかったので、そういうものだと思って気に留めたことがなかったというのが正確なところですね」
「ファースラン殿は自ら隠居暮らしを選び、家族にもその暮らしをさせていたのだろうね。
 幼い君やサラ嬢がそれが気にならなかったのなら、君たちはきっと満たされていたんだろう。経済事情も悪くなかったようだし。
 ファースラン殿は祖国では浮世を嫌いながらも、タルトン国ではいくつかの会社に出資していて、それがうまく回っていたようだ」
「そういったことは、私には少しもわかりませんでした」
「そうか。きっとサラ嬢も多くは知らなかっただろう。
 ただ、サラ嬢が生きていれば、彼女が引き継ぐべき遺産は多大な額になる。
 ともかく、兄君が死んで、この遺産をすっかり自分のものとしたのはキューセラン公だ。
 だが、キューセラン公に、兄を葬るだけの理由があったのかはわからない。
 爵位は別にしても、ファースラン殿は表舞台から姿を消しているのだから、事実上マリーブラン家の代表はキューセラン公だった。
 王からの信頼も厚く、ザルマータでは好人物として知られているようだ。
 経済的な問題や、トラブルもない。
 そんなキューセラン公が、兄一家を火事で葬り去ろうとする理由は何だろう。
 折り合いが悪いというだけでは納得いかない。
 そして、サラが連れ去ったのがキューセラン公だとしたら、その理由もまったくわからない」
「では、キューセラン公爵とは関係のない者の仕業でしょうか」
「現時点ではそう思えるね。でも、得てして謎は秘められるものだから、部外者にはわからないなにかがあったのかもしれない」
「マリーブラン家を訪ねてみるのはどうでしょうか?
 あの、私があの屋敷に務めていたことを言わなければ、問題はないと思います」
「そうだね、さっそく明日訪ねてみよう。
 仲が悪いといっても、さすがに、付き合いが全くなかったということはないだろう。
 でも、用心に越したことはない。君はこのまま僕の姪のふりをして、シノラ・コートシークと名乗るといい」
「はい」

 ・・・・・・



 シリネラのホテルに部屋を取り、その翌朝、シーラとケインは再び連れ立って出かけた。
 ホテルの箱馬車に乗ってすぐのことだった。
 馬車が急に激しく揺れて、シーラとケインはつんのめった。
 そしてケインは頭を箱馬車の向かいの壁に打ち付けて、その拍子にメガネが割れて、ケインの瞼を切ってしまったのだ。

「ケインさん! 血が……!」

 御車の声が響く。

「ばか野郎! 驚かせやがって!…………」

 御者の声と外の様子から察すると、犬と子どもがわき道から飛び出し、馬を驚かせたらしい。
 御者の制御を振り払って馬が暴れたために、箱馬車の中の二人は激しく振られたというわけだった。
 ケインの顔右半分はあっという間に血ぬられ、襟や手袋を染めた。

「わあ……」

 ケインは自ら顔を抑えた手袋の血を見るや、狭い馬車の中でよろりとシーラに倒れ掛かった。

「ケインさん!」
「す、すまない……、僕は血が苦手なんだ……」

 顔を傷つけると、思ったよりも血が出るものだ。
 ケインはその血の量に驚いたのか、それとも、本当に具合が悪くなるほどに血が苦手なのか定かではないが、
 ケインは自分で自分を支えられないほどにその体から力が抜けていた。

「だいじょうぶですか、コートシーク様! こりゃいけませんな……」
「医者を呼んでください!」

 シーラはケインを支えながら叫んだ。

 ・・・・・・
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