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シリーズ3 ~ウンメイノユキチガイ~
Story-1 孤独な戦い(1)
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サラが気がつくと、そこは見知らぬ粗末な部屋だった。
手と足は縛られ、口には布をかまされていた。
サラは記憶を手繰った。
公園でシーラと話しているとき、突然背後から現れたのはジュリアン・モーリスだった。
ジュリアンは叫びながらシーラを突き飛ばし、サラに当て身を食らわせ、そしてサラを連れ去ったのだ。
ここはどこだろうか。
閉じられた窓から聞こえるのは町の雑踏だった。
サラは言いようのない重い不安に耐えながら、頭を必死に回転させた。
木を隠すなら森ということだろう。
ここはシリネラか、あるいはほど近い大きな町だろうと推測した。
サラはベッドの上を這っていき、地下窓の外をのぞこうとするが、手足の自由がきかないうえに、窓は外からふさがれていた。
しかも、なにせ外は地べたの高さだ。
できうる限りの声をあげてみても、窓からは足音が聞こえるだけで、まったく気づいてもらえそうになかった。
しばらくすると、部屋のドアの鍵の音がして、男が二人と女が一人入ってきた。
「目が覚めたようですね、サラ様」
特別なんの感情も浮かべていないジュリアンが、書類とペンを手にサラの前に腰かけた。
「グスマン、手の縄をほどいてやれ。ドラ、水を」
グスマンと呼ばれた男は、あの傷の男だった。
スティーブというのはやはり偽名だったらしい。
グスマンはサラの手の縄をほどいた。
ドラとよばれた娼婦風の女はジュリアンの後ろに立ち、右手にタバコを、左手に水の入ったコップを持っていた。
水を見ると、サラは喉が渇いていたことを急に思い出した。
「お嬢様、いいですか。お互い面倒はよしましょう。あなたはこの書類にサインをしてくれるだけでいい。そうしたら、水を飲ませてあげますし、食事もあげましょう。それだけのことです。簡単でしょう?」
ジュリアンはサラの前に書類を置き、手にペンを握らせた。
遺産管理人にジュリアン・モーリスを任命し、このものに全任する。
そういう書類だった。
「記憶喪失という手はもうききませんよ」
ジュリアンは念を押すようにいった。
サラは間髪おかずに、燃えるような目つきをしながら、ペンを投げ捨てた。
目の前にいるこの男たちは、火事を起こし、両親と屋敷の使用人たちを殺した奴らなのだ。
許せるはずがない。
簡単に屈することができるはずがなかった。
「時間がたてばたつほど、辛くなるのはあんたよ」
ドラはジュッと音をさせて、煙草を水の中に入れた。
「どこまで我慢強いか、みものね」
グスマンがもう一度サラの腕を縛り、三人は部屋を出て行った。
サラは怒りで血がたぎった。
でも、その一方で心の芯が冷たくなるような恐怖を感じた。
強がってみたものの……。
いったい、どうすればいいのだろう……。
きっとシーラとマリ―ブラン家が探してくれているに違いない。
だが、その助けはいつくるのだろうか……。
待つだけでは消耗戦だ。
歯がゆさを叩き潰すように縛られた両手をベッドにたたきつけた。
しかし、古いベッドがぎしぎしと鳴り、ほこりが立ち上るだけだ。
サラはいらだちのままに、ベッドにつっぷして倒れこんだ。
・・・・・・
ホテルの一室でアリテは絞り出すように言った。
「まず思いつくのは、懸賞金をかけることですね。当然マリ―ブラン家に出させるのが妥当でしょう。
善意の通報者や賞金首稼ぎが魅力的だと思える金額であることは当然ですが、
最もいいのは、犯人たちが仲間割れしたほうが得になると思える金額ですね。
まあ、それがいくらなのかは検討も尽きませんが。しかし、皇太子妃になるというのが本当ならば、それなりの懸賞金を用意してもらえるのではないでしょうか」
法律に通じるベンジーが口を出した。
「いい案だと思います。それと、法務局の見張りを強化するべきだと思います。犯人のジュリアンはサラ嬢に遺産管理人任命の書類にサインをさせて、法務局に届けるはずですから」
ベリオが眉を寄せた。
「その書類を法務局が受け取るだろうか?これだけの騒ぎになっているのに。
わたしは、今度もまた身代金の要求をしてくると思うが」
「身代金の要求がないとは言えませんが、基本的に書類に不備がない限り、法務局は受け取るはずです。悪徳であってもジュリアンはザルマータ国家認定の弁護士資格を持っていますし、今は悪党に身をやつしていたとしても、ジュリアンは貴族の一員です。
弁護士は貴族に属するものにのみ与えられるということになっていますし、法は法に乗っ取ることを遵守するので、例外を好まない傾向にありますから」
武闘派のベリオは納得がいかない。
「しかし、サラ嬢はつれ去られたのだぞ」
「ええ、でもそれを目撃したのは、今のところ、シーラ・クリットだけです。
シーラは記憶を失っていたということが知られている以上、その証言の信ぴょう性は疑われてしまうでしょう。それにかこつけて、ジュリアンは後からなんとでも理由をつけて押し通すでしょう。
サラ嬢は自らの意思で、ジュリアン・モーリスを任命した。
そう書かれた書類にサインさえあれば、なんとでもこじつけられるのです。
現ザルマータ国の法においては、弁護士にはそれだけの力があります」
「そんなばかな」
「それが法というものです」
「では、書類を出す前に捕まえるしかないということか?」
「僕が知る限りでは、そういうことになります。ですから、できることならジュリアンの資格はく奪を法務局に検討してもらうのが望ましいです。
ただ、ザルマータ国の法務局は大変保守派で知られていて、前例にないことを決定するにはかなりの時間がかかると思われます。
いっそ、ザルマータ国王に直談判できればいいのでしょうが、それだとしても、ジュリアンの犯行を裏付ける証拠や、過去の悪事を明らかにする必要があります。しかし……」
「しかし?」
「そうなると、暴かれると困る者が出てくるでしょうから、今度は逆にジュリアンを擁護するものも出てくるのではないかと思います」
ベリオなるほどとうなづいて、そしてアリテに目を向けた。
「そういえば、つかまったサッティバはジュリアンと共犯関係だったことを証言したのではないか? それこそが証拠になるだろう?」
アリテは首を振った。
「サッティバはほとんど何も知らされていなかったようです。
サッティバの役割はほとんど使い走りのようなもので、ジュリアンの本名はおろか職業も知らなかったようです。
弁護士登録時の写真も確認させたようですが、当時の写真と現在のジュリアンはかなり風貌が違うらしく、はっきりそうだという証言にはいたらなかった。
そのように聞いています」
ベンジーはさらに意見を述べた。
「おそらく、その取り調べには、ジュリアンを擁護する人物がなにかしらの便宜を働いたと考えられます。ジュリアンと特定の貴族や権力者には、おそらく持ちつ持たれつという関係性があったに違いありません」
「たたけば、どこまで埃が出るかわからないな」
ベリオがため息をつき、ハリーがうなったところで、アリテはついポロリと本音を漏らした。
「ですから首を突っ込むなといいましたのに……」
今度はケインが口をはさんだ。
「その書類の話ですが、サラ嬢がそう簡単にサインをするとは思えません。ジュリアンたちはサラ嬢の家族を奪った犯人。
証拠はありませんが、状況からして犯人に間違いありませんし、サラ嬢もそう思っているに違いありません。彼女の性格からして、そんな犯人たちのいいになりになるとは考えにくいですから、そう簡単に犯人が書類にサインを書かせて法務局へもって来ることはないと思います。
それに、犯人たちの狙いが前回のような身代金ではなく、当初の予定通りに遺産めあてだとすれば、今度は長期戦です。サラ嬢の体力と気力が心配です。
こういう場合、犯人は、どういうふうに人質をあつかうのでしょうか?」
ベリオが答える。
「おそらくだが、サラ嬢を生かさず殺さず、時間をかけてコントロールしようとするだろう。身体の自由を奪い、食事を断ち、水を断つ。狭い場所、暗い場所、冷たい場所、そういった環境に閉じ込める。それだけならよいが、場合によっては暴行や拷問もありうる。
そもそも、これまでの話からすると、犯人はサインさえもらえればサラ嬢の生死は、関係ないのではないだろうか? 完全にコントロールできないなら表舞台に出さなければいいのだし、最悪死んだとしても必要なら代役をたてればいい」
ベンジーはその通りだというようにうなづいた。
ケインは不安に顔を曇らせた。
「そんな……! 代役だなんて、シーラや我々にはすぐにばれることです」
「そのあたりは抜かりなくやるだろう。裏社会にはその手の分野のプロというものがいるものだ。それに、けがをした、病気にかかって顔が変わった。
あるいは、声が出なくなった。なんとでも言い訳は立つ」
「そ、それでは……だとすれば、筆跡だとて、偽もののサインで済んでしまうのではないですか?」
その問いにはベンジーが答えた。
「その可能性はゼロではありませんが、低いと思います。サラ嬢の筆跡をなにと照合するのかという問題があります。ゼルビアの屋敷が燃えてしまった以上、サラの筆跡を知る者は限られています。
犯人がどこからかサラ嬢が書いた、サラ・マリ―ブランの文字を手に入れたとしたら、偽もののサインを書くこともできるかもしれませんが、
おそらくこれも可能性は限りなく低いと思います」
ケインは首を振りながら視線を床に落とした。
「いずれにしろ、サラ嬢の身があぶない。時間がたてばたつほど、危険が増すことだけは間違いないということですね」
・・・・・・
アリテは推察を続けた。
「一連の情報や推察を兼ねると、ジュリアンはザルマータ貴族の何者かとつながっているとみて間違いなさそうですね。
そもそも、前回の身代金要求に失敗した後、マリ―ブラン家ほど近い公園にいたということは、 犯人はシリネラに居ながらにして逃げおおせることができると踏んでいたわけです。むしろ、身代金要求に失敗した後も、マリ―ブラン家を見張って、隙を狙っていたくらいのことがあったのかもしれません。
そして、もうひとつは、金の流れです。ゼルビアからさらったサラ嬢、正しくは記憶を失ったふりをしたシーラを、 病院の特別室に入れていたことから、この計画のためにはかなりの資金を使っています。話によると、一か月の部屋代だけで、銀貨四十枚だそうです。
場末暮らしのジュリアンに何者かが資金援助していたと考えられます。そうだとすると、ジュリアンは今もこの町のどこかに潜んでいると思うのですがどうでしょうか?」
ケインは疑問を投げかけた。
「ですが、町にはそこらじゅにうに憲兵がいて、町中を調べています。
それでも見つからないのなら、すでにもう町に出ていると考えるほうが自然ではありませんか?」
ベリオはアリテの意見に賛成した。
「わたしも今はまだこの町にいると思う。ジュリアンがサラ嬢をさらったのは、偶然にもサラ嬢とシーラがいれ違っていたということを知ったそのすぐ後だ。町を出るとしたら、それなりに時間が必要だからな。
ただ、時間がたてば、わからない。町を出ていく可能性は上がるかもしれない。あとは、上層部の思惑が純粋なサラの救助よりも、今後の勢力争いに流れたのせいで、 下の憲兵団の統率が取れていないということが、捜査の労力や時間に対して結果がついてこない理由だろうな」
アリテはハリーを向き直った。
「殿下、こうした状況の中、リバエル国王弟殿下として、この件に関わることが得策でないことがよくおわかりいただましたでしょう。どういたしますか?」
しばらくずっと黙っていたハリーだったが、ようやく口を開いた。
「俺だとばれなければいいだけだろう。まず、マリ―ブラン家に懸賞金を出してもらおう。俺たちは流れてきた賞金稼ぎの一団だ。
本物の賞金稼ぎも雇おう。この町の表にも裏にも顔の知れたものを」
「殿下! 御冗談を!」
アリテのヒステリックな叫びが部屋に響いた。
・・・・・・
六人の男たちが解散し、それぞれの部屋に帰るとき、ベンジーはモリスの横顔を見た。
「モリスさん、どうかしましたか?
なんだか、さっきからずっと黙っているので……」
モリスはベンジーをみたが、すぐに眉間にしわを寄せて顔をそらした。
「いや、よくわからない……」
「ああ、この作戦のことですね。僕もうまくいくかどうかわかりません」
「そうじゃない。ハリー殿下のことが……」
「え、殿下のことですか?」
「ああ……。ハリー様はサラ嬢のことをゲームプレーヤーだといった。
愛してはいない。面白がってはおられるがな。
私はあのとき、なぜか……、こんなことは初めてだが……」
ベンジーは黙ってモリスの難しげな顔を見つめた。
「なぜか、少し腹が立ったような……。
いや、思い違いかもしれないのだが、……ただ。なにか胸にもやもやと……」
ベンジーは驚きに息をのみ、目を見開いた。
「そ、それは……。えっと、こういうことですか……?
サラ嬢の命がかかっているこの場面で、ゲームのように面白がっている殿下に……。腹が立った、と……?」
モリスは首を横に強く振った。
「いや、私がハリー様にそのようなことを思うなど、ありえない。
ありえないのだが……、わたしにもよくわからない」
ベンジーは思わずモリスをじっと見つめてしまった。
月夜の君がシーラ・パンプキンソンだと分かり、そしてシーラ・パンプキンソンはザルマータ貴族の娘であることが分かった。
はた目にはモリスの態度は、これまでの平民娘に対するものと変わらないように思えたが、少しずつモリスの中で何かが変わってきたらしい。
ベンジーは口に出すかどうか一瞬ためらったが、互いの間柄を思うと言わないほうが不自然に思えたので口を開いた。
「モリスさんは、サラ嬢のことを想い始めているからではないですか?」
「何……?」
モリスは驚いたようにベンジーを見た。
「そうでなければ、そのことで怒ったりしないと思います。
いつものモリスさんなら、ハリー様の言うことはすべてが正しいと思うのではないですか?」
「ばかをいうな。サラ嬢に思いを寄せていたのはおまえだろう」
「僕は、その違いますよ!
な、なんというか、……だ、だれだってかわいい女性に頼られたら、ド、ドキドキしちゃうじゃないですか! 僕のはそれです。好きとは違います」
「じゃあ嫌いなのか」
「嫌いじゃありませんけど!
モリスさんが今抱いているものとは違うと思います」
「ふむ……。いや、そもそも、俺にはわからない。
リベルではあんなにもこ憎たらしかったのに、ザルマータではなぜか日増しにかわいくみえたのだ」
「……だから、それを恋っていうんですよ」
「じゃあ、お前もサラ嬢に恋をしているのだな?」
「いや、だから、それはちょっと違ってて……。
なんていえばいいのかなー……」
「説明してみろ」
「ぼ、僕だってよくわかりませんけど……」
「いいから、説明してみろ」
「えっと、えーと……。
あのですね、色っぽい女性を見ると、ドキドキしますよね? べつにその女性のことが好きじゃなくても。僕の場合はそれだと思うんです。
でも、モリスさんの場合は、好きっていう気持ちのほうが強いのかなと思います」
モリスはすこし考えるように黙ったが、しばらくしてこんなことを言った。
「私はハリー殿下を見るといつもドキドキする。
殿下のことは好き以上だ。唯一無二だ。
サラ嬢のことは……。別にドキドキはしない。代わりに、イライラする」
「あー……、えっと、そういう気持ちも、はい、ありますよね」
「なんだそのおざなりな言い方は」
「そのー……、えっと、そういうのを独占欲とか支配欲とかいうんじゃないですか? ああ、あのときは、どう思ったんですか?
ハリー様がサラ嬢にマハリクマリックを寝物語に聞かせてもらうっていう……」
「あのときは、ハリー殿下のはだけた寝間着姿を想像していた」
「それでどう思ったんですか?」
「ハリー殿下にはドキドキというかワクワクした」
「サラ嬢には?」
「まったく想像がつかなかった。
俺の中ではそこにはサラ嬢はいなかった」
ベンジーは、首をかしげ、しばらく考えた後、ベンジーはモリスにこう尋ねてみた。
「それじゃあ、モリスさんの隣でサラ嬢が寝物語を聞かせてくれるとしたらどうですか?」
その絵を想像したモリスは即答した。
「それは、なかなかいいかもしれん」
まあ、そういうことですね、とベンジーは肩で笑った。
・・・・・・
マリ―ブラン家がサラをさらった犯人たちに賞金を出すと発表したが、 サラはそんなことはつゆとも知らずに地下室でひとり頑張っていた。
日増しに不安に追いやられるこころと、衰弱する体に、サラの怒りや憤りも次第に力を失いつつあった。
「いいですか、サラ様。だれも助けに来ませんよ。だれも。
待つだけ無駄です。今楽になったほうがいいですよ」
ジュリアンはあいかわらず、冷たい顔で言葉遣いだけは丁寧だったが何も感情のこもらない声でとつとつと言った。
ベラはいちいち、水をこぼして見せたり、パンを落として踏みつけたり、煙草のけむりを吹きかけて挑発してきた。
グスマンはほとんど何も言わず、ただジュリアンのいうことに従って、サラを縛ったりほどいたりした。
数日もすると、サラは頭がぼうっとして、動くのもつらく、空腹ととのどの渇きにさいなまれるようになった。
サラは旅の間、食べれない日が何日も続いたことがあった。
それでもこんなに衰弱したことはない。
それはつまり、サラが思った以上に精神的な衰弱が体に影響していたということだった。
「なかなか強情ですね。ここへサインする、たった一筆サインを書くだけでいいんです。わかりませんか、サラお嬢様」
サラは息も荒く、うなりごえをあげる気力さえなくなりつつあった。
握らされたペンを持つ手が震え、手のひらは脂汗がにじんでペンは滑り落ちた。
「あなたはまだ淡い希望を捨てきれないようですね。ここがどういう場所か教えてあげましょうか。ここは売春宿の地下室。
つまり、職業病で売り物にならなくなった女が死を迎えるための牢なんですよ。だからこの部屋にはだれも近づかない。この部屋に入ったものが出るときは、死んだときです」
サラの耳に呪文のように呪いの言葉が刷り込まれる。
ジュリアンはペンを拾って、サラの手に握らせた。
「でも、あなたがここにサインをしてくれたなら、悪いようにはしませんよ。
あなただって、ここを早く出たいでしょう? わたしだって、今すぐにでも出してあげたいんですよ。さあ、ここにサインしてください。
サラ・マリ―ブラン、そう書くだけでいいんですよ」
ここにそう書けたらどれだけ楽になれるだろう……。
ここ数日サラがそうおもわない日はなかった。
だが、その一方で、サインしたところで、自由にしてくれるわけではないのもわかっていた。
それでも、サラが握ったペンを振り払えないのは、この監禁生活の苦しさと孤独、不安から解放されるための唯一の手段だったからだ。
助けが来ない限り、サラはいつかこの書類にサインをしなければならない。
たとえ、自由にはなれなくとも、命さえあれば、もう一度地上に出られれば、逃げ出すチャンスがあるかもしれない。
いや、待って!
この男たちは、屋敷を焼き払い、父と母を殺した犯人。
サインをしたからって、わたしをここから出す確証があるの?
私を殺さないといえるの?…………
サラはペンを離すと、書類をつかみ、一気に破った。
そして、気力を振り絞って「出て行って」とうなった。
ジュリアンはため息をつき、敗れた書類を拾った。
グスマンにサラの拘束を命じ、ジュリアンは出ていき、ドラも鼻で笑って出て行った。
部屋に取り残されたサラに、サラの手首を縄で縛るグスマンはぼそっと言った。
「あんた、悪いことは言わねぇから、さっさとサインしちまえ。
でないと、次は殴ってでもあんたにサインを書かせることになる」
サラは恐怖にゆがんだ瞳でグスマンを見た。
「俺だって、あんたみてぇな女子供を殴るのは趣味じゃねえ。
だが、懸賞金がかけられたんじゃ、この宿だっていつかはばれちまう。
そんなことになりゃ、お偉方に迷惑がかかる。いいか、明日は必ずサインをするんだ。そのきれいな顔のまま生きていたきゃ、明日はサインするんだぞ、いいな」
グスマンはそういうと、部屋を出て鍵をかけた。
ぼうっとする思考の一方で、サラの中にしびれるようなものがあった。
懸賞金……?
おそらく、マリ―ブラン家が犯人に懸賞金をかけたということだ。
サラは外でもなにかしらの活動が行われているのが知れて、心底嬉しく思った。
この暗い地下室では、何一つ情報が入ってこない。
数日ぶりの外界の情報がサラにどれだけの活力をもたらしたかしれない。
サラはぼんやりする頭を振り払って、考えた。
懸賞金はいくらだろう?
あの三人が仲間割れしてくれるだけの金額ならいいが、グスマンの話しぶりから見て、おそらくそれはないだろう。
でも、あの三人を仲間割れさせることができれば……。
主犯はどうみても、ジュリアンだ。
これまでの関係性からみて、ドラはジュリアンの女のようだ。
そして、このふたりにグスマンを含めた三人がこの犯罪の加担者であるらしい。
この三人を仲間割れさせるには、例えば、遺産をジュリアン以外の一人に委任することを条件にしたらどうだろう。
いや、でも、遺産管理人になれるのは、ジュリアンが弁護士の資格があるからなのだ。
ドラとグスマンにそれはできない。
いや、いや、待って……。
サラは熱っぽい頭をひねった。
結婚するならどうだろう……!
サラは十六。
ザルマータ国の法律では結婚ができる年齢だ。
そして、結婚相手は必然的に、互いの資産を管理することになるだろう。
法律にそれほどくわしくないサラだったが、この手以外に手はないように思えた。
とにかく、ジュリアンかグスマンのどちらかと結婚するという約束をして、この部屋を出ることができれば、逃げ出す機会が訪れるかもしれない。
ジュリアンが遺産管理人になったとして、三人で山分けすれば、一人頭の取り分は三分の一。
結婚してサラの伴侶となれば、サラとふたりで分けても、一人頭の取り分は二分の一。
サラはひとりでに何度も何度もうなづいた。
これで揺さぶりをかけてみよう。
きっと、ここから脱出してみせる……!
・・・・・・
ハリーは新しい変装に身を包むと、がぜん乗り気である。
諦観の部下をよそに、ハリーはケインを連れて、まずミッシュアのもとを訪ねた。
ハリーに恩義を感じているミッシュアの口から、なにか聞き出せるかもしれないからだ。
平民服にみを包んだふたりは、不自然でない程度の武具を持った。
ハリーは剣を、ケインは弓を。
他の町からやってきたばかりの賞金稼ぎという体を装うために、マントや靴など一通り汚してみたりしたが、 それでも二人の貴族然とした顔立ちは少し目立つ。
「もうすこし、顔を汚しておいたほうがいいかな」
「殿下、やりすぎてもおかしいと思います」
「ケイン、ここではハルと呼べと言ってるだろう」
「はっ、そうでした、ハル殿」
「殿はいらん。敬語もなしだ」
「あっ、はい、いや、わかった……」
まさか自分がハリーと同行することになるとは思わなかったケインは、いまだハリーのペースに慣れていない。
ハリーにいちいち言葉遣いなどを注意されている。
「し、しかし、なぜ僕がハル……と同行することになったのか、不思議だよ。
どうして僕を指名したんだい?」
「ケイン、お前とはじっくり話をしてみたかった」
「はあ……、学校ではさほど話す機会もなかったからね」
「いや、サラ嬢のことだ。お前は、リベルからずっと一緒だったろう」
「ああ、そうだよ」
ケインはそう言った後、思い出したようにハリーを見て首を振った。
「いや、僕とサラ嬢の間には誓って何もないよ。
君が心配するようなことは何も」
「ふうん……」
「汽車旅の間、それは長い時間があったから、 サラ嬢がシーラ・パンプキンソンとしてどういう道のりを歩んできたのかを聞いたよ。
マハリクマリックも、多分ほとんど。サラ嬢とシーラ・クリットの入れ違いのマハリクマリック以外という意味だけどね。
とにかく、そういうことだったんで、思いのほかサラ嬢に関わってしまうことになった。けれど、僕らはずっといい友達だったよ。
まあ、あのときはサラ嬢を放っておくことができなかったというか、彼女にとってはすごくつらい時期だったから。いや、今もそうなんだけど……。
はあ、こうしてみると、なぜ彼女ばかりこんな目に合うのか、かわいそうといったらないな……」
ケインはようやく、じっとこちらをみているハリーに気がついた。
「やさしいんだな、ケイン」
「えっ、いや……」
「俺より先に、マハリクマリックを直接聞いたのか……」
「あっ、え、いや、その……」
ケインが返答に困っていると、ハリーはわははと声をあげて笑った。
「まあいい。それより、お前から見てサラ嬢はどんな娘だ?」
「そうだな……」
ケインは視線を落として足元の小石を見た。
「初めは少々風変わりな石だと思ったかな」
「石?」
「名もない石。僕は普段鑑定を生業としているから、どんなものを見てもその本質や真価を常に気にしている。シーラ・パンプキンソンとしての彼女は、奇妙な形をした名前のつかない石ころのようだった。
見た目は普通の女の子なのに、ときどき見せる大胆なところや激しさ。
あるいは、リベルを離れた直後の彼女はとても疲れていて、とても放っておけないようなあぶなかしさもあって。
崩れそうなときも、マハリクマリックひとつを頼りにして、前を向き、笑顔を見せる。そういう彼女はとても健気で純粋だ。
そうかとおもえば、時にとても冷静に物事を見ているところもある。
僕が石の真価に疑問を持ったのは、彼女がブラウスを着た時だ。
仕立てのいい白のブラウスとロングスカート、そして花をあしらった婦人帽をかぶった彼女は、まるで別人のようだった。
その後、サラ・マリーブラン嬢だとわかって、僕はすこぶる納得したね。
実際、彼女がどれほどの教育を受けたかは知るよしもないが、彼女の目にはまぎれもなく淑女の……。おそらくは彼女の母親のしぐさや立ち振る舞いが目に焼き付いていたんだろう」
ハリーは興味深そうに聞いていたかと思うと、こんなことを尋ねた。
「サラ嬢を宝石にたとえるとしたら?」
「そうだなあ……。うーん、足の生えたトルマリンかなあ……」
「足の生えた?」
ハリーがふふっと笑った。
「ええ。自分でどこへでも行ってしまって、時に砂や泥に埋もれて名もなき石に見えてしまう。捕まえておくには、少々厄介な宝石だと思うよ、ハル」
あはは、とハリーが高らかに笑った。
その後、ミッシュアを訪ねた二人は、ジュリアンが町の何か所かに隠れ場所を持っていて、 事によると地下経路さえも持っているかもしれないということを知った。
ミッシュアが罪滅ぼしをしたい一心で何か手伝わせてくれといったので、 ハリーはもし隠れ家の場所がわかったら知らせてくれと頼んでおくことにした。
ハリーはミッシュアを許し、引き続き、母親のティマの医療費を支援してやった。
兄が戻ったら、三人で仲良く暮らせよというと、ミッシュアは泣いてハリーの手に口づけをした。
・・・・・・
手と足は縛られ、口には布をかまされていた。
サラは記憶を手繰った。
公園でシーラと話しているとき、突然背後から現れたのはジュリアン・モーリスだった。
ジュリアンは叫びながらシーラを突き飛ばし、サラに当て身を食らわせ、そしてサラを連れ去ったのだ。
ここはどこだろうか。
閉じられた窓から聞こえるのは町の雑踏だった。
サラは言いようのない重い不安に耐えながら、頭を必死に回転させた。
木を隠すなら森ということだろう。
ここはシリネラか、あるいはほど近い大きな町だろうと推測した。
サラはベッドの上を這っていき、地下窓の外をのぞこうとするが、手足の自由がきかないうえに、窓は外からふさがれていた。
しかも、なにせ外は地べたの高さだ。
できうる限りの声をあげてみても、窓からは足音が聞こえるだけで、まったく気づいてもらえそうになかった。
しばらくすると、部屋のドアの鍵の音がして、男が二人と女が一人入ってきた。
「目が覚めたようですね、サラ様」
特別なんの感情も浮かべていないジュリアンが、書類とペンを手にサラの前に腰かけた。
「グスマン、手の縄をほどいてやれ。ドラ、水を」
グスマンと呼ばれた男は、あの傷の男だった。
スティーブというのはやはり偽名だったらしい。
グスマンはサラの手の縄をほどいた。
ドラとよばれた娼婦風の女はジュリアンの後ろに立ち、右手にタバコを、左手に水の入ったコップを持っていた。
水を見ると、サラは喉が渇いていたことを急に思い出した。
「お嬢様、いいですか。お互い面倒はよしましょう。あなたはこの書類にサインをしてくれるだけでいい。そうしたら、水を飲ませてあげますし、食事もあげましょう。それだけのことです。簡単でしょう?」
ジュリアンはサラの前に書類を置き、手にペンを握らせた。
遺産管理人にジュリアン・モーリスを任命し、このものに全任する。
そういう書類だった。
「記憶喪失という手はもうききませんよ」
ジュリアンは念を押すようにいった。
サラは間髪おかずに、燃えるような目つきをしながら、ペンを投げ捨てた。
目の前にいるこの男たちは、火事を起こし、両親と屋敷の使用人たちを殺した奴らなのだ。
許せるはずがない。
簡単に屈することができるはずがなかった。
「時間がたてばたつほど、辛くなるのはあんたよ」
ドラはジュッと音をさせて、煙草を水の中に入れた。
「どこまで我慢強いか、みものね」
グスマンがもう一度サラの腕を縛り、三人は部屋を出て行った。
サラは怒りで血がたぎった。
でも、その一方で心の芯が冷たくなるような恐怖を感じた。
強がってみたものの……。
いったい、どうすればいいのだろう……。
きっとシーラとマリ―ブラン家が探してくれているに違いない。
だが、その助けはいつくるのだろうか……。
待つだけでは消耗戦だ。
歯がゆさを叩き潰すように縛られた両手をベッドにたたきつけた。
しかし、古いベッドがぎしぎしと鳴り、ほこりが立ち上るだけだ。
サラはいらだちのままに、ベッドにつっぷして倒れこんだ。
・・・・・・
ホテルの一室でアリテは絞り出すように言った。
「まず思いつくのは、懸賞金をかけることですね。当然マリ―ブラン家に出させるのが妥当でしょう。
善意の通報者や賞金首稼ぎが魅力的だと思える金額であることは当然ですが、
最もいいのは、犯人たちが仲間割れしたほうが得になると思える金額ですね。
まあ、それがいくらなのかは検討も尽きませんが。しかし、皇太子妃になるというのが本当ならば、それなりの懸賞金を用意してもらえるのではないでしょうか」
法律に通じるベンジーが口を出した。
「いい案だと思います。それと、法務局の見張りを強化するべきだと思います。犯人のジュリアンはサラ嬢に遺産管理人任命の書類にサインをさせて、法務局に届けるはずですから」
ベリオが眉を寄せた。
「その書類を法務局が受け取るだろうか?これだけの騒ぎになっているのに。
わたしは、今度もまた身代金の要求をしてくると思うが」
「身代金の要求がないとは言えませんが、基本的に書類に不備がない限り、法務局は受け取るはずです。悪徳であってもジュリアンはザルマータ国家認定の弁護士資格を持っていますし、今は悪党に身をやつしていたとしても、ジュリアンは貴族の一員です。
弁護士は貴族に属するものにのみ与えられるということになっていますし、法は法に乗っ取ることを遵守するので、例外を好まない傾向にありますから」
武闘派のベリオは納得がいかない。
「しかし、サラ嬢はつれ去られたのだぞ」
「ええ、でもそれを目撃したのは、今のところ、シーラ・クリットだけです。
シーラは記憶を失っていたということが知られている以上、その証言の信ぴょう性は疑われてしまうでしょう。それにかこつけて、ジュリアンは後からなんとでも理由をつけて押し通すでしょう。
サラ嬢は自らの意思で、ジュリアン・モーリスを任命した。
そう書かれた書類にサインさえあれば、なんとでもこじつけられるのです。
現ザルマータ国の法においては、弁護士にはそれだけの力があります」
「そんなばかな」
「それが法というものです」
「では、書類を出す前に捕まえるしかないということか?」
「僕が知る限りでは、そういうことになります。ですから、できることならジュリアンの資格はく奪を法務局に検討してもらうのが望ましいです。
ただ、ザルマータ国の法務局は大変保守派で知られていて、前例にないことを決定するにはかなりの時間がかかると思われます。
いっそ、ザルマータ国王に直談判できればいいのでしょうが、それだとしても、ジュリアンの犯行を裏付ける証拠や、過去の悪事を明らかにする必要があります。しかし……」
「しかし?」
「そうなると、暴かれると困る者が出てくるでしょうから、今度は逆にジュリアンを擁護するものも出てくるのではないかと思います」
ベリオなるほどとうなづいて、そしてアリテに目を向けた。
「そういえば、つかまったサッティバはジュリアンと共犯関係だったことを証言したのではないか? それこそが証拠になるだろう?」
アリテは首を振った。
「サッティバはほとんど何も知らされていなかったようです。
サッティバの役割はほとんど使い走りのようなもので、ジュリアンの本名はおろか職業も知らなかったようです。
弁護士登録時の写真も確認させたようですが、当時の写真と現在のジュリアンはかなり風貌が違うらしく、はっきりそうだという証言にはいたらなかった。
そのように聞いています」
ベンジーはさらに意見を述べた。
「おそらく、その取り調べには、ジュリアンを擁護する人物がなにかしらの便宜を働いたと考えられます。ジュリアンと特定の貴族や権力者には、おそらく持ちつ持たれつという関係性があったに違いありません」
「たたけば、どこまで埃が出るかわからないな」
ベリオがため息をつき、ハリーがうなったところで、アリテはついポロリと本音を漏らした。
「ですから首を突っ込むなといいましたのに……」
今度はケインが口をはさんだ。
「その書類の話ですが、サラ嬢がそう簡単にサインをするとは思えません。ジュリアンたちはサラ嬢の家族を奪った犯人。
証拠はありませんが、状況からして犯人に間違いありませんし、サラ嬢もそう思っているに違いありません。彼女の性格からして、そんな犯人たちのいいになりになるとは考えにくいですから、そう簡単に犯人が書類にサインを書かせて法務局へもって来ることはないと思います。
それに、犯人たちの狙いが前回のような身代金ではなく、当初の予定通りに遺産めあてだとすれば、今度は長期戦です。サラ嬢の体力と気力が心配です。
こういう場合、犯人は、どういうふうに人質をあつかうのでしょうか?」
ベリオが答える。
「おそらくだが、サラ嬢を生かさず殺さず、時間をかけてコントロールしようとするだろう。身体の自由を奪い、食事を断ち、水を断つ。狭い場所、暗い場所、冷たい場所、そういった環境に閉じ込める。それだけならよいが、場合によっては暴行や拷問もありうる。
そもそも、これまでの話からすると、犯人はサインさえもらえればサラ嬢の生死は、関係ないのではないだろうか? 完全にコントロールできないなら表舞台に出さなければいいのだし、最悪死んだとしても必要なら代役をたてればいい」
ベンジーはその通りだというようにうなづいた。
ケインは不安に顔を曇らせた。
「そんな……! 代役だなんて、シーラや我々にはすぐにばれることです」
「そのあたりは抜かりなくやるだろう。裏社会にはその手の分野のプロというものがいるものだ。それに、けがをした、病気にかかって顔が変わった。
あるいは、声が出なくなった。なんとでも言い訳は立つ」
「そ、それでは……だとすれば、筆跡だとて、偽もののサインで済んでしまうのではないですか?」
その問いにはベンジーが答えた。
「その可能性はゼロではありませんが、低いと思います。サラ嬢の筆跡をなにと照合するのかという問題があります。ゼルビアの屋敷が燃えてしまった以上、サラの筆跡を知る者は限られています。
犯人がどこからかサラ嬢が書いた、サラ・マリ―ブランの文字を手に入れたとしたら、偽もののサインを書くこともできるかもしれませんが、
おそらくこれも可能性は限りなく低いと思います」
ケインは首を振りながら視線を床に落とした。
「いずれにしろ、サラ嬢の身があぶない。時間がたてばたつほど、危険が増すことだけは間違いないということですね」
・・・・・・
アリテは推察を続けた。
「一連の情報や推察を兼ねると、ジュリアンはザルマータ貴族の何者かとつながっているとみて間違いなさそうですね。
そもそも、前回の身代金要求に失敗した後、マリ―ブラン家ほど近い公園にいたということは、 犯人はシリネラに居ながらにして逃げおおせることができると踏んでいたわけです。むしろ、身代金要求に失敗した後も、マリ―ブラン家を見張って、隙を狙っていたくらいのことがあったのかもしれません。
そして、もうひとつは、金の流れです。ゼルビアからさらったサラ嬢、正しくは記憶を失ったふりをしたシーラを、 病院の特別室に入れていたことから、この計画のためにはかなりの資金を使っています。話によると、一か月の部屋代だけで、銀貨四十枚だそうです。
場末暮らしのジュリアンに何者かが資金援助していたと考えられます。そうだとすると、ジュリアンは今もこの町のどこかに潜んでいると思うのですがどうでしょうか?」
ケインは疑問を投げかけた。
「ですが、町にはそこらじゅにうに憲兵がいて、町中を調べています。
それでも見つからないのなら、すでにもう町に出ていると考えるほうが自然ではありませんか?」
ベリオはアリテの意見に賛成した。
「わたしも今はまだこの町にいると思う。ジュリアンがサラ嬢をさらったのは、偶然にもサラ嬢とシーラがいれ違っていたということを知ったそのすぐ後だ。町を出るとしたら、それなりに時間が必要だからな。
ただ、時間がたてば、わからない。町を出ていく可能性は上がるかもしれない。あとは、上層部の思惑が純粋なサラの救助よりも、今後の勢力争いに流れたのせいで、 下の憲兵団の統率が取れていないということが、捜査の労力や時間に対して結果がついてこない理由だろうな」
アリテはハリーを向き直った。
「殿下、こうした状況の中、リバエル国王弟殿下として、この件に関わることが得策でないことがよくおわかりいただましたでしょう。どういたしますか?」
しばらくずっと黙っていたハリーだったが、ようやく口を開いた。
「俺だとばれなければいいだけだろう。まず、マリ―ブラン家に懸賞金を出してもらおう。俺たちは流れてきた賞金稼ぎの一団だ。
本物の賞金稼ぎも雇おう。この町の表にも裏にも顔の知れたものを」
「殿下! 御冗談を!」
アリテのヒステリックな叫びが部屋に響いた。
・・・・・・
六人の男たちが解散し、それぞれの部屋に帰るとき、ベンジーはモリスの横顔を見た。
「モリスさん、どうかしましたか?
なんだか、さっきからずっと黙っているので……」
モリスはベンジーをみたが、すぐに眉間にしわを寄せて顔をそらした。
「いや、よくわからない……」
「ああ、この作戦のことですね。僕もうまくいくかどうかわかりません」
「そうじゃない。ハリー殿下のことが……」
「え、殿下のことですか?」
「ああ……。ハリー様はサラ嬢のことをゲームプレーヤーだといった。
愛してはいない。面白がってはおられるがな。
私はあのとき、なぜか……、こんなことは初めてだが……」
ベンジーは黙ってモリスの難しげな顔を見つめた。
「なぜか、少し腹が立ったような……。
いや、思い違いかもしれないのだが、……ただ。なにか胸にもやもやと……」
ベンジーは驚きに息をのみ、目を見開いた。
「そ、それは……。えっと、こういうことですか……?
サラ嬢の命がかかっているこの場面で、ゲームのように面白がっている殿下に……。腹が立った、と……?」
モリスは首を横に強く振った。
「いや、私がハリー様にそのようなことを思うなど、ありえない。
ありえないのだが……、わたしにもよくわからない」
ベンジーは思わずモリスをじっと見つめてしまった。
月夜の君がシーラ・パンプキンソンだと分かり、そしてシーラ・パンプキンソンはザルマータ貴族の娘であることが分かった。
はた目にはモリスの態度は、これまでの平民娘に対するものと変わらないように思えたが、少しずつモリスの中で何かが変わってきたらしい。
ベンジーは口に出すかどうか一瞬ためらったが、互いの間柄を思うと言わないほうが不自然に思えたので口を開いた。
「モリスさんは、サラ嬢のことを想い始めているからではないですか?」
「何……?」
モリスは驚いたようにベンジーを見た。
「そうでなければ、そのことで怒ったりしないと思います。
いつものモリスさんなら、ハリー様の言うことはすべてが正しいと思うのではないですか?」
「ばかをいうな。サラ嬢に思いを寄せていたのはおまえだろう」
「僕は、その違いますよ!
な、なんというか、……だ、だれだってかわいい女性に頼られたら、ド、ドキドキしちゃうじゃないですか! 僕のはそれです。好きとは違います」
「じゃあ嫌いなのか」
「嫌いじゃありませんけど!
モリスさんが今抱いているものとは違うと思います」
「ふむ……。いや、そもそも、俺にはわからない。
リベルではあんなにもこ憎たらしかったのに、ザルマータではなぜか日増しにかわいくみえたのだ」
「……だから、それを恋っていうんですよ」
「じゃあ、お前もサラ嬢に恋をしているのだな?」
「いや、だから、それはちょっと違ってて……。
なんていえばいいのかなー……」
「説明してみろ」
「ぼ、僕だってよくわかりませんけど……」
「いいから、説明してみろ」
「えっと、えーと……。
あのですね、色っぽい女性を見ると、ドキドキしますよね? べつにその女性のことが好きじゃなくても。僕の場合はそれだと思うんです。
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モリスはすこし考えるように黙ったが、しばらくしてこんなことを言った。
「私はハリー殿下を見るといつもドキドキする。
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「なんだそのおざなりな言い方は」
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ハリー様がサラ嬢にマハリクマリックを寝物語に聞かせてもらうっていう……」
「あのときは、ハリー殿下のはだけた寝間着姿を想像していた」
「それでどう思ったんですか?」
「ハリー殿下にはドキドキというかワクワクした」
「サラ嬢には?」
「まったく想像がつかなかった。
俺の中ではそこにはサラ嬢はいなかった」
ベンジーは、首をかしげ、しばらく考えた後、ベンジーはモリスにこう尋ねてみた。
「それじゃあ、モリスさんの隣でサラ嬢が寝物語を聞かせてくれるとしたらどうですか?」
その絵を想像したモリスは即答した。
「それは、なかなかいいかもしれん」
まあ、そういうことですね、とベンジーは肩で笑った。
・・・・・・
マリ―ブラン家がサラをさらった犯人たちに賞金を出すと発表したが、 サラはそんなことはつゆとも知らずに地下室でひとり頑張っていた。
日増しに不安に追いやられるこころと、衰弱する体に、サラの怒りや憤りも次第に力を失いつつあった。
「いいですか、サラ様。だれも助けに来ませんよ。だれも。
待つだけ無駄です。今楽になったほうがいいですよ」
ジュリアンはあいかわらず、冷たい顔で言葉遣いだけは丁寧だったが何も感情のこもらない声でとつとつと言った。
ベラはいちいち、水をこぼして見せたり、パンを落として踏みつけたり、煙草のけむりを吹きかけて挑発してきた。
グスマンはほとんど何も言わず、ただジュリアンのいうことに従って、サラを縛ったりほどいたりした。
数日もすると、サラは頭がぼうっとして、動くのもつらく、空腹ととのどの渇きにさいなまれるようになった。
サラは旅の間、食べれない日が何日も続いたことがあった。
それでもこんなに衰弱したことはない。
それはつまり、サラが思った以上に精神的な衰弱が体に影響していたということだった。
「なかなか強情ですね。ここへサインする、たった一筆サインを書くだけでいいんです。わかりませんか、サラお嬢様」
サラは息も荒く、うなりごえをあげる気力さえなくなりつつあった。
握らされたペンを持つ手が震え、手のひらは脂汗がにじんでペンは滑り落ちた。
「あなたはまだ淡い希望を捨てきれないようですね。ここがどういう場所か教えてあげましょうか。ここは売春宿の地下室。
つまり、職業病で売り物にならなくなった女が死を迎えるための牢なんですよ。だからこの部屋にはだれも近づかない。この部屋に入ったものが出るときは、死んだときです」
サラの耳に呪文のように呪いの言葉が刷り込まれる。
ジュリアンはペンを拾って、サラの手に握らせた。
「でも、あなたがここにサインをしてくれたなら、悪いようにはしませんよ。
あなただって、ここを早く出たいでしょう? わたしだって、今すぐにでも出してあげたいんですよ。さあ、ここにサインしてください。
サラ・マリ―ブラン、そう書くだけでいいんですよ」
ここにそう書けたらどれだけ楽になれるだろう……。
ここ数日サラがそうおもわない日はなかった。
だが、その一方で、サインしたところで、自由にしてくれるわけではないのもわかっていた。
それでも、サラが握ったペンを振り払えないのは、この監禁生活の苦しさと孤独、不安から解放されるための唯一の手段だったからだ。
助けが来ない限り、サラはいつかこの書類にサインをしなければならない。
たとえ、自由にはなれなくとも、命さえあれば、もう一度地上に出られれば、逃げ出すチャンスがあるかもしれない。
いや、待って!
この男たちは、屋敷を焼き払い、父と母を殺した犯人。
サインをしたからって、わたしをここから出す確証があるの?
私を殺さないといえるの?…………
サラはペンを離すと、書類をつかみ、一気に破った。
そして、気力を振り絞って「出て行って」とうなった。
ジュリアンはため息をつき、敗れた書類を拾った。
グスマンにサラの拘束を命じ、ジュリアンは出ていき、ドラも鼻で笑って出て行った。
部屋に取り残されたサラに、サラの手首を縄で縛るグスマンはぼそっと言った。
「あんた、悪いことは言わねぇから、さっさとサインしちまえ。
でないと、次は殴ってでもあんたにサインを書かせることになる」
サラは恐怖にゆがんだ瞳でグスマンを見た。
「俺だって、あんたみてぇな女子供を殴るのは趣味じゃねえ。
だが、懸賞金がかけられたんじゃ、この宿だっていつかはばれちまう。
そんなことになりゃ、お偉方に迷惑がかかる。いいか、明日は必ずサインをするんだ。そのきれいな顔のまま生きていたきゃ、明日はサインするんだぞ、いいな」
グスマンはそういうと、部屋を出て鍵をかけた。
ぼうっとする思考の一方で、サラの中にしびれるようなものがあった。
懸賞金……?
おそらく、マリ―ブラン家が犯人に懸賞金をかけたということだ。
サラは外でもなにかしらの活動が行われているのが知れて、心底嬉しく思った。
この暗い地下室では、何一つ情報が入ってこない。
数日ぶりの外界の情報がサラにどれだけの活力をもたらしたかしれない。
サラはぼんやりする頭を振り払って、考えた。
懸賞金はいくらだろう?
あの三人が仲間割れしてくれるだけの金額ならいいが、グスマンの話しぶりから見て、おそらくそれはないだろう。
でも、あの三人を仲間割れさせることができれば……。
主犯はどうみても、ジュリアンだ。
これまでの関係性からみて、ドラはジュリアンの女のようだ。
そして、このふたりにグスマンを含めた三人がこの犯罪の加担者であるらしい。
この三人を仲間割れさせるには、例えば、遺産をジュリアン以外の一人に委任することを条件にしたらどうだろう。
いや、でも、遺産管理人になれるのは、ジュリアンが弁護士の資格があるからなのだ。
ドラとグスマンにそれはできない。
いや、いや、待って……。
サラは熱っぽい頭をひねった。
結婚するならどうだろう……!
サラは十六。
ザルマータ国の法律では結婚ができる年齢だ。
そして、結婚相手は必然的に、互いの資産を管理することになるだろう。
法律にそれほどくわしくないサラだったが、この手以外に手はないように思えた。
とにかく、ジュリアンかグスマンのどちらかと結婚するという約束をして、この部屋を出ることができれば、逃げ出す機会が訪れるかもしれない。
ジュリアンが遺産管理人になったとして、三人で山分けすれば、一人頭の取り分は三分の一。
結婚してサラの伴侶となれば、サラとふたりで分けても、一人頭の取り分は二分の一。
サラはひとりでに何度も何度もうなづいた。
これで揺さぶりをかけてみよう。
きっと、ここから脱出してみせる……!
・・・・・・
ハリーは新しい変装に身を包むと、がぜん乗り気である。
諦観の部下をよそに、ハリーはケインを連れて、まずミッシュアのもとを訪ねた。
ハリーに恩義を感じているミッシュアの口から、なにか聞き出せるかもしれないからだ。
平民服にみを包んだふたりは、不自然でない程度の武具を持った。
ハリーは剣を、ケインは弓を。
他の町からやってきたばかりの賞金稼ぎという体を装うために、マントや靴など一通り汚してみたりしたが、 それでも二人の貴族然とした顔立ちは少し目立つ。
「もうすこし、顔を汚しておいたほうがいいかな」
「殿下、やりすぎてもおかしいと思います」
「ケイン、ここではハルと呼べと言ってるだろう」
「はっ、そうでした、ハル殿」
「殿はいらん。敬語もなしだ」
「あっ、はい、いや、わかった……」
まさか自分がハリーと同行することになるとは思わなかったケインは、いまだハリーのペースに慣れていない。
ハリーにいちいち言葉遣いなどを注意されている。
「し、しかし、なぜ僕がハル……と同行することになったのか、不思議だよ。
どうして僕を指名したんだい?」
「ケイン、お前とはじっくり話をしてみたかった」
「はあ……、学校ではさほど話す機会もなかったからね」
「いや、サラ嬢のことだ。お前は、リベルからずっと一緒だったろう」
「ああ、そうだよ」
ケインはそう言った後、思い出したようにハリーを見て首を振った。
「いや、僕とサラ嬢の間には誓って何もないよ。
君が心配するようなことは何も」
「ふうん……」
「汽車旅の間、それは長い時間があったから、 サラ嬢がシーラ・パンプキンソンとしてどういう道のりを歩んできたのかを聞いたよ。
マハリクマリックも、多分ほとんど。サラ嬢とシーラ・クリットの入れ違いのマハリクマリック以外という意味だけどね。
とにかく、そういうことだったんで、思いのほかサラ嬢に関わってしまうことになった。けれど、僕らはずっといい友達だったよ。
まあ、あのときはサラ嬢を放っておくことができなかったというか、彼女にとってはすごくつらい時期だったから。いや、今もそうなんだけど……。
はあ、こうしてみると、なぜ彼女ばかりこんな目に合うのか、かわいそうといったらないな……」
ケインはようやく、じっとこちらをみているハリーに気がついた。
「やさしいんだな、ケイン」
「えっ、いや……」
「俺より先に、マハリクマリックを直接聞いたのか……」
「あっ、え、いや、その……」
ケインが返答に困っていると、ハリーはわははと声をあげて笑った。
「まあいい。それより、お前から見てサラ嬢はどんな娘だ?」
「そうだな……」
ケインは視線を落として足元の小石を見た。
「初めは少々風変わりな石だと思ったかな」
「石?」
「名もない石。僕は普段鑑定を生業としているから、どんなものを見てもその本質や真価を常に気にしている。シーラ・パンプキンソンとしての彼女は、奇妙な形をした名前のつかない石ころのようだった。
見た目は普通の女の子なのに、ときどき見せる大胆なところや激しさ。
あるいは、リベルを離れた直後の彼女はとても疲れていて、とても放っておけないようなあぶなかしさもあって。
崩れそうなときも、マハリクマリックひとつを頼りにして、前を向き、笑顔を見せる。そういう彼女はとても健気で純粋だ。
そうかとおもえば、時にとても冷静に物事を見ているところもある。
僕が石の真価に疑問を持ったのは、彼女がブラウスを着た時だ。
仕立てのいい白のブラウスとロングスカート、そして花をあしらった婦人帽をかぶった彼女は、まるで別人のようだった。
その後、サラ・マリーブラン嬢だとわかって、僕はすこぶる納得したね。
実際、彼女がどれほどの教育を受けたかは知るよしもないが、彼女の目にはまぎれもなく淑女の……。おそらくは彼女の母親のしぐさや立ち振る舞いが目に焼き付いていたんだろう」
ハリーは興味深そうに聞いていたかと思うと、こんなことを尋ねた。
「サラ嬢を宝石にたとえるとしたら?」
「そうだなあ……。うーん、足の生えたトルマリンかなあ……」
「足の生えた?」
ハリーがふふっと笑った。
「ええ。自分でどこへでも行ってしまって、時に砂や泥に埋もれて名もなき石に見えてしまう。捕まえておくには、少々厄介な宝石だと思うよ、ハル」
あはは、とハリーが高らかに笑った。
その後、ミッシュアを訪ねた二人は、ジュリアンが町の何か所かに隠れ場所を持っていて、 事によると地下経路さえも持っているかもしれないということを知った。
ミッシュアが罪滅ぼしをしたい一心で何か手伝わせてくれといったので、 ハリーはもし隠れ家の場所がわかったら知らせてくれと頼んでおくことにした。
ハリーはミッシュアを許し、引き続き、母親のティマの医療費を支援してやった。
兄が戻ったら、三人で仲良く暮らせよというと、ミッシュアは泣いてハリーの手に口づけをした。
・・・・・・
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