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シリーズ3 ~ウンメイノユキチガイ~
Story-3 少女たちの水辺(2)
しおりを挟むアビゲールはひ弱な体に似合わない軍服を脱いで、庭に出ていた。
軍服はアビゲールの趣味ではない。
長男のドレイクが軟弱な弟に軍事主義を押し付けていくのだ。
マリ―ブラン夫人は気遣ってお茶に誘ってくれたが、子息の二人はアビゲールに寄りつきもしない。
この皇子にとりまいてもなんの見返りもうまみもないからだ。
宮廷でもどこでも、僕のことは誰も気にもとめない。
そういう扱われかたに、アビゲールはもう慣れている。
「そこ、私たちの場所なの」
背後からの声に振り向くと、ふたりの少女がたっていた。
ふたりは手に編み物かごを持っている。
「あ、ごめん…」
そういう間に、白い帽子の少女がアビゲールの隣へきて座るように袖を引っ張った。
「あなた、だあれ」
「あ、アビゲール…」
「わたしサラよ。編み物得意?」
「いや…、まったく…」
「よかった。わたしもまだかぎ編みがうまくできないの。
一緒に練習しない?」
「ええっ…」
元来気弱なアビゲールは断ることもできず、またはぞんざいな言葉遣いや態度をとがめることもできずに、 少女たちの間に座って、なにやらうまれて初めて編み物をやることになった。
「そうそう、そうです。アビゲールさん、サラ様より上手です」
「そ、そうかな…」
アビゲールの隣でサラはときどき呻きながら、自分の手元とアビゲールの手元と交互に見ている。
シーラは編みおえて余った毛糸を手に巻き付けながら、ふたりの編み棒の動きに微笑んでいる。
アビゲールは、やったこともない編み物と、初めてあったばかりの少女たちとの時間が、 ただやわらかく穏やかで、心地いいものに感じられた。
ふたりの少女はアビゲールが何者かわかっていないのだろう。
でも、誰でもない誰かとしてこんなに柔らかく受け入れられたことは、アビゲールのこれまでの人生では一度もなかった。
アビゲールの手先は思いのほかに器用だったのだろう、それほど時間もかからずに白のウールのリボンを編み上げた。
サラのリボンは右に左にと寄れて、不ぞろいの編み目は詰まっていると思えば緩んでいるところがあり、 シーラが手を入れたが、とてもリカバーできたとは言えなかった。
サラが、アビゲールのリボンを見て、
「いいな…」
というので、アビゲールはサラの前にリボンを差し出した。
「あげる」
「いいの?」
「うん」
「ありがとう!」
サラはそれを受け取って立ち上がると、シーラの前にちょこんと座った。
シーラはサラ髪をすくい、耳の横からみつあみを作ると白いリボンで先を結んだ。
「みて」
サラは満足げにアビゲールの前で白いリボンを躍らせた。
そのサラは何を思ったのか庭の植木にかけていって、白い花を摘んできた。
そして、アビゲールの前に座ると、アビゲールの髪を耳にかけ、そこへ花を差し込んだ。
そして、次にシーラに同じことをした。
シーラもサラの耳の上に花を差し込んだ。
少女たちはただくすくすと笑い、互いにかわいいとか、お揃いねとかいうと、また笑った。
アビゲールは幻想的なものを見ているような気分になり、少女たちは精霊か何かなのかと思った。
「アビゲールの髪きれいね」
いつの間にかサラとシーラは二人でアビゲールの髪を梳かし、編み始めた。
「アビゲール、馬に乗ってきたの?」
「馬?」
「馬に乗ってきたからそんな格好しているんでしょ?」
ふりむくと、サラが耳元で微笑んでいた。
「乗馬は得意?」
「うん…走るだけなら」
「馬の名前は?」
「シュリー」
「私の馬はメイ。シーラの馬はモックスよ。
メイとモックスは、同じ年に生まれた栗毛なの」
「君たちみたいだね」
「そうよ」
他愛もないおしゃべりは、どこか眠くなるような退屈さで、 それでもずっとここにこうしていたいと感じるような甘やかなものだった。
「ねえ、私たちの部屋にこない?」
少女の細い指がアビゲールの指と絡んだ。
・・・・・・
顔色を失っているキューセランを前に、レインはじっと黙っていたかと思うと、 思い切ったことを口にするときの前に吐く大きなため息をついた。
「しかたない、サラは私が娶ろう」
「ええっ?」
皇太子の突然の言葉に、同席の三人は全くついていけない。
「レ、レイン皇太子殿下、いったい……」
「このようなことになろうとは、私も考えてもみなかったが、おそらくそれが最善だろう。キューセラン殿も知っての通り、皇太子といっても、その力を存分に振るえるのは今のところ兄だけだ。その兄は今、タルテン国の辺境争いの前線にに通いきりだ。
父もそれをいいと思ってはいるわけではないが、止めるほどでもないと思っている。表向き政情は安定しているし、戦遊びが趣味とは言え、兄には素質もあるし人望もある。マリ―ブラン家がサラを兄に嫁がせることができれば、その権力は最も確かなものとなるだろう。
だが、当の皇子は女の香りより、戦場の火薬のにおいのほうがいいという変わり者。歳もいい年なのだが、父が健在がゆえに、いまだに戦争ごっこに夢中なのだ。私には全く理解できないが……。
私は余計な政権争いの種になどなりたくないから、兄より先に妻や子を持つつもりはなかった。その点、アビゲールはああいう軟弱なたちだし、王位継承権の順位からみても、 アビゲールを持ち上げて政権を奪いにかかろうとするような臣下はそうははいない。
アビゲールと結婚する前に、サラには洗いざらい事件のことを話してもらい、 その証言をを王と兄の鼻先に突き出してやるつもりだった。
現状の内政にしっかり目を向けてもらうために。
だが、サラが何も思い出せないならそれは無理な話。
そればかりか、このままサラを宮廷に上げれば、サラをみすみす敵の毒牙の前にさらすことになる。アビゲールにはその毒を防ぐ力はない。
それは私だとて大きな差はないのだが、それでも、アビゲールよりはましだ。
みすみすこの一連の事件の証人を失うわけにはいかない」
「レイン皇太子殿下……」
「キューセラン殿、正直なことを言えば、宮廷のなかで私の力がどれだけの及ぶかはわからない。このまま、マリ―ブラン家でサラを保護してもらえるならそれが一番いい。だが、これまでのあらましから考えると、それは簡単なことではない。キューセラン殿はどう考える?」
「と、突然のことで……。考えを決めかねていたところに、このような急な話で……。その、私はサラを第一にと思っていたのです。
あの子が記憶を取り戻すにしても取り戻さないにしても、実は、 王家との縁談についてはお断りさせていただく方向に気持ちが傾いておりました。
あの子と、あの子とともに育った使用人のシーラの様子を見ていたら、 サラを政治の荒波の中へ放るようなことはしたくないと思い始めていたからです。
私はいっそ、またゼルビアに屋敷を建てて、住み移ってもよいとさえ考えておりました。しかし、その以前にもう、サラの身が危ういというのであれば……。たしかに、私どもの力だけでサラを守り通すのは難しいかもしれません。今回だとて、善意なる人々の力を借りて、辛くもサラを取り戻せたのですから」
キューセランはモリスとケインに視線を移した。
そして再びレインを視線を移すと、キューセランはその瞳はただ美しいだけでなく、 祖国を憂う賢明な光が備わっているのを見た。
「ええ……。レイン様のおっしゃる通りでございます。
レイン様のお力にすがるほか、私には手だてが思いつきません……」
キューセランの言葉に、はあ、と息をつき、レインは顔に手をやった。
「ああ……。やはりそうか……。
この私が妻を娶ることになろうとは……」
このとき、モリスとケインは知る由もなかったが、キューセランにはこの美貌の皇太子が何に落胆しているのかは想像できた。
レインはその恵まれた美しさで、ありとあらゆる貴婦人たちの視線の的だった。
実際、プレイボーイとして派手なうわさには事を欠かず、レインもそれを隠そうとはしてこなかった。
今やサラの父代わりとなったキューセランにとって、レインの女好きは心配の種にほかならない。
「わかった……。沙汰は追って知らせよう。
今日のところはこれで帰る」
レインがあきらめからようやく顔をあげたところで、キューセランはモリスとケインに目配せをした。
「レイン皇太子殿下、いまから、お耳に入れたいことがございます」
モリスとケインは、うなづくほかなかった。
・・・・・・
サラとシーラに手を引かれて、やってきた先は、サラの部屋だった。
そしてその部屋の一角には、天蓋がつるされている。
「ここよ」
といいながら、アビゲールはその天蓋の中のソファに座らされた。
ソファの周りには、少女趣味のクッションや写真立て、花瓶にレースの敷物。
なにかの小瓶や詩や物語の本が取り囲むように置いてある。
どうやらふたりは、その一角を「私たちの部屋」とよんでいるらしかった。
そこでも、サラとシーラの女の子の遊びは続けられた。
アビゲールに手鏡を持たせると、サラはもう一度やり直すといいながら、アビゲールの髪を櫛で梳き始めた。
シーラは小瓶に水と花を入れ、サラの欲しいものを欲しがるタイミングで渡した。
「どっちの色が好き?」
サラはシーラに持たせた二色のリボンをさしながら言う。
「えっと……」
「アビゲールさんには、緑がいいと思います」
「そうかしら?ピンクがいいと思うわ」
リボンが決まると、今度は服だった。
サイズが入らないので、さすがに着せ替えさせられずに済んだが、 サラとシーラはアビゲールには何が似合うか、どれだけきれいで可愛くできるか、それがふたりの遊びの目的なのだった。
アビゲールの前には、アリスがサラを甘やかすためにたっぷりと買い与えた新しいドレスが次々と置かれた。
「これはどう?」
「こっちは?」
「ねえ、アビゲールはどっちが好き?」
アビゲールは鏡の前に立たされ、サラが奨めるドレスと、シーラが奨めるドレスを交互に身体に合わせられた。
さすがにアビゲールも、ふたりが自分のことを女性だと勘違いしていることをわかってはいたが、いいだすきっかけもなくて、 ただされるがままになっていた。
男らしいふたりの兄と比較されつづけてきたアビゲールにとって、容姿は自分の中でもっとも忌み嫌うものだった。
どんなにお金をかけて仕立てたドレススーツでも、アビゲールの身長と骨格ではいつまでたっても少年にしか見えず、 あるいは男装の麗人のようだった。
決して兄たちのようにはなれない。
鏡の前に立つと、アビゲールは毎日絶望を味わった。
だが、不思議と今はそれを感じない。
それどころか、ドレスと重なる自分の姿が、ありのままの自分、これこそ求めていた自分であるかのように感じられた。
二十年間、ひたすら男らしくなりたいと思ってきたが、それは本心だったのだろうか。
アビゲールは自分の中の何かが少しずつ解放されていくような気がしていた。
そんなとき、ドアがコツコツとなった。
シーラが慌ててドアに向かいながら、手でドレスを隠すようにしぐさした。
夢中になって気にもならなかったが、無数のドレスや帽子が床中に散乱していた。
「はい」
「どうしたの、シーラ。入っていい?」
「すみません、今ちょっと散らかしてしまって。
すぐ片づけますから、少し待ってもらえますか?」
「片づけはいいから、すぐサラ様を下へお連れしてくれる?」
「わかりました」
シーラはドアの隙間から顔だけのぞかせた先輩の使用人にうなづいてから、ドアを閉めた。
「サラ様、お呼びだそうです」
サラは気をそがれたような顔をした。
「ちょっと待ってて、アビゲール。すぐ戻ってくるから。
ねえ、その帽子とても似合うわ」
サラとシーラはアビゲールを残して、部屋を出ていった。
アビゲールは、鏡の前に立ち、帽子をかぶり、そしてドレスを体にまとわせた。
・・・・・・
ふたりがおりていくと、応接間に案内された。
そこには、見知らぬ男を中心に、キューセランとモリスとベンジーが待っていた。
キューセランはサラをそばに呼ぶと、レインを紹介した。
「こちらは、レイン皇太子殿下。こちらは姪のサラ・マリ―ブラン。
そしてこちらはシーラ・クリットです」
紹介されて初めてそうだと分かった。
写真で見るより、はるかに実物の造形は優れていた。
挨拶をするサラの手をとると、レインはそこに口づけした。
「はじめまして、サラ嬢。
君のような愛らしいレディの夫となれる栄誉に、心が震えるよ」
このようなセリフを恥ずかしげもなくいえるところは、さすがはかずかずの浮名を流してきたレインであった。
キューセランが弁解するように慌てていった。
「サラ、まだお前には早いと思って話していなかったんだがね。
王家とマリ―ブラン家には昔からの約束があって……」
サラは聞き終える前に、ぱっとレインから手を引いてしまった。
そして、シーラにびったりと寄り添うと、ぷいと顔をそむけた。
「いや!」
キューセランはいつもは誰にでも愛想のいいサラが、急に、 しかもよりにもよって皇太子を拒絶するとは思わず、驚きに呆然とした。
モリスとケインは事の成り行きを見守るしかできない立場だったが、それでもサラの反応には驚きを隠せなかった。
だが、誰あろう一番驚いていたのは、というより衝撃を受けていたのはレイン皇太子だった。
なにせ、彼か女性に拒絶されたことなど一度としてなかったのだから。
「……サラ様、どうされたんですか?」
シーラが周りの空気を察して、サラに尋ねてみたが、サラは決してレインのほうを見ようともしない。
キューセランは助けを求めるようにシーラを見た。
「あ、あの……。わかりません……。驚かれたのかもしれません」
気まずい空気の中、自分の魅力を信じているレインは気を取り直して、優しい声色で言った。
「すまなかった、サラ。驚かせるつもりはなかった。
もう一度、私に挨拶をやり直すチャンスをくれないか」
サラはそっと肩越しに見たが、レインが一歩近寄ってくるだけで叫び声をあげた。
思わずはっとした、ケインが口を開いた。
「なにか思い出しかけているんじゃないですか?」
その場のだれもが一瞬息を止めた。
レインは思わずごくりと喉を鳴らした。
キューセランはまさか皇太子を犯人扱いするわけにはいかないと思い、とっさにいった。
「お、おそれながら、そのお召し物かも……」
誰もがレインの黒づくめの姿に目をやり、もれなくそうかもしれないと思った。
「旦那様、ここはいったん……」
「ああ、そうしてくれ、シーラ」
シーラはサラを連れて部屋を出ていった。
ふたりが部屋に戻ると、鏡の前にはドレスと一緒にアビゲールがたっていた。
うっとりと鏡を眺めていたアビゲールも、ふたりのただならぬ様子に心配した。
「ど、どうしたの?」
「呼ばれて行ったら、レイン皇太子殿下がいらっしゃって。
サラ様が急に何かおびえて……」
たしかにサラはシーラに縋りついたまま、はなれようとしない。
シーラはサラをベッドに横たわらせると、手を握り、優しく髪をよけてやった。
「あの、手伝うよ……」
「じゃあ、ドレスを片付けてもらってもいいですか?」
アビゲールはサラの世話にかかるシーラの代わりに、ドレスや帽子をクローゼットにしまった。
それが終わると、部屋を辞そうとするアビゲールに、サラはぽつといった。
その声を代弁して、シーラがドアノブを握るアビゲールに呼びかけた。
「またあそびましょうって、サラ様が」
アビゲールはにこりとうなづいて、そして出ていった。
アビゲールが下階へむかうと、ちょうどアリスと鉢合わせた。
「ああ、アビゲール様、探しておりました。
あの、レイン皇太子さまがお帰りになるとおっしゃっております。
どうぞ、ジャケットを」
「ああ……」
アビゲールはアリスに軍服を着せられると、さっきまでのことが夢のように思われた。
・・・・・・
玄関で二人の皇太子を見送るのと同時にモリスとケインもマリ―ブラン家を後にしようとそこにいた。
そこへ、使用人少し急いだ様子でやってきた。
「モリス様、もうお帰りですか?お急ぎでなければなのですが……。サラ様がお呼びです。シーラが言うには、お話の続きを聞きたいとおっしっゃていると……」
「わたしですか?」
モリスは少々驚いたが、思えばそういう設定でサラに話をしたのであった。
キューセランの許しを得、さらには傷ついた様子のレインにも一礼をしてから、モリスは部屋に向かった。
サラはベッドの上にいたが、クッションを抱いてはいるものの、先ほどのようにひどくおびえた様子はなく、落ち着いていた。
シーラはモリスのためにベッドの隣に椅子を用意した。
「お話の続きを聞かせて」
「ええ……。でも、その前に……」
モリスは言いかけ、いったんシーラを見た。
シーラはいいともわるいともつかない表情を返した。
モリスは聞いてみることにした。
「レイン皇太子を見て、なにか嫌な感じがしたんですか?」
「……わからない」
サラは首を振った。
そして、シーラは疑問に思っていたことをモリスに尋ねた。
「モリス様、レイン皇太子とサラ様の婚約はもう決定してしまったのですか?」
「どうだろうな……、今日の様子では……。
だが、レイン皇太子はサラ様の味方になってくれるお方だ」
モリスはサラの手前詳しいことは話さなかったが、レインにはモリスたちが知っていることを話したということを伝えた。
つまり、新聞で発表された事件のその裏で、モリスたちがサラ救出のために動いていたことを話したということだ。
サラに話を聞かせた後、帰り際、モリスは共有しておいたほうがいい情報をシーラに与えた。
「サラ嬢にとって、今も安全とは言えないことだけは理解しておいてくれ」
「はい、気をつけておきます」
シーラは神妙にうなづいた。
・・・・・・
モリスとケインがマリ―ブラン家を後にして、ホテルヘ向かった。
モリスがサラに呼ばれていた間に、ケインはファースランから辺境争いについてじっくり聞くことができた。
どうやらこういうことのようである。
タルテン国とナモール国が行っている辺境争いは、簡単に言うと、意地の張り合いのようなものらしい。
どちらかが折れて停戦協定を結べばいいのだが、なにをどうしたのか、どちらからも折れずにいて、 しかし、どちらも本気で攻め入ろうとしているわけではないということだ。
その結果、互いに軍事演習のような雰囲気になり、それが定例行事のように定着したのだった。
「だから、戦闘での死者や負傷者というのもほとんど、というか、ないらしい」
「だから戦遊びですか」
「しかも、定期的に互いの戦力を推し量る機会にもなっているから、事実上武力のけん制にもなっている。これまではこの遊びはタルテンとナモールだけのものだったが、ここへ軍事好きのドレイクが入ってきた。今のところ、ドレイク皇太子はタルテン国の軍事を学びに行っているということだが、 見ているだけで満足していられるかどうかは本人にしかわからない。
そして、このドレイクの遊びに便乗して、利益を得ているのがマルーセルだ。
マルーセルは、ドレイクの旅費、逗留費にかなりの私財を提供している。
表向きはタルテン国との優先的な貿易が目的とされているが、実際には人買いや誘拐が行われている。もともとタルテン国には奴隷売買の風習があるし、ナモール国には治安の悪い町も多い。ザルマータ国には奴隷制はないが、裏にはその需要があるということだ。
この動きに気づいているものはいるにはいるが、 マルーセルにたてついてそれを、明らかにできるだけ清廉潔白な人間はいない」
「表面はマルーセルがきれいに取り作っているから、ザルマータ国王は内政の乱れに気づいていない。ドレイク皇太子は、マルーセルにだしにされていることに気がついてない。…………
こうなると、レイン皇太子はそうとうまともな人物ですね」
「まあ、女性関係以外はな……」
ケインはキューセランから聞いたレインの武勇伝の数々をモリスに聞かせた。
「そういう男が世にいるんですね……」
「いるんだね……」
この前もそんな会話をしたような気がするふたりだった。
・・・・・・
それから数日後のリバエル国では、援護に送った兵士がその足で駆け戻ってきて持ってきたモリスたちの報告書によって、 王宮議会が行われた。
そして、一番の解決策は、ドレイクに戦ごっこから卒業してもらい、内政に励んでもらうこと、だというしごく単純な結論に至った。
「いずれにしても、証人のサラ嬢の保護は急務でしょうな」
「記憶障害の治療も」
「だとしても、我が国が他国の内政に口を出すことには、慎重を期さねばなりません」
それらの意見を率いて、ハリーは提案した。
「それでは、サラ嬢を我が国に招きましょう。
私の個人的な客として」
そして、ハリーは強引に王と議会の許しを得ると、すぐにリベルを出立したのだった。
*おせらせ* 本作は便利な「しおり」機能をご利用いただく読みやすいのでお勧めです。さらに本作を「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届きますので、こちらもぜひご活用ください。
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