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JK探偵・小野田怜奈の事件簿
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しおりを挟む翌朝――怜奈は館の広間で、詩織と凛音、そして黒古刑事を前に一つの仮説を提示していた。
「“風の肖像”は盗まれたんじゃない。“隠された”のよ。そしてそれを行ったのは……この館にいる誰か」
黒古が腕を組みながら眉をひそめる。
「……動機は? 高額な美術品ならわかるが、これはあくまで伝説止まりの絵だろ」
怜奈は静かにうなずいた。
「ええ。でも、この絵には“罪”が封じられていたの。――過去に起きた、ある“死”」
全員が息を呑んだ。
怜奈は塔屋で見つけたもう一枚の“未完成の風の肖像”を、黒布の上に広げて見せる。
「こちらが、乃木琢磨が最初に描いた『風の肖像』。でも、彼はこれを完成品として出さなかった」
「なぜだ?」黒古が尋ねる。
「描いた“モデル”が、完成後、亡くなったの。――この館で」
全員が凍りつく。
「……誰なの?」凛音が低い声で問うた。
「――野澤伯爵家の令嬢。名は、野澤千紗。詩織さん、あなたの伯母にあたる人物ですね?」
詩織が小さく頷いた。
「……伯母は若いころ、事故で亡くなったと聞かされていた。でも……」
「それは事故じゃなかったのかもしれない」怜奈は静かに言った。「伯爵家の“醜聞”を恐れ、彼女の死と肖像は“隠された”」
怜奈は、館の風の通り道を地図と照合しながら話を続ける。
「塔屋には風が集まり、そこから館中に吹き下ろす構造になってる。その塔の中に絵があったということは――彼女の“記憶”は、館に吹く風と一緒に巡っていたのよ」
「そして、その記憶に触れた誰かが、壊れていった……」と小野田が呟いた。
「だから、絵は“封じられた”。誰にも見られないように」
「じゃあ、それを“再び展示した”詩織さんは……?」
怜奈の視線に、詩織は言葉を絞り出した。
「……私の父が、死ぬ前に言ったの。“本当の彼女を知る者は、もういない”って……。私は……千紗伯母様の真実を、世に出したかった」
その夜、館の一角で何者かの足音が響いた。
凛音が、絵を隠した小部屋に入っていく影を見つけ、マルが低く唸る。
「……あなたなの?」
灯りが差すと、そこにいたのは水谷蓮司――姿を消していた修復士だった。
「……すまない……どうしても、あの絵を……処分しなければならなかった」
水谷は震える手で古い日記を取り出す。
そこには、戦後、乃木琢磨が千紗令嬢を描いたこと、その後に彼女が急死したこと、そして館が絵を“封印”するように命じた経緯が綴られていた。
「修復の最中、私は……あの絵の“目”が、自分を見ている気がして……。怖くなった。でも、それはきっと、私の罪悪感だったんだ」
「罪悪感?」怜奈が尋ねる。
「……私は彼女の死の真相を、父から聞いていた。でも、誰にも言えなかった。守るべき人たちのために」
怜奈は静かに言った。
「真相は、誰かを断罪するためじゃない。……忘れ去られた者の声に、耳を傾けるためにあるの」
黒古がポケットから手帳を出した。
「この事件は、盗難でも傷害でもない。だが……記録には残しておく。風の肖像とともに」
翌朝、展示室にはあらたな一枚の絵が飾られた。
塔屋にあった“未完成の風の肖像”。
そのそばに添えられた詩織の手書きのカードには、こう記されていた。
《この絵は、忘れられた一人の女性の、静かな祈りである》
そしてその脇に座る黒猫マルが、静かに目を閉じた。
***
展示室の朝日が柔らかく差し込むなか、怜奈は静かに詩織と向き合っていた。
「詩織さん、絵を隠した理由は……」
詩織は深く息をつき、目を伏せる。
「伯母の死の真相を知ったとき、私の中で何かが壊れたの。館に残された者たちを傷つけたくなくて……。でも、本当のことから目を背けるのは、もっと怖かった」
怜奈は静かに頷いた。
「だから絵を隠した。でも真実は、いつか誰かが見つけるものよね」
その言葉を聞いて、黒古刑事が深く。
「怜奈の言うとおりだ。過去と向き合う勇気があれば、真実は人を強くする」
館の広間には、千紗令嬢の肖像の前に花が手向けられていた。
詩織はゆっくりと立ち上がり、声を震わせながら言った。
「伯母様、これでようやく安らかに眠れることでしょう」
怜奈の胸に、切なさと同時に温かいものが満ちていった。
その帰り、黒子の運転する車の中。怜奈は、ふとマルを膝に乗せて呟いた。
「私もパパに、会いたくなっちゃったな……」
マルは彼女の手を舐めて、静かに寄り添った。
それは、失われた過去の影と向き合いながらも、
新しい風を呼び込む物語の始まりだった。
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