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JK探偵・小野田怜奈の事件簿
第3話「怪盗クロネコと最後の晩餐」
しおりを挟む春休みに入ったばかりのある朝。
小野田家の朝食の席にて、トーストにいちごジャムをたっぷり塗っていた怜奈は、何かが口に触れた感触に眉をひそめた。
「ん? ……紙?」
猫のマルが、ふくふくとした顔で怜奈の膝に飛び乗った。口元には、くしゃくしゃの紙片。
開いてみると、それは一通の予告状だった。
《本日深夜0時、世田谷・蓬田美術館にて、“最後の晩餐”を頂戴する。──怪盗クロネコ》
「怪盗クロネコ!? しかも“最後の晩餐”って、あれ贋作だけど超精巧なヤツよ!」
その瞬間、祖父の主税が新聞をバサリとめくった。
「ほう、またコメディ染みた事件の匂いがするな。怜奈、出番ではないかね」
こうして、春休みの大騒動が幕を開けた。
***
蓬田美術館――怜奈の母方の縁で設立された、私立の中規模美術館。
怜奈、黒古刑事、そして今回もしれっと付いてきた幼なじみの篠宮海斗の3人は、夜の美術館に潜入。
館内には、美術品監視用のセンサー、レーザー網、赤外線検知、さらには圧力センサーまで完備されている。
「はっきり言って、素人に盗めるレベルじゃないぞ」
と黒古が言いながらも、怜奈の目はひとつの不自然な展示ケースに注がれていた。
「おかしいわ。ケースの気圧が少しだけずれてる。しかもここだけ異常に温度が低い」
その時だった。マルがどこからともなく飛び出し、展示室の天井裏へ。
「マル!? ……まさか!」
ドン、と何かが天井裏で音を立てた。
数秒後、静寂が戻ると、展示室の床に一枚のカードが落ちていた。
《第2の晩餐は、音を喰う館──怪盗クロネコ》
「これは……連続犯行予告?」
***
次なる現場は、クラシック音楽専門のホール『響の館』。
展示されているのは、伝説のヴァイオリン“アマデウスの瞳”。
館内には、微細な音も拾う特殊マイクが設置されており、すべての物音が記録されているはずだった。
しかし事件は起こる。
深夜0時、誰も侵入した記録がないまま、ヴァイオリンがケースごと消えていた。
「完全な無音。……まさか、音を“消した”?」
怜奈は録音データを何度も聴き返す。
「この『無音』には、逆に“人工的な編集”が施されてる。つまり、録音データ自体が偽造されてたのよ!」
だとすれば、館内にいた人物の中に、映像編集や音響に詳しい者がいるはず。
そして怜奈の前に浮かび上がったのは──意外な人物。
「詩織さん……あなたが“怪盗クロネコ”?」
詩織は、苦笑しながら頷いた。
「ええ、でも盗んだのは“真作”よ。本物は戦後の混乱で国外流出していた。それを取り戻して、展示するために“盗まれたように見せた”の」
「……つまり、盗難事件に見せかけて、真作とすり替えた?」
「うちの美術館が本物を所蔵してると公にできれば、文化財として認定される。そのためには、世間の注目が必要だったのよ」
怜奈は肩をすくめた。
「動機には同情の余地があるけど……やりすぎね」
しかし、詩織の真意を知った黒古刑事は、館内の“偶然による事故”として処理することで黙認する。
***
事件が終わり、怜奈はマルを抱いて星空を見上げる。
「ねえ、マル。クロネコって、あなたじゃないわよね……?」
マルは返事をせず、ただ喉をゴロゴロと鳴らしただけだった。
その夜、怜奈の夢には、父・剛が現れた。
『よくやったな、怜奈。お前は立派な名探偵だよ』
彼の声は風に乗って消え、そして、怜奈の目に一粒の涙が浮かんだ。
だがその笑顔は、誰よりも晴れやかだった。
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